特集 2021年11月4日

キャビアをお茶碗いっぱい食べてみたい!

これがお茶碗いっぱいのキャビアだ。

フォアグラやトリュフと共に世界三大珍味のひとつに数えられる高級品キャビア

そんなキャビアをお茶碗いっぱい食べる。お金持ちになったら叶えたい夢のひとつだ。

それには一体いくらかかるのか。そもそもそんな事が可能なのか。国内最大級のキャビア養殖場で聞いてきた。
 

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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そもそもキャビアとは?

キャビアをお茶碗いっぱい食べてみたいと思ったものの、そもそも僕はキャビアが何なのかさえよく分かっていない。

お茶碗いっぱいどころかほとんど食べたことがないからだ。

調べてみるとキャビアとはチョウザメ(蝶鮫)という魚の卵らしい。

キャビアは外国産の印象が強いが日本国内でも作られている。国内最大級の養殖場が僕が住んでいる岡山県内にあるということで、キャビアについてお話を聞きに行くことにした。

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養殖場があるのは岡山県の北西にある新見(にいみ)

養殖場といえば海の近くにありそうだが、その予想とは裏腹に海からはるか遠く離れた中国山地の山あいにその養殖場はある。

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両サイドには切り立った山がそびえる川沿いの道を進む。

小雨がぱらつく中、岡山市内から車でおよそ2時間かけ一路、養殖場がある新見市へと向かう。

国内最大級のチョウザメ養殖場

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新見市の中心部から車で10分ほど外れた場所に蝶鮫屋MSファームがある。

新見市に到着すると雨も止み、空気がパッキリと澄んでいて驚くほどに空気がおいしい。

そしてこちらの蝶鮫屋(MSファーム)さんは国内でも最大級のチョウザメ養殖匹数をほこる養殖場だ。

実はこちらの養殖場は僕が勤めている会社の関連会社でもあるので、今回はコネで「お茶碗いっぱいのキャビア」などという無茶な相談に乗って頂くことができた(ただし会社が違うのでこれまでほとんど接点はなかったのだが…)。

なおコネが無くても普通に見学も受け付けている。

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出迎えていただいたのは広報担当の長尾さん(左)と義國(よしくに)さん(右)。

広報担当の長尾さんと、蝶鮫屋(MSファーム)さんの中でも屈指の知識をもつ養殖担当の義國さんにチョウザメについてお教えいただいた。

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今日はありがとうございます。お茶碗いっぱいのキャビアを食べたいのですが、そんなことが可能なのかや、そもそもキャビアについてもよく知らないので教えてください。

そもそもチョウザメはサメじゃない

まずはキャビアが採れる魚チョウザメについて教えていただくことにした。

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まず見学に来られる皆さんほぼほぼ100パーセントくらい勘違いされているんですが、チョウザメはサメではありません
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え?チョウザメってサメじゃないんですか?
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水槽の中を泳ぎ回るチョウザメ。サメに似ている気もするが…。
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はい。チョウザメはチョウザメ目チョウザメ科でサメとは全く違う種類です。日本人が初めて見たときにサメに似ていると思ってしまって名前を付けたのかもしれません。
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そうだったんですか。タラバガニは実はカニじゃないみたいなやつですね。(※タラバガニはヤドカリの仲間)
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チョウザメの背中にはこんな特徴的なウロコが付いている。
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またチョウザメの「チョウ」は背中のウロコが蝶々の羽に似ていることから付けられたとの説があります。
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なるほど(…あまり似てないような) 

チョウザメには歯もない

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あとサメのイメージが強すぎるせいか見学で来る方からも「噛まれないんですか?」とよく聞かれます。しかし、チョウザメには歯がありません。
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慣れた手つきで水槽から引き揚げられるチョウザメ。サメのような歯はない
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あら本当だ。歯がないですね。
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お腹の中に幽門垂という器官がありまして、そこですりつぶすので基本的にエサは丸呑みします。
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養殖場で使われているエサ。
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底を泳ぐ魚なので自然界ではエビやカニなどの甲殻類や、死んだ魚なんかもつついたりすると思います。養殖場でも沈むタイプの餌を使っています。

こちらの養殖場ではチョウザメのエサはマダイ用のエサが使われるらしい。 

チョウザメは基本的には淡水魚

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手前の池や奥の飼育用の水槽にもそれぞれチョウザメが飼育されいてる。
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しかしめちゃくちゃ広いですね。この水は全部塩水なんでしょうか?
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チョウザメは川で産まれて海に出て川に戻るような鮭みたいな種類もいますし、あとは海だけの種類もいますが、基本的には淡水魚です。ここでは川の水をそのまま引き入れているだけで、何かを加えているという訳ではないです。
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そうなんですか。
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チョウザメが池の中にウヨウヨいるが、この水も川の水がそのままだそう。
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養殖場にはいくつも池が並ぶ。なおこの場所以外にも新見市内に養殖場が点在するそうだ。
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全部で何匹くらいのチョウザメを飼育されているのですか?
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だいたい1万5千匹になりますが、多いのは0歳~2歳くらいの若魚(わかうお)です。なぜかというと、オスとメスを分ける作業をするのが3歳からですが、それまでは外見が全く一緒でオスとメスを分けられないのです。

キャビアはチョウザメの卵なので当然メスから取れるが、3歳まではキャビアが採れないオスも育てなければならないそうだ。その分コストがかさむ。

取材NGの雌雄判別とは

3歳になったチョウザメをオスとメスに判別するのが「雌雄(しゆう)判別」という作業だ。

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以前、雌雄判別の取材を受けた事があって、そこからネットニュースになったんですがめちゃくちゃ叩かれた事があります。
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え、叩かれたんですか!?
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はい。残酷だと。それからは雌雄判別の取材は断るようにしようと会社がなりました。
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あららら。(という訳で以降イメージでお送りします)
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チョウザメ雌雄判別をおこなうための手作りの器具。
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雌雄判別はチョウザメを水から出して、バンドで固定してみぞおちのあたりを5センチくらい切ります。メスには卵巣特有のシワの入り方もありますが、実際やってみると経験を積まないと見分けるのは難しいです。
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なるほど職人技なのですね。
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キャビアが高い理由としてはそういう作業を一匹一匹やっているという事も言いたいのですが、見る側にとっては残酷だなと思われるかも知れません。

雌雄判別が済んだオスは魚肉として出荷され、4歳以降は養殖場にはメスだけが残るそうだ。

チョウザメの肉とは

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そういえばチョウザメの肉ってスーパーでも見た事ないですね。
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チョウザメ肉は海外ではメジャーな食材らしいですが、マグロの身とかにもあるスジが当然チョウザメにもあって、そのままだとそれが歯に引っかかるというか…
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チョウザメの肉がこちら。綺麗な白身で臭みもない。
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ただ料理方法によってはスジが綺麗に溶けてなくなって、ふわっふわの身になるので本当に見違えるほど美味しくなります。
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おー、いいですね。食べてみたい。

想像以上に迫力があるキャビアの採卵

雌雄判別によって残されたメスのチョウザメは毎日体調管理しながら大切に育てられ、6歳~10歳になるとキャビアを採卵できるサイズに成長する。

ここから通常の見学では公開されていないチョウザメの採卵工程を見せてもらう。

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服を着替えて作業スタート。この作業は通常3人以上で行うらしい。

養殖場から少し離れた別の施設に採卵用の部屋があり、その中でキャビアが採り出される。

皆さんがしきりに「グロいですよ」と言って気を遣ってくださるが、僕は魚屋さんやお寿司屋さんで魚をさばく場面は見たことがあったし、それを見ても一度もグロいと感じたことはない。大した事ないだろうと高を括っていた。

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血抜きされた状態のチョウザメが運ばれている。

台の上には血抜きされたチョウザメがセットされている。

キャビアが採れるまでに成長したチョウザメは目の前にするとすごく大きく、1メートル近くありそう。存在感も凄い。

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3人がかりで。1人が押さえて1人が卵の塊を取り出しもう1人が卵を受け取る。

いざお腹を開く場面になるとグロいとまでは感じないものの、魚屋さんやお寿司やさんで魚をさばく場面より迫力が凄い

サイズが大きいからか、餌をあげて育てている所を見たせいかもしれない。ちょっと可哀そうでもある。

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チョウザメのお腹の中からキャビアが。

慣れた手つきでチョウザメのお腹を開くと、中からキャビアが現れる。結構びっしり。

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取り出されたキャビアがこちら。

息の合ったコンビネーションでキャビアが取りだされる。一匹のチョウザメからわずかに700グラムほどしか取れないのだ。 

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採取したキャビアは手作業でほぐしていく。

ここで手袋を交換し、キャビアをほぐす工程に移る。

網の上でくるくると円を描くようにキャビアを動かすとほぐれて下の容器に落ちる仕組みだ。

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ほぐしたキャビアを洗浄しながら、手作業で不純物を取り除いていく。

ほぐれたキャビアは洗浄しながら、ピンセットで不純物を取り除いていく。この作業がもう本当に3人がかりで延々と続くのだ。かなり根気の必要な作業だ。

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岩塩を混ぜて味を調える。

そうして不純物を取り除いたキャビアに岩塩を混ぜて味を調えていく。

海水から作った塩だとミネラルの作用でキャビアにえぐみが出てしまうらしく、岩塩が最も相性が良いとのこと。

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キャビアを今度はビンに詰める作業。

味を調えたら、キャビアをひとつづつ専用のビンに入れていく。この後は急速冷凍して完成だ。

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完成品のキャビア。

海外産のキャビアは保存のために10パーセント前後の塩分を加えたり加熱殺菌することが多いが、こちらの養殖場では衛生管理を徹底して塩分は3.5パーセントから5パーセントに抑え、加熱をしていない生のキャビアを提供している。

お茶碗いっぱいのキャビアは22万円  

さて、こうして作られた貴重なキャビアをお茶碗によそってもらった。 

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じゃん!お茶碗いっぱいのキャビアがこちら。

お茶碗には白いごはんという印象が強いのでとにかく黒い

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お茶碗の重さ198グラムを含みます。

こんなに大量にあるにもかかわらず、ひとつぶひとつぶがはっきりと際立って見える。すごく綺麗だ。なんだか神々しい感じさえする。

なお、お茶碗いっぱいのキャビアは重さにして約260グラムだった。普通のお茶碗のごはんは150グラムくらいなので、キャビアはごはんよりずいぶん重い。

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これはすごい!キャビアってキラキラしてますね。ちなみに、お茶碗いっぱいではおいくらになるのでしょうか。
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グラム単価を掛けますと大体ですけど22万円です。
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に、22万円!!やっぱり高い!予算の関係でいただくことはできなさそうです。
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でも実際ここまで食べてしまうとお腹をこわしてしまうと思います。生の魚卵ですし。僕らも試食しますけど、もう食べられないってなってしまいます。
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そうですか。やっぱりキャビアは少し食べるのが良いという事で。

700円分の試食をさせていただく

お茶碗いっぱいのキャビアは断念し、700円分の試食をさせていただく事にした。 

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ここからご案内いただくのはこちらの養殖場で施設の管理をしている飯田さん

なお飯田さんはさきほどのキャビアの採卵の時にもいらっしゃった。

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700円分だとこれくらいだ。

お茶碗いっぱいのキャビアを見た後だと随分少なく感じるが、むしろこれくらいのほうが安心する。少量でもやっぱりひとつぶひとつぶがキラキラしている。

金属製スプーンだとキャビアの味を邪魔してしまうということで、白蝶貝(真珠が取れる貝)のスプーンを使わせてもらう。

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(キャビアを試食して)味がしっかりしてすごく濃厚ですね。でももっとプチプチしているのかと思いましたが、トロッとしています。粒感はほとんどなくてタレみたいです。
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そうですね。キャビアは加熱をするとプチプチといった食感になります。外国製のキャビアはどうしても保存のために加熱をしたり塩分も多く加えているものが多いので、キャビアといえばプチプチとした塩辛いイメージがあります。
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そうか、こちらのキャビアは生だから。
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そうです。その食感がチョウザメの卵の本来の食感です。食べてもらうと皆さんびっくりされるということはありますね。
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なるほど。ところでキャビアってイマイチどうやって食べたら良いのかよく分からないのですが、飯田さんのおすすめの食べ方はありますか?
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キャビアは玉子とかなり相性が良いので、半熟玉子を食べる時に塩とか醤油をつけると思うのですが、その塩や醤油の代わりにキャビアです。それが一番美味しかったです。
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塩や醤油の代わりにキャビアとはなんとも贅沢!でも玉子と相性がいいんですね。そういえば玉子かけご飯にキャビアが合うって聞いたこともあるような。

チョウザメの供養もしている

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そういえば、もしかしてこちら↓はチョウザメの供養塔ですか。
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試食場所のすぐ近くにある供養塔。お花も供えてある。
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そうです。年に1回なんですが、だいたい3月くらいに近くのお寺の和尚さんに来ていただいて、御神酒ですとかお米やエサをお供えしてみんなで供養しております。
 

いろいろと見学して、生き物をいただくことについて真面目な気持ちになる部分もあった。

チョウザメへの感謝の気持ちが湧く。最後に供養塔を見て救われたのは勝手だろうか。


ということで、キャビアが何かもよく分からないままお茶碗いっぱいのキャビアを求めて来たが、チョウザメについて超勉強になった。

お茶碗いっぱいは無理でもたまにはキャビアが買える身分になりたい。

取材協力
蝶鮫屋(MSファーム)(WEBサイト

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キャビアとチョウザメのギフトセット予約受付中とのことです!

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