結局なんの革に似てたのか
アボカドは革製品に似ている、と思って始めたが、いったいなんの革に似てたのか。動物園でいろんな動物を眺めて比べてみたけど、いちばん似ているのはワニかもしれない。それもそのはず、アボカドは漢字で鰐梨と書くんだそうだ。
植物の皮と動物の革では耐久性が違うのだろうけど、見た目では似たようなものができて面白かった。
標本作りは奥深いな。ちょっとはまってしまいそうだ。
参考文献
グリセリン浸透法による生物標本の作成/愛媛県立中山高等学校 小野榮子
”森のバター”なんて呼ばれている南国の木の実、アボカド。ねっとり濃厚な中身とはうらはらに、表面は黒くてごつごつしている。この皮、改めてよく見ると何か生き物の革のようだ。革といえば…、これでお財布でも作れないだろうか。
急に言われても何の話かと思う方もいらっしゃると思う。
でもほんとにアボカドと革製品は似ているのだ。改めてよく見てほしい。
ほら、似てる!似てるよね!??!
パッと思いつく共通点は、黒くて表面がごつごつざらざらとしているところ。さらに言えば、表面がしっとりしていて、もった時に適度な重さがあるところ。
よくよく見ると表面の模様は違うのだが、他人の空似にしては似ているほうだと思うのだ。
そうだ、このアボカドの皮を加工したら新たな革製品を生み出せるのではなかろうか!
…と思いついたその日にさっそくアボカドを買って、皮を洗って乾かしてみた。
イメージ的には、工芸品の”曲げわっぱ”のように、しっかり濡らして温めたら簡単に成形できるのでは!!!!…と思っていたのだ。
しかし、乾かしたら予想以上にカピカピになってしまった。ひび割れて変形してしまっている。手にとって力を入れると、まるで薄焼きせんべいのようにパリッ、サクッとした割りごたえ。
このか弱い素材ではたとえ湿らせても成形自体が難しそうだし、完成形も脆そうだ。なにより乾かした後の表面が革っぽくない。
残った種を捨てるのは忍びなかったのでなんとなく育ててみることにして、アボカド革のアイディアはいったんお蔵入りにした。
アボカド革細工の夢はほぼほぼあきらめかけていたのだが、先日とある標本作りの手法を知り、これならアボカドの加工ができるかもしれないと思ったので試してみた。その結果がこれだ。
めちゃくちゃかわいいお財布ができちゃったのだ。
完成にこぎ着けるまでの紆余曲折を紹介したい。
その手法とは、グリセリン浸透法という。なんじゃそりゃって感じだがこれがすごいのだ。
一般的に標本のイメージってカピカピに乾いているか液体に浸かっているかのどちらかだと思うのだが、グリセリン浸透法で作った標本は、表面は乾いているものの柔らかさを保った仕上がりになるらしい。すごい!ぴったりだ!
実際にやる作業としては、アボカドの皮を洗ってグリセリンに漬けて乾かすだけ。とってもお手軽だ。少なくとも牛の皮をなめすよりは簡単そう。
必要なのはアボカドとグリセリンだけである。
グリセリンは化粧水にも保湿成分として含まれている物質で、簡単に手に入れることができる。
アボカドも買ってきた。
冷静に観察してみると、アボカドのデザインって意表を突きすぎである。なんで真っ黒でごつごつの皮の中身が鮮やかな黄緑色のトロトロなんだ。ありえないことの例えみたいな果物である。
本来の手順でやるならば、①固定(腐らないように標本を処理する)、②浸透(標本中の水分をすべてグリセリンに入れ替える)、③風乾(表面が乾くまで乾かす)の3ステップが必要だ。
今回、①の固定に関してはアボカドの皮の色が抜けてしまいそうだったのでやらないことにした。この判断が吉と出るか凶と出るか…。
材料が集まったので、さっそく標本づくりを始めていこう。
最初に断っておくがここから先は全部手探りである。どきどきはらはら。
中身を食べた後はアボカドの皮をきれいに洗っておき、
表面の水けを取ったらグリセリンに浸す。
グリセリンはちょっとトロっとしていて、たとえて言うならべたべたしないガムシロップみたい。ちょうど水とガムシロップを混ぜたときと同じように、グリセリンに水分が混ざると境界がモヤモヤとして見える。このモヤモヤが見える間は、アボカド皮の中の水分が抜け切れていないらしい。塩梅がわからないのだが、時々ゆらしたりつついたりして一週間程度、モヤモヤが見えなくなるまでつけてみた。
するとこうなった。
これぞ毒、といった感じの見た目になってしまった。触ったら毎ターンごとにHPを削られそう。勇気を出して皮を取り出してみる。
拍子抜けするほどに普通のアボカドの皮だった。色が抜けてる!とかカチコチになってる!などの驚きはない。うまくいっているのか失敗しているのか判断がつかないのがもどかしい。いい感じの変化が起こっているのを祈って、表面をふき取ってから乾かした。
乾いたかな~と思っても、次の日には表面に液体がしみだしてくるのでふき取る。
これあってるのかな。もう全部やったことがない工程すぎて何をどれくらいやればいいのか謎である。
この不安の中突き進む感じ、去年の春にレシピをよく見ずにシュークリームを焼いた時の状況と似ている。よくわから~ん!と叫びながら焼いたシュークリームは全然膨らまず、アダムスキー型UFOのような物体になった。かちこちでクリームが入る余地がなかった。おいしくなかった。やばい、負の思い出に押されてどんどん不安になってくる。
終わりがないかに思えたが、1週間ほどで表面が乾いたようなのでこれで完成ということにする。
完成!もうわたしがルールだ。完成って言ったら完成!
それでは、グリセリンを浸透させた皮とただ乾燥させただけの皮を比べてみよう。
その差は歴然だ。全然違う。グリセリン皮はつやつやなのに対し、乾かしただけの皮はしおしおでゾンビみたいな表面になっている。
そして押したときのしなやかさも全然違うのだ!
想像以上の違いだ。こんなにうまくいくなんてびっくり!
アボカドの皮を革っぽくすることには成功した。あとはこれを加工して革製品っぽくしよう!そうだな、革財布なんてどうだろう??
革製品っぽく見せるためにはなんか金属のパーツをつけるとそれらしくなるんじゃないかな。と思ってチャックを1周ぐるりとつけることにした。
もう不安の峠は越えた。意気揚々と家にある接着剤のなかで最強っぽいやつを引っぱり出す。これでチャックを貼り付けたら完成♪
一晩放置し、そろそろ乾いたころかなと思って触ったらペロンと外れてしまった。
なんと全然くっついていなかった。グリセリンが皮によくしみ込んでいるせいか、あらゆる接着剤がくっつかなくなっているという衝撃の事実が判明した。
接着剤のせいではなくこの特殊素材のせいだ。どうしよう。つくはずだった接着剤がつかないと、人間のほうが固まるのだな。
もう接着剤でつけるのはあきらめよう!チャックは針と糸で縫い付けてしまえ!!
そんな紆余曲折を経て生まれたのが、このアボカド財布である。
わぁ~!できた~!!!
正解のわからない作業を積み重ねてやっとこさ成功までこぎ着けると、完成品への思い入れが深い。はたから見たらただのアボカドなので何も伝わらなさそうなのだが、作った側からするとこの財布を見ているだけで脳汁ドバドバである。
かわいい!かわいい!!はやくこのかわいい財布を使いたい。小銭を詰めて外に出るぞ。
アボカド財布を持って外へ出た。
行先に悩みながらとりあえず空に掲げたらシュールレアリスム風の写真が撮れた。
そういえば、アボカドの巨木が植わっているオモシロスポットがあると聞いたことがある。日本の気候ではうまく育たないはずなので結構珍しいのだ。都営新宿線の東大島駅からあるいて歩いて10分ほど、「梅の屋」さんという和菓子屋さんの前にその木が生えているそうだ。そうだ、そこに行って木の前で記念撮影しよう!!
蝉の声が降り注ぐ公園を抜けて、日影がない住宅街を抜けて、目的の和菓子屋さん前に到着した。お店の目の前には街路樹に混ざって何本か木が生えている。だがしかし、どれも巨木って感じではない…。というか、アボカドの木がみつからない。
和菓子屋さんの店員さんに聞いてみた。
「数年前のひどい台風の時にぽっきり折れちゃったのよ!だからもうないの!」
ひぇ~!木だよ木!しかも巨木!!そんな、タピオカ店でもあるまいし、来てみたら無くなってたなんて想像もしてなかったよ。とてもかなしい。
「折れたときすごかったのよ!折れた枝にアボカドの実がたくさんなってたの!」
うわぁ、それはぜひ見たかったなぁ。あと数年早くこれていれば…。
悔やんでいても仕方がない。せっかくなので切り株を見せてもらった。
アボカド財布の奥にあるのがその切り株である。幹の直径は20cmくらいか。うちで種から育てたアボカドの苗木はひょろっと細長いので、直径がこれだけ太くなる姿を想像できない。見たかったなぁ、巨木…。
うちにある苗木もこんなに大きくなったらいいな。あ、でも大きく育てるためには地面に植えなきゃいけないのか。土地が欲しい、そして土地を買うためのお金がほしい…。
ヘビ革の財布のように、アボカド革の財布にも金運アップのご利益があればいいのに!!
アボカドは革製品に似ている、と思って始めたが、いったいなんの革に似てたのか。動物園でいろんな動物を眺めて比べてみたけど、いちばん似ているのはワニかもしれない。それもそのはず、アボカドは漢字で鰐梨と書くんだそうだ。
植物の皮と動物の革では耐久性が違うのだろうけど、見た目では似たようなものができて面白かった。
標本作りは奥深いな。ちょっとはまってしまいそうだ。
参考文献
グリセリン浸透法による生物標本の作成/愛媛県立中山高等学校 小野榮子
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