揚げたらうまかった
続いては天婦羅にしてみよう。春菊の天婦羅が大好きなので、菊の花の天婦羅もきっとおいしいはず。揚げたらだいたいうまいけど。
ただ花びらだけだとつまらないので、似た大きさにカットした長ネギとかき揚げにしてみる。
ネギが持つ独特の臭みに対して、菊の香りと苦味が相性抜群。ネギだけだと少し下品になりそうなところを、菊が加わることで上品に揚がってくれる。
すごく繊細な大人の関係性。これは最高に軽くて上品なかき揚げだ。真っ白い更科そばの横に置きたい。
続いて小エビと花びらで揚げてみたのだが、サクサクの花びらがエビの臭みを消してくれる役割を果たす最高の衣になっている。
この出会いもまた素晴らしい。
最後は菊の花びらだけで揚げ玉を作ってみた。
少し強めに塩を振ってちょっとずついただくと、これは冷酒に合うこと間違いなし。ただの揚げ玉とは違う、噛みしめたその奥から漏れてくる僅かな香りと苦味が実に良いのだ。
茹でることで本領発揮
そろそろ菊料理の王道を攻めてみよう。
菊の花の食べ方といえば「茹でて酢の物(甘酢)」が定番らしいので、熱湯で軽くクタっとなるまで20~30秒程茹でて、すぐに水で冷ます。
このとき茹でるお湯に酢を入れるか迷ったのだが、両方を試してみた結果、少々入れた方が花びらの変色が抑えられるような気がしたけど、気のせいかもしれない。
軽く絞って優しくほぐし、そのまま味を確認してみると、生でムシャムシャ食べるよりも、明らかに味と香りが強くなっている。まさに食べる墓参り。
体積がギュッと縮んだことによる濃縮と、加熱によって成分が活性化されたダブルの効果だろう。そしてイクラの皮やワカメをイメージさせる、やや強めになった食感がすごく良い。
やはり菊料理の本領発揮は、軽く茹でてからのようである。
米酢にドサッと砂糖を溶かして甘酢を作り、茹でた菊の花びらと和える。花びら同士がギュッと絡み合っていて、ほぐすのにちょっと手間が掛かるところがかわいい。
食べてみると、これぞ菊料理のど真ん中。甘味、酸味、苦味のトライアングルを支えているのが、キュッキュ、ザクザクのしっかりした歯ごたえだ。
菊は食感を楽しむ食材なのだと知ることができた。
和えて食べる
しっかりと菊の魅力がわかったところで、同じ畑から収穫してきた、カブや大根と合わせてみた。どの料理も相性が良く、今後は菊が入っていなかったら物足りないと感じるだろう。
私が料理人であったならば、秋になったら菊料理を必ず出して普及したい。菊は立派な季節の食材なのだと。
こうして菊の花が食材としてすっかり好きになった。これは私がこの年になったからこそ理解できる苦味と香りと食感だ。また花としてもかわいく思えてきた。実はおいしいから。
もし自分が30代だったら、「菊の味が好きな自分が好き」という過剰な自意識が入るだろうけど、40代後半となったは今なら、「ただ菊の味が好き」と素直に思える。もちろん菊食文化圏のネイティブの方は、子どもの頃から親しんでいる味なのだろうが。
「もってのほか」の言葉の意味を改めて調べたら、「とんでもないこと」だけでなく、「予想外」という意味もあるそうだ。
もって菊の語源はいろいろあるようだが、「もってのほかおいしいんだよ!」と言っていた同級生の言葉の意味が、30年経ってようやくわかった気がした。