これは良い防犯対策だ!
例えば家の玄関先にこの自転車を置いておけば、そこはもう「警察官立寄り所」に早変わりする訳だ。あ、今あの家には警官がいるから空き巣はやめておこう、となるのである。自転車泥棒対策に、と思って作った自転車であるが、期せずして自宅の防犯対策にもなってくれた。良かったら皆さんもお試し下さい。
自転車を盗まれてしまった。
停めてはいけない場所に放置しておいた訳ではない。カギだってちゃんと締めていた。それでも自転車を盗まれてしまった。頭に来たので、絶対に盗まれない自転車を作る事にした。警察官が乗っている自転車、アレを模した自転車を作るのだ。警官の自転車だったら絶対に盗まれない。
はずである。
※2007年3月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。情報はすべて初掲載当時のものです。
まずは自転車泥棒の実態を探るため、警視庁のホームページ内にある「犯罪情報マップ」を見た。
ここに、東京都内で起きた刑法犯認知件数の一覧がある。「ひったくり」「侵入窃盗」「車上ねらい」、とあらゆる窃盗の認知件数の数字が並ぶ中、「自転車盗」の数は4396件と一番高い。たった1ヶ月の間に、都内で4000台以上の自転車が盗まれているのだ。昨年同期と比べてみても382件も増加している。一体どういう事なのか。
更に、僕の自転車が盗まれた品川区での統計を見てみると、執筆現在の1月期で112件(前年同期比+25件)発生しており、都内53区市町村の中で11位であった。僕が盗まれたのは3月なのでこの112件の中に入ってない。本当にどういう事なのか。
「犯罪情報マップ」から「オートバイ盗、自転車盗の被害にあわないために」というページにリンクが貼ってあり、そこに自転車盗防犯対策があった。自転車を盗まれないためのポイントとして、
・駐車時は、複数のカギをかける
・路上駐車しない
・防犯登録をする
とある。それらは当たり前として、もっと有効な手段はないものだろうか?
そうだ! 警察官が警ら中に乗る自転車、あれを模したらどうだろうか。警察官の自転車を盗むような大胆な人はそうはいないだろう。
さすがにこれと全く同じ自転車は市販されていないので、近い型の自転車を警察官の自転車ライクにカスタマイズする事にして、近所の自転車屋さんに向かった。
いずれにしても新しい自転車は必要なのだ。
盗まれちゃったから。
近所の自転車屋さんに警察官の自転車の写真を見せて、それに近い型の自転車を選んでいただいた。同じような型だとフレーム色がオレンジのものしかなく、購入後に色を塗り直す事にした。
ペダルとグリップ部分がデフォルトではグレーだったので、それは黒いものに変えてもらった。僕が用意した資料写真ではそうなっていたのだ。
「1週間に1回くらい、警察官の人が自転車を直しに来るよ」
グリップを取り替えながら店主が言っていた。
そうか、警察官の自転車も壊れるのだ。当たり前だけど。
もちろん防犯登録も済ませ、代金の1万2千円を支払い、購入した自転車に乗って事務所に帰った。帰ったらすぐにカスタマイズ作業に入る。明日でいいや、なんて気持ちで一晩外に放置でもしたら、また盗まれてしまう。
警察官の警ら用自転車には以下の特徴がある。
・フレーム色は白。
・ハンドルにバックミラーがついている。
・フロントフォークに警棒ホルダーがついている。
・後部キャリアに道具入れが乗っている。
購入した自転車はオレンジ色なので、まずはこれを白く塗り替えないといけない。白いラッカースプレーを買った。
他にもバックミラーを購入し、後部キャリアの道具入れ、警棒ホルダーは代用品を用意した。
これらを使って、普通の自転車を絶対に盗まれない自転車に変身させていく。
手始めに、透明のビデオ収納ボックスにラッカーを吹きかけた。白い箱が売っていればこの手間は省けたのだが、透明な箱しか見当たらなかったのだ。
ラッカーを吹いたビデオBOXは乾くまで放っておいて、次は自転車を白く塗る。
まず、警察官用の自転車には買い物かごが付いていないので、取り外してしまおう。
続いて、白く塗りたくないパーツに塗料が付着しないよう、マスキングテープなどを使ってマスクをかけていく。
後部キャリアやフロントの泥よけを取り外したり、色々な所をマスキングしたりしているうち、結構な時間がかかってしまった。
しかし、本格的なカスタマイズ作業はこれからなのだ。
いよいよ、自転車を白く塗っていく。
白色のラッカースプレーを自転車に吹きかけていく。プシュープシュー。白くなれ。
結局、奇麗に色が乗るように2度塗りして、ラッカー3本を使い切ってしまった。スプレーのし過ぎで最後には握力がなくなってしまい、事務所の踊り場は相当ペンキ臭くなっていた。大家さんに知られたらきっと怒られてしまう。
しかし、すべては自転車を盗まれないためなのだ。
怒られるべきはペンキを塗った僕ではなく、自転車を盗んだ犯人である。
以上のように予想以上に大変な工程を経て、ついに「絶対に盗まれない自転車」が完成した。
次ページでその全貌をご覧いただきたい。
オレンジだったあの自転車がここまで生まれ変わったのだ。かなり良い仕上がり具合なのではないだろうか。
この自転車の持ち主は、自分の事を「本官」って言ってるに違いない。
警棒の代わりに傘を収納出来るように、警棒ホルダーの口径を少し太めにした。
また、道具入れには「品川区」と入れた。本当は「品川警察署」と書きたいところではあるが、それはさすがに怒られそうなので「品川区」にとどめておいた。品川区の何なのか、一切言っていない。
完成してとても嬉しいのだが、ここで懸念事項を解決しておきたい。作ってる間もずっと気になっていた。この自転車で外を走ってもいいのだろうか?
警視庁に電話で問い合わせてみた。
「警察官の自転車を真似しても大丈夫でしょうか?」
いくつか部署を回された後、女性の職員さんが僕の質問に答えてくれた。その回答によると、自転車の車幅などが軽車両の規定に沿っていれば特に問題はないのだという。もの凄く大きいとか、もの凄く高いとか、そういう改造でなければ警察官の自転車を模しても違法ではないのだ。
「普通に自転車のカスタマイズと同じ考えで大丈夫かと思います」
やった! 外で乗らない自転車だから絶対に盗まれない。と、一休さんみたいな事を言わずに済んで良かった。
警視庁のお墨付きをいただいたので、最後に、本当に盗まれないか検証します。
この絶対に盗まれない自転車は本当に絶対に盗まれない自転車なのか。しばらくの間、町中に放置して試してみる事にした。
マンガ喫茶で時間を潰している間、外に自転車を放置しておくのだ。しばらく経っても盗まれていなかったら、絶対に盗まれない自転車だと言い切ってしまおう。
今回の企画にちなみ、「こち亀」をチョイスした。ある程度の時間を潰さないと検証の意味がないので、12冊読む事にした。
あれだけ苦労してカスタマイズしたのだ。自転車の事が気になって仕方ないが、絶対に盗まれない事を証明するためである。外に出て自転車の安否を確かめたい気持ちと葛藤しながら、両さんの傍若無人なエピソードを読み進める。
…2時間経過
12冊読み終えるのに2時間かかった。
果たして自転車はあるのか?
ないのか?
自転車は盗まれていなかった。2時間前とまったく同じ場所にキチンと置いてあった。
絶対に盗まれない自転車が成立した瞬間である。
例えば家の玄関先にこの自転車を置いておけば、そこはもう「警察官立寄り所」に早変わりする訳だ。あ、今あの家には警官がいるから空き巣はやめておこう、となるのである。自転車泥棒対策に、と思って作った自転車であるが、期せずして自宅の防犯対策にもなってくれた。良かったら皆さんもお試し下さい。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |