小心者なので
無意識のうちに、地元では人目を気にしているのかもしれない。
地元だと、面白いものを見つけても人目を気にしてカメラを出さずにまた今度…と通りすがることがあるけど、旅先では必ず撮る。
そういう些細なことって意外と大きいのだ。
できるだけ、日常っぽい街が今回の趣旨に合う。
神奈川方面へ1時間半行くと簡単に海が見えてしまうので、内陸部へ行こう。
また、千葉や茨城は多摩民からすると遠出の印象があるので、日常感のある埼玉のベッドタウンへ。
しかもさえない曇り時々雨の日に。
つまり、距離は移動するけど自分の住む街とそう変わらないところへ行ってみよう。
東京から埼玉へ入り、すこしずつ車内から人が減っていく。
春日部って何があるんだろうとスマホで下調べしつつ、でも関係ないネット漫画なんかをぼんやり読んでいても余裕あるのが1時間半という乗車時間だ。
最短での乗り換えを狙いながらの1時間の街とは、時間の質がたしかに異なる。
うん、けっこう普通に遠くまできた感じがする。むしろ、有名な観光地とちがって写真で知るイメージがない分、新鮮だ。
旅行気分だと、自分の街との違いを積極的に見つけたくなるものだ。
大げさに言えば、文化の違いを享受したくなるのだ。
同じものがあることに感慨をいだくこともある。
この日は前日からバーガーキングの口になっていたのだが、せっかくの遠出なので地元の店に行きたいと思った。
手づくりの卵の香ばしい衣が美味しい。カレーも本格的な辛さで、いい味のカレーだった。
店内では、遠くラジオからサンタナの『哀愁のヨーロッパ』のメロディが聞こえてくる。
隣のカップルが、「このあと柏まで行く」という話をしている。
千葉の柏か!遠くに感じるけど、春日部はもう江戸川を越えれば千葉。車でも国道16だ。意外と近いんだなあ。
違う文化圏であることを再認識する。
こういうお店に入るだけで、街への印象は軽々しく急上昇するものだ。
旅行では数少ない経験が街のイメージを形作っていく。
店先には地元出身らしきヒップホップミュージシャンのポスターが貼ってあって合って、地元を愛し地元に愛される店のようだった。
(バーガーキングは翌日ウーバーイーツしました)
初めて来た身としては、地元民と一緒になって偲ぶのはちょっと気が引けるけれど、27年間愛された店だったことは十分に伝わってくる。
2017年には、1週間だけ屋上塔の店舗ロゴを左のサトーココノカドー(春日部が舞台のクレヨンしんちゃんに出てくる架空のスーパー)に変えたこともある、という愉快な店舗だったようだ。
あまり専門店の入っていない、純度の高いイトーヨーカドーだった。
地元の高校生カップルが最上階のゲームコーナーにいたり、閉店セールで無愛想な中学生らしき男の子が母親と紳士服を見ていたり、これが春日部の日常風景なのだろう。
誰かの日常風景がなくなるのは、寂しいものだ。
何よりリフレッシュできたのは、自分が見知らぬ人、ストレンジャーになれたことである。
旅の恥はかき捨て、という言葉がある。
別に恥をかくほどの何かをするわけではないけど、普段のしがらみを抜けて、知らない街で過ごすというのは想像以上に気分がいいのだ。
(飲食店で店員さんに個体認識されると行きづらくなるタイプの人間なので)
それには、1時間ではダメで、1時間半の距離が必要なのかもしれない。
無意識のうちに、地元では人目を気にしているのかもしれない。
地元だと、面白いものを見つけても人目を気にしてカメラを出さずにまた今度…と通りすがることがあるけど、旅先では必ず撮る。
そういう些細なことって意外と大きいのだ。
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