特集 2026年4月30日

四川省・成都でオオサンショウウオを食べる、までの長い記録

「娃娃鱼ノー!!」

11.jpg
オオサンショウウオ探しが空振りに終わったその足で麻婆豆腐発祥の店、陳麻婆豆腐に向かい、お昼を食べた。

陳麻婆豆腐では麻婆豆腐に担担麺、そのほか激辛料理を盛大に並べて、激辛の都・成都を堪能したのだった。本気の四川料理はすごい。舌と唇がピリピリと痺れて、体は血流のスピードが倍になったみたいだ。

お腹が一杯になった後は、お茶を飲みに行った。

成都には茶館と呼ばれるお茶を飲んでまったりできるスポットが無数にある。茶館の素晴らしいところは、最初に茶葉を買ってしまえば営業時間内ならいつまででも席を使ってもいいこと。魔法瓶で提供されるお湯を茶葉の入った器に注いで、無限にお茶が飲めるのだ。何番煎じでも味の出続ける中国茶の利点がこれ以上ないくらい活きてくるシステムなのである。おつまみ持ち込み可であるところもポイントが高い。

12.jpg
激辛料理で興奮した体をまったりとクールダウン。

食べ物の力は凄い。さっきまであんなに落胆していたのに、腹が一杯になった上に程良い嗜好品を与えられることで落胆し続ける気力が萎えていくのをありありと感じた。「オオサンショウウオは見つからなかったけど、成都グルメが堪能できたから、まあこれはこれでいっか」みたいな予防線を自分が心中で張り始めているのが分かるのだ。世界中の指導者たちが国民を飢えさせないようにあれこれ頭をひねる理由の一端を見た気がする。

13.jpg
オオサンショウウオを看板に掲げる火鍋屋にやってきた。

もちろん諦めたわけではない。

夜になってから、次なる可能性にかけるべく、娃娃鱼を看板に掲げた火鍋屋にやってきた。ここは、私よりも半日先に成都について、街をぶらついていた二人が見つけておいてくれた店だ。

14.jpg
看板には「娃娃鱼」の文字が!
15.jpg
そしてダメ押しするかのように、入り口の脇に置かれた立て看には
16.jpg
立派なオオサンショウウオの絵が!

これでオオサンショウウオが食べられなかったら、詐欺というものだ。切り身の状態でもいいから、とりあえずオオサンショウウオを味わわせてくれ!

17.jpg
好きな具材をとって、卓上に設置された火鍋で調理して食べるスタイル。
18.jpg
娃娃鱼は薄切りにして提供されるらしい。

店内に張り出されたパネルには、まるでしゃぶしゃぶの薄切り肉みたいに娃娃鱼の切り身を並べた写真が載っていた。なるほど、じっくり煮込むというよりは、薄く切ったものをさっと火鍋にくぐらせて食べるのかもしれない。

スープを張った鍋が運ばれてきた。矢も盾もたまらず具材コーナーへ急ぐ。食材はおおまかに肉類とそれ以外に分けて並べられていた。肉類の方を端からチェックしていく。牛や豚、珍しいところだとなにかの動物の脳みそや小さめのナマズが丸ごと皿に盛られていたりして、異国情緒にくらくらする。

が、肝心のオオサンショウウオが見当たらない。ひょっとして写真は販促のために誇張されたもので、本物はもっと慎ましいというか、小さな皿に数切れの肉が盛ってある程度なのかもしれない。そう思ってもう一度見返してみたけれど、やはりそれらしいものはない。

たまりかねて店員に聞いてみた。

「娃娃鱼、ウェア?!」

大声で返ってきた答えは、我々一同を動転させた。

「娃娃鱼、ノー!!!」

なんということだろう。あんな立派な看板まで出しておいて、オオサンショウウオを売りにしておいて、それを、それを......。

肩の力が抜けるとはこのことだ。ただ、唯一の救いとして、対応してくれた店のお兄さんがとても快活で剽軽な人物だった。

まこっちゃんが翻訳アプリを取り出して

「いつ入荷されますか?」

と聞いた。

「アイ・ドント・ノウ!!!」

再び絶叫。おもしろい人だ。このキャラのおかげで笑って済ませられたが、よくよく考えてみれば自分の店のことを聞かれて「知らねえよ!」と叫んでいるわけだから、ずいぶんいい加減なものである。

19.jpg
その後、なぜか聞かれてもいないのにアプリを使ったタクシーの呼び方を教えてくれた。
20.jpg
「ないのかー」
21.jpg
それはそれとして火鍋は食べた。

しかたがないので、娃娃鱼抜きの火鍋を食べた。もちろん美味い。とても美味いし、見たことのない食材もあって楽しい。しかしどこか煮え切らない気分を抱えて店を後にしたのだった。

いったん広告です

最強の助っ人、チンさん現る

ここで、成都在住のチンさんという人物が登場する。

チンさんはフクダ君の共同研究者で、成都にある大学の研究機関に勤めている。日本を出発する前から、フクダ君はチンさんと「今度オオサンショウウオを食べに成都に行きます」と言って連絡を取っていたそうである。

そのチンさんが、我々が火鍋屋にいるということを聞いて、「今近くにいるから、ホテルまで送ってやるよ」と言ってきてくれたのである。

22.jpg
ピカピカの新車で迎えに来てくれたチンさん。

ホテルまで15分足らずの道のりだったが、何年も会っていなかった二人は話が弾んでいるようだった。時がたつのは早い。その数年の間に、チンさんの子供は大きく成長し、愛車はバイクから新車のSUVにかわり、娃娃鱼は以前に増して入手困難になった。

そう、娃娃鱼。当初、娃娃鱼を食べたいという話を聞いたチンさんの反応は「へー、そこまでしてそんなものが食べたいなんて変わってるね」というものだった。どうやら、「脚が四つあるものは机以外なんでも食べる」と言われる中国人にとっても、現代に至っては娃娃鱼喰いはキワモノに属するものらしい。

我々は藁にも縋る思いで「どうしても食べてみたいんです」「日本では絶対に無理なんです」と言った。その熱意が通じたのか、チンさんは「じゃあ、僕が店に電話して、あるかどうか聞いてみてあげるよ」と言ってくれた。

私は内心で膝を打った。今日一日、娃娃鱼を探して実感したのが、リアルタイムな情報の重要性だ。「以前は売っていた」とか「看板が出ている」といった情報をもとに行動しても肩透かしを食らう可能性が高い。肝心なのは、今この時点で娃娃鱼の在庫があるかどうかなのだ。それを知るためには、中国語で店に電話して確かめるのが一番手っ取り早い。

可能性のある店をいくつか見繕って、チンさんが電話をかけてくれることになった。

こちらに来てからなんとなく感じていたのだが、成都人は人情味のある人が多い気がする。地下鉄の券売機で右往左往していたら向こうから声をかけてくれたり、聞かれていないのにタクシーの呼び方を教えてくれたり、娃娃鱼探しに付き合ってくれたり。いわゆる「常識的な親切」よりも二回りほど広い彼らの守備範囲に、関西人に似た気質を感じたのだった。

いったん広告です

パンダ繁殖研究基地での攻防

チンさんからの連絡を待つ間、日本では見られなくなったパンダを見物しに行くことにした。

23.jpg
成都と言えばパンダ。市内を走る地下鉄の吊革もパンダ仕様だ。
24.jpg
やってきたのは成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地。ジャイアントパンダの繁殖や研究に関しては世界で右に出るもののない施設だ。
25.jpg
見渡す限りの全てが、繁殖研究基地の敷地。

入場券は事前にオンラインで買っておいて、朝一で入場した。パンダは早朝が一番活発で、昼頃には寝始めると聞いていたからである。

26.jpg
わあ!
27.jpg
か、かわいい......。
28.jpg
パンダに夢中になる人達。
29.jpg
白浜のアドベンチャーワールドから引き上げてきたパンダもいた。

愛らしいパンダをこれでもかと見せられてすっかり心がほっこりモードになっていたところ、フクダ君のスマホに着信したメッセージによっていっきに気持ちが娃娃鱼に引き戻された。こっちの珍獣からあっちの珍獣へ、まったくもって忙しい。

チンさんから送られてきたメッセージの要点はこうだ。

・今日、娃娃鱼を提供できる店を見つけた

・娃娃鱼を鍋料理にしてくれる。ただし一匹を丸ごと買い取る必要があるので、支払額は最低でも1800元(約42000円)である。

・もう少しリーズナブルな店も見つけた。こちらだと一匹買いする必要はない。料理は一皿350元(8000円)くらい。

・どちらの店も確実に食べたいなら予約して確保する必要がある。決まったら折り返し連絡してほしい。

チンさん、ナイスガイ。私はそう思って、心の中で彼に手を合わせた。娃娃鱼を食べられる店を見つけてきてくれただけでなく、我々のことを思って懐に優しい選択肢まで用意してくれたのだ。

価格の差に悩まなかったといえば嘘になるけれど、心は決まっていた。たしかに1800元は高い(そして、1800元はあくまで基本料金だから、実際には飲み物や野菜その他の具材を追加することで、日本円で一人二万円程度かかることが予想された)。でも、成都有数の高級店の娃娃鱼料理ということは、今この時点で世界最高峰のオオサンショウウオ料理ということだ。しかも一匹買いするわけだから、調理前の生きた状態を観察することだってできるかもしれない。それなら、1800元など安いものだ。ここはケチるところではない。

「高い方でいきましょう!」

私は拳を振り上げて言った。三人で一生涯忘れない思い出になる最高の娃娃鱼体験をして、娃娃鱼浄土へ行こうじゃないか!

ただ、ここで一つ予想外の問題が発生した。

30.jpg
この男が渋り始めたのである。

「娃娃鱼を食べるという、おもしろ珍しい体験はもちろんしたい。でも、どんなに高くても一人5000円くらいで収まると思っていた」

というのが彼の主張だった。調理前に交渉すれば安い方の店でも生きた娃娃鱼を見せてくれるかもしれないではないか、とも言い出した。

31.jpg
議論が始まった。

私としては、勝ち筋がはっきり見えている状態で交渉や小細工はしない方がいいという意見だった。1800元はたしかに高い。でも今ここでしかできない最高の体験の対価と考えたら安いもんじゃないか。

思えばデイリーポータルZで執筆を始めて以来、ここまで真剣に関係者同士で方針について議論したことはなかったかもしれない。

喧々諤々の攻防の結果、「全額自分で払ってでもこっちに行きたい」という私の熱意が通った。まこっちゃんも最後は呆れたような表情をしながら納得してくれた。フクダ君は、ずっと笑いながら横でカメラを回していた。

⏩ 娃娃鱼(オオサンショウウオ)を食べてみた

<もどる ▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

記事が面白かったら、ぜひライターに感想をお送りください

デイリーポータルZ 感想・応援フォーム

katteyokatta_20250314.jpg

> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」が届きます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ