特集 2023年11月17日

そろそろ学んでおきたい、盆栽の楽しみ方

枝振りと根っこも見逃せない

実は盆栽を下から見上げている途中で、しれっと館内から中庭の庭園に移動していたのはお気づきだろうか。

この庭園には多くの盆栽が展示されているんだけど、その中にはとんでもない名木も展示されているのだ。

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順路に沿って展示ホールを出ると、盆栽がずらりと並んだ庭園へ。
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館内は基本的に写真NGだけど、庭園は自由に撮影できるのが嬉しい。

田口「例えばこちらは安倍元首相のお祖父さんである、岸信介氏が愛蔵していた盆栽なんですが…」

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岸信介が愛蔵していたイワシデの名木。他にも吉田茂など政財界の大物の盆栽があちこちに。

樹齢150年のイワシデは、ドン!と音がしそうなほどに力強い幹や、立派な枝の広がり、そして根っこの立派さなど、素人が見たって「なるほど名木ってこういうやつかー」と納得させられてしまう風格がある。

下から見ると巨木の迫力があるのはもちろん、真横からでは分からない枝の張り具合なんかも楽しめて、これはずっと見てられる。見てられる力(みてられるりょく)がめちゃくちゃ高いぞ。

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日本盆栽協会によって後世に残すべき「貴重盆栽」として登録された、いわば盆栽界の国宝。

田口「枝も見事ですよね。これから冬になって落葉すると枝振りがあらわになって、さらに面白いです」

盆栽は大きく分けて、常緑針葉樹である松と真柏(しんぱく)の「松柏盆栽」と、それ以外の落葉樹の「雑木盆栽」の二つがある。

松柏は四季を通して葉があるので姿が変わらないが、このイワシデなどの雑木は、紅葉や落葉するのも楽しみに含まれているのだ。

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一年を通して変わらず青々とした姿が楽しめる真柏の盆栽。こちらは「武甲」と名付けられた樹齢350年の名木。
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紅葉してそろそろ葉が落ちつつあるヤマコウバシ。だいぶ枝振りが見えている。

田口「実際、盆栽の大きな展覧会は多くが冬に開催されるんですが、それは落葉して枝振りが直接見られるようになるからでして」

葉が付いていると良く分からない枝振りがはっきり見えるので、職人がどういう意図でこの盆栽を育てたかというのが分かるんだそうだ。

“枝オンリー”というのはさすがにだいぶ玄人好みな感はあるけど、でもモミジの盆栽が紅葉するのなんかは相当に楽しめるのでは。

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端の方からじわっと紅葉してきたモミジ。これが真っ赤に染まったら、そりゃ美しかろう。

田口「モミジといえば、この根っこも見どころなんですよ」

言われてみれば、下の方に根っこだか木の展示ベースだか分からないような立派なものが広がっている。

これは「盤根」と呼ばれるもので、自然界だと岩の上に落ちた種がそのまま根付いて広がっていく様子を模したものだとか。

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絡まって盛り上がった根が癒着して甲羅状に広がったものが、盤根と呼ばれる。

田口「モミジやカエデは浅い鉢で長年育てていくと、根が大きくなる過程で絡まり合って癒着してこういう形になっていきます。あとは少しずつ土を剥がして露出させて、柔らかい根っこの表面を樹皮化させていくんです」

ううむ、そういった技術でイメージした通りの盆栽を育てて形にしていくの、大変だけど楽しそうだな。

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盆栽はとんでもない手間と技術で作られている

盆栽の技術といえば……と、田口さんが立派なケヤキの盆栽の前で立ち止まる。

田口「葉っぱの大きさをよく見てください。ケヤキって本来もっと葉が大きいですよね」

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ケヤキの盆栽、全体的にミニチュアサイズなので気にならなかったけど…
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言われてみれば確かに、葉っぱのサイズおかしいな?

幹や枝がミニチュアサイズだから違和感が全くなかったけど、確かにケヤキの葉っぱってもっと一枚一枚がしっかり大きいはず。なんで小さい幹や枝とスケールが合ってるの?

田口「これは“葉刈り”といいまして、葉っぱを半分以上切っちゃってます」

きだて「切ってる!? あ、ほんとだ!」

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目を近付けてみると、本当に葉が一枚一枚半分にカットされている。マジか!

田口「枝の先に生長点があるので、それを切り落とすことで次に出てくる葉を小さくしています。そうすると奥の方までしっかりと日の光も届くようになるんですよ」

きだて「葉っぱもそうなんですけど、そもそも葉が出てる枝も小さくて細いじゃないですか。これはなにかそういう特殊な品種なんですか?」

田口「これもやり方があって、“芽摘み”というんですが…」

仕組みとしては、まず春先の枝に一番芽が出て葉が2枚開く。で、次の芽はその2枚の葉の間に出るんだけど、それを摘んでしまうのだ。

するとその葉の間からはもう芽が出なくなり、代わりに近くから別の芽を出して葉を開く。その間から出た芽も摘むと、またその隣から葉を……というのを延々と繰り返す。

そのように大量に枝分かれさせることで、本来の枝が太く伸びる勢いを減らし、細い枝と小さな葉に分散させていく技術なんだとか。

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葉と葉の間に出た芽を摘み取る、を繰り返すことで枝葉がどんどん小さく細くなっていく。誰が発見したんだこの技術。
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下から見ると葉と幹・枝のスケール感がドンピシャで、大きなケヤキの木陰にいる気分。

この葉刈りと芽摘みを春〜初秋まで延々とやらなきゃいけないらしく、そう聞くと、この立派な盆栽はどれほど手間かけて育てられたのか、とおののくばかりである。

うーん、すごい盆栽は当然ながらかけられた手間もすごいのだ。

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迫力のジンとシャリ

ここまで主に雑木を見てきたが、とはいえ僕らのイメージするザ・盆栽と言えば松柏(松と真柏)だろう。

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松柏盆栽の代表格、推定樹齢1,000年のエゾマツ「轟」

そしてなにより松柏盆栽の見どころといえば、ジンとシャリである。

さぁまた知らない言葉が出てきたぞ。

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うねん、と反り返った白い部分。幹が枯れて白骨化したのがシャリ。

田口「ジンとシャリ(神・舎利)というのは、大雑把に言うと枝や幹が朽ち枯れて白骨化した状態のことを指します。枝が枯れたのがジンで、幹が枯れたのがシャリです」

茶色い幹や枝、緑の葉に白いジンとシャリが加わることで色彩が増えるし、自然の彫刻とも言える造形美と死んで白骨化したシャリと生き生きとした葉が対比的で、見応えが増す。また、古木っぽい風格が出るのも良いとのこと。

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「うず潮」と名付けられた五葉松の盆栽。なにがうず潮かと言うと…
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うねうねとしたシャリの部分が、まさにうず潮!

自然界だと強風や落雷で枝が折れたり、日照りによる乾燥で幹が裂けた部分が死んでシャリになるんだけど、盆栽はもちろん人間がその状況を作ることもある。

幹の樹皮を彫刻刀で削ったり(シャリ化専用の刃物もあるらしい)して強制的にシャリ化させるのだ。

とはいえ生きた木をダイレクトに削ったり皮を剥ぐわけで、少し場所がずれるだけでも木全体がダメージを受けることがあるのだとか。その見極め、かなり高度っぽいぞ。

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ジンとシャリが全体に広がっている真柏。動きがすさまじくダイナミック。
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うねったジンとシャリを「神奈川沖浪裏」の白波に見立てて、ついた銘が「北斎」。かっこいい。

それでもジン・シャリは超格好いいので、いずれ自分で盆栽育てるようになったら、絶対にチャレンジしてみたいところではある。

正直なところ、盆栽のすごい技術をあれこれ教えてもらったがために、逆にやや尻込みしちゃってる部分も無くはないんだけど……ひとまず盆栽を見るのはかなりハマりそうなので、盆栽美術館の年パスは買おう。

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現在、週末と祝日の夜に開催中の盆栽ライトアップ。
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ライトで陰影が強調されて、化け物じみた妖しさすら感じさせる盆栽。

ちなみに期間限定で12月10日までの金・土・日・祝日には庭園の夜間ライトアップをしているので、照明で陰影を増した激シブ盆栽や、盆栽プロジェクションマッピング(大ぶりな盆栽に動画を投影)を見に行くの、おすすめです。


実は観葉植物のポトスすら枯らすほどの“ドブ色の指”を持つ僕なんだけど、やっぱり見た後は買っちゃうよね、盆栽。今度こそなんとか育てたい。

美術館の裏手に大宮盆栽協同組合の販売所があって、まだ生長しきってない苗木的なやつなら2,000円ぐらいから売ってるので、みんなも始めようぜ盆栽。

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ヒノキの寄せ植えを購入。さあここから名木に育てるぜ。
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