わりとふつう!深海魚の釣り方
伊藤 「スーパーサイヤンは水深210mで見つかっていますけど、この深さの魚を釣る装備はどうなってるんですか?」
平坂 「リールは電動になりますが、あとはふつうの釣りとほぼ同じです。僕みたいに何の資格もない一個人が、深海にアクセスするほぼ唯一の方法が釣りなんですよ」
なんかふつうに釣り!この先が深海。「沖縄だと深くて1000mぐらいから釣ります」(写真提供:平坂寛)
石川 「でもその距離だと、えさに食いついたアタリが全然わからなくないですか?」
平坂 「それがわかるんですよ。魚のサイズにもよりますけどね。ふつうの釣りと同じ感覚で、ググッってなります」
採集の様子(スーパーサイヤン採集時とは別日です)。(写真提供:平坂寛)
伊藤 「今回のスーパーサイヤンは小さな魚ですけど、そういう魚を狙う釣りをしたんですか?」
平坂 「いや、いろんなサイズの針やエサを用意してそのうちのひとつにかかってきました。正直、この深さでハゼが釣れるとは思わなかったですね。沖縄では以前、水深200mでユウナハゼが見つかっていますけど、それくらいしか聞いたおぼえがなかったので」
釣れた瞬間のエレキハゼ。このサイズである。「釣った時はええ!ハゼかよ!?となりました」(写真提供:平坂寛)
釣れたら大事に!
伊藤 「釣れたらさっきの話のように、食べずに取っておかなきゃいけないですよね」
平坂 「はい(笑)。標本にするので傷や乾燥で魚体が変化しないように、濡らしたキッチンペーパーで全身を包んでさらにラップで巻いて、なるべく釣れたままの姿で研究者に送ります。 届いたら研究者がヒレを立てて、根元をホルマリンで固めて、写真を撮ります」
石川 「新種発見の報道記事に載っていた写真はその状態のものですか?」
たしかにヒレがピンとなって見やすい。(写真提供:平坂寛)
平坂 「そうです。そして魚は標本にされ、その新種の存在や特徴を保証する世界で唯一の標本『タイプ標本』となります」
これが新種だ!の証明がたいへん
伊藤 「標本にするだけじゃなく、これを新種だと認めてもらわなきゃいけないですよね」
平坂 「端的に言うと、本当にこれ新種なのかな?と確認する作業と、その結果新種でしたよ!と発表する作業になります」
ざっくりの流れです。
平坂 「まず手当たり次第に文献をあたります。ハゼってものすごくたくさんの種類がいるんですけど、特徴を見ていくと、どうやらヤツシハゼ属というグループに細分化されるぞと。で、当然そこにもいろいろいるんですが、その全てと、ここやここが違うっていうのをひとつひとつ比較して、明らかにするんです」
伊藤 「かなり大変そうな作業ですね......」
平坂 「はい。図鑑や論文など、日本だけでなく海外の資料にも慎重にあたるんですけど、その中で見た目が似ている種が出てくるんです。
そうなるとこのヒレの線の数が違うとか、ウロコの数が違うとか、微妙な差をたしかめるためにその種の標本を取り寄せたり見に行く場合もあります。スーパーサイヤンにも似ている種がいたので、具体的にここが違うという記述を論文の中でしています」
伊藤「スーパーでなく並のサイヤ人みたいな。ナッパぐらいですかね」
平坂「それちょっとわかんないです」
伊藤 「文献や標本を調べて、他にいないぞ、新種じゃんとなって、こんどは発表ですね」
平坂 「もうひたすら、論文を書きます。『 何月何日に石垣島の何mでヤツシハゼ属の魚が見つかりました。こういう特徴があって、既知の種とはここが異なります。 よって、これは新たな種として、スーパーサイヤンという名を提唱します』という内容の」
伊藤 「そしてついに発表?」
平坂 「いや、その前に査読というんですけど、同分野の研究者に内容の妥当性をチェックしてもらう必要があります。ここで学術的な新規制や重要性、信頼性が認められれば、学術誌に掲載され、新種として世に出されるということになります」
石川 「その日から新種?」
平坂 「はい。出版された日からです。この論文は11月27日出版の『Ichthyological Research』という学術雑誌に掲載されたのでその日からということです」
掲載された論文。採取時〜標本時の状態から各器官の詳細、類似種との相違まで事細かに記録されている。もちろん名前の由来も!※引用:Vanderhorstia supersaiyan sp. nov. (Perciformes: Gobiidae) collected from the twilight zone off Ishigaki-jima Island, Okinawa, Japan(石垣島沖のトワイライトゾーンから得られたハゼ科の新種Vanderhorstia supersaiyan)/Ichthyological Research/2025.11.27/ https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-025-01047-6 )
新種は1日にして成らず
伊藤 「スーパーサイヤンを釣ったのが2022年なので、発表まで3年かかっていますね。通常このくらいかかるものなんですか?」
平坂 「はい。標本に記録に、下調べと論文執筆とこれだけのことをやらなきゃいけないですからね。しかもその間、研究職の人も、僕にしても他に食べていくための仕事をしなくてはならない。新種を探すのは経費がかかるし、かといってスーパーサイヤンを見つけたから莫大なお金が入ってくるかというと、そういうこともないわけです」
伊藤 「たしかに、船出して釣りしてっていう......」
平坂 「それだけでなく、文献を調べたり、似ている種の標本を見に行く場合があると言いましたけど、それらも日本にあるとは限らないわけで、時間と費用的な問題で論文が進まず何年も放置状態になるということもよくあります」
伊藤 「そうか、大変だろうなとは思っていましたけど、想像以上ですね.....」
平坂 「僕も実はスーパーサイヤンの他に珍しい標本が採れていて、新種かもなっていうのがあるんですけど、なかなか手がつけられないんです」
平坂さんの新種発見はこれが初めてではない。2024年に記載した(採取は2023年)「キホシササレヒメコダイ(和名)」。小型のヒメコダイだがすでに「ヒメ」「コ」が名前に組み込まれており、小ささを表す表現が「ササレ」と詩的になった。(写真提供:平坂寛)
新種かな?と思ったら
伊藤 「平坂さんが採取という形で新種発見に携わっていますが、たとえば僕が偶然新種を釣ったら、やはり発見者ということになりますかね?」
平坂 「もちろん。新種の証拠となるタイプ標本が必要と言いましたけど、これは採取した人の貢献がかなり大きいわけですね。 そしてそれがいつ、どこで取れたっていう情報を提供していく貴重な役割でもあり、共同発見者といっても差し支えないです」
伊藤 「ただですよ、僕は平坂さんほどの知識もないし、小枝さんのような研究者へのコネクションもない」
平坂 「僕に写真を送ってくれれば(笑)、あとはそういう時はそうだな........変な魚が捕れたらとりあえずSNSにアップする」
伊藤 「ああ」
平坂 「この魚何ですか?もしかして新種?みたいにやると、またたくまに同定されます。本当に珍しい時は伊藤さん、これすごいですとなって......」
伊藤 「そっちの世界に連れてってもらえるわけですね。」
平坂 「昔ウオノエという寄生虫が深海魚の口から出てきて、深海魚にもいるんだって当時のツイッターに上げたら10分でウオノエの研究者の方から、 すぐ冷凍で着払いで送っていただけないでしょうかっていう連絡が来ました」
伊藤 「そうか、日々の暮らしの中で新種かな?と思ったらSNSにアップするのが重要なんですね」
ぼくの考えた新種でもアップするか(チームラボのアトラクション参加時に描いたイラスト)
新種が1匹見つかると、そこから見えてくる世界がある。
「今回名前がついたのは、本当に入り口に過ぎなくて、今度はスーパーサイヤンの暮らしぶりを観察しようとか、飼育できないかとか、いろんな研究がされるはずなんですよ。 そのきっかけとなったことを考えると苦労はあるけどやりがいありますよね」
平坂さんが食べるのも、見つけるのも、(咬まれるのも)、まだ見ぬ世界を見たいという欲求の赴くままの活動なのだ。その制御しなさを少し心配しながら、次の冒険を待ちこがれたい。
送られてくる写真がすべて平坂さんらしさに
あふれていてにんまりする。
平坂さんのやばおもしろいYoutubeはこちらから
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編集部からのみどころ
久しぶりの平坂さん登場でした。
平坂さんがドラゴンボールを読んでいなかったので、インドネシアの方にガッカリされたところが最高でした。
ドラゴンボールを読んだことがなかった人も「スーパーサイヤ人の黄色は髪じゃなくて体にまとっているオーラみたいなやつ」今日覚えたことでしょう。私も覚えました。(橋田)
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