買って帰ったせんべい、結局ほぼ全部食べた。止まらなくて困った。ただ、運搬途中で割れてしまってたりするものも多く、評判どおりの薄さを体現していた。
よく考えたら、途中であのオヤジにもらったせんべいは割れていなかったじゃないか。割れたからオマケ、ということではなかった。磯部でのせんべいめぐりは、結局よくわからない。
行く店行く店で、おまけやら気まぐれやら何やらでたくさん磯部せんべいをいただいた。よくわからない。
ここで途方に暮れる前に、そもそも磯部せんべいとは何なのかを説明しておかないといけないな。
突然だが、これは泊まった旅館での朝食だ。「温泉豆腐」に注目していただきたい。
「いいだろー、いいもん食べて」的な意図が、上の写真から ほの見えることをご容赦下さい。
この温泉豆腐、つまりは豆腐の浮いている液体が「温泉」なのである。磯部温泉は炭酸泉で、そのおかげで豆腐はふわふわのほろほろ。煮すぎると湯に溶けてなくなってしまうほどだ。
いや、豆腐がうまかった、という自慢じゃなくて、この温泉水が磯部せんべいの原料になっているって話なのだ。
温泉街の中心地で栄える「名月堂」さんを訪ねてみよう。
そう、この炭酸の強い温泉を、小麦粉と砂糖に混ぜて薄く焼いたせんべいが、磯部せんべいだ。似たようなせんべいは箱根や有馬温泉等にもある。
この温泉水、飲んでみたら塩分はかなり強い、が…「炭酸が入ってる気はあまりしないでしょ?」とおかみさん。「でも含まれてる炭酸のおかげで、膨らし粉なしでおせんべいが軽くさくっと焼けるんですよー」
なるほど、まるで重曹のようにせんべいの生地を押し広げて、薄く軽い食感にしているわけだ。つまり、薄いってことは・・・。
次に、店先で実演しているおせんべい屋さんを発見。近寄ってみる。
栄泉堂さんという、なつかしいたたずまいのお店。訳を言い、焼いてる様子を仕事場の中で見せていただいた。ありがとうございます。
ちょうど、お仕事の終わる4時をまわったあたり。9時から焼いて1日で2000枚ほど焼くという。
焼くとき周囲に残った「バリ」をとる作業が面白い。バリ取りって、いいよね。そして取り去った「バリ」をばりばりと食べたい。
焼きたてを特別にいただく。あちちち。熱いのはいいがまだやわらかく、まさに「湿気て」いる状態。やはり乾いてからのほうが、うまい。
ひととおり作業を見せていただいたあと、せんべいを買おうと、おかみさんのいるレジへ。東京から来たんです、と言うと、都会での暮らしのことから始まって、政治の怠慢にまで話が及んでしまった。話好きのおかみさんだ。
区切りのついたところでお勘定。すると、商品を詰め終わったあとも、机の上の缶からごっそりと「割れたせんべい」をつかんで、別袋に入れて渡してくれる。ま、また増えた!
「割れたのも食べられますからねえ」
・・・。またタダでもらってしまった。せんべい。
どうも行く店行く店でくれると思ったら、さっきのおかみさんの話にもあるように、磯部せんべいが薄くて欠けやすいという理由からでもあるんだな。製造工程で欠けてしまったものを、サービスしてくれるわけですな。
そうか、ということはまだまだ他にも店をまわれば、タダのせんべいがどんどん手に入る?!
と色めき立ったが、その後数店まわってもそんなことはなかった。それを調べるために店ごとに1品買っていたら、大量のせんべいが手許に残ってしまって、違う意味で途方に暮れた。
買って帰ったせんべい、結局ほぼ全部食べた。止まらなくて困った。ただ、運搬途中で割れてしまってたりするものも多く、評判どおりの薄さを体現していた。
よく考えたら、途中であのオヤジにもらったせんべいは割れていなかったじゃないか。割れたからオマケ、ということではなかった。磯部でのせんべいめぐりは、結局よくわからない。
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