特集 2025年11月1日

芋煮インド化計画

これが俺たちのインド風芋煮だ!

そんなこんなで完成したインド風芋煮の盛り合わせがこちらである。きっと人生で一度きりしか食べられない組み合わせのプレートだ。

バーン!

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芋煮会というか芋のおかず食べ比べ会ですね。

一部の芋煮はインドという枠を飛び越えて、よりワールドワイドになっているが、これこそが真の国際化、グローバリゼーションと言えるだろう。言えるというか、強い心で言い切りましょう。

制作者からのコメントをいただいたので、唐突に「インド風の芋煮を作って」と言われた側の葛藤を読み取ろう。

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小松ヌンチャク:サトイモコランブ
サトイモはインドでもよく食べられているそうです。「コランブ」は南インドタミル地方の「カレー」とか「スープ」の意味なので、芋煮と言ったらコレでしょう。 サトイモを煮て、火が通ったらヒングと塩、ココナッツミルク、カレーリーフ、乾煎りしておいたクミンシードとココナッツファインを和えて火を止め、テンパリングしたカレーリーフを乗せたら完成。
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油虫太郎:ビーフベジタブルクルマコルマ
芋煮を感じさせるインド料理を探したところ、汁気が多く色んな野菜がたっぷり入ったクルマがいいのではと思ったのですが、北インドではコルマというチキンとココナッツたっぷりの料理があると知り、南のクルマと北のコルマをフュージョンさせました。肉は芋煮なのでヨーグルトに漬けた牛肉を使用、野菜はサトイモ、タマネギ、トマト、インゲン、カリフラワー、ニンジン、スパイス類はココナッツ、ポピーシードなど。
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まぐねふ:サツマイモとちょっとだけサトイモのエリセリ
秋っぽくて甘いサツマイモのエリセリが好きなので、ほぼサツマイモで作りましたが、芋煮としての言い訳程度にサトイモを2割ほど入れました。レシピは「作ろう!南インドの定食ミールス」を参照してください。
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玉置標本:サトイモのカーラン
南インドの定食であるミールスのおかずとして習ったカーラン。唐辛子やスパイスがたっぷり入ったヨーグルトソースでサトイモを煮ました。芋を煮たので芋煮です。これだけをたくさん食べるのはきついけど、おかずの中の一つにあるとうれしいんですよ。
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玉置標本:サトイモのイステゥ
こちらもミールスのおかずとして習ったイステゥ。ココナッツミルクとショウガでサトイモとタマネギを煮込んだ南インド風シチューで、小松さんのコランブと違ってスパイスを使っていないのがポイント。うどんをいれてもうまそうだ。
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辻村哲也:アルビーゴーシュト
インド芋煮と聞いたものの思い浮かんだのがパキスタン料理だったので「インド」をインド亜大陸に拡大解釈して、アルビーゴーシュト(Arvi Gosht:直訳すればサトイモと肉)を作りました。多めの油でホールスパイスをテンパリングし、タマネギを加えしっかり焼き色がつくまで揚げ炒め、ニンニク、ショウガ、パウダースパイスも炒め、ホールトマトとサトイモと塩を入れて煮て、塩煮しておいた骨付きマトンを加えて馴染んだら出来上がり。これにはごはんよりチャパティですね。
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鬼頭哲:ハンガリー風芋煮
「なにか作って」と呼ばれたものの、参加メンバーほぼ全員が「本場インドでウマいもん喰ってきた人」。そこで「インド未踏の俺がなに作るのよ?」だったので、これまで本場で食べたことがある中で純粋に「サトイモを煮て一番うまい」と思えて、かつ「みんなとスパイス感が絶対カブらない」「でもインド料理の中で浮かない」ということで、ハンガリー風芋煮でエントリー。東欧の「ぼんやりとした」素朴でホッとする味わいが好きなんですよね。グヤーシュというハンガリーの代表的なスープをベースにフレンチの技法を取り入れたり、パプリカパウダーの代わりにポルトガルのマッサというペーストを使って「ガチ素朴」より少し深みがあるアレンジにしてみました。
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エリセリ、カーラン、イステゥのレシピは、私が編集した同人誌「作ろう!南インドの定食ミールス」をどうぞ。

どの料理も私から伝えた趣旨説明は一緒であり、芋を煮ているという点では同じなのだが、インド風芋煮の解釈の仕方がそれぞれまったく違うので、似た味の料理がまったくなく、それでいておいしさの相乗効果のある奇跡のプレートが完成した。

参加者の「変わった料理を作って食べさせたい欲」と、「変わった料理を作ってもらって食べたい欲」がうまいこと混じり合い、作る側と食べるだけの側、どちらにとってもハッピーな会になったのではないだろうか。

一つの鍋を囲んでみんなでもりもり食べるのであれば、ジャパンスタイルのトラディショナルな芋煮がやはり口に合うのだが、たまにはこういったビュッフェ形式の芋煮もいいのでは。

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この日は暑くも寒くもない絶好の芋煮日和で、「天気が良くてよかったね」と何度も言い合った。
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大変満足です。

山形風の芋煮、でもラム肉というアプローチ

異国情緒溢れる芋煮をたらふく食べたのところではあるが、普通(という言い方も難しいのだが)の芋煮を食べたことがないという参加者も多かったので、余興として私が山形で学んだ醤油味の芋煮も用意した。

ただし牛肉ではなく羊肉だ。ラムを使った逆アプローチからのインド風芋煮である。「山形にある某大学のゼミで開かれた芋煮会の、インド人留学生も食べられる牛を使わない芋煮」という設定でどうだろう。

サトイモ、コンニャク、ブナシメジを醤油と味醂で煮て、仕上げにラム肉とネギを入れるだけ。

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本気でやるなら醤油と味醂もハラール対応(イスラム教徒が食べられる食材)のものを使わないといけないのだが(醸造中に発生するアルコールがダメ)、今回は宗教上の縛りがないので普通の醤油と味醂を使った。キノコを入れるのは邪道とか、醤油は味マルジュウを使わないとダメみたいな意見は、インド風の前では一切無力である。
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ハラールのラム肉をたっぷりと入れよう。
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見た目は山形で食べた芋煮と同じだが、いざ食べると好ましい違和感があっておもしろい。
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ラム肉を使った芋煮はなかなかうまいのだが、やはりラム独特の野趣のある風味が、これを芋煮と呼ぶことに対して脳内で拒絶してしまう。

そこで羊にはクミンだろうということで、油でクミンシードをジュクジュクいわせたものを加えたところ、全体が見事に調和してくれた。まさに力技だが、ラム入りの芋煮にはクミンが本当によく合う。

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クミンを油で熱してから、油ごと入れるのがポイント。
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これぞ日印友好の芋煮なのでは。日本というか山形県村山地域だが。

今日はインド風なので締めにチャイも作ったのだが、参加者の一人がその返礼として、野点(のだて=屋外の茶会)をしてくれたのもすごくよかった。

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しっかり甘くしたチャイがうまい。
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チャイからの抹茶という流れがいいんですよ。

次はどんな芋煮会にしようかな

今回の参加メンバーは、一緒にインド料理を習ったりインド旅行をした人が多かったのでインド風芋煮会にしたのだが、作り手ごとに適度なブレがあってとてもよかった。

来年は在日インド人を招いたり、あるいは別の国をテーマにした芋煮会をしたり、なんなら万国芋煮世界大会を開いてみたいと思う。といいつつ普通の芋煮をするような気もする。

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この日は最終的にドングリを食べていました。
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
芋煮をインド風にするだけではなく、それぞれが作った芋煮を盛り合わせるというスタイルまで変えた芋煮会だ!正解のないものならこれが正解なのかも。
後半、クミンをあわせるのに市販のクミンパウダーを使うのではなく、クミンシードを油で煮る本格派っぷりに黙ってしまいました。(林)

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