きれいな切り替わりの動画が撮れるまで、10テイク以上試した。
回転しすぎて、フラフラになった。
小学生の時、よく学校のコンコースでくるくる回っていた。
遠心力で腕がとれそうになって、だんだん周りの景色が線のように見えて、自分と世界が切り離れるような、あの感じを思い出した。
あの、ワープの始まりみたいな感じ。
そのあとの世界が揺れながら戻ってくる感じ。
あの不思議な体験が好きだった。
もし、街中で回っている子供を見かけたら、その自由な回転を見守ってあげたいと思う。
1日の始まりはやることが多い。
服を着替えて顔を洗ってご飯を食べて歯を磨いて支度をする。忙しい。
特に冬は、服を着替えるのが難儀である。
朝のぼーっとした頭で何を着ようか考えるのが大変だし、いざ着替えるときは寒い。
そういう煩わしさや寒さを感じずに、なおかつ簡単に着替えられたらいいと思う。
トランスフォーマーみたいに、うまいことパジャマから私服へ切り替わったらいいのに。
そんなわけで、トランスフォーム服を作ることにした。
シンデレラのボロボロの服が、魔法でドレスに変わるように、回転している間に一瞬で着替えられたら最高だ。
魔法のように着替えられる方法はないかと調べてみると、理想ははるか夢の先だった。
どうしてもパジャマの下に私服を着ていないといけないのだ。2枚も着た状態では寝にくいしパジャマとは言いがたい。
ただ、パジャマの機能がなくてよければ、一瞬で着替えられる服はなんとか作れそうだ。
ブラウスは摩擦の少なそうな生地、スカートは薄くて畳んでも膨らまないものを選んだ。
このパジャマ、毛玉がすごいので寄りの写真はお気を付けください。
トランスフォーム服のイメージはこんな感じである。
まず、パジャマとブラウスを2枚重ねて着る。
2枚の間にスカートを折り畳んで隠しておく。
上のパジャマが前と後ろに分かれて開くと、隠れていたスカートが現れるイメージだ。
まずはパジャマをひらいていく。
脇線を切り、前身頃と後ろ身頃の2つに分ける。
この時、脱ぎやすさのために袖は前身頃につけて、襟は後ろ身頃に残した。
真っ二つになったら、スナップボタンで元の形に戻していく。
両脇、後ろ腕周り、肩、襟を18個のスナップで止めて元通り!
上のパジャマがどんな感じではがれ落ちるのか試してみよう。
なんとなくスナップボタンをはずしてしまったが、ボタンを止めてから着るべきだった。
腕のつけ根後ろのスナップが特に止めにくい。今まで伸びたことのないスジが伸びる。
さて、なんとか着れた。
まずは勢いよく、イメージは斜め上前にはがしてみる。
きれいに落ちたが、袖が残っている。
はがす時の力が袖まで及ばず、筒状になっている袖は摩擦が大きいので止まってしまう。
さらに前に引っ張っているせいで後ろ身頃が背中にくっついて落ちにくい。
どちらも手で外せば簡単に脱げるのだが、もっと魔法みたいに、どうせならきれいに着替えたい。
なんというか、もっと勢いが必要だ。すばやく回転して遠心力でパジャマを振り払ったら上手くいくのではないか。
次はとにかく回ってみた。
回るのに集中しすぎてなにがなんだかわからなくなった。
袖はまだ残るが、背中のパジャマは振り払うことができた。
それと、私はフィギュアスケートをやったらスピンが上手いかもしれないと思った。
回転はキープしたまま、振り払いながら脱ぐ!と意識しながら何回か練習。
袖が難関だが、いい感じになってきた!
動画を見直すと回転の軸がブレブレで、フィギュアスケートはやっぱり向いていないなと思った。スピンしながらどっかにいってしまいそうだ。それに何回かやっていると結構目が回る。
しかし回転の力は大きい。
振り払うだけでなく、回転することで切り替わりの仕掛けがわかりにくくなり、多少手を使っても見る目を騙せるのだ。
次にパジャマをはがしたらスカートがでてくるようにしたい。
スカートとパジャマを重ね合わせ、ウエストの位置で4か所止める。
パジャマを着た時のウエスト位置と、スカートのウエスト位置をぴったり合わせれば、着た時に見た目の違和感が少ない。
前と後ろで4か所縫い合わせるのには2つの意味がある。
ひとつは、パジャマの中に隠したスカートが下に落ちないようにするため。
もう一つは、はがしたパジャマを床に落とさずにスカートの中にしまうためだ。
さらにパジャマが脱げ落ちると同時にスカートも下に落ちるように、パジャマとスカートの裾をゆとりのある糸でつなげた。
何度か試した時、スカートが落ちにくかったのでつけてみた。
先程の失敗をいかし、スナップボタンを全部止めてから着ることにした。
スカートを裏返して足を入れるとパジャマのスナップがぶちぶちと外れる感触があった。
そりゃそうか、パジャマを履くには無理がある。
スナップは苦労して止める運命だったのだ。
先ほど伸びた身体のスジをさらに伸ばして止めていく。
とにかく着にくい。
ボタンが18個もある服なんて着たことがない。
もし、今余力があれば、片腕の付け根後ろあたりに両手を持っていき、ボタンを止める仕草をしてみてほしい。変なスジが伸びます。
なんとか着れました。
隠したスカートでお腹の当たりが膨らんでいるが、冬場に着込んでいる人と思えば違和感は薄れるだろう。
さて、練習したように勢いをつけてはぎ取る。
スカートに糸が引っかかってしまったが、思ったよりもうまく変わっている。
これは楽しい!!
パジャマからスカートへの切り替わりは出来たが、スカートの裾からズボンが見えてしまう。
スカートの中にしまいたい。パジャマの裾がキュッと上がる仕組みを作ることにした。
上のパジャマの襟と下のパジャマの裾を糸で繋ぎ、はがす勢いで裾を上げてもらおう。
なんだかもう、服の中が快適とは程遠い。
マジシャンの衣装の中はこんな感じなのかもしれない。
さて、なんとかして着た。
何度も服をはがすシミュレーションをして、準備は万端。
このボロパジャマからお出かけ服に早変わり!
スムーズに切り替わることができた!
何度か試したが、きれいに変わる成功率は20%ぐらいだ。結構稀。
ズボンの裾は何回やっても上がらなかったので手動で収めることにした。
これで外出したまま家に帰れなくなっても、スカートの中にはパジャマがある。あるからどうということではないが、パジャマはあるのだ。どこでも寝れる。心強い。
切り替わる瞬間は楽しかった。
手品の技を披露するような感覚で、ワクワクする。
長時間並んでも遊園地のアトラクションが楽しいのと同じように、着るのに時間がかかっても回っているときは楽しかった。
にしても、着るまでの道のりが険しすぎた。
着るのに時間がかかる(3〜5分)上に、首の筋がピキピキ言い始める。
仕事量は普通の着替えの2倍以上だと思う。
トランスフォーム服を着るのがこんなに大変なら、もう普通に着替えよう。
それが1番楽だと気づいた。
これからは何も厭わず、ズルを考えず、普通に着替えられる。
そう思わせてくれただけで十分である。
きれいな切り替わりの動画が撮れるまで、10テイク以上試した。
回転しすぎて、フラフラになった。
小学生の時、よく学校のコンコースでくるくる回っていた。
遠心力で腕がとれそうになって、だんだん周りの景色が線のように見えて、自分と世界が切り離れるような、あの感じを思い出した。
あの、ワープの始まりみたいな感じ。
そのあとの世界が揺れながら戻ってくる感じ。
あの不思議な体験が好きだった。
もし、街中で回っている子供を見かけたら、その自由な回転を見守ってあげたいと思う。
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