はじめに
毎週金曜の夜にはげます会会員限定のメルマガを配信しています。
ライターの地元のうまいものを紹介してもらいます。今回は乙幡啓子さんから、地元のイチ推しの食べ物の紹介です。
乙幡啓子
この一食のためだけにとんぼ返りするほど
うまい万来のラーメン
東京へ出て来て早35年あまり。群馬へ帰省するたびに「ここは食べとかねば！」と補給に寄るお店が数軒ありまして、そのうちいくつかはデイリーポータルZの本サイトでも紹介していますが(ソースカツ丼、コロリンシュウマイ)、たぶんまだ書いてない「万来などの“佐野風”ラーメン」をついにここで満を持して、取り上げさせていただければと思います。
佐野“風”と今し方書きました。故郷は群馬県桐生市です。ここ桐生には、他にも「いもフライ」「ソースカツ丼」などなど栃木県佐野市と共通の名物があります。それはなぜかと検索すれば、さかのぼって南北朝時代に佐野氏から出た桐生氏という武家が桐生のおおもとになった云々、などとあり歴史的にずっと交流があったんですな両市は。それで「佐野ラーメン」的な店も、特に佐野風と喧伝するでもなく桐生市内に何軒かあるようでして、そのうちの私の超ご贔屓なお店が「万来（ばんらい）」なのです。
18歳で東京に出てきてからも、あの平打ちちぢれ麺とあっさり醤油味を探して東京でラーメンの名店とされるお店にも行ったりしていたのですが、どれも程遠い。もう探すの嫌んなった。東京なんて砂漠だがん（群馬なまり）。そうすると、たまの帰省で万来を補給しにいくしかないのです。車持ってないので駅からレンタサイクル使ってまで行きます。この一食のためだけに桐生いってとんぼ返りすることまである。
昔は万来さんの近所に住んでおりまして、それはもう小さい頃から万来のラーメンに触れていました。よってここの麺が自分のスタンダードであり、世間的な分類からしたらどうやらこのスタイルは佐野風に近いぞと認知するに至ったのは大人になってからであります。一度、佐野に立ち寄った際、駅から延々歩いて佐野ラーメンの名店にも行きました。うまい。けどあの万来の食感とはまた違っているのです。舌だけでなく、口腔内全体で味わう官能の食感はやはり万来の麺でなければならぬ。麺の中心、縁、そのまた縁などの各部の厚みが微妙に違うので、それらの違いを噛み分けるのも楽しい、嬉しい。そういった麺との戯れを邪魔しないスープと、スープにヒタヒタに浸ったチャーシューがほぐれにほぐれ、それら全員がなじみになじみ、一体感がすごい。これほど「食べるとなくなっていくなんて信じられない！なくならないで！」と念じ続けながら食べる物は他にない。人生の最後の瞬間にはこの一体感を味わいながら生と死の境目まで曖昧になって死んでいきたい。いやまだ死なないけどそれほどに私にとってはお口の恋人ならぬお口のふるさとなのであります。あー今も食べたい。
終わって解説です
平打ちちぢれ麺とあっさり醤油味の“佐野風”ラーメンが群馬県桐生市『万来』で食べられるそうです。
人んちの近所って絶対に行く機会がないので、そう思うとすごく食べたくなりますよね。ぜひ東京に出店してほしいものです。
今から入会しても、過去に掲載したコラムのバックナンバーは、はげます会専用ページで全部読めます。（はげます会担当 橋田）
