特集 2026年2月28日

小津安二郎監督『東京物語』に出る方法

芸術祭非参加作品

日本を代表する映画監督、小津安二郎。1963年に亡くなった彼の作品に出ることは不可能だ。

しかし対話シーンに別人の画像を挟み込めば、あたかもその人が小津作品に出ているかのようにみせられるのではないか?

実際にはどうなのか試してみよう!

「健やかなるときも、病めるときもアホなことだけを書くことを誓いますか?」 はい、誓います。 1974年生まれ。愛知県出身、紆余曲折の末、新潟県在住。

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出演するのは超名作『東京物語』

『東京物語』は、1953年(昭和28年)公開の日本映画。尾道に暮らす老夫婦が、東京に暮らす子供たちのもとへ訪問。実の子供たちはそれぞれ多忙で寂しい思いをさせられながらも、戦死した次男の嫁(紀子=原節子)だけが暖かく迎えてくれる姿を描く。

東京物語は著作権の保護期間が満了しているため、パブリックドメインとして映像を使うことができる。

小津安二郎の映画は対話シーンで登場人物をワンショットで撮影し、それを交互にみせる独特の手法を用いる。今回は、こちらの映画のキャプチャ画像に現代の画像を紛れ込ませて違和感がないか試してみることにする。

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原節子役をどうするか?

問題は、戦前戦後に活躍した大女優、原節子さんを誰が演じるかである。

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本物の原節子さん

小津作品といえば原節子。原節子といえば宮城マリオ。などということは決してないが、知り合いで引き受けてくれそうな人が手近なところで彼しかいなかったので彼にお願いすることにした。

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原節子さん役に抜擢された宮城マリオさん

これで無事、キャストの問題は解決したとして、背景のセットをどうするか?

昭和初期風のレンタルスタジオを借りるか?とも考えたが、宮城さん宅には古風なタンスがあり、その前でなら違和感がないだろうと判断し、そちらで撮影することにした。

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セットは宮城さん宅のタンス

ちなみにこのタンスは宮城さんのお母さんの嫁入り道具とのことであった。

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オープニング

まずはオープニングから行ってみよう。

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さあ始まりますよ
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主題歌を脳内再生しながらみましょう
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CAST
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違和感少々

違和感なし!という訳には行かなかったが、マリオのマリが一瞬女性の名前にみえて「あれ、原節子じゃなかったかな?」「俺も歳をとって記憶がさだかではないな」と思う人もいなくはないので、そこまで大きな違和感はないものとする。

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いよいよ本編行ってみましょう

東京へやってきた老夫婦と、戦死した次男の嫁(紀子)と久しぶりの再会のシーン。

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「忙しかったんじゃなかったんか?」
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「いいえ、なんだかごたごたしておりまして」
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「東京言うたら随分遠いとこじゃ思うとったけど昨日尾道をたってもうこうしてみんなに会えるんじゃもんのう」

上記が本来の映画のキャプチャ画像である。

この原節子さんの画像を宮城さんと入れ替えてみると…

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「忙しかったんじゃなかったんか?」
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「いいえ、なんだかごたごたしておりまして」
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「東京言うたら随分遠いとこじゃ思うとったけど昨日尾道をたってもうこうしてみんなに会えるんじゃもんのう」
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「…(うなづく)」
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「やっぱり長生きはするもんじゃのう」
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「でも、お父様お母様ちっともお変わりになりませんわ」
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「かわりゃんしたよ、すっかりもう歳をとってしもうてのう」

どうだろうか?

まず、宮城さん宅のタンスがこんなに違和感がないことに驚いた。

一方宮城さんに多少の違和感はあるが、それは原節子をイメージしているからであって初めからこういう人だと思えば違和感は少ないといえるのである。

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孫の勇(いさむ)と

つづいてお婆さんが長男の息子、孫の勇と河原で遊ぶシーン。ちなみに勇役は筆者。

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「……」
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「勇ちゃん、あんた大きゅうなったら何になるん?」
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「…」
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「あんたもお父さんみたいにお医者さんか?」
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「…」
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「あんたがお医者さんになるころにゃお婆ちゃんおるかのう」
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「……」

孫のワンショットでは急にマンションが立って違和感があるが、お婆さん視点からはマンションが見える場所なのだと思えばそこまで気にならない。さすが小津マジックである。

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紀子のアパートへ

実の息子たちに厄介者扱いされた老夫婦。お婆さんだけが紀子のアパートへ泊めてもらった朝のシーン。

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「あんたお勤めおくれやせんな?まだええの?」
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「ええ、まだ大丈夫です。ねえお母様?」
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「なんな?」
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「お恥ずかしいんですけど、これお母さまのお小遣い。本当に少ないんですけど」
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「なにをあんた。ダメですあんた、こんなこと」
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「気持ちだけなんですから。どうぞどうぞ」
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「ありがと。暇もないじゃろうけど、あんたもいっぺん尾道まで来てよ」
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「伺いたいですわ。もう少し近ければ」

冗談抜きでだんだんと宮城さんが紀子に見えてくるから不思議である。

それくらい違和感が少ない。

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油ものを控えている食事、爆豚(ばくとん)チャーハン

違和感といえば撮影終わりで食べに行ったラーメン店で宮城さんが

「岡村さん、健康について考えてますか?」「僕は油ものを控えてますよ」と言って爆豚チャーハンなるメニューを注文していたことくらいである。

尾道にて

老夫婦が尾道へもどった後、お婆さんが急逝。駆けつけた実の息子たちは葬儀が終るとすぐに東京へ戻ってしまった。残った紀子とお爺さんのシーン。

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「お母さんも喜んどったよ、東京であんたのところへ泊めてもろうて、いろいろ親切にしてもろうて」
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「いいえ、なんにもお構いできませんで」
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「いやあ、お母さん言うとったよ、あの晩が一番うれしかったゆうて。私からもお礼を言うよ、ありがとう」
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「…いいえ」

戦死した次男のことを忘れて誰かと再婚してほしいと伝え、お婆さんが若い頃から使っていたという時計を形見として紀子へ渡すお爺さん。

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「お父さん、本当にあんたが気兼ねのう、先々幸せになることを祈っとるよ、ホントじゃよ」
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「……うう」
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「妙なもんじゃ、自分が育てた子供より、いわば他人のあんたの方がよっぽどわしらによくしてくれた、いやあ、ありがとう」
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「……うううう」
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汽車で東京へ戻る紀子
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「……」

黙って海を見つめるお爺さん。

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ここまでやってみて不思議だったのは、宮城さん宅のタンスは、長男の家、紀子のアパート、尾道、どこの背景でも違和感がないことである。


切り返しショットの魔術

予想通り、小津作品特有の「切り返しショット」と呼ばれる手法であれば、別の画像を紛れ込ませてもある程度、違和感なくみられることがわかった。

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問題は、そのある程度というものが、ひとそれぞれ雲泥の差のあるほどの〝ある程度〟というところなのだが。

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編集部からのみどころ
全然似てないじゃないか、という怒りがだんだん「あれ?そう見えるかも」に変わり、尾道のシーンではうっかりじーんとしてしまいました。
私の感動を返してほしい。(林)

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