地形に強い人を交えてもさらに楽しいかも
会議の最中、何度も出たのが「この県、こんなカタチだったんですね」という会話。自分自身わりと曖昧だった各都道府県の形を新たに覚えることができ、かつ動物の知識もぐいぐい入ってきたので個人的にとても楽しい経験だった。満喫!
もう筆者がだいぶ満足してしまったので、チーバくんの次を狙うキャラについてはプロの方々にお任せします。
ある日、千葉県のシルエットを見て思わず「チーバくんにそっくり!」と興奮してしまった。違う違う、チーバくんが千葉県を模しているだけだ。
町おこしのゆるキャラといえば熊本県のくまモンなどの活躍が思い起こされるが、チーバくんも「千葉県の地形を世に知らしめた」として県の啓蒙にかなり貢献していると言えるだろう。
改めて眺めても唸るキャラクターとしての完成度である。でも、千葉のシルエットばっかりフィーチャーされてずるい!
そう思っていた矢先、古生物学者である中島 保寿先生が東京都をシーラカンスに見立ててているツイートを見かけたのだ。
こうしちゃいられない!先生、ふたりで都道府県のキャラクターを勝手に決めませんか!
と、いうわけで2021年4月、ここに都道府県キャラクターを考える会が発足された。
今回の企画は千葉以外のシルエットたちとにらめっこし、中島先生の知見をお借りしながら筆者が絵に起こす、という布陣でお送りするものである。
なんやかんや盛り上がり、今回は20匹近いキャラクターが生まれた。せっかくなのでどのような経緯で彼らが生まれたのか、北から追って紹介していこう。
北向:まずは北海道から…検索するとマンタ(オニイトマキエイ)に似ているという話が出てきますが。
中島:うーん、マンタの大きな特徴である細長い尻尾がないのは惜しいんですよね。尾びれを気にすると、ガンギエイのほうがフォルムは近いかなあ。
インターネットでは「北海道はマンタに似ている」という意見が散見されたのだけど、中島先生の見解は少し異なる。
中島:北海道って寒いじゃないですか、マンタのような南洋の生き物は適さない気もしますよね。
北向:あー、生息域まで考えて!
中島:ガンギエイだともう少し寒い地域にもいるので。
頭部はマンタがしっくりするけど、そこから下はガンギエイ、という具合。そしたらもう、今回はむりくり両者のハーフという設定で…
とまあこんな具合で、動物に見えそうな都道府県を拾っては絵に起こして進めていく次第です。チーバくんをおびやかす逸材を掘り起こしていこう。
中島:下北半島をアタマにして、フタコブラクダになりそうじゃないですか。
北向:はいはい、左を振り向いてる。
中島:青森には猿が森砂丘という日本一大きな砂丘があるんですよね。鳥取砂丘よりずっと大きいのですがあまり目立たなくて…なので、その砂丘のアピールためにもラクダが良いんじゃないかと。
北向:県のPRまで!
なんと広報活動まで隙のない提案。ここはもう、青森のキャラクターはラクダに決定です。描き起こしましょう。
東北エリアからもう一匹。日本で4番目に大きな湖、猪苗代湖を携えた福島県だ。
恐竜の顔にも見えそうだが、頭部がうまく収まらない。
中島:鼻先を反対側に持って行ったらどうですか?耳がここに…
モエリテリウムはバクともカバともつかない見た目だが、ゾウの祖先とされている古生物である。よーし、等身の低いデフォルメされたフォルムが愛らしい、フクシーマくんの誕生だ。
当然だけどこの遊び、県のシルエットによって向き・不向きが存在する。
チーバくんの千葉県然り、ある程度突き抜けた出っ張りや凹みがあった方が生物に当てはめやすいことがだんだんとわかってきた。
そういった意味で、シルエットの凹凸が著しく、盛り上がったのが茨城県である。件の千葉県とも隣接した県だ。
中島:ゲオステルンベルギアという、翼竜のアタマに見えるなと思って…
北向:おお!?はじめて聞く名前です。
中島:以前はプテラノドンの亜種と言われていたんですけど、とさかの形があまりに違うので分けたほうがいいだろう、と最近名前が変わって。
中島先生が翼竜にこだわるのは、茨城と翼竜の間には因縁があるからとのこと。
なんでも、茨城のひたちなかで翼竜の化石が発掘され、”ヒタチナカリュウ”という名前をつけ盛り上がっていたのだが、最近の研究で「これ、翼竜じゃなくてデカいスッポンだわ」ということが判明したのだそうだ。かなしすぎる。
そんな幻のヒタチナカリュウの姿を追って、今回の茨城・ゲオステルンベルギア説、なのだ。
中島:茨城にも翼竜はいたんだよ、って。
北向:もっとマクロで見たら「そうか、この茨城自体が翼竜だったんだ…!」って。
中島:そうそう。
いい話。
北向:おれは犬…パピヨンとかに見えたんですよね。
中島:あーかわいい、そうかくちばし部分が前足に…
北向:あ!ちょっと待ってくださいね!空想上の生き物なんですけど、
中島:は!グリフィン!
なんだかロールシャッハテストをしている気分になってきた。茨城は楽しくて良い場所だな!
中島:マスコットキャラとは思えないほどの小顔ですけど。
北向:あるまじき可愛げのなさですね。
北向:一般的には鶴の形と言われているんですよね。群馬に根付く上毛かるたでも「鶴舞う形の群馬県」と詠まれています。
詠まれているのだが…
むしろ…
中島:…またエイじゃないですか?
北向:エイですねこれ
群馬県のみなさんすみません、群馬は鶴ではなくエイです。
ちょっとエイのデフレが起きている。都道府県はすぐにエイの形になりたがる。
関東からもう1匹。
四足動物に見える神奈川を中国の伝説上の麒麟に仕立てあげようと思ったのだが、すみません、筆者の力量不足である。何をどう頑張っても麒麟にならない。
他と比べての色数の多さからも迷いが見受けられるだろう。ちくしょう、上手く再現できる方、リベンジお願いします。横浜にキリンビールの工場もあるしちょうどいいと思ったんだけどな。
ともあれ、関東はグリフィン、麒麟にシーラカンスと実に屈強なメンバーになった。
なお、筆者の出身である埼玉はシルエットに特徴がなさすぎたためスルー。茨城を見習って欲しい。
中島:ゾウアザラシに見えませんか。少し身体を反らせて。
北向:動きがあって良いですね。
中島:佐渡島は、小さいからメス…メス2頭にしてもらって。
北向:メス2頭。
中島:ゾウアザラシはコロニー(群れ)を作るので。
そうか、ゾウアザラシはオス1頭に対して時に100頭以上のメスの集団、いわゆるハーレムを形成する生物である。地理学とともに動物学も学べる新潟のキャラクター誕生だ。
なお、動物に見立てる上でどうしても島嶼など省いてしまう地形もあるが何卒ご了承いただきたい。なにせ、身体が分離した動物自体がいないのだ。
動物のフォルムをかなり再現できた自信作がこの山梨県。
北向:ゾウに見えたんですよ。アフリカゾウ。
中島:あー、耳の感じ!もうゾウにしか見えないですね。
中島:相当リアル寄りのフォルムだ。
北向:ゾウのアタマだけの県のキャラクター、かなり渋いですね。
ヤマナーシくんの着ぐるみが迫ってきたら子どもが泣いて逃げるだろうな。動物としての完成度は高いが、ゆるキャラへの適性は極めて低い。両立はむずかしいものだな。
北向:インターネットで見たのは福井がムササビという意見。
中島:ちょっとかわいこぶってる感じはしますね。
中島先生は”誰から見てもかわいい動物、格好いい動物”を当てはめることに終始拒否反応を見せていた。気持ちはわかる。自分を不当に良く見せようとするな、ということだろう。
気持ちはわかるが、そうすると地味な動物をモチーフにしたキャラばかりが生まれ、チーバくんに太刀打ちができない、というジレンマが…
中島:福井はむしろ、エイ…?
エイはもうストップさせましょう。
ここらでひとつ、イヌやネコなど人気のキャラクターを生み出しておきたい。
北向:富山、後ろ向いてる犬に見えるんですよね。
中島:ああ!お尻を向けているように見えます。イヌだけはなぜか肛門を見せても許される空気がありますよね。
かわいいキャラクターが無事に生まれ、胸をなでおろした。ここからはもう自由にやっていきましょう。
中島:左側をアタマにして、ウマが走っているように見える、というのはよく言われてますよね。
北向:ただ、かなりずんぐりむっくりです。
中島:うん、クビの長さがない。
北向:走り方、ギャロップ※の感じはウマなんですけどね。
中島:いやーわかる。
※ギャロップ:ウマに見られる、四肢いずれもが接地していない時期のある歩法
中島:…渥美半島(後脚に当たる部分)がひづめっぽくなってるんですけど、そっちが前に見えるんですよね。
北向:ほんとだ!そうすると右向きのほうがしっくりきますね。
中島:こわい。
北向:あ、いま調べたら「首なし馬」っていう愛媛の妖怪がいます!
中島:愛媛かー!おしい!
とりあえず愛知は「首なし馬」になりました。愛知の皆さんごめんなさい。
中島:キャラクターっぽくしたらかわいくなるかもしれない。
北向:なるかなー。
中島:またサカナなんですけど、シュモクザメに見えて…
北向:わ、同じくです!
中島:同じ!?やった!一致するのはうれしいですね。
先生との一致、イチ動物好きとしてうれしいな。日本海側にはみ出た地形がちょうどシュモク(撞木:鐘などを打ち鳴らすための仏具)を思わせる。
ちょうど京都には内陸型として国内最大級の水族館、京都水族館がある。府のPRとしても良いではないか(シュモクザメはいなかった記憶があるが)。
北向:これはトリですかね?
中島:翼を広げた、猛禽みたいな感じですかね。
北向:ワシ…?格好いい。
中島:悔しいな。
北向:…同意は得られないと思うんですけど、滋賀、リーフィーシードラゴンに見えてきました。
中島:滋賀が…どういう角度で…?
中島:あ、その角度か!言われたらわかりました!素晴らしい。
北向:やった!
近畿は海の動物が増えた。
古生物学者である中島先生が海洋生物に造詣が深いのは「そもそも生物の発祥は海だから」ということらしい。これ、個人的にめちゃくちゃ膝を打った言葉でした。
さらに南下し、次は山陰から1匹。
中島:むずいんですよね。尻尾のある生き物に見えるんですけど、アタマになんかすごいのついてて。
北向:武器みたいなのが。
中島:そうそう……イタチに鎌をつけてカマイタチってどうですかね。
北向:あーっと!?
油断してたらめちゃうまいことを言われてしまった。
中島:ここ(出雲・松江)をカマにしたいんですけど…
北向:ライフルっぽさがあるんだよなー。
中島:ライフルにしましょう。
中島:これ、ゾイド※ですね。
北向:ゾイドですね。
※ゾイド:タカラトミーから発売される、動物・恐竜などをモチーフとした武器の稼働などのギミックを有する玩具
中島:尻尾があって脚があって、かなり食肉類っぽいんですよね。
北向:なかでもネコ目っぽさがあります。
中島:脚が太いので、ユキヒョウかなと。
北向:おー、かわいくなりそう!
ユキヒョウは雪に脚をとられないよう、ちょうどかんじきのように足裏が幅広になっている。環境は異なるけど、砂に足をとられないラクダも同様の構造だ。
中島:地味なんですけど…アメフラシ。
北向:わ、おれもアメフラシで考えてました!
中島:これ一致したのすごいですね。触覚があって、上の島々が、なにか出している。
北向:そう、分泌液が見えましたね!
決定、香川はアメフラシです。描き起こしましょう。
他にも高知がドジョウに見えたりと、四国はシルエットがとても動物的で見応えのあるエリアだった。
最終ブロック、意見が分かれたのが福岡県だ。
中島:マレーグマどうですかね。手をこう広げて…人が入っているようなフォルムが近いかなと。
北向:もしくは威嚇したときのコアリクイとか…
北向:こうやって描いてみるとマレーグマの方がしっくりくるなー。
中島:マレーグマは舌が長いんですけど、志賀島あたりを舌にできないかと思って。
北向:あーいいですね、舌の出てるマレーグマ描きたいんでそれにしましょう。
中島:やった!今調べたら福岡市動物園にマレーグマのサニーとサチっていうのがいるみたいなのでぴったりかも。
福岡、ドラクエの敵みたいだ。
中島:ここ難しいですよね。
北向:そうなんですよ、で、考えたのがマタマタなんですけど。
中島:あー!いいですね。
中島:曲頸類って後脚のほうが極端に大きいので佐賀にぴったりですよ。
北向:へえ!知りませんでした。
カメには、首を縦に曲げて引っ込める「潜頸類」と、横に曲げる「曲頸類」がいるのだそうだ。前者の潜頸類は、前脚の大きなウミガメをイメージするとわかりやすいかも。
サーガくんには後々「私の研究対象のカメがみごとに再現されていて、驚きました。専門家としても文句ありません。」とコメントをいただいた。やったぞー!
とはいえ、それ以外は苦戦した九州・沖縄エリア。
中島先生から「熊本、親子に似てませんか」というかなりざっくりした案(天草半島を子どもに見立てたもの)が出てくるほど動物キャラ不毛の地だった。あともう1匹くらい出したいが…
北向:大分、どうですかね。
中島:あのー、チーバくんみたいな犬を逆向きにしたら大分になるんじゃないかなと。
北向:なりますかね?
中島先生、かなり居心地の悪いやつになりました。
会議の最中、何度も出たのが「この県、こんなカタチだったんですね」という会話。自分自身わりと曖昧だった各都道府県の形を新たに覚えることができ、かつ動物の知識もぐいぐい入ってきたので個人的にとても楽しい経験だった。満喫!
もう筆者がだいぶ満足してしまったので、チーバくんの次を狙うキャラについてはプロの方々にお任せします。
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