目が覚めます
3つのやり方を試したけど、個人的には、録音>GPS>タイム計測の順番でおもしろかった。
ただどれをとっても言えることは、スリリングなレース展開ですっごく目が覚める。会社で眠くて午前中の仕事が手につかない方、いちどお試しください。
僕はふだんこのサイトで、胃薬入りのカレーを作ってみたり、すね毛を剃って蚊に刺されたりしているが、いちおう立場的には会社員である。毎朝決まった時間に、電車にゆられて出勤しているのだ。
たいくつな通勤時間をいかに有意義に過ごすか、というのは全会社員共通の悩みであると思う。
そこで、今日は僕が考えた通勤中にできる新しいゲーム「通勤タイムアタック」のご紹介だ。文字通り、通勤時間の短さを競う遊びである。
※2010年11月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
隣家に同僚が住んでいるとか、職場結婚で夫婦が同じ職場とかなら別だが、通勤はたいてい孤独な一人旅である。
必然的に、タイムを競うにも対決相手は自分となる。通勤タイムアタックは常に自分との戦いなのだ。
上の写真はマリオカートの画面なのだけど、(このために6年ぶりにnintendo64の電源を入れたけど全然入んなくて、カセットの裏フッてやったらすぐ入ったからやっぱりあれ効果あるよ!)、この画面に出ている半透明の車に注目してほしい。
これはゴーストといって、過去にプレイしたときの自分だ。スピード、コース取りなど、全く同じ走りを再現するようになっている。このゴーストと競走することによって、(対戦してくれる友達がいなくても!)過去の自分と対戦プレイが楽しめる、という機能である。
現実世界にもゴーストが出せれば楽しいのに。前からそんなことを考えていたのだが、ついに実現する機械を発見した。それが写真の機械、デジタルゴーストメーカー。なんとソニー製。
というか、ただのボイスレコーダーなのですが。
僕の考えたゴースト
1.音を録音しながら通勤する(ゴーストの記録)
2.翌日、それを聞きながら通勤(ゴーストの再生)
3.通勤中ずっと、昨日の自分が今どこにいるか音でわかる(これがゴースト)=競争ができる!
たとえば今ぼくが品川駅にいるのに、レコーダーから次の大井町駅のアナウンスが聞こえてきたとしたら、昨日の自分にひと駅分おくれをとっていることがわかる。
そうやって自分のゴーストと対戦することで、たいくつな通勤をスリリングなものにしよう、というアイデアなのだ。
このゲームをするにはまずはゴースト役の音声を録音しなければいけない。なので初日はオーディオレコーダーを持って普通に通勤することになる。
録音ついでに、僕の通勤ルートの写真を撮って図にまとめました。軽く頭に入れてから、次ページからの実戦編をお読みください。
ざっと説明すると、家→最寄り駅が徒歩、電車に乗ってJR有楽町で乗換え、京浜東北線で会社の最寄駅(大森)まで行き、徒歩でオフィスまで、というルート。いつもの感覚だとだいたい50分くらいの通勤時間だ。
これでゴーストが用意できた。対戦は明日、50分間1本勝負の熾烈な戦いだ。
翌日。昨日録音したゴーストをMP3プレーヤーに移した。イヤフォンごしに感じる敵の気配。
たいくつな日常よさようなら。これからは毎朝、抜きつ抜かれつのスリリングな通勤が始まる。
自分の足音とは別にもう一つの足音が聞こえる。聴きながら歩いているとついつい歩調を合わせてしまうのだが、それでは同じペースになってしまい自分のゴーストに勝つことはできない。早足で廊下を進む。
最初のポイント、エレベーターはすぐにやってきた。敵がエレベーターを降りる頃には、こちらはすでにマンションから離脱。いいペースだ。
つづいてゴーストも道路に出る。イヤフォンから聞こえる路上の音はどこも同じような感じで、相手がどのあたりを歩いているのかわからなくなった。足音だけがただ淡々と響く。
「ゴースト」という名前に引っ張られるわけではないが、その存在感はかなり不気味である。姿は見えないのに気配だけがある。しかも敵だ。光学迷彩をまとったプレデターのよう。
ただ歩いているだけでも、「どこにいるかわからないので抜かれるかも」というゲーム的な不安と「姿の見えない敵に狙われているような気がする」という本能的な不安、この2方面から怖い。たまにゴーストが歩調を早めたりするとすごい焦る。
駅に差し掛かっても、ゴーストはまだ外の音。先行できていることが確認できた。
電車を待っている間に、ゴーストは改札を抜け、階段を下り、淡々と無言で、しかし一歩一歩確実にこちらに近づいてくる。
焦燥感。早く逃げねば、と思う。競争に勝ちたい、というより、逃げなきゃ!という気持ち。
電光掲示板に「まもなく電車が来ます」の表示が出た頃、ゴーストもホームに到着した。イヤフォンから電車の音がして一瞬焦ったが、向かいのホームの電車だったようだ。まもなくやってきた電車に逃げ込む。
半駅で次の電車がくるのは車間距離狭すぎだろう、と思うが、実際にはゴーストが生きているのは昨日の世界。一日の時間経過があるのだった。しかしイヤフォンごしのこの臨場感は、到底そうは思えない程のリアリティ。
ゴーストの電車で女性がなにかおしゃべりをしているのがきこえてくる。習い事の話をしているみたいだ。録音ファイルには音声丸ごと収録しているので情報量はかなりあるのだが、必ずしも場所を表す音ばかりではない。その中から取捨選択して相手の居場所を推理しなければならず、競争中ずっと頭もフル稼働だ。
いろんな音を総合的に判断して、敵の所在地を割り出し、でもまたすぐわからなくなって、ある瞬間に急にまたわかって…。という繰り返しがどうしようもなく胸をハラハラさせる。
駅に着いた頃、イヤフォンからはまだひとつ前の駅のアナウンスが流れていた。いける。このペースなら逃げ切れる!
音はすれども姿は見えないゴースト。その存在感がなんだか妙に恐ろしかったのだが、こうして差が開いて勝ち色が濃厚になるにつれて、ゲームを楽しむ余裕が出てきたぞ。
…と思ったのもつかの間。異変に気づいた。乗り込んだ電車が全然動かないのだ。
動け!動け!動け!
という有名なセリフはなんだっけ。あとで調べたらエヴァンゲリオンだった。見てない。見てないけど今なら主人公の気持ちがわかる。電車、動け!
結局、ゴーストがホームに到着するのと入れ替わりで、電車が出発した。なんとか逃げ切った形だが、しかしすぐに昨日の電車がやってきて、ゴーストも電車に乗り込む。
僕が浜松町についたとき、イヤフォンからは「次は浜松町」のアナウンスが聞こえてきた。ひと駅弱のリード。しかし山手線のひと駅は短く、差は小さい。しかもこちらは運転調整のため、各駅で少し長めに停車している。電車のスピードも遅い。
次の田町駅に停車中、ゴーストも田町駅に着いた。続く品川駅、まるでエコーがかかったかのように「次は品川、品川です」の声が2つほぼ同時に聞こえ、イヤフォンからのブレーキ音とともに停車。
追いつかれた!といっても別にとって食われるわけではない。ゴーストはしょせん仮想の存在だ。でもタイムアタック的にはまずい展開。
電車が運転調整を続けているいま、このペースでは明らかに相手有利。半ばあきらめ気味で、フラフラと空席に座る。
席に座ったことで少し緊張も緩み、しばらくボーっと別のことを考えていた。電車は大井町を出たところ。次が会社のある大森駅だ。すると不意にイヤフォンから電車の発車ベルが聞こえてきた。
あれ、と思う。いまごろゴーストは僕より先行しているはず。先行していて発車ベルが聞こえるということは大森駅にで降りているはずだが、聞こえる音は明らかに電車内のものだ。
しばらくしてまたイヤフォンからアナウンス「次は、大森、大森」。
品川で追いつかれ、完全に逆転されたかと思ったこのレース。なんと追い越されていなかったようなのだ。現在、半駅程度の差をつけてこちらが優勢。
僕が改札を出て駅を出て駅前のコンビニの横を通過した頃、ゴーストが改札を抜ける「ピッ」という音が聞こえる。差は大きいぞ。
ここで急にゴーストが全速力で走り出すことでもなければ、確実に勝てる。そしてそうじゃないことは、自分が一番よく知っている。だって俺、きのう走ってないもん。
レース中であることも忘れ、気分は凱旋パレードだ。こんなに晴れやかな気分の出勤は久しぶりである。
そのまま会社のあるビルに入りエレベーターに乗り編集部オフィスへ。勝負あり。
僕が席についてから1分ほどすると、イヤフォンからゴーストの「おはようございます」の声が聞こえてきて、それはそれは生気のない声だった。朝の挨拶くらいちゃんとしたほうがいいんじゃないかな、と思った。俺が。
で、このゴースト対戦、やってみた感想ですけども、すっごい面白かった。何が面白いかというと
・姿が見えないのに足音だけはずっと聞こえる、ゴーストの不気味な存在感
・イヤフォンからの音で、相手の居場所を推測する楽しみ
・単純に抜きつ抜かれつ競走する面白さ
と、この3つの楽しみが同時に味わえるのだ。ちょっとでも興味を持った方はぜひ一度やってみて欲しいです。面白さは保障します。
次ページでは、ボイスレコーダー以外にゴーストを作る方法がないか、あと2つほど試してみます。
語の定義に立ち返ると、そもそもタイムアタックってタイムを計ってやるものである。
別の日に、通勤経路のどこを何分で通ったか細かく記録しておいた。今日はそれがそのままゴーストになる。
この方法、やってみると結構つらかった。
タイムがはっきりわかることで、ゴーストに追いつくために走らなきゃいけないからだ。
音声ゴーストのときは、道路を歩いているときなどで「勝ってるか負けてるかよくわからない」状態がよくあった。そういうあいまいさがないのだ。
遅れれば遅れるほど、どんどん走らねば追いつかなくなり、体力を消耗していく。出勤時にこれでは後の仕事に影響が出そうな勢い。
僕の場合、通勤経路は電車が中心で、歩く時間はあまりながくない。その短い距離で遅れを取り戻さねばならないので、ほんとに全速力で走ることになる。
かわりに、電車に乗ったときの安心感たるや。「ここは急げないからしょうがないよね!」という言い訳とともに、一気に気が抜ける。
駅-会社間でかなり走ったのだが、最初の駅での遅れがけっきょく最後まで取り戻しきれず、ゴーストより8秒遅れでの到着となった。
それでも途中で40秒とか遅れてたことを考えたら、相当がんばったと思う。
というわけで、この方法はあまりおもしろくなかった。
・走るのツライ
・時間に追われて焦る。楽しむどころかストレスがたまる
・音声ゴーストは、敵がそこにいる「気配」をずっと感じてたのだけど、タイムはただの数字以上の存在感がない。
なんかゲームというよりトレーニングという感じ、たいへんストイックなやり方であった。
もう一つ、最近話題のスマートフォンを使った方法もある。ゴースト対決に最適なアプリを見つけたのだ。
使ったのは Private trainer というAndroid用のアプリ。ジョギング用のアプリなんだけど、GPSを使って自分の走りを記録しておくと、次回走るときに前回の走りを再現して表示できる(つまりゴースト)。
元々はジョギング用だけど、試したところちゃんと電車での移動にもついてきてくれたので、これを通勤タイムアタックに使ってみたいと思う。
この方式のおもしろいところは、ゴーストがワープ航法を習得しているところだ。どういうことかというと、ゴーストが屋内に入るとGPSの電波が届かなくなり、その場で止まってしまう。それが次に地上に出た瞬間に、ワープして現れるのだ。
たとえば家からマンションを出るまでは屋内なので、電波がない。マンションを出た瞬間にワープして登場。それまでどちらが先行してるかは、あいまいな状態になっているのだ。
あとGPSの精度の関係でゴーストがたまにちょっと脇道にそれたりするのだが、それも「僕のことを見失ったのかも」みたいな人間味があっておもしろい。そしてその後すぐ追いついてくる。
やっぱり、この、相手が生きてる感じ。これがゴースト対決の面白さのキモではないか。
今回はエレベーターが早く着いたため、マンション出る時点で少しリード。電車にもスムーズに乗れた。
最寄駅から乗り換えの有楽町までは地下鉄なのだけど、この間はGPSが一切きかないブラインドゾーンである。音声ゴーストの時みたいな駅のアナウンスもないので、完全に相手の位置は読めない。
地上を走る電車に乗ると、こんどは目に見えて移動スピードが速くなるので、急にエキサイティングになってくる。差を詰めたり離したりしながら高速移動するピンを見ていると、映画のカーチェイスを見てるような感じ。
黄色(現在地)が停車中に赤(ゴースト)に迫られ、ギリギリのところで発車し、逃げ切るようすを動画で(5倍速)
半駅ほどの差を開けて大森に到着、あとは会社まで悠々と…、と歩いていたら、ゴーストが大森駅に着いた途端、ものすごいスピードでこっちに近づいてくる。
そうだ、このゴーストは昨日、時間を計ってタイムアタックしたときに記録したので、終盤ものすごい走っていたのだった。
あれよあれよというまに追いつかれ、会社のあるビルにはほぼ同時に到着。
ちなみにこれ以上はGPSが届かないため、今日はオフィスまで行かずにここで終了。GPSを使ったゴーストの間奏としては、
・相手が生きてる感じがしておもしろい
・地下に潜ると相手の動きがわからなくなり、スリルがある
・それ以外の場所では相手の位置が正確にわかるので、安心感
これはこれでなかなかおもしろかった。
3つのやり方を試したけど、個人的には、録音>GPS>タイム計測の順番でおもしろかった。
ただどれをとっても言えることは、スリリングなレース展開ですっごく目が覚める。会社で眠くて午前中の仕事が手につかない方、いちどお試しください。
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