島から戻って煮しめを作ってみようと、佐渡市が発行した「さどごはん」という佐渡の伝統料理を集めた本を取り寄せたところ、煮しめはもちろんだが、「アブラメの炒りジャー」という料理が収録されていて驚いた。
アブラメのワタの白い部分だけを集めて、大根菜と炒りつけると書かれているが、料理の完成写真がないのでまったくイメージができない。白い部分ってどこのことだ。ジャーってなんだ。
来年はこれの再現を目指して、またアブラメ釣り大会をやってみなければ。
最初に竿を出した場所は風の影響が強く、波がだんだん高くなってきてしまったため、風裏になるポイントへと移動した。
村田さんは「俺だけだったらこんな日は絶対釣りをしない!」と帰りたそうだが、もう少し付き合っていただこう。
どうにか一匹釣れてくれ。ゼロと一ではまったく満足感が違うのだ。
アブラメは凪が良すぎても悪すぎても釣れない魚で、少し荒れている方が釣れるという。今日の波模様は理想的ではあるのだが、この夏の猛暑がアブラメを磯の浅場に寄せ付けていないようで、ここまで誰一人として釣れていない。
近くの港にいたおばあちゃんも、こんなに魚のいない年は初めてだと嘆いていた。
これは佐渡まで来ておいて取材不成立ってやつですか。来年また来なければなあと思い始めた頃、ようやく魚らしい魚のアタリが来た。
急いで仕掛けを巻き上げると、20センチほどのニシキヘビみたいな魚がかかっていた。これはクジメという魚である。
アブラメはアイナメの地方名のはず。よく似ているけど違う魚とがっかりしたが、隣で村田さんが喜んでいる。なんとクジメが本命であるアブラメのことだったのだ。ちなみにアイナメはシジュウと呼ぶらしい。それを知って、遅れて喜びが込み上げてきた。
クジメは関東の磯などでもたまに釣れる魚だが、アイナメに似た外道という扱いをされがちで、これを狙って釣る大会というのは聞いたことがない。なぜ羽茂の人はこの魚を狙って釣るのだろう。
「アブラメは磯の浅いところにいる魚だから、普段釣りをしない人でも簡単に釣れたのよ。だからみんなで集まって釣るにはいいんだろうね。
釣り大会といっても、数や大きさを競うこともあるけど、まあ遊びよ。秋の稲刈りがようやく終わって、また柿で忙しくなる前のレクレーションだな。でも今は早生(わせ=早く収穫できる品種)の柿があるから、もうこの時期はみんな忙しい。俺は果樹を辞めたから付き合えるけど」
ようやく釣りのコツがわかってきたような気がしてきたが、さらに風が強くなってしまったので残念ながら終了。道具をしまっていたら大雨が降ってきた。
本日のアブラメ釣り大会の結果は、私が一匹、海野さんが二匹。サイズなら私、数なら海野さんの勝利だが、特にルールも決めていなかったので全員優勝。
アブラメ釣り大会は競技的な釣りの大会と違って、みんなで食べるところまでが大会となっている。どちらかといえばそっちがメインという人も多かったようだ。
私も釣った魚をみんなで食べたかったので、今日はぼたもちを食べる会をやっているという山荘に持ち込みをさせてもらった。
「だいたい釣りは午前中だけで、午後は釣った魚で宴会をするのよ。その場で流木を拾って火を起こして、鍋で煮たり、塩焼きにしたり。
公民館とか集会場に移動して、そこで宴会をする場合もある。柚子や山椒を入れた味噌で作る田楽もおいしかったね」
「昔はたくさん釣れたから、食べきれない分はデバ(ベラ)とかと一緒に素焼きにして、それを稲藁で縛って吊るして、焼き干しにしておいた。昔の冬は保存食ばかり食べないといけないから。
アブラメはトビウオの焼き干し(アゴ)とも違う味の出汁がでるんだ。これで自然薯のトロロを作ったら、すごくうまかったよ。昔、羽茂の殿様はこれが好物で、おかかえの芋掘り人、アブラメ釣り人がいたと言われている。それもあって羽茂でアブラメ釣りが盛んなのかもな」
「アブラメの焼き干しは、煮しめに使うことが多い。崩れないように木綿の袋に入れて、水から煮て出汁をとって、ダイコン、ニンジン、焼き豆腐、チクワ、カマボコ、コンニャクとかと煮る。ちょっと味の濃いおでんだな。
特に羽茂の辺りでは、11月20日になると『えびす講』といって、集落の家々に配られる恵比寿様の書かれた紙を飾って、アブラメの焼き干しで出汁をとった煮しめをお供えする。恵比寿様は北前船で伝わったのかな。
磯の魚なんでちょっとクセがあるから、好き嫌いがあるかもわからんぞ。焼き干しも煮しめにしたら柔らかくなるから、頭から全部食べられる。ちょっと少ないけど、持って帰って作ってみて」
アブラメ釣り大会は、釣りの腕を競う会ではなく、仲間と親睦を深めるためのイベントだった。いわば酒宴の余興である。
趣旨としては、山形や宮城などでよくおこなわれる芋煮会が近いだろうか。季節を無視すれば、花見や忘年会にも似た集まりだ。盆踊りも運動会もカラオケ大会も根本は一緒なのだろう。
ただアブラメ釣り大会は、つまみをみんなで現地調達し、ついでに冬に備えるための食材として確保できるというのが特徴的である。
こういった地域色のある採集付きの飲み会は、全国各地におもしろいものが存在していて、いつのまにか収穫量の減少や過疎化によって、少しずつ消えている。もしできることなら今回のように参加させていただき、こうして記録をしていきたいなと思った。
島から戻って煮しめを作ってみようと、佐渡市が発行した「さどごはん」という佐渡の伝統料理を集めた本を取り寄せたところ、煮しめはもちろんだが、「アブラメの炒りジャー」という料理が収録されていて驚いた。
アブラメのワタの白い部分だけを集めて、大根菜と炒りつけると書かれているが、料理の完成写真がないのでまったくイメージができない。白い部分ってどこのことだ。ジャーってなんだ。
来年はこれの再現を目指して、またアブラメ釣り大会をやってみなければ。
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