特集 2024年12月21日

菊の花はうまい

揚げたらうまかった

続いては天婦羅にしてみよう。春菊の天婦羅が大好きなので、菊の花の天婦羅もきっとおいしいはず。揚げたらだいたいうまいけど。

ただ花びらだけだとつまらないので、似た大きさにカットした長ネギとかき揚げにしてみる。

013.jpg
花びらとネギに粉をまぶしてから、少量の生地を和えて揚げる。

ネギが持つ独特の臭みに対して、菊の香りと苦味が相性抜群。ネギだけだと少し下品になりそうなところを、菊が加わることで上品に揚がってくれる。

すごく繊細な大人の関係性。これは最高に軽くて上品なかき揚げだ。真っ白い更科そばの横に置きたい。

014.jpg
これは良いかき揚げだ。

続いて小エビと花びらで揚げてみたのだが、サクサクの花びらがエビの臭みを消してくれる役割を果たす最高の衣になっている。

この出会いもまた素晴らしい。

015.jpg
刺身に菊の花を添えるだけあって、海産物との相性がいいのかも。

最後は菊の花びらだけで揚げ玉を作ってみた。

少し強めに塩を振ってちょっとずついただくと、これは冷酒に合うこと間違いなし。ただの揚げ玉とは違う、噛みしめたその奥から漏れてくる僅かな香りと苦味が実に良いのだ。

016.jpg
こういうつまみが好き。

茹でることで本領発揮

そろそろ菊料理の王道を攻めてみよう。

菊の花の食べ方といえば「茹でて酢の物(甘酢)」が定番らしいので、熱湯で軽くクタっとなるまで20~30秒程茹でて、すぐに水で冷ます。

このとき茹でるお湯に酢を入れるか迷ったのだが、両方を試してみた結果、少々入れた方が花びらの変色が抑えられるような気がしたけど、気のせいかもしれない。

017.jpg
熱湯に花びらを入れた途端、菊の香りがムワっと立ち上がった。
018.jpg
酢を入れずに茹でた黄色い菊。ちょっと黒ずんだかも。
019.jpg
酢を入れて茹でた白と黄色の菊。色が鮮やかかも。

軽く絞って優しくほぐし、そのまま味を確認してみると、生でムシャムシャ食べるよりも、明らかに味と香りが強くなっている。まさに食べる墓参り。

体積がギュッと縮んだことによる濃縮と、加熱によって成分が活性化されたダブルの効果だろう。そしてイクラの皮やワカメをイメージさせる、やや強めになった食感がすごく良い。

やはり菊料理の本領発揮は、軽く茹でてからのようである。

020.jpg
茹でただけの菊がうまいと思う日が来るなんて。

米酢にドサッと砂糖を溶かして甘酢を作り、茹でた菊の花びらと和える。花びら同士がギュッと絡み合っていて、ほぐすのにちょっと手間が掛かるところがかわいい。

食べてみると、これぞ菊料理のど真ん中。甘味、酸味、苦味のトライアングルを支えているのが、キュッキュ、ザクザクのしっかりした歯ごたえだ。

菊は食感を楽しむ食材なのだと知ることができた。

021.jpg
もう菊なしでは生きていけない。

和えて食べる

しっかりと菊の魅力がわかったところで、同じ畑から収穫してきた、カブや大根と合わせてみた。どの料理も相性が良く、今後は菊が入っていなかったら物足りないと感じるだろう。

私が料理人であったならば、秋になったら菊料理を必ず出して普及したい。菊は立派な季節の食材なのだと。

022.jpg
大根ではなくカブの千切りの甘酢和え。カブの持つ甘さを菊の苦味が引き立てる。
023.jpg
カブと菊のみぞれ和え。おろしたことで辛みの立ったカブを、菊が歯ごたえと苦味で支えてくれる。前菜の盛り合わせにちょっとあったら嬉しいやつだ。
024.jpg
こちらは大根と菊のみぞれ和え。カブよりもずっと辛い大根だからこその輝きがある。酒のつまみならこっちかな。
025.jpg
菊の白和え。潰した豆腐に甘酢の菊を合わせてみたところ、優しい豆腐の味と食感に適度なアクセントを与えてくれた。
026.jpg
ご飯と和えてみたが、菊だけだとちょっと寂しい。ここになにを足すかで料理センスが現れそうだ。刻んだ春菊とかどうだろう。
いったん広告です

こうして菊の花が食材としてすっかり好きになった。これは私がこの年になったからこそ理解できる苦味と香りと食感だ。また花としてもかわいく思えてきた。実はおいしいから。

もし自分が30代だったら、「菊の味が好きな自分が好き」という過剰な自意識が入るだろうけど、40代後半となったは今なら、「ただ菊の味が好き」と素直に思える。もちろん菊食文化圏のネイティブの方は、子どもの頃から親しんでいる味なのだろうが。

027.jpg
そいういえば数年前の春に、食用菊の新芽を食べたことを思い出した。
028.jpg
春菊よりも肉厚で、香りも強くおいしかった。食用菊は葉っぱもおススメ。

「もってのほか」の言葉の意味を改めて調べたら、「とんでもないこと」だけでなく、「予想外」という意味もあるそうだ。

もって菊の語源はいろいろあるようだが、「もってのほかおいしいんだよ!」と言っていた同級生の言葉の意味が、30年経ってようやくわかった気がした。

<もどる ▽デイリーポータルZトップへ
20240626banner.jpg
傑作選!シャツ!袋状の便利な布(取っ手付き)買って応援してよう

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ