デジタルリマスター 2022年9月13日

大阪湾のアーチ型水門(デジタルリマスター)

街中に忽然と現れる巨大水門

大阪湾には、高潮から街を守る防潮水門が数多く設置されています。

その中には、日本でここだけにしかない巨大なアーチ型の水門が3門もあって、全国の水門好きが羨望の眼差しを送っています。

水辺の構造物好きとしては外せない物件。前から見てみたいと思っていたので、大阪で用事があったついでに時間を作って、3門とも見てまわってきました。

2008年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して再掲載しました。

1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:アメッシュでゲリラ豪雨を追う!(デジタルリマスター)

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大阪都心の超ローカル線

まずは、難波や道頓堀の繁華街、いわゆる「ミナミ」から1kmくらいの場所にある南海電鉄の汐見橋駅へ。そこから電車に乗って2駅の木津川駅で降りて少し歩いたところにある木津川水門に向かいます。

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すごく旅情をかき立てられる光景ですが

大阪にはほとんど来たことがないので、地理とか地名とか鉄道路線などについて僕はまったく無知でした。繁華街にある私鉄のターミナルを想像していた汐見橋駅は、目の前を通る都市高速やすぐ近くで賑わう地下鉄駅の周辺とは裏腹に、小さくて薄暗い駅舎にホームが1本だけ設置され、そこに2両編成の電車がぽつんと停まっているという、何とも不思議な雰囲気。

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ここでもまだ道頓堀から直線距離で2kmくらいです

ちょうど発車ベルが鳴っていて汐見橋駅の写真を撮る時間がなかったのですが、僕のほかに乗客のいない電車に乗ってたどり着いた、水門最寄りの木津川駅も似た雰囲気で、利用者の気配がほとんど感じられない、不条理ドラマにでも出てきそうな小さな駅でした。

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ダイヤは1時間に2本!

駅前通りには人影どころか商店の1軒もなく、この日はうだるような猛暑だったこともあって、なんだかおかしな夢を見ているような気分になってきました。

自動販売機で冷たい飲み物を買って一服。気を取り直して水門へ向かいます。

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何もない駅前の通り

木津川水門

小さな町工場や倉庫などが建ち並ぶ細い道を少し歩いて行くと、先のほうに巨大なアーチがそびえ建っているのが見えてきました。

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かっこいい工場の壁
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見えてきた!

想像していたよりでかい!

早足でさらに近づくと、道の片側の建物が途切れて木津川が現れ、目の前に巨大な金属製のアーチが鎮座していました。これが木津川水門です。

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ほかのものに例えようがないくらい独特の形状

上に向かって大きくアーチを描きながら向こう岸まで架かっている巨大な構造物。 

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このあたりの「動かす仕組み」が気になる

台風などで海面が上昇する恐れのあるときに、この緑色のアーチ部分が手前方向に90度倒れて川を塞ぎ、海からの逆流を防ぐことで堤防の低い川沿いの街を高潮から守るという仕組みなのですが、そんな用途や構造をあらかじめ知っている僕が見ても、目の前の巨大なマシンが実際にどう動くのかまったく想像がつきません。

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真横から見るともはや何だか分からない

何も知らない人が初めて見たら、いったい何だと思うのか、すごく興味が湧きました。

しばらくのあいだ真横からじっくり観察しましたが、どこか全景が眺められる場所がないかとあたりを見回すと、水門の少し上流に国道43号線の橋が架かっています。あの歩道からなら良く見えるはず、と思って行ってみることにしました。

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画面奥が大阪湾でアーチは手前に倒れる

防潮水門にアーチ型が採用されたのは、一般的な水門で使われているローラーゲートでは通すことができない大きさの船も通るため、という理由と思われます。

そして、日本中でこの形式の水門が採用されているのはこのエリアだけのようです。ちなみに完成は3水門とも1970年。大阪万博に人々が押し寄せる傍らでこんなすごいモノも造られていたわけです。僕なら間違いなくこっちのパビリオンをめぐるな。

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確かにかなり大きな船も通れそう

また、右側のほうのつけ根にある看板をアップにすると、次回の水門閉鎖の日の予告がありました。後で調べると年間のスケジュールが決められていて、月に平均で1~2回は試験運転を行なっているようです。そんなに頻繁にこの水門が動くとは、すばらしいファンサービス!

というのはもちろん冗談で、それだけこの水門の運用が防災において重要だということでしょう。

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これはファンサービスの一環でしょうか(なわけない)

それでは、そろそろ次の水門に向かうことにします。

ちなみに、アーチ型水門はすべて国道43号線がそれぞれの川を渡っているすぐ下流に造られているので、この歩道をずっと歩いて行けば残りの2つの水門も見られるわけなのですが、時間もないので近くの環状線の駅から電車に乗って、次の目的地である安治川水門近くの弁天町駅に向かいます。

安治川水門

大阪環状線を弁天町駅で降り、ここから歩いて10分くらいの安治川水門を目指します。

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弁天町駅

駅前にはオレンジ色のディーゼル機関車が2輌展示されていました。そうか、この駅には関西版の鉄道博物館と言える「交通科学博物館」が併設されているのでした。こちらもぜひ行ってみたいですが、今日は水門が優先のため我慢。でもいつか「いま、あえて交通科学博物館」という取材をしてみたいと思っています。

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いつかこっちも取材したい

駅前を通る国道43号線沿いに歩き、さっきの木津川水門と同じように安治川に架かる橋の上の歩道に立つと、すぐ目の前に赤いアーチの水門が建っていました。

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川の出口で守りを固める

最初に見た木津川水門と形や大きさがよく似ていると思いますが、それもそのはず、このあとに行く尻無川水門も含めて、高さや幅といったスペックはほぼ同一。細かく見れば管理棟の位置や形状、アーチ型水門の脇に設置された副水門の位置などに若干の違いは見られますが、完成時期もほぼ同じこの3水門は、例えるなら兄弟というより三つ子の関係にあるようです。

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水門に隣接した管理棟
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副水門側は船の航行禁止

橋を降りて水門のすぐ脇に行ってみると、周囲は倉庫や資材置場が並ぶ典型的な港湾部といった様相。

路肩に捨てられたタイヤのないクルマが、軽いノリで立ち寄る者を一喝するような迫力を醸し出しています。

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「大切に」とか言わなくても普通太刀打ちできない
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「ここはお前の来るところではない、去れ!」

しかし安治川水門は、逆光に照らされて非常にソリッドなシルエットを浮かび上がらせていました。かっこいい!

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逆光でもこんなにかっこいい
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尻無川水門

安治川水門を後にし、3つの水門を結んでいる国道43号線の歩道を南下。およそ30分ほど歩くと、最後の目的地である尻無川水門のある尻無川にぶつかります。

ここも前の2つと同様、国道の橋に登ると水門が正面に見えます。尻無川水門は濃いブルーに塗られて、なんだかクールな印象。

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クールなブルーが夕空に映える

せっかくなので写真を並べて、3水門の同じところ、違うところを見てみることにします。

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上:木津川水門、中:安治川水門、下:尻無川水門
名前 水門の色 タワーの色 管理棟の位置 副水門の位置
木津川水門 グリーン ライム 右岸 右岸
安治川水門 レッド ベージュ 左岸 右岸
尻無川水門 ブルー スカイブルー 左岸 左岸

とまあ、見事に三者三様の結果となりました。でも、基本的なパーツはまったく一緒。外見はそっくりだけど、実はそれぞれの個性を持っている三つ子というわけです。

ここでも、橋を降りて水門の近くまで歩いて行ってみることにしました。

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大きさ比較対象の人が来るまで何分か待った
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素っ気ない銘板が公共物っぽくていい

橋の上から見ていたときに、水門のすぐ下流を小さな船が行ったり来たりしていたのが気になりました。どうやら岸に着くたびに人が乗り降りしているようで、ひょっとして渡し船か、もしそうなら水上から水門が眺められるかもしれない、と思って歩いて行くと、案の定大阪市が運営する渡し船がありました。しかも無料!

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水門より少し下流にある渡し船乗り場
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ほかのお客さんはほとんど自転車だった
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渡る距離は100mくらい
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向こう岸からの船が着き、いよいよ乗り込む

地元民じゃなくても乗れるのか、徒歩の利用は僕だけだったため自転車じゃなくても乗れるのか、などいろいろ不安でしたが、何も言われることなく無事に乗船。渡る時に川上となる、向かって左側のスペースを確保し、カメラを構えて出航を待ちました。

出航すると渡し船は大きくS字を描きながら対岸を目指します。ちょうど川の真ん中に差しかかって、船が流れに対して直角になったときに上流の水門に向かってシャッターを切りました。

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やっぱり下をくぐってみたいなあ

というわけで、電車に乗ったり歩き回ったり最後は船にも乗って、アーチ型水門を1日めぐってみました。

天気もよく、さまざまな角度から水門を眺め、このまま最後のまとめに入ってもいいのですが、どこか物足りない部分がありました。

それは、やはり水門が割と頻繁に試験運転をしている、ということを知ってしまったからにほかなりません。

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だってこんなにハッキリ書いてあるんだもん

どうしても動いているところを見てみたい。

という気持ちが抑えられず、試験運転の日にもう一度大阪に行くことにしてしまいました。できることなら動画も撮って、水門が動く様子もお伝えしたいと思います。

というわけで、もう1ページお付き合いください。

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閉まってる!

というわけで、前回の水門めぐりから約1ヶ月後、僕はふたたび安治川水門に向かいました。

少し前に1度来たことがあるだけの弁天町駅からの道のりも、妙に懐かしく感じられながら安治川の橋の上に到着。

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ご無沙汰してます…って閉まってる!

すみません、都合により閉門時間に間に合わず、橋の上に立ったときには既に閉まりきった後でした。

でも、きっとこれから開門するはずなので、根気よく待ってみようと思います。動画を撮影するカメラもセット、いつ開きはじめても大丈夫です。

しばらく待っていると。

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完全に閉まっている状態
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少し開いてきた!

遠目で見ると、水門はしばらく眺めていてようやく動いているのが分かるくらいの速度で、少しずつ少しずつ開きはじめました。あれだけ巨大なものを動かすとなると、安全面でも機能面でもこれ以上の速度は難しいのでしょう。

そして、僕はここから水門が完全に上がりきるまでの約1時間、遮るものが何もない炎天下で過ごしました。ものすごく日焼けしました。

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中心部分に隙間が出現
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なにやら水をかけている
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水に浸かった部分を洗い流しているのだろうか
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ほぼ開いたけどまだチェーンが上がっている
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チェーンが沈み、通行可能に
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待っていた荷物船がさっそく通過

開門作業はどうやら順調に進んだようで、約1時間後に水門は全開状態に。

動画も無事撮影でき、約50分、500M以上のデータになったのですが、さすがにそのままお見せすることはできないので、約20倍に早めておよそ2分にまとめました。ぜひ見てみてください。

 

※公開当時ここには動画がありましたが、@niftyビデオ共有のサービス終了にともない消えてしまいました。すみません…

 

というわけで、大阪のような大規模な街を守るために、こういった大規模な防災システムが造られているわけです。

でも、もちろん役割も重要だと思いますが、近くに住んでいてこの水門を見たことのない人は、とりあえず見に行ったほうがいいと思います。

自分の住んでいる街を守っているのがこんなかっこいい水門だなんて、ちょっと自慢できると思いますよ。


防災すごい

実際に動くところを見た後は、動かない水門を眺めていたときよりもはるかにかっこよく見えるようになりました。また、あれだけ大きなものが動くさまを目の当たりにすると、自然災害から大都市を守ることの重要性とそのための仕組みはすごいものだなあ、と改めて感じました。

試験運転は月に1度は行なわれているようなので、橋の上の特等席からぜひ見てみてください。

最初から最後まで見届けるには、ちょっと根気がいりますけどね。

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特等席といってもこんな場所ですが
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