ジャンクカメラには時代ごとのドラマがあった
というわけで、1台のジャンクカメラが我が家にやってきた。残念ながら動きはしないが、インテリアとしても十分かっこいいのだ。
スマホで高解像度の写真が簡単に撮れる昨今だが、ジャンクカメラには時代ごとのドラマがあった。しかし、今井田さんは残りのカメラをどうするのだろうか。それについては聞き忘れた。
【取材協力】
知人の女性が「ついカッとなって」ネットオークションで140点のジャンクカメラを落札したという。なんだ、それは…。
自宅に届いた大量のカメラと部品を見て彼女は思った。「下着泥棒から押収した下着みたいに全部並べたい」と。それはイベントとして実現した。どんな光景なのか。見学に行かざるを得ない。
首謀者は今井田彩那さん(36歳)。フリーランスでPRやマーケティングの仕事をしている。
出品していたのは専門業者で、「140点まとめて」というのが販売条件。写真に写っているのは一部だという。コトの経緯を取材したい旨を伝えると「イベントを開催することになったので、ぜひ取材に来てください」という返信。
10月4日(金)。取材班は高円寺のトークライブハウス「パンディット」にいた。
会場に入るとカメラ好きたちが熱く語り合っている。酒を飲みながら掘り出し物がないかを探すイベントだという。
さて、今井田さんはゲストとして2人のカメラ店店員を招いていた。
いずれも23歳。現役の店員なので、本名や店舗名は明かしたくないそうだ。
今井田さんが着ているTシャツには2011年に発売されて話題を呼んだ富士フィルムの「FinePix X100」。
気になる落札金額は送料込みで4万円ほど。「140で割ったら1点300円も行かへんやん」というのが思い切って落札した理由だ。こうして、ジャンクカメラたちは9月初旬に今井田さんの自宅に届いた。
「でっかい段ボール3箱に入っていて、とても持ち上げられないサイズと重さ。しょうがないから7箱に小分けしました」
開封および陳列の儀式が始まった。来場者も手伝っている。
なお、来場者はドリンクやフードを注文した数だけ、好きなジャンクカメラを持ち帰ることができる。
注文のたびに「ちゃんと140枚用意しました」という引換券が渡されるのだ。
並べている最中もカメラ好きたちの手は止まりがち。発見や感動が多すぎるのだ。
「おいおい、フィルムが入ってるカメラがあったよ!」
「このポラロイド、状態がいいから撮影できるんじゃない?」
中には「2015 10/5」と書かれた付箋付きのものも。
カメラの知識はまったくないが、ジャンクカメラたちはフォルムがかっこいい。そこへ、馬込さんが声をかけてきた。
「二眼レフカメラは、ちょっと独特な匂いがするんですよね」
真のカメラ好きは、やはり一般人とは違う視点を持っている。
今井田さんは高校時代に写真部に所属していた。その頃使っていたカメラは写真だけ残っている。
「型番とかは忘れちゃいましたが、ダメ元でこの写真をTwitterに載せたらフォロワーさんが特定してくれたんです」
正解は「マミヤ ZE-2 クオーツ」。1980年に発売された35mm判一眼レフカメラだ。
同じく、高校時代から使っていたロモグラフィーの「フィッシュアイ No. 2」はまだ手元に残っている。170°の視界で魚眼写真が撮れるモデルだ。
右は『大人の科学マガジン』の工作キットで組み立てた二眼レフ。カメラの分解・清掃を始めるきっかけになったカメラだという。
「『カメラ女子』が流行った頃に一度熱は冷めましたが、仕事で撮影するようになってやっぱり面白いなと」
さらに、マウントアダプターを使えば昔のフィルムカメラのレンズをデジカメに装着できることを知って、ジャンクカメラの世界にも興味を向けるようになった。
1時間ほど経っただろうか。ついに、全アイテムの陳列が終了。
今井田さんも興奮気味。
「最初は1人で並べて記念写真を撮ろうと思っていたんですが、パンディットの店長さんに相談したら『なんでそんな面白いことを1人でやるの?』と言われて。皆さんのおかげで夢が叶いました」
満を持して今井田さんとゲスト2人によるトークショーが始まった。まず、「ジャンクの定義とは?」という深遠なテーマが飛び出す。
中1の時に初めてジャンクカメラを買って「いじってたら直った」という馬込さんが即答した。
「直るものと思って買うのがジャンクでしょう」
Kさんは「小学校の卒業旅行にカシオのEX-10を持っていって金閣寺とかを撮った。きれいな写真を家族に見せたかったんです」と思い出トーク。
ここで、今井田さんから「引換券の数だけお持ち帰りくださいね」とアナウンス。
せっかくなので、3人のオススメを聞きたい。まずは、馬込さんから。
「たくさんあるから迷いますが、強いて挙げればこの『フジカ GE』でしょうか。このサイズなのに写りが非常にいいんですよ」
続いて、Kさん。
「『リコーフレックスTLS』に付いていた、このレンズが好きなんです。昔のレンズは滲んで写りますが、これは描写性能が高い」
「あと、上からも横からも覗けるんです。こんな機能が標準装備されているカメラは他に見たことない」
ラストは今井田さん。
「私はこの引き伸ばしレンズかな。昔のフィルムカメラで撮った写真を大判で引き伸ばしたい時に使われてたレンズです。今のデジカメに着けるのはちょっと面倒だし、扱いも難しいけど、個性的な写真が撮れます」
さて、色々とオススメされたが話が高度すぎるので僕はフォルムで決めてしまおう。選んだのは「キヤノン FX」。
馬込さんに見せると「CdSの露出計を初めて搭載したモデルの廉価版です。今ちょっと話題になっている『ぐるぐるボケ』も出しやすいですよ」。
というわけで、1台のジャンクカメラが我が家にやってきた。残念ながら動きはしないが、インテリアとしても十分かっこいいのだ。
スマホで高解像度の写真が簡単に撮れる昨今だが、ジャンクカメラには時代ごとのドラマがあった。しかし、今井田さんは残りのカメラをどうするのだろうか。それについては聞き忘れた。
【取材協力】
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