読んだよ 2026年10月22日

ちからたろうを1000回読んで悟った教訓とは~すごい疾走感で語られる文章術「俺の文章修行(町田康・著)」

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライター伊藤さん。レコメンドは「俺の文章修行(町田康・著)」。

聞き手は石井、んちゅたぐい、りばすと、石川です。

では伊藤さん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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伊藤: 
町田康さんはご存じの方も多いと思いますけど、町田町蔵っていう名前でパンクバンドをずっとやってて、2000年に芥川賞をとって、ものすごい文体で独自の世界を突っ走ってきた方。
僕は小説の大ファンだったんですけども、そんな作家が文章修行法の本を書いたんです。これはすごい、と思って読んだら、やっぱりこう……爆発してるな!と思ったので紹介したい。

石井:
爆発している、っていうのは文体が?

伊藤:
はい。最近だと古典の『義経記』だとか、『古事記』だとかをその町田文体で表現した作品もあったりするんですが、めちゃめちゃ疾走感だらけの文体で突っ走りながら、人の哀しさも描かれていて、そういう作家が書いた文章読本なんです。

もちろん文章のコツは書いてあるんだけど、もうこれ自体が作品になってるんですよね。

 

石井:
なにを修行しようとしてるんですか?

伊藤:
まずは「文章力を身につけるにはどうしたらいいでしょうか」とよく聞かれるけど、その問いに答える。

石川:
指南本なんだ。

伊藤:
そうそう。
「文章力をつけたい」には「結局、本を読むしかない」っていう回答なんですけど、「本は何だっていいけど、たくさん読めばいいわけじゃない」「自分が難しいと思う本を何回も繰り返して読め」と。「俺は『ちからたろう』を1000回読んだ」とある。

石井:
(目次を見て)『ちからたろう』で2章ありますもんね(笑)

んちゅたぐい:
めちゃくちゃちからたろうが大事なことを教えてくれる。

伊藤:
書き方もすごくて。

ときおり、「文章力を身につけるためにはどうしたらいいでしょうか。教えろ、あほんだら」と言われることがある。そんなときは大体「存ぜぬ」と言って横を向き、河豚(ふぐ)のような顔をする。しかしそれでも猶しつこく、「教えると自分の商売敵が増えるからイヤなのか。ケチケチしないで教えろや、おっさん」と言い、刃物をちらつかせてくるから仕方がない

(p6より)

悪口がとにかくすごい(笑)

りばすと:
すごいなこれ。

伊藤:
もうちょっと読むと、「相手が弱そうな場合は半殺しにする。相手が強そうな場合は、『わかりました、私ちょっと覆面買いに行ってきます』と言ってその場を立ち去るようにしている。どちらにしても気分の良いことではない。」

石井:
ここまでずっと「教える・教えない」の問答だけがずっと書かれてるわけですね(笑)

伊藤:
でもここで、「文章を書く」ということの根幹となる大事なことが書かれていて、文章力をつけるには本を読まなければいけないとした上で「口より発せられた言葉を耳で聞いて字に変換する、変換プロセッサ」のようなものが必要で、これが文章力の本然であり、これを構築するために1冊の本を繰り返し何度も読む、とあるんですね。

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力太郎を読みまくって

伊藤:
全体はすごく大ざっぱに言うと、「読み方」、「書き方」の順に論じられていきます。さっきの力太郎の話に戻るんですけど、「ちから太郎を1000回読みがら自分が悟ったことがある」と言っていて。

石井:
ちから太郎って垢で子供を作る話ですよね?

伊藤:
そうです。「生まれは貧乏だがむっさ強いやつが、中途半端に強いヤンキーみたいな奴をしばいて家来にし、そいつらと一緒に化け物をしばいて、長者の娘と結婚して富と権力をゲットするというラップみたいな話なんだけど、私は『力』の信仰者になった」

と。

石井:
映画も、1本見終えると「この映画って主題は『子供は大事にしよう』ってことだったんだな」みたいな、意外にシンプルだったりするじゃないですか。そこに表現とかが加わることによって作品になっていくところはありますよね。

伊藤:
ここからがすごくて、町田康は幼き頃にちから太郎を読みまくって解像度を上げまくっているんですね。「この世には貧しい者と富む者がいる。この世は力がものを言い、最終的に善は悪を滅ぼす」というようなことがわかる。
さらにそこからまた別の教訓を得るんです。「この世には理解できないことがある。決して今は理解できないかもしれないが、そのうち理解できるようになるかもしれない」という。

石井:
なるほどね。

伊藤:
その理解できないことの言い様も面白くて、

なぜ貧乏な人間の最後の希望が風呂に入ることなのかがわからない。そして垢で人形を作ろう、と考え、それを可愛いと思う思想と感情がファンタジーとして理解できなかった。その人形がまるで生きた人間のように飯を食い、やがて口をきき、金棒を振り回すということはファンタジーとして理解可能であったし、主人公には勝ってほしい、と願う心が読者にあるから、ムチャクチャに強いところは痛快に感じ、その世界観にも共感したが、子供ながらにそれについて何の説明もないのはおかしいと感じ、やはり一部には理解できないと思う気持ちがあった。さらに御堂太郎、石子太郎のやっていることはまったく理解できなかった。(中略)けれども、同じ本を読んだはずの旧友たちがそれを疑問に思い追求することはなかった。
(p35,36より)

 

伊藤:
で、この教訓が変換プロセッサーと結びつくんです。


「自分には理解できないこともある。だが焦ってはならない。焦って騒ぎ立ててもならないし、早く知ろうとしてこれを追求してもならない。何しろ自分は幼く無知だから、今はわからないのが当たり前。今後心身が成長すればいずれわからぬこともわかるようになるだろうと考えたのである。という教訓が俺の変換プロセッサーの基本項目に組み込まれて、いろんな方面に作動し続けている」

自分でも説明がつかないことを書きたいと思い、そちらに向けて言葉がジワジワはみ出していく傾向、つまりこの読書体験で変換プロセッサーの基本設計がなされたということなんですね。

石川:
何の話なんだろうと思ってたら、ちゃんと文章を書く話にたどり着いた!

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「文章のいけず」

伊藤:
「書き方」についてはかなり多くが割かれているんですけど、言葉を文章に変換するプロセッサーは読書によって構築されるものの、どう出力されるかを完全にコントロールすることはできなくて、それをなんとかして制御して、精度を上げて言葉にしていくプロセスが技巧とともにすごく丁寧に綴られています。

いろいろあるんですが到底紹介しきれないので断片をざざっといくと……

意味を伝える実用的(格闘技的)な文章な文章とおもしろみを伝える快楽的(プロレス的)文章があって、その違いは「迂回」のあるなしだと。
その「迂回」のさせかたのひとつに「いけず」という技巧があって、人としての誠実を突き詰めて語るとミステリー小説なんかは
「女が死んでいた」「犯人はフナコシであった、以上」と2行で終わってしまう。純文学にいたっては1行(笑)。

そこをいけず(意地悪)してじらしていくわけなんですけど、では文章表現上でそれをやっていくにはどんな手法があるのか?という「いけず」の具体的な技巧がふんだんに語られていきます。
「技を百もおぼえたところで弱い奴は弱い」といったドキッとする記述もありますが......。

りばすと:
ちゃんとしたアドバイスだ。勉強になりそう。

伊藤:
アドバイスとしても役立つし、解説する文章の表現がいちいちすごくて、それ自体を楽しむことができます。

石井:
一本の作品として読むこともできるし、文章術指南でもある。

伊藤:
そうです、そうです。

りばすと:
それこそ最初の教える・教えないの話自体も「いけず」であって、プロレス的な話につながる……。

石井:
2行で終わる話をね(笑)

んちゅたぐい:
自分で示しているんですね、最初から。

 

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文章を書く人へ

伊藤:
他にも、純文学ってグチグチ言うための文学だから、言っていることって「あいつが出世してムカつく」とか「いい女と付き合いたい」とかでしかない……とか、パンチラインの雨あられです。

石井:
風景描写とかも「綺麗な森があった」で済ましていいものを、言葉を重ねて確かにグチグチ言っている。

伊藤:
そうなんですよ。
2025年の1月刊で、けっこう最近の本なんです。読み物として最高なんですが、特に文章を書かれる方とかは読んでみると面白いのではないかと思います。

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