ハードボイルドとは「~しない」と自分にルールを課す事だ、という話を聞いた事がある。例えば携帯電話は持たないとか、夏でも半袖は着ないとか。一種のやせ我慢なのかもしれない。
そういった意味では、今回、4時間も大門グラスをかけて過ごしたメンバーたちはある意味でハードボイルド的であった、と言えなくもないのかもしれない。
大門会のメンバーを紹介しよう
大門会を結成するためには協力者が必要だ。大門刑事部長がかけていたティアドロップ式のサングラスをかけてくれる人間が複数必要なのだ。
用意出来たサングラスの数は5つ。つまり、5人の男たちの協力なくして大門会は実現しない。
そこで、ニフティの第6会議室で開かれたデイリーポータルZの編集会議に出席した。
デイリーポータルZでは、週に1回編集会議が開かれている。Webマスターの林氏を中心に、毎週各ライター陣の企画について話し合うのだ。時にはプライベートな相談に話が及ぶ事もあり、終始穏やかな雰囲気で会議は進行していく。
この日もいつもと変わらない雰囲気のまま会議が始まった。
冒頭、まずは林氏から業務連絡がある。
・請求書は今週中に発送すること。
・今週末はBBフェスタ大阪があること。
事務的な内容を確認した後、ここからは各自の企画案についてじっくりと話し合う事になる。
このタイミングを見計らい、用意していた大門風サングラス(以下、大門グラス)をみんなの前に差し出した。
机の上に大門サングラスが並んだだけで、その周辺にハードボイルドな緊張感が漂った。蛍光灯の灯りがレンズに反射してカクテルライトのようである。
キラキラと輝く大門グラスに5人の男たちの手が伸びる。
ニフティの第6会議室が捜査課へと一変したのが分かる。
見た目だけなら、本家大門軍団にかなり近づいている。
ここからは大門グラスをはめたまま、会議を進行してもらう。大門グラスによって、話す内容もハードボイルドなものに変わるかもしれない。そうなると、デイリーポータルZ改めデイリーポータルHB(ハードボイルド)と改名せざるを得ない。
会議の進行が気にかかるところであるが、その前に大門化したメンバーを紹介しておこう。
それでは引き続き、大門会の会議の様子をレポートする。
大門グラスをかけて会議
会議は各自の企画発表へと議題を移しているが、企画発表と言っても決して堅いものではない。今後自分がやりたいと思っている事をざっくばらんに相談する場である。
例えばこの日、最初の企画発表者であった工藤氏からは、「都市河川の水を飲み比べたい」という提案があった。サバイバルストローで川の水を飲み、その味を比較するというのだ。とても面白い着眼点に対して、それぞれが思った事を口にしていく。それは上流でやるのかそれとも下流か。衛生面は大丈夫か。ソムリエ風に味の表現をしたらどうか。
発想自体は面白くても実際取材を始めると想像と違った、という話は良くある。会議の場でみんなの意見を聞くのはとても貴重な事なのである。
みんなの意見が出揃い、最終的に工藤氏の企画は次回に実行する運びとなった。
で、まったくいつも通り会議が進行しているのだ。
大門グラスをかけている事を忘れてしまっているのだろうか?
会議の腰を折って悪いとは思ったが、工藤氏の発表が終わった時点で大門会のメンバーにここまでの感想を聞いてみた。
・相手がどこを見ているのか分からない。
・相手のレンズに自分が反射して困る。
・集中出来ない。
いずれも会議の進行に支障有り、という意見であった。ハードボイルドな気持ちに変わった、という意見は今のところ聞こえてこない。
引き続き、三土氏からの発表は「マイナスイオンを計測したい」であった。以前から提案していた企画であったが、ここに来てマイナスイオンの計測機器を調達出来そうだという。計測機器に詳しい林氏から、機器についての詳細説明を求められる三土氏。なるほど、それならば色々計測出来そうだ、と林氏。さまざまな場所での計測を期待する一同。
と、ここまでも全くいつも通りだ。
ハードボイルドな雰囲気は一切見受けられない。
その後も会議は淡々と進行していった。「だからあいつに言ってやったのさ」のような発言が聞こえてくるのを待ったがダメだった。
結局、いつもと違うのは大門グラスのみ、という状況のまま会議は終わってしまった。
大門会の食事会
会議の後は親睦会を兼ねた食事会が予定されていた。
大門会のメンバーにはそのままサングラスをかけて、食事会の会場へと移動してもらう事にした。
サングラスをかけて夜道を歩くと見知らぬ土地に来てるみたいで面白い。海外みたいだ。など、大門会のメンバーから様々な感想がもれたが、いずれの反応もハードボイルドとはみなし難いものであった。
途中、客引きの外国人女性が大門会に気付き、
「サングラス……」
とつぶやいていた。
客引きに引かれちゃいましたよ、と苦笑いの林氏。目的の店の前でメンバーを誘導する。
お酒を飲めばハードボイルドが目覚めるか
「食事会」と気取って言ってみたが、普通に飲み会である。居酒屋のテーブル席に着き、大門グラス越しにおつまみを選ぶ大門会のメンバー。
ハードボイルドが好む酒の肴は何だ? カシューナッツか生ハムか。
大門会のオーダーにハードボイルド的なものを期待したが、メンバーが頼んだおつまみは以下であった。
・かにクリームコロッケ
・海鮮サラダ
・枝豆
・えびしんじょう
・しめ鯖
・刺し盛り
・串盛り(タレ)
至って普通の飲み会だ。
乾杯もコニャックとかではなく、生ビールである。
しばらく経って、大門グラスに対する不満がメンバーたちから出てくるようになった。
いつもより悪酔いしそうだ。食事がおいしそうに見えない。本家大門軍団の炊き出しはサングラス越しで味付け出来ているのか、心配だ。
お酒が入れば眠っていたハードボイルド魂が目覚めるのでは、と期待していたが、まったく逆の反応であった。食事は目で楽しみたい、などとグルメレポートのような事を言い始めている。
2時間の会議の後2時間の飲み会、計4時間も大門グラスをかけ続けたのだ。大門会のメンバーたちはすっかり疲れてしまったようであった