特集 2023年12月25日

コイを捕まえるところからイラク名物のマスグーフを作りたい

マスグーフが上手に焼けた!

ごはんを食べている間に、コイの皮側が真っ黒に焼けた。通常の焼き魚なら失敗作だが、鱗という防御壁によって加食部分が守られているはず。

ようやく薪が魚を焼くのに程よい火加減となったので、ひっくり返して身側を焼く。

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火を熾してからすでに一時間半が経過している。気の長い料理だ。

最後の仕上げにコイを挟んだ網を寝かせて、身側の焼きが甘いところをじっくりと炙る。

ぶっつけ本番だった割には、この環境下でコイを焼く上での最適解を我々は選んできたのでは。

今日は現場に強い人が集まっているなと実感する。ちなみに私はコイを捕まえたところで満足したので、基本的に料理は見ているだけである。

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仕上げるのに最高の火加減になっていた。

網から外すときに身が少し剥がれてしまったが、香ばしく焼きあがったのではないだろうか。

「次は網に油を塗っておかないと」とか「輻射熱をうまく使うといいのでは」と、もう次回を見据えた発言をしている人がいておもしろかった。

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これでまずかったら悲しいですね。
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すごくおいしい

まずは買ってきた養殖のコイを熱いうちにいただくと、これがすごくおいしかった。心配された生臭さはまったく感じられず、脂がしっかり乗っている。

ウナギの白焼きを思わせる旨味のある味わいなのに、身の質は養殖のタイみたいにふっくら。薪から移ったスモーキーな香りがまた食欲をそそる。

斉藤さん:「こんなにおいしいとは思わなかったです。現地に比べるとコイの厚みが足りないけれど、これくらいのほうが焼きやすいかな。日本でマスグーフを作った話をしたら、向こうの友人もきっと喜んでくれますよ」

マスグーフ、これは流行るのでは。

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大成功。
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国境線を飛び越えるかの如く、畳部屋から手を伸ばす斉藤さん。
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「この肩の部分が脂が乗っていておいしいんですよ。日本のゆかりみたいな味がするスンマーク(スマック)をかけてみてください」とのこと。
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おいしいけど骨が多いので注意が必要。
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甘くないナンに乗っけて食べる。中東料理なのでノンアル会。
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サルチャ版はちょっと焦げたけど、トマトの旨味でコイのおいしさが引き上げられている。サケのちゃんちゃん焼きみたいだ。
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捕まえてきたコイは筋肉質で、脂が少ない分だけ良い意味で川魚の味が強い。オイリーであればあるほど喜ばれるイラクでは不人気かもしれないが、個人的には身が締まっていて好き。自分が捕まえたという思い入れが隠し味。

このサイズの魚を直火で焼くと、表面は真っ黒なのに中は生焼けという最悪な状態になりがちだが、試行錯誤しながら二時間ほど焼いたことで、最高の状態に焼きあがってくれたようだ。

マスグーフは焼き加減で味がかなり違い、身が渇き気味になるくらいまで焼き切ったほうがおいしく、ちょっと焼きが浅く水分が残っている部分は魚臭さが気になってしまった。でもパサパサにしてはダメなのだろう。

今回は4匹も焼いたことで、天然と養殖の違い、焼き加減による差、たれによる可能性など、たくさん知ることができたのも大きい。この知的財産を生かして、またすぐにでも焼きたい気持ちでいっぱいである。

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本場の写真を見せてもらった

初めてのマスグーフがおいしかったので、これは記録しなければと斉藤さんに改めて連絡をした。それがこの記事である。

その際に現地の写真を送ってもらったところ、これがまたものすごく魅力的だったので最後に紹介させていただきたい。

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「マスグーフを焼き続けて13年のベテラン職人であるMuhsinさん。過激派組織イスラム国(IS)による混乱の最中、妻と4人の子どもと共に戦場と化したモスルを後にしてアルビルに逃れて来た」と斉藤さん。
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見たことがないレベルで丸々と太ったコイを背開きにしている。
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専門店では巨大な焼き台を使い、棒を背中側に二か所刺して焼くようだ。
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ズラッと並んだコイ。一日に百匹以上を焼くこともあるとか。
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それにしてもコイの体高がすごい。だからこそ円盤型になるのか。
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最初は強火、表面が焼けたら弱火にして、一時間以上かけてじっくりと焼く。火加減はコイではなく炭を移動して調整しているようだ。
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マスグーフを注文すると前菜としてたくさんの料理が出てくるそうで、これもまたおいしそう。
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こんがりと焼かれたマスグーフ。確かに身の厚さが日本のコイとはちょっと違うかな。
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別の店の写真。専用の焼き網で火を囲むように焼いている。

斉藤さん、アリサさん、そして参加者の皆様、ありがとうございました。

また捕まえて焼きましょう。


知らない文化圏の料理は本当におもしろい。コイ料理といえば、洗い、鯉こく(味噌汁)、甘露煮あたりが思いつくけど、塩焼きでここまでおいしいとは思わなかった。一時間以上しっかり焼くからこその味なのだろう。

コイなのにマスグーフ。おいしいねと食べながら、ニジマスでほんとのマスグーフとか、ブラックバスでバスグーフとか、ナマズでマズグーフとか、いろいろやりたいですねという話をした。フグでフググーフもいいな。

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残った骨と皮を煮込んでスープをとり、味噌ラーメンにしたらすごくおいしかった。
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