スマホの文字を拡大するのには限界がある
視力が落ちて一番困ったのはパソコンやスマホで文字を見るとき。ワードもエクセルも表示倍率を150%に上げて作業していた。
遠くの文字は読めるので日常生活には支障がない。しかし、パソコンはともかく、スマホの文字を拡大するのには限界がある。酔った勢いで訪れたのは近所のT.G.C.。全国に60店舗以上を展開するチェーン店だ。
視力を測ってフレームを選んで、本当に30分でご用意してくれた。「後日、ブルーライトをカットしたものと交換しますので」と言われてよくわからないまま、「お願いします」と答える。
100均でチェーンを買って快適度とおしゃれ度がアップ
こうして、人生初のメガネライフが始まった。
小さな文字を読みたいときだけ掛ける。武器を装着するような気分で、なかなか悪くない。さらに、100均でチェーンを買って快適度とおしゃれ度がアップした。
カフェなどでも、つい記念写真を撮ってしまう。被写体はもちろんメガネだ。
自分の吐息でメガネが曇ったときも感動した。
なお、警視庁の災害対策課はメガネの曇りを防ぐマスクの折り方をツイートしている。
メガネ歴62年、掛けてきたメガネは計100本以上の“メガネ師匠”
こうなってくると、メガネのことをもっと知りたい。創業84年の老舗メガネ店を訪れた。
話を聞かせてくれたのは2代目店主の杉谷宗彦さん(78歳)。メガネ歴は62年、掛けてきたメガネは計100本以上。“メガネ先輩”というよりは“メガネ師匠”だ。
ちなみに、彼が掛けているのは徳島のメガネ店の店員さんがオリジナルで開発した「藍染め眼鏡」。
フレーム価格は3万〜4万円。手作りなので、すべて模様が違う。昨年7月の取り扱い開始以来、徐々に認知度も上がってきた。
PDは目と目の間の距離のことで、日本人男性の平均は64mm
杉谷さんによれば、メガネの製造技術はかなり進化しているそうだ。
「レンズをはめる部分を『リム』というんですが、昔はニッケル合金を使っていました。今はチタンが主流です。ツルもセルロイドからアセテートに移行。弾力性がある樹脂も導入されています」
「ガラスだったレンズもプラスチックに変化。初期のプラスチックは傷が付きやすかったんですが、平成に入ったあたりから商品として勧められるようになりました」
検眼の話も面白かった。
いわく、網膜の前でピントが合う状態が近視、網膜の後ろでピントが合う状態が遠視。近視の人は遠くが見えづらく、遠視の人は近くも遠くも見えづらくなるそうだ。
「近視と遠視はひとつのジャンルで、老眼は歳を取ると出てくる症状。調節機能の衰えによって調節できる範囲が少なくなり、遠くが見えた人は近くが見えづらくなり、近くが見えた人は遠くが見えづらくなります」
お客さんの検眼データも出してきてくれた。
9.00って何ですか?
「いわゆる、レンズの度数です。単位はジオプトリー。9.00は相当強い数値ですね。PDは目と目の間の距離のことで、日本人男性の平均は64mm、女性が60mmといわれています」
よく考えれば、衣類は体のサイズにあったものを購入する。メガネも同じなのだ。
Sは近視、Cは乱視、Axは乱視の方向を表している
T.G.C.でもらった検眼データも見てもらおう。
「Sは近視、Cは乱視、Axは乱視の方向を表しています。数値としては軽めですが、左目が見えづらいでしょう?」
そうなんですよ、右目を閉じると時空が相当歪みます。
店内には「顔の形別お似合いメガネ」一覧も貼ってあった。杉谷さんによれば、僕は「面長さん」とのこと。
「今掛けているのはボストンタイプかな。ウェリントンなんて似合うと思いますよ」
メガネの自分がカッコいいかなと思って成人式はメガネ姿で出席
行きつけの飲み屋にも“メガネ先輩”は大勢いた。それぞれのメガネにまつわる話を聞いてみよう。
「メガネ歴は小3から。クラス初のメガネっ子ですよ。恥ずかしいから最初は授業中だけかけて、徐々に周囲の視線を慣らしていきました」(35歳・男性)
「小6のときにメガネとコンタクト、同時デビューです。そのときのメガネは今でも家用として使っています」(34歳・女性)
「掛けなくてもまあまあ見えるんですが、メガネの自分がカッコいいかなと思って成人式はメガネ姿で出席しました。でも、陰で『ダサい』と言われてたみたいです」
「25歳で大学院を卒業して就職したんですが、コンタクトだとパソコン仕事が辛くてメガネを買いました。これ、レンズの上のリムを取り替えられるんですよ」(43歳・女性)
「高1からですね。仙台の『メガネの相沢』で親に買ってもらいました。メガネ屋の店員さんが言ってましたが、レンズをきれいにするときは一回指で拭いてからスプレーを吹きかけるといいそうです」(45歳・男性)
「中学で剣道部に入ったのをきっかけにコンタクトにしました。大学の途中までコンタクト派だったんですが、友達が掛けている丸メガネがいいなと思って、そこからはメガネ派です」
デイリーポータルZの読者とライターにアンケート調査を実施
「教えて、“メガネ先輩”」のコーナーはまだまだ続く。今回は編集部の協力のもと、デイリーポータルZをはげます会の会員とライターにアンケート調査を実施したのだ。
まずは、ライター・地主さんから。「レンズに指紋が付くと、この世で一番イラっとします」。メガネ歴20年ともなると、そこまで神域になるのか。
アンケートによれば、メガネを掛け始めたきっかけは「黒板の文字が見えづらくなったから」という意見が多かった。
視力が低下した理由については、この二人が面白い。
「子供の頃、親に隠れて布団の中に懐中電灯を持ち込んでマンガを読んでたらあっという間に近視になった」(チャーリー浜岡GPさん・50代・男性)
「小学生の時、寝る時間になっても本を読んでいたくて、親にバレないように布団に潜って豆電球で本を読んでいたら転げ落ちるように視力が落ちた」(Lionさん・40代・女性)
中には、「北斗七星の二重星(ミザールとアルコル)が見えなくなったから」(床下収納さん・40代・女性)というロマンチックな理由を挙げる人も。
メガネ歴25年のライター・さくらいみかさんは有益な情報を教えてくれた。
「今のメガネを買ったのは韓国。日本では度数が高いと価格も上がるが、韓国だと安く買えたので」
6割近くの人がコンタクトとの併用はしていない
初メガネの購入場所は、やはり「地元のメガネ屋」が主流。現在は、Zoff派とJINS派に分かれるようだ。
「コンタクトと併用しているか」という問いについては「している」人が28人、「していない」人が40人だった。じつに6割近くの人がメガネ一筋で暮らしていることがわかった。
メガネ初心者へのアドバイスも募った。
「似合うメガネは友達に選んでもらう。掛けるのは自分だが、その姿を見るのは他人なので」(むいさん・30代・男性)
「フレームだけ高級店で買って、レンズはJINSとかで入れてもらうという技があります」(ライター・石川大樹さん)
「高い眼鏡屋に行った方がオーソドックスなのから奇抜なのまであって選択肢が多い」(サンマ缶さん・20代・男性)
ライター・高瀬雄一郎さんはメガネ歴25年。
「寒い時期、建物に入ったときにメガネが曇ってしまう。今の職場は着いたらまずタイムカードの機械がある部屋に向かうのですが、その時に同じようにメガネが曇っている数人と並んで歩くことになると余計に恥ずかしい」
眼鏡をかけてなくても眉間をくいっとやってしまう
「メガネあるある」についても聞いた。勉強になります。
「小学生のとき、あだ名が『メガネ』だった。メガネのイメージが『ガリ勉』という時代なので勉強ができないと最悪」(hataoさん・50代・男性)
また、メガネ歴も長くなると「そこにメガネがある」前提で行動してしまうようだ。
「眼鏡をかけてなくても眉間をくいっとやってしまう」(しいなさん・30代・女性 ※メガネ歴10年)
「メガネをかけてないのにメガネを上げる動作をしちゃう時がある」(フジさん・30代・女性 ※メガネ歴21年)
女性ならではの「あるある」も。
「鼻あての部分から化粧が崩れる」(yoさん・30代・女性)
「眼鏡をしたままクレンジングオイルを顔につけてしまい、べとべとになった」(よよよさん・40代・女性)
過去のメガネも保管しているが、二度と掛けることはない
他のライターからも続々とコメントが届いた。岡本晃大さんはメガネ歴16年。
「たまにちゃんと眼鏡の掃除をすると、ツルや鼻あて(つまり皮膚と接するところ)にたまったゴミの多さに焦る」
ぬっきぃさんのメガネ歴は計4年。「計」というのには悲しい理由がある。
「レーシックをしたのに視力が落ちて10年ぶりのメガネです。17万円もしたのに…」
「目が悪くてメガネに気が付かずに捨てたことがあります」(むかない安藤さん ※メガネ歴30年)
「いままで20本ぐらいメガネを掛けてきて、いちおう過去のやつらも保管しているのですが、昔のは二度と掛けることはない」(大伴亮介さん ※メガネ歴26年)
「7万円という無駄に高いメガネを掛けている(視力がすごく悪いのでレンズを薄くするのにもかなりお金がかかる)ので、このメガネいくらでしょうクイズをやると盛り上がる」(いまいずみひとしさん ※メガネ歴15年)
“メガネ先輩”たちから初心者の僕への温かいメッセージ
「眼鏡ライフを楽しんでください!」(アッシリアさん・20代・女性)。「色々不便だけど、めがね、カッコイイよ!」(あおむしさん・40代・女性)。「眼鏡を外せば見たくないものは見えなくなる。便利!」(若林さん・40代・男性)。
メガネ愛が溢れているのだろう、皆さん、文末に「!」を付けている。
今回の取材とアンケートでわかったのは、日々の生活に寄り添うメガネにはその人なりの物語と思い入れがあるということ。そして、メガネ歴10年の30代男性、とうふ屋さんのコメントにすべては集約される。「ようこそ!」。
ありがとうございます。僕なりのメガネライフ、楽しみますよ。