特集 2019年2月25日

日本一のクラムチャウダーを決めるニッチすぎる選手権

初代クラムチャウダー王者に選ばれるのはどれだ。

ぼんやりとTwitterを見てたら、「こんなニッチなイベントあるんだねー」的なコメントとともに「第一回 日本クラムチャウダー選手権」と銘打たれたイベントのポスター写真が投稿されていた。

なるほど、これはニッチだ。以前にはツナ缶の世界一を決める大会にお邪魔したこともあるが、それに比肩しうる絞りっぷりである。そしてこれまでの経験上、こういったニッチすぎる食イベントはだいたいハズレなくうまいものが食えるのだ(やってる側のこだわりがすごいから)。

よし、じゃあクラムチャウダー食いに行こう。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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たぬきに化かされつつ船橋漁港

「第一回 日本クラムチャウダー選手権」で改めて検索すると、日時は2月16日(土)、場所は千葉県の船橋漁港とある。

船橋には駅周辺に何度か行ったことあるけど、わりと整備された都市というイメージしかない。漁港ってどこにあるんだ。いや、「船橋漁港」というのがあるのは知識としてなんとなく知ってるんだけど、それと自分が見たことある船橋の経験とかみ合わないのだ。

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JR船橋駅前。駅ビルも立派だし、地方都市としてはかなり栄えてるイメージ。
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…から徒歩10分強で漁港。向こうにかすむタワマンや商業ビル群が幻のようだ。

駅から10分ほど歩いたら、ほんとに漁港があった。

さっきまで「船橋、やっぱり都会だなー」って言いながら歩いてたのが、ある地点から急に水産倉庫が建ち並ぶ漁港近くの風景に変わる。

印刷用語で言うところの「グラデーションの足が短い」というやつだ。もしかしてさっきまでたぬきに化かされていたんじゃないか的な、それぐらいの唐突さである。

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漁港の端の方に会場発見。あそこでクラムチャウダーの覇権争いが行われるらしい。

会場は、その漁港の駐車スペースらしき場所(そんなに広くはない)で設営されていた。

ちなみに記念すべき第一回は船橋市内の飲食店などから13店がエントリーしているという。

そしてイベントの開催時間は朝9時から12時までの3時間。狙いもニッチだが時間も狭い。朝からクラムチャウダーだけ食べて,ダラダラせずに昼にはもう解散!という感じなのか。うん、これはガチだな

会場に到着したのはスタート直前の8時45分。忙しいタイミングではあるが、今回の選手権を主催する日本クラムチャウダー選手権実行委員会の内海さんに話が聞けた。

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主催者で、水産会社「かねはち水産」社長の内海金太郎さん。

いきなり失礼ですが、ものすごいニッチな食イベですよね。なんでクラムチャウダーなんですか?

内海 クラムチャウダーってつまり二枚貝を使ったチャウダー(具沢山の濃いスープ)なんですが、クラムチャウダーの本場アメリカでは、主にホンビノス貝を使うんです。

ホンビノス貝というのは、ハマグリに似た北米原産の二枚貝。これが90年代にアメリカからの船にくっついて日本にたどり着き、増え始めたとのこと。

こいつは環境の変化に耐えられて生命力も強い外来種…なんだけど、在来種のアサリなどが生きられないような酸素の少ない港湾底部でも繁殖するため、縄張りを争うことなく棲み分けができているらしい。

それだけでも「ほほう、案外悪いやつじゃないんだな」と思うが、その上さらにホンビノス、旨味がやたら濃い貝なのだ(味もハマグリによく似てる)。

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これがホンビノス貝。鍋に入れるとまた良い仕事をするんですよこいつ。

内海 で、実はこの船橋漁港がホンビノス貝の漁獲高日本一ということで、じゃあ船橋が本場のクラムチャウダーでイベントをしてもいいんじゃないか、と。

僕はそこそこ貝好きなので、以前に千葉県フェアのようなところで冷凍のホンビノスを買って食べたことがある。値段が安いわりにでかいし、なによりコハク酸(貝類の旨味成分)が濃くて「すげぇなこいつ」と思ったんだけど、あれ、船橋産だったのか。

…という話を聞いているうちに、イベントのオープニングアクトが始まっていた。

船橋出身のシンガーソングライター高橋涼子さんによるステージだ。歌うは船橋漁協公認のホンビノス貝PRソング『ホン・ホン・ホンビノス♪』である。

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かわいいメロディーと「ホン・ホン・ホンビノース!」という歌詞が耳に残る。イベント後、帰宅してもしばらく口ずさんでた。

そんな歌まであるのか!と驚きながらも手拍子しつつ聞いていると、今度は背後がざわざわと騒がしくなってきた。

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開始1分もしないうちにもう行列が!早いよ!

振り返ると、もうクラムチャウダーの販売が始まっているではないか。しかも、早くも行列ができている屋台もある。わー、食わねば。

クラムチャウダー、そんな差があるのか問題

『ホン・ホン・ホンビノス♪』のステージが終わると同時に屋台にダッシュだ。

どの屋台でも強烈に食欲をあおってくる看板を出しているため、見ているだけで「うわーこれ食わないとダメだろ」という気分にさせられる。

そして、どのクラムチャウダーも一杯300円。食イベとしてはまず破格の安さである。食わねば。

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看板からもうコハク酸がじわっとにじみ出てる看板。貝好きのテンションが吹き上げそうになる。

迷っていても仕方ないので、ひとまず一番近くにあった屋台にスパッと並んでみた。

ここはタイ料理屋さんが作ってるクラムチャウダーらしい。

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「パクチー入れますか?」「激辛トムヤムソース」などクラムチャウダー的に不穏な文字が躍る。
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ココナッツミルクのクラムチャウダー。トッピングはこれまた船橋特産小松菜入りの揚げパン。おおおおお美味そう。食わせろ。

ココナッツミルクベースに酸っぱ辛いトムヤムソースで仕上げた、クラムチャウダーの概念がいきなり揺らぐ一品である。

というか、そもそもクラムチャウダー自体がアメリカでも牛乳ベース、トマトベースなどいろいろあるんだから、タイ風があって悪いはずもない。そもそも今回の大会のレギュレーションも「船橋産ホンビノスを使ったチャウダー」というだけなのだ。

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うほー。染みるわー!

あー、これ美味いわー。「辛くてココナッツミルクの甘みもある、貝ダシの効いたタイカレー」という感じの味なんだけど、その表現にマズい要素ないよね。

なにより、いまは2月中旬の朝で場所は海ぎわ。日は出てるけど気温は一桁台である。アツアツのクラムチャウダー、ガチで染みる。

…とのんびり食レポしている場合ではなくなってきた。行列がヤバい。

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そろそろシャレで済まないレベルの行列があちこちに。油断してた。

来る前は油断して「13店のクラムチャウダーを並べて写真撮ろっかな」とか考えてたんだけど、甘かった。まさかこんなに大勢の人がクラムチャウダーに殺到するとは。

このままでは13店コンプリートどころの話じゃないぞ。急いでまた並びます。

とにかく並んで、食ったらまた並ぶ

結果から報告しておくと、食べられたのは6/13種類。

あれも食べたかった、これも狙ってたのに、と後悔が残る結果である。

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これは居酒屋「ちょいちょい」のクラムチャウダー。8時間煮込んだという鶏スープがベースで、巨大なホンビノスがゴロゴロ入ってる。これもうまい。

今回は妻に同行してもらっていたので、二人で手分けして並んで、写真撮って食べたらまた並んで、を繰り返したが、それでも全体の半分すら届かなかった。

なんせ9時20分を過ぎた辺りから客入りがさらに加速し、あとはただ行列が伸びていく一方なのだ。

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ん?イシイってあのイシイ?

こちらは石井食品の屋台。40代以上の人間には「イッシイのおべんとクン ミートボール♪」のCMソングでお馴染み、あのイシイ。実は船橋に本社を構える食品メーカーなのだ。

当然、と言っていいのかよくわかんないけど、クラムチャウダーもおべんとクンミートボール入り。

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ホンビノスよりもむしろミートボールの存在感が際立つ。
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確かにおべんとクンミートボールの味だ。なつかしうまい。

イシイのクラムチャウダーはとろみとミルク感が強めで、安定した味。いかにも食品メーカーがしっかり工場で作りましたよ、という間違いの無さだ。

ただしミートボールの存在感が強すぎて、これ完全にミートボールチャウダーだ。日本に入って20余年のホンビノスと誕生から45年のミートボール、キャリアの差が出てしまったか。

行列30分以上のクラムチャウダー

いや、だから「キャリアの差が」とか言ってる場合ではないんだって。

もはやどの屋台にも行列が伸び、行列がまた行列を呼ぶ。特に行列が長いところは30分以上並ぶ必要があった。

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大行列屋台のひとつ、居酒屋「作゛(ざく)」のクラムチャウダー。
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長蛇の列も納得のうまさ。パンの器ごとふがふがと食らいつく。

こちらはキングサーモン入りのクラムチャウダーをパンをくりぬいた器で提供するという、テンションの上がる仕様。

ホンビノス+サーモンの濃い味がパンに染み込んで、正直たまらん味だ。

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「ダシのプロが作った本気のクラムチャウダー」という看板にまた鼻息が荒くなる。
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熱と香りが逃げないようカップの上にピタパンをかぶせてある。ザ・親切。

結局、40分近く行列した末に入手したラーメン&バル 963のクラムチャウダーは、濃厚を謳うだけあって、確かにすするたびにホンビノスの味がグッとくる。

仕上げに白トリュフオイルが振られているので、香りもすごい。なにもかもが濃い。

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うわーうわーうわーうまいよー。

長時間並んで食った、という満足感を差し引いても間違いなくうまかった。

実際、同じようにピタパンかぶせたカップを持った人たちが「これすごいね」「一番好きかも」と声を挙げており、それを見た他のお客さんが「それどこの屋台ですか?」と聞いて並ぶ、という行列増殖現象が発生していたほどだ。

そして今回の三大行列屋台(勝手にそう呼ぶが)のラストは、フレンチの貝殻亭が供するプレミアムクラムチャウダー。

妻が40分以上並んでゲットしてくれたのだが、個人的にはこれが最高だった。

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貝殻亭のプレミアムクラムチャウダー。絶品。これ300円でいいんすか。

ただでさえ旨味の効いたところに加え、ホンビノスのアヒージョと小松菜クルトンをトッピングしてあり、単なるチャウダーを超えて「すごいごちそうを食べた」感がある(このクルトンだけでも一品料理ぐらいの価値あり)。

クリームがまろやかなんだけど、スパイシーさもあるので、いつまでも食べ飽きないのだ。

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はー。これはごちそうやでぇ。スプーンをずっとしゃぶっていられる旨味よ。

そして、この辺りからクラムチャウダーの温かさが効き始めてきた。

今回の紹介はほぼ時系列通りで食べた順番に紹介しているんだけど、前のピタパンかぶせクラムチャウダー辺りで手袋を外し、上着も前を開いている。

で、いまや上着も脱いでまったく平気。っつか、うっすら汗もかいてきた。さっきまで半ば震えながら行列に並んでいたのが冗談のような気がするほどだ。

あと、絵面が同じ過ぎて意外に思われるかもしれないけど、クラムチャウダーばかりでも全く飽きは来ない。

見た目は似てても各店舗ごとにわりと味に個性があるので、「次はどんなクラムチャウダーが来るかな?」という楽しみのほうが勝る感じ。

そろそろ完売相次ぐ

そして10時を過ぎたころには、あちこちから「完売ですー」という声が聞こえ始めた。

一番早かったところは10時前には完売していたようで、まずこの時間から会場に来ていた人は、ヘタするとひとつも食べられなかったんじゃないだろうか。

実際、帰宅後にSNSで検索すると「出遅れたせいでまったく食べられなかった、残念」というコメントがいくつか見られた。話によるとどのお店も200食以上は準備していたようなんだけど、お客さんがそれ以上に殺到してしまったらしい。

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並ぼうと思ったらもう完売。ここのも食べたかった…。

正直僕もなめてた。クラムチャウダーにここまでの集客力があるとは。

主催側は「1,000人ぐらい来れば」ということだったようだが、実際には3,000人以上のお客さんがあったようだ。

ただ、混み合ってるわりにあまりギスつかない雰囲気だったのは、食べられた人がみんなチャウダーの温かさでほっこりしていたからかもしれない。

あと、もうひとつクラムチャウダーならではの光景だなーと感じたのが、これ。

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なぜかイートスペースが空いてる。普通の食イベではありえないぞ。

他の食フェス・食イベだと、基本的にはイートスペースの奪い合いがおきる。そりゃみんな落ち着いて机で食べたいのだから、当然だ。

なのにクラムチャウダー選手権では、屋台周りが大行列なのにイートスペースはするっと使えたりする。不思議だなーと思って見回すと、なるほど納得。

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みんな立ったまま食べてる。

なんせ基本がスープだから、食べながら一緒にビール飲みたいとかそういう話がないのだ。つまりテーブル不要。とろみがあってこぼれる心配も少ないから、立ったままずるずるとすすって何の問題もない。場合によっては食べながらまた別の行列に並んだり。

また、漁港内ということで会場の端々に輸送用のパレットが積み上げてあるんだけど、それが臨時の机にもなってたし。

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イートスペースが席取りでギスギスしてないので、終盤になるとパンやクラッカーを持ち込んでゆったり広げる人たちもいた。いいな、僕も次回は持ち込もう。

で、最後は出口でおいしいと思った屋台の箱にスプーンを入れて投票して、終了。

いちおうリミットは12時までなんだけど、11時過ぎるとほとんどの屋台が完売したとあって、お客さんもさっさと投票を済ませて帰り始めていた。

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投票所のおねえさんに「おいしかったー」と言ってた子。ほっこり。

ローカルとはいえ、イートイン周りの平和さも含めてこんなあっさりとした食イベって珍しい気がする。

この様子だとすぐに第2回も開催されるだろうが、たぶんまたこんな感じであっさり行われるんじゃないだろうか。(準備量を増やすのと行列の仕切りさえ良くなれば、さらにギスギスしなくなるはず)

残念ながら全種コンプリートはできなかったけど、うまかったし、ほっこりしたのでまた行きます。


さて、イベント終了から1時間ほどした頃には、早くもネットで今回の結果が発表されていた。

初代グランプリはピタパンかぶせてたバル963の「濃厚出汁クラムチャウダー」で、準グランプリはレストラン カジェーロの「カジェーロ風クラムチャウダー」。また、出店者同士が選ぶ特別賞は、チャンカーオの「ココナッツミルクのクラムチャウダー」とのことである。

グランプリと特別賞はなんとか食べられてたけど、準グランプリを食べ逃していたのは悔しい。

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行列しながら「なかなか進まないですねぇ」知らないおじさんとしゃべってた。ほっこり。

あと、記事を書いてる途中で確認したら、もう「今年の11月には第2回を開催したい」という話になっているもよう。また寒くなった頃合いに確認しよう。

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