ひとりでいるときに試そう
無茶を承知ということもあり、いつもの自分より大胆になれたカーナビへの語りかけ。
どう言えば反応してくれるだろうと頭をひねるうちに、知らず知らず言葉の中に自分の知らない自分というものが現れていたような気もする。
もしかすると、それが自分探しの旅の答えなのだろうか。
夏は暑いので正気を保つようにがんばりましょう。
いつも運転していた自分の車から明らかにやばそうな異音がするようになって数ヶ月。
整備工場に様子を見てもらったところ、安全性にとりあえず問題はないということでしばらく乗っていたのだが、異音はどんどん大きくなっていく。改めて見てもらうと、ついに整備士も「そろそろ限界ですね」とのコメント。
必要に迫られる形で買った新しい車。まあ普通に気分がいいわけだが、驚いたのはついていたカーナビの性能。しゃべるだけでいろいろな指示が出せるのだ。
かなりいろいろわかってくれる最近のカーナビ。そういうわけで、指示以外にもいろいろと話しかけてみました。
※2006年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
もしかするとそうした機能が搭載されるようになって日は浅くないのかもしれないが、個人的には驚きだったカーナビの音声認識。
例えば、「コンビニ」と話しかけてみる。
といった具合に、自分がいる近くのコンビニがドワーッと出てくるわけだ。もちろんいる場所によるのだが、繁華街などではこんなに出されても困る、というくらいに出てくる。
具体的な施設や住所などにも対応している。
例では東京タワーだが、誰でも知っているような主要施設であれば、その名を言っただけで地図に表示される。もちろんあのあと目的地に設定すれば道案内もしてくれるのだ。
こうした機械には疎いこともあって、すごいすごいと感心しきり。説明書を見るとかなりたくさんの指示に対応しているようなので、ここはひとつ勝手なことも言ってみたいと思う。
どうも通じてない様子。カーナビ側は「あと何分?」と私が言ったように受け取ったらしい。
ルート案内中ではこう言えばあと何分で目的地に着くのか教えてくれるらしい。それはそれで便利なのだが、今私が言ったのはあくまでハンバーグ。
「ハンバーグ」と「あと何分」。惜しいような惜しくないような微妙な反応だ。ではこれならどうか。
なんだこれは。
「ウインナー」と言うと「ヘディングアップ」との表示。ヘディングアップという言葉の響きがなんとなくかっこいいというのはわかるが、説明書をちゃんと読んでいないこともあって意味がわからない。
それにしても「ウインナー」と「ヘディングアップ」。全然違う。カーナビに「たわごと言ってないでしっかりしろ」と言われているような気もしてくる。
表層的な食べ物の要求ではなく、もう少し複雑なことも言ってみようか。
お前、ちっともわかってくれてないだろう。「会社を休みたい」と「住所で探す」は全然違うじゃないか。おいカーナビ、適当言ってんだろう!
まあ適当なことを言っているのが自分だということはわかっているのだが、より抽象度を高めて相談してみる。
「自分探しの旅に出たい」という無謀な要求に対し、カーナビの出した答えは「13キロメートルスケールにします」。
地図の縮尺を13kmに変更するということらしい。自分探しをしようとする私に対して、「もっとスケールを大きく考えろ」というカーナビからのメッセージだろう。
カーナビにそんな励まし方をされてなんとなく釈然としないのだが、少し打ち解けてきた気もする。ここはジョークのひとつでも飛ばしてみようか。
認識できないというつれない反応。そうか、なんでもかんでも適当に解釈するわけではないのか。無視することもあるのか。つまらないだじゃれにはそういう反応か。
カーナビ相手にむっとする自分。もう少ししつこく迫りたい。
どこのインターチェンジ……?全く音の響きが違うと思うのだが。
とぼけているのか無視しているのか。無視するにせよ、何の反応も見せないというわけではないのは、遠まわしなやさしさということだろうか。というか、こんなこともわかるのかという普通な発見もある。
だじゃれで相手にされず不愉快な気持ち。ならば逆に、感動的な歌のフレーズひとつでも教えてやろうか。
もう言ってることと反応が全然違うことには慣れてきたのだが、その事務的なリアクションはなんとかならないのか。
僕が言いたいのは、なんでもないようなことが幸せだったと思うということなんだ。2画面表示がどうしたとか、そんなことは聞いてない。
なんなんだよ。もともと特別なオンリーワンなんだよ、君は世界にひとつだけの花なんだよ。地図の縮尺にこだわっている場合じゃないだろう。
同じ歌詞でも、もう少しフランクなものの方がいいだろうか。
大ヒットした曲だが、「わーたし さくらんぼー」のところだけ切り取ると、暑さでどうかしてしまった人のようでもあるだろうか。それを見透かしてなのか、カーナビはクールに渋滞情報について反応しようとしている。
なあ、もっとちゃんと相手してくれよ。はじけ方が足りないというのだろうか。
あまりにも適当なことを言ってみたところ、ハードディスクにある曲を聴いてみては、という提案をされてしまった。
そうなのか、このカーナビ、CDの曲を吸い出してハードディスクに録音できるようになっているのか。こういう形で知るカーナビの機能。適当なことでも言ってみたかいがあった。
リズミカルに言ってみたのだが、それを無視するかのように難しそうな英語?と漢字多目のリアクション。
あくまで冷静なカーナビ。そう、特に言っていなかったが、このカーナビはこちらが言ったことに対して画面表示で反応するだけでなく、ちゃんと音声で答えてくれるのだ。
落ち着いた雰囲気の大人の女性という感じの声。そう、カーナビに性別があるとは知らなかったが、女性だったのだ。
無茶を言っても、やさしくなにがしかの反応を返してくれるナビ子。そんなナビ子にいつしか私は心ひかれていた。
おっ、もしかして今回はじめて噛み合った反応だろうか。ちょっとくどいてみたところ、自宅に行くことを提案されてしまった。展開が早過ぎないだろうか。
ここは一気に攻めたいところ。すかさず言葉を継いでみる。
いや、ガソリンスタンドのこととか、今はどうでもいいんだけど…。確かに車を走らせる上でガソリンは大切だけれど、今伝えたいのはそういうことじゃないんだ。
やっぱり自宅に行くのはやめるという反応だろうか。確かに「つきあってください」の「つき」と、「次の目的地削除」の「次」は一致している。
そんな冷静な反応を求めているんじゃないんだ。
ついに決定的な告白。なのだが、ナビ子の反応は全くもってとぼけたもの。カーラジオを埼玉にあるFM局、NACK5に設定されてしまった。
これはふられたということなのだろうか。ラジオから流れるNACK5のDJの声。目を覚ませ、ということなのだと思う。
無茶を承知ということもあり、いつもの自分より大胆になれたカーナビへの語りかけ。
どう言えば反応してくれるだろうと頭をひねるうちに、知らず知らず言葉の中に自分の知らない自分というものが現れていたような気もする。
もしかすると、それが自分探しの旅の答えなのだろうか。
夏は暑いので正気を保つようにがんばりましょう。
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