ドットスタンプとは
これが「ドットスタンプ」の全貌である。
思い付いたとき、これは世界を変える発明だ……! と興奮した。なにせアナログでドット絵が描けるのだ。新体験である。
スタンプ自体は、オリジナルスタンプが作れるショップに発注して作ってもらった。でき上がってきたドットスタンプを手に取って、まず押してみたのは、ファミコンゲームのキャラクター。残念ながら著作権の関係で表には出せないけれど、相性ばつぐんだったのは言うまでもない。
その後は自分で打ったドット絵をお手本にして、何日かかけて計5枚のアナログドット絵を描いてみた。実際に使い込んでみると、メリットがあればデメリットもあることが見えてくる。順を追って紹介していきたい。
アナログドット絵、はじめの一歩
即興でドット絵が描けるほどの絵心はないので、まずはPC上でドットを打つ。
作業自体も非常に地味である。お手本のドット絵を参考にしながら、特定のマスにスタンプを押す、押す、押す。色を変えるためにスタンプを拭き、別の色のインクをつけたあと、ふたたび押す、押す、押す……。
おそらく趣味分類としては「アイロンビーズ」に近いだろう。大きく違うのは、ドットスタンプは一回も失敗できないという点だ。インクは消すことができなので、一度の押し間違いですべてが台無しになる。無駄にスリリングで手に汗にぎる趣味、それがドットスタンプなのである。
抜群にいいかと言われると、それほどでもない。でも「ちょうどいい」感じがした。かかる労力も、できた作品もちょうどいい。スタンプを押している最中は無心になれるので、精神状態としては写経に近いかもしれない。ちょっと肩は凝るけれど、新しい趣味としては悪くない気がした。いいじゃないか。
しかし、そんなのは甘い考えだったと後に思い知るのである。
面積が大きいドット絵との戦い
使っている方眼は、53x36の計1908マスである。普通は総マス数なんて気にならないけれど、アナログドット絵を描くときはこれが気になってしまう。
なにせ、1マスごとに1回スタンプを押す必要があるのだ。この方眼紙すべてを使って絵を描くならば、計1908回もスタンプを押すことになる。気が遠くなる作業である。
そう、ドットスタンプは、ドット絵が小さい場合は「ちょうどいい」のだが、面積が大きくなればなるほど「苦行」と化すのである。
デジタル画像だったら、「塗りつぶし」を使って一瞬で終わる局面である。しかし今はアナログ。ここを塗り潰すためには、赤いスタンプを200回も押さなければならない。
ふう、と一息ついた。現実に塗りつぶしツールなんてない。やるしかないのだ。
輪郭を描くときには、押し間違えが許されないという緊張感があった。一方でこの塗りつぶしフェーズでは、ひたすら無心になることが求められる。スタンプ台でインクをつける、紙にスタンプを押す、そしてまたスタンプ台でインクをつける……。
意味を考えてはいけない。全精神をスタンプの先っぽに集中し、ロボットアームのように、ただ一定の速度で手を動かすだけである。
このように、アナログドット絵を描くときは「描画面積の大きさ」に注意が必要だ。面積が大きければ大きいほど作業時間は長くなるし、気の遠い作業になって「修行」感が増していく。それはそれでいい体験なのかもしれないが。
写実表現に挑戦
ここまでは自分で打ったドット絵をアナログ化していた。次は写真を元にした写実的ドット絵を描いてみたい。つまり、こういうことだ。
スタンプの色が想定よりも薄かったこともあって、あまり写実感が出なかったのは残念である。それでも薄目で見ると「新快速」の文字がボーッと浮かび上がってくる、不思議なドット絵ができあがった。
ドットの数(つまりスタンプを押す回数)が多く、気の遠くなるような作業であったが、やっているうちに体が慣れてきた。そればかりでなく、完成形が徐々に見えてくることに快感をおぼえて、どんどん筆(スタンプ)が進む境地に達した。これで私も、立派なドットスタンプマスターだ。
ドット絵練習帳にまとめる
やっているうちに、「ドット絵練習帳」を作ったら面白いんじゃないか? と思ったので作ってみた。
冊子にはもちろん、ドットスタンプ本体と、いろんな色のスタンプ台が付いてくる。買ってすぐに使える、初心者向けのセットである。上手くいけば「ぬりえ」の市場に食い込めるのではないか。
などと妄想してはみたけれど、先に述べたように「修行」っぽさが拭えないので、かなりニッチな趣味にしかならないのが現実だろう。写経の一種として訴求すれば、あるいは……。
ドット絵といえばDPZロゴ
デイリーポータルZのロゴはドット絵である。
よし、まずはこいつをアナログドット絵にしよう! そう思って取りかかってみたところ、サイズが100x33ドットもあることが分かった。「新快速」が50x20だったので、それと比べても2倍以上のサイズである。全然そうは見えないのだけど、ドットスタンプ目線で見れば「意外とデカい」のであった。
普段見慣れたスマホのディスプレイなんて数百万ドットあるので、ドットスタンプ目線では天文学的な数字である。デジタル画像を、「これをスタンプで押したらどれくらいの手間がかかるか」という尺度で見てしまうという、まったく役に立たない視点が身についてしまった。