喉元過ぎればなんとやら
妊娠、出産、子育ては、大変であることは覚悟していたつもりだったが、想像を超えるハードさである。
特に最初の数週間は子供を1人以上産んでる人は超人だと思っていたが、1年もするとあの強烈な記憶も少しずつ薄れて「もう1人欲しいって思う人の気持ち、分かるな〜」と思えるようになった。人間の記憶力なんてこんなものである。
今もまだ大変だけど、面白いことも山盛りあるので、これからもちょくちょくネタにしていこうと思う。
日本で出産をしたことないのでよく知らないが、インスタなどを見ていると産院を選ぶにおいて「ご飯がおいしい」ことが結構重要な条件なようだ。
中でも注目が集まるのは、出産後に出てくる「お祝い膳」。妊娠中に食べれなかったお刺身やレアステーキなどを出してくれるところもあるそう。グーグル検索すると、ここは星付きレストランか!と思ってしまうほどの豪華な食事の写真が並ぶ。
ドイツの入院食ってどんなだろう〜と少し楽しみにしていたところ、私の4か月前に男の子を産んだ友人がSNSにアップしていた写真をみてびっくりした。
黒パンに、スライスチーズ二枚とトマトがひとつ。
ある意味絵になる色合いとシンプルさだが、これが産後の体に必要な食事とは思えない。いや、めちゃくちゃ元気な時でもこれは心が寂しくなる。パン好きのドイツ人の友人でも「早く家に帰りたい」と思ったそうだ。
もしかしたら彼女の病院が極端にさみしかったのでは?と願いつつ、あまり期待はせずに入院したが、出された朝ごはんは
幸い3食全てがかなしい食事ではなく、お昼ご飯はちゃんと温かい食事を出してくれたのはありがたかった。
でも、夜になるとさみしい食事に戻る。
真夜中に息子が産まれて、すこし落ち着いた朝方に助産師さんが気を利かせて持ってきてくれたのも、黒パンだった。
自腹でもいいから、産後は温かい食事を出して欲しい。
妊娠する前、胎盤という言葉は聞いたことはあったが実際にどんな役割を果たすものなのかは良く知らなかった。妊娠して初めて、胎盤がいかに重要な臓器か身にしみて感じた。
胎盤とは胎児に酸素や栄養を送ってくれたり、老廃物を出したり、とにかくいろいろな役割を担ってくれる臓器。妊娠するとできて、役割が終わると排出される不思議なもので、このように一時的な臓器は他にはないそう。
私も出産後に自分の胎盤を見せてもらったが、円盤状の生のステーキ、という感じだった。重さは5、600g、大皿ぐらいの大きさで、想像よりもずっしりした印象だった。
しかもこの胎盤、希望すれば持ち帰ることができるのだ。
家に持ち帰ってどうするかというと、感謝の気持ちとともに庭に埋めたり、健康のために食べたり、カプセルに加工して飲んだりと、ネットを見る限りいろいろな方法で活用されているようだ。
果たして本当に健康に良いものなのか、実際のところは分からないが、自分が知らないところでこんなにも多様な胎盤ワールドが繰り広げられていたのは驚きだった。
出産前に参加した出産準備クラスでも、胎盤に関する質問は多かった。なかでも「持ち帰ってから捨てる場合は、生ゴミに捨てるんですが、それともコンポストに捨てるんですか?」と聞いていた人がいたが、そんなことは初めて聞かれたようで助産師さんは少し戸惑っていた。
後ほどネットで調べたら、ドイツではゴミ箱に捨てられている胎盤をみた人が殺人事件だと勘違いし、警察沙汰になったことがあったそう。それが理由かどうかは不明だが、現在では中の見えない容器に入れて普通の家庭ゴミとして捨てるのだそう。
ちなみに、私はちゃんと活用できる自信がなかったので、見せてもらった後病院で破棄してもらった。
ドイツでは産院探しと同じぐらい重要なことがある。それが、産後の助産師探しだ。
ドイツでは出産後に助産師さんが家庭訪問してくれて、赤ちゃんや母親の体調チェックや授乳や沐浴などのお世話の仕方を教えてくれるめちゃくちゃありがたい制度がある。
私がお世話になった助産師さんは、産後2週間はほぼ毎日、その後も3か月ほど定期的に来てくれた。初産で右も左もわからない自分にとって、これが何よりも本当にありがたかった。
最高の制度なのだが、この助産師探しがかなりの難問なのである。妊娠した途端に周りの友人から「今すぐ産後の助産師を探した方がいいよ!」と急かされたが、後々その理由がわかった。
それもそのはず、近年ドイツでは助産師不足が続いている。それに加え、産後はほぼ毎日通ってもらう期間もあるので、家の近くに住んでいる助産師さんに限られる。さらに私の場合、予定日の8月は夏休みシーズンと重なってしまうため、助産師サーチは難航した。
口コミ、助産師ポータル、個人のウェブサイトなどを使って手当たり次第に連絡を取りまくるが、一向に返事が来ない。覚悟はしていたけど、途中で心が折れそうになった。
ようやく1人だけ連絡が来て、藁にもすがる思いでその人にお願いした。幸いめちゃくちゃいい助産師さんに当たって結果オーライだったが、いやはや大変であった。
妊娠、出産、子育ては、大変であることは覚悟していたつもりだったが、想像を超えるハードさである。
特に最初の数週間は子供を1人以上産んでる人は超人だと思っていたが、1年もするとあの強烈な記憶も少しずつ薄れて「もう1人欲しいって思う人の気持ち、分かるな〜」と思えるようになった。人間の記憶力なんてこんなものである。
今もまだ大変だけど、面白いことも山盛りあるので、これからもちょくちょくネタにしていこうと思う。
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