油揚げを、焼いて、煮る
油揚げとは、薄切りにした豆腐を油で揚げた食品である。薄切りにして油で揚げている間に「豆腐」という主語が抜けて、工程だけが名前になってしまった。そんな不思議なたべものだ。
しかしそんな油揚げがさらに焼かれて、煮られたとき、それは一体何なのか? 焼き油揚げ煮物? 油揚げの焼き煮? それだけが疑問だ。調査官は現場(台所)へ急行した。用意するものは油揚げ、それだけ。
まずは油揚げをフライパンで焼こう。焦げ目がついたらひっくり返す。目標をセンターに入れてスイッチ。料理に愛がなくてもこのくらいの素朴な操作はできる。
こうなってくると油揚げだけを焼くのもつまらないからネギも焼こう。さっき用意するものは油揚げだけって言ったけどやっぱナシ!
ネギを焼いてる間に、油揚げが焼けて「焼き油揚げ」になったものを細かく切っていく。
ここに醤油をジャっとかけて食べてしまってもいい気がするが、今日はもうひと手間かけるのだ。
続いて煮ていく工程に入る。醤油、砂糖、みりんとだしを混ぜて煮汁を作る。
沸騰したらざざっと焼き油揚げ(とネギ)を突っ込む。行け!
落し蓋をしてひと煮立ちさせてたら完成。のつもりがぼーっとしてたら煮詰まってしまったが、これが…「焼き油揚げの煮物」? 「油揚げの焼き煮」? まあ、どちらかである。
さっそくこの名前からして不安定なものを食べてみる。
あーこれはうまい。うまいじゃないか。煮詰まって味がかなり濃くなったのは失敗だったが、それがかえってご飯と合いそうだ。万人受けを狙いすぎて却って「無」に近づいている感じさえする(そういうことってあるだろう?)。
一方で、油揚げを焼いた意味についてはよくわからなかった。舌の上で油揚げを弾ませながら、そこにある香ばしさみたいなものを感じようとしたのだが…どうにも見つからない。
油揚げを煮る際に、予め焼く必要はなさそうである。それが今回得られた知見である。
こんどは油揚げを、煮て、焼く
では今度の疑問。「油揚げが煮られてから焼かれたらどうなる?」だ。みんなもそう思っていたことだろう。そして、それを知ることだけが自分の魂を次のステージに上げる。そう信じている。
では、さっそくやってみたい。先ほどとは逆に、油揚げを煮たあと焼くのだ。
さっき油揚げを焼いたときも思ったが、煮たときも一瞬「もうこれでいいな」と思ってしまう。だが負けてはいけない。今日は油揚げを煮たあと、焼く!
煮た油揚げを熱したフライパンに寝かせると、煮汁が蒸発しながらジューと音をたてる。油揚げの産声だ。
音の感覚としてはちょっとしたすき焼き気分である。(すき焼き要素はネギだけなのだが…。)このジューという音はなんとなく気分をもりあげさせる。すべての煮物は炒めたほうがいいのではないか。
そしてこちらが出来上がった…油揚げの煮焼き?である。「煮焼き」という調理法があるのかが不明だが、いい感じに焦げ目がついていて美味しそうだ。
食べてみると、こちらは煮物の甘い柔らかさがありつつも、しっかりとソリッドに焦げた香ばしさが際立っている。さきほども言ったがすべての煮物はもういっぺん焼いてもいいかもしれない。
とりあえず僕から言えるのは、もし豆腐の薄切りを油で揚げたあと煮たり焼いたりしたいという乱暴な気持ちに襲われた際は、まず煮てから焼いたほうがいいということである。