特集 2020年9月22日

Amazonでカメラを買ったらペンが届いた話

なぜ、ペンが来るのか

先日、カメラを購入したら届いたのはペンだった。なぞなぞみたいな状況だ。なんの間違いか。その話をしたい。

1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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フルサイズミラーレス一眼カメラがほしくなった

僕は多少カメラを趣味にしていて、花粉症のような感じで年に1度くらいカメラやレンズが欲しくなる気持ちをわずらう時期が来る。今年もそれがやってきた。

今回欲しくなったのは安いフルサイズミラーレス一眼カメラだ。「フルサイズ」というのはカメラのセンサーサイズの規格で、ざっくり言うといい感じに撮れる。「ミラーレス一眼」というのはカメラの仕組みで、ざっくりいうと軽くて持ち運びがしやすい。

この物語には3台のカメラが登場します

はじめに買おうと思っていたのはソニーのα7というカメラの中古品で、だいたい5万円くらいで買えそうな代物だ。2013年に発売されたものなので多少型落ち感はいなめないが、まちがいなくフルサイズミラーレス一眼カメラである。

これはかしこい買い物だぞ、と思いながらしばらくはこのα7の中古市場を眺めていたのだが、こう…横目にちらりちらりと映ってくるカメラがあった。

α7の後継機、α7IIである。

α7IIはα7(初代)にはない手ブレ補正機能が追加されている。夜散歩をしながら撮影することも多いのでこの機能は必須なのではないだろうか。「手ブレ補正は必要」そう心を揺さぶってくる声がどこからかするのであった。

値段を比較してみるとα7IIは8万円。5万円のα7を買うことは決めていたので実質3万円くらいに見えてくる。カメラを買うときに突如湧いてくる「実質理論」である。

実質3万円なら買ってもいいな、と思い直し、α7IIを買うことにした。

そう思って手に入れたのが中古で10万円のα7II本体と標準ズームレンズのキットだ。いつのまにか10万円の買い物になっているが、8万円のα7IIは絶対に買うと心に決めていたので、実質2万円払ってすべてを揃えたことになる。

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こうして最終実質2万円で念願のフルサイズミラーレス一眼カメラを手に入れた。

α7IIをたずさえ嬉々として散歩に出て、こういった写真を撮った。

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市、世界から核兵器廃絶しがち。
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サザエボンの石像。
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たらちねの、みたいな感じ。
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楽しげな写真ばっかり。

楽しいカメラライフ。いい買い物をした。

……しかしである。まだ頭の片隅に残り続けるカメラがあった。

α7IIの後継機、α7IIIである。

α7IIIは多くの人が愛用している名機。α7IIより基本性能がかなりよくなっている。

しかし肝心の値段が新品で22万円、中古でも18万円程度するので、どう「実質理論」を振りかざしても高価すぎる。

謎の価格変動

さて、そんな僕には高価過ぎるα7IIIなのだが、ちょっとこちらのグラフを見ていただきたい。Amazonにおけるα7IIIの価格変動グラフである。

 

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青紫の線が新品の値段だ。ご覧の通り普段は20〜22万円程度なのだが、たまにぼこっと下がって16万5千円になっていることがあるのにお気づきだろうか。僕は気づきました。

たまにマーケットプレイス出品で、カメラが普段より5万円近く安くなっていることがあるのだ。

16万5千円でも十分に高い。しかし相対的に見るとだいぶ安くなっている。気づくと僕はこの価格変動の虜になっていた。自然とブックマークにAmazonのα7IIIのページを入れているのであった。

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すぐ見られるようにいい位置にα7IIIのブックマークを置いた

運命の日

そして8月のある日、というか忘れもしない8月10日、ついにそのときは訪れたのだ。朝なにげなくα7IIIのページを開くと……

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開くと…
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値段が16万5千円になっているではないか!

来た!

22万円の商品が16万5千円で買えるのは今しかない。α7IIを10万円で売ってからこれを買えば実質6万5千円である。6万5千円なら…と、僕はα7IIIをカートに入れ、そして購入した。

そこである考えが頭をよぎる(僕の頭は余計なことがよぎりがちだ)。

「もう1個16万5千円で売られているが、これを買って転売すれば、儲け分、実質安くなるのでは…?」

16万5千円で買ったカメラをメルカリなどで売れば手数料を引いても2〜3万円の儲けにはなりそうだ。

すると実質6万円だったものが実質3〜4万になるではないか。実質、実質…と考えること数十秒。僕はもう一度16万5千円のカメラを購入していた。名目上、計33万円である。

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2台購入してしまった……。

あまりにも待つ日々

そこからはただただ待つ日々であった。

はじめ予定到着日は8月14日となっていた。長い4日間であった。配送のステータスを見ると中国から来ることになっている。なるほど中国から来るから安いのか、と思う。

ちなみにα7IIは新しいカメラを購入した直後にメルカリで10万円程度で売ってしまった。こういうときだけ動きがはやい。

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α7IIは売ってしまった

我が家にはカメラ本体はなく、レンズだけが残っている状態だ。

それから配送状況に変化はないか、穴が空くほど配送ステータスのページをリロードした。33万円だ。思いがけない高い買い物にそわそわした気持ちが止まらない。

来ない

来ない。まず到着予定の8月14日になっても来ない。

中国から来るので10日に注文して4日で到着するはずないな、とはうすうす思いつつも、マーケットプレイス販売業者にどうなっているのかとメッセージを送る。すると返ってきたのは以下のメッセージであった。

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辛抱強くお待ち下さい…そうですか。

その後も辛抱強く待つことにした。辛いを抱くと書いて辛抱だ。思いっきり抱いてやるぞ!

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ただ待つだけなのは惜しくて、新しくやってくる僕のカメラちゃんのために防湿庫を買ってしまった。我ながら楽しみにしすぎだ。

そして相変わらず配送ステータスのページはリロードしまくる毎日。どうやら僕のカメラちゃんは広州を出発して上海に向かっているようだった。一応近づいてきてはいる。

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近づいている!(待ち遠しくて逐一スクリーンショットをとっていた)

さらに上海に到着した僕のカメラちゃんは日本に送られたようで、通関のところでぱったりとステータスが変わらなくなった。ただただ心配である。

2台買ったのは強欲だったのではないか…そもそもα7IIでよかったのではないか…。いろいろな不安がよぎる。

この曖昧なステータスのまま待つこと3日(この3日がどれだけ長かったか!)、とうとう日本郵便にカメラちゃんが渡ったようで、今度は日本郵便の配送ステータスをリロードしまくる。どうやら明日、来る!

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日本まで来た!
いったん広告です

カメラじゃない何かが来た……

待ちに待った到着当日、そわそわしながら配達員が我が家に来るのを待つ。

……そして昼ごろ玄関のチャイムが鳴り、荷物が届けられた。

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え、これ……何?

これが僕が待ち望んだもの?

持ってこられたのがこの小さな箱ひとつだったので唖然とする。とっさに配達員に「ちょっと待って下さい、これひとつだけですか!?」と訪ねてしまった。もちろんこれ一つだけであった。Twitterでよく見る表現の「ちょっと待って」を地で行ってしまった。

改めて箱を見るが、どう考えてもカメラが二台入る大きさではない。なんだこれ?と思いながら箱に貼られた伝票を見る。

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まずは伝票を見てみよう
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「PEN 筆」と書かれている。ペン?
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丁寧に値段が書かれていた。2ドル。

2ドルのペンが入っているようだ。カメラは? ともかく開けてみよう。

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開けるとそこには「MONTBLANC」と書かれた箱が一つ。MONTBLANCてあの高級ブランドのモンブランか?
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パッと見の印象は高級だが細かく見るとほころんでいたりする
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箱の方を開けると出てきたのはペンだね

カメラを買ったはずなのにペンが届くと「残念、ハズレ!」という気持ちになる。

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カメラの機能はあるのかな?と思い開けてみるもただのボールペン。カメラ機能あっても違うけどな。
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冊子の印刷の質からするに、本物に思えない。

繰り返しよくみてもペンが1本あるだけだった。実質33万円の、である。せめて2本にならなかったのか。いや、数の問題ではないのだが。

調べたところこれの偽物のようだった。

もし仮に本物であったとしても3~4万円のペンである。33万円にぜんぜん足りてない!

しかしあるのは怒りや悔しさではなく、散々待ったのに来たのはこれか、という虚脱感だ。まさに「Q.カメラを買ったらペンが届いた。これな〜んだ? A.詐欺」状態である。

自分で思っている以上に相当がっかりしていたようで、親に心配された。あんなに楽しみにしていたのに、と。ああ、楽しみにしていたさ……。

Amazonに頼る

問題はぼくのカメラはどうなったのかだ。

(たぶん)騙されたとわかると光の速さでAmazonのカスタマーセンターにチャットで問いかけた。Amazonのカスタマーセンターの人も光の速さで応じてくれて、カスタマーセンターの方から販売業者にどうなっているのかを聞いてくれるそうである。ありがたい。

 

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ありがとう、Amazon

そして数日向こうからの返事を待っている間、実質33万円のペンをいじくり回したり、伝票の味わい深さに浸ったりしていた。

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ペン……
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過去の価格グラフを見て「この16万5千円になってるところ、ぜんぶペンかな」と思ったりする。
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住所にSAITAMA KENっていっぱい書いてあるのウケるな……。
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マーケットプレイスの販売業者のプロフィールページを見たら、まだ取引の履歴がないようだった。こんな怪しいところだったなんて! そしてそれに気づかなかったなんて! ちくしょう、辛酸をなめている、べろべろとなめている!

その後、病んだようにAmazonのカスタマーセンターへしつこく進捗を確認するメールを送ったりしては「対応中ですのでもうしばらくお待ち下さい」と言われたり、無視されたりして過ごす。

何日かしてようやく向こうから返事が来た。

「返金か再送かが選べますがどうしますか?」とのことだった。

え、再送っていうオプションあるの? と僕は思った。ニセモノのペンを送ってきたヤツにカメラを送ってくれる気があるとは驚きだ。

僕は半ば「もう一回ペンが送られてきたらおもしろいな」と思いながら、「再送でお願いします」と答えた。

その後

もうちょっと長引きそうな事件だと思っていたけど、翌日「返金処理がされました」という内容の事務的なメールがAmazonから届いてこの件は終わる。結局再送はされなかった。

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なんで再送するって言ったんだ、というのが正直な気持ちだ。全体を通して販売業者は何をしたかったのかがよくわからない。泣き寝入り狙いということ? そんな人、いる?

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全部終わったので記念写真を撮った。「不用意に安いカメラなんてもうこりごりだよ」

結局α7IIIを買った、実質タダ

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それはともかく無事に33万円が戻ってきたので、そのお金でねんがんのα7IIIをてにいれた。実質タダ、ということになる。

最初は5万円の古いカメラを買おうと思ってたのに、「実質理論」に振り回されているうちにいつの間にか22万円のカメラを手に入れているのだから不思議だ。

なおこれを買った直後にα7Cという新型のカメラが発表になるのだが、それに悔しがるのはまた別のお話。

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