身の回りの解像度をあげていこう
恥ずかしながら今までたくあんは「たくあん」として全て同じものだと捉えていたので、今回の食べ比べでたくあんの解像度が一気にあがった。ブラウン管から一挙にたくあん8K時代が訪れたのだ。
たくあん以外にも身近にあるのに解像度が低いままのものはけっこうあるだろう。今後もこうやってひとつづつ身の回りの解像度をあげていきたい。
雑誌「東京人」を読んでいたら巻末の東京のトピックスを紹介するコーナーに「20種類のたくあんを食べ比べできるイベント」が掲載されていた。しかも参加費は100円で破格だ。これは気になる。
そういえば今まであまりたくあんに注目してこない人生だった。お店でお新香が出てきた時も計算に入れるのを忘れてしまい気づいたらごはんを全部食べ切ったあと、ということも少なくない。
このあたりできちんと向い合っておこう、たくあんに。
やってきたのは山手線の大崎駅前。改札を出てすぐのところでイベントは開催されていた。
なぜ大崎でたくあんのイベントが開かれているのかというと、たくあんを考案したとされる沢庵和尚が開いた東海寺というお寺がここ大崎にあるからである。
このあたりについては後で詳しく書くとして、早速食べ比べをしていきたい。
最初にたくあんのお供としてお茶、ごはん、ワイン、日本酒のどれかを100円で購入すればあとは自由にたくあん20種類を好きなだけ楽しむことができるシステムだ。さらに100円払って追加のお供を頼むことも可能。
このお供で100円分くらいの価値はあるのでたくあんの食べ放題は実質タダである。お新香屋さんの店頭によく並んでいる試食を永遠に食べまくっている感じがしてちょっとした申し訳なさすら感じてしまう。
20種類のたくあんは
①しょっぱさ
②くせの強さ(ぬかっぽさ?)
③パリパリ感
の3項目を10段階評価で比較していきたい。
あくまで筆者の稚拙な味覚によるものなので、たくあんソムリエの皆さまにおいては異論もあろうがどうか大目にみてほしい。
それでは食べ比べスタート!
初手から「いぶりがっこ」という変化球だ。M-1決勝で1組目から敗者復活組が出てくるような先の読めなさがあるが、波乱の幕開け感もあって悪くない。
こちらのいぶりがっこは本当にスタンダードないぶりがっこという感じだ。100人に「いぶりがっこの味を想像してください」と伝えてその後にこのいぶりがっこを食べてもらったら98人は想像と味が一致するだろう。残りの2人はいぶりがっこを百貨店に売っている海外のお菓子(イヴリガッコ)か何かだと思っている人だ。
いぶりがっこは発酵文化が盛んな秋田県の名産品だが、豪雪地帯である秋田では収穫後に天日干しが出来ず囲炉裏の上の梁に大根を吊るしていたために、自然と大根が囲炉裏の煙に燻され、それを漬けることでいぶりがっこが生まれたという。地理的な条件が生んだ名産品だ。
このいぶりがっこはいぶすことによって独特の風味はもちろん味わえるが、ぬかのくせの強さはそこまで強くなく、両者のバランスが絶妙である。ごはんのお供というよりはお酒のつまみとしてちょうどよいたくあんだ。
またパリパリ感もかなり強く、食べていて楽しい。脇役になりがちなお新香だが、お新香のポテンシャルはそんなもんじゃないぞ!という主張をこのいぶりがっこからは感じた。
続いては名前の通り、米ぬかに三年間漬けこんだたくあんだ。他のたくあんに比べて長くじっくりと漬け込んでいるだけあって、ぬかの味がかなりしっかりと染み込んでいる。「石の上にも三年」という言葉があるが、たくあんの世界には「ぬかの中にも三年」という言葉があるんじゃないかと思わせるくらいには染み渡っている。
ぬかの味が強いということはくせも強めなので小さな子どもにはあまり向かないかもしれない。ただ逆にお新香好きやたくあん好きには好かれそうな味だ。
味わいとしては昔ながらの素朴なたくあんといった感じで、老夫婦が営む町の定食屋で出てきそうなたくあんである。ファミレスではまず出てこないだろう。
噛む度に米ぬかの風味が染み出してくる。それなりにしょっぱさもあり、これ一粒でごはんがかなり進む。昔ながらの素朴さと相まって、おばあちゃんちが想起される。今回食べ比べた20種類の中で最も懐かしさを感じる味わいであった。
これは食べた瞬間に衝撃が走った。めちゃくちゃすっぱいのだ。こんなたくあんがあるのか!
説明文を読むと「昔懐かしいすっぱいぬか漬け」とあるので昔はこのくらいすっぱいたくあんも多かったのだろうか。少なくとも20代の筆者は初めて出会うすっぱさで、たくあんがこんなにすっぱい予想を全くしていなかったので文字通り体が震えた。シゲキックスの一番すっぱいやつに匹敵するすっぱさだ。
すっぱさだけでなくぬかの風味もけっこう強い。すっぱさの衝撃がまずきて、次にぬかの風味が奥からやってくる感じ。
説明文には「『本当にお漬物が大好きで、漬物なしでは我慢ができない』という方に食べていただきたいほんまもんのたくあんです!」とあったので、私が知らなかっただけでこれがたくあんの真の姿なのかもしれない。
完全無添加、塩分控えめで体にも優しいたくあんということだが、分かりやすくするために今回はすっぱさもしょっぱさに置き換えて数値化していきたいと思う。
先ほどのNo.3はすっぱさに驚いたがこちらはかなりのしょっぱさだ。渥美半島に伝わるたくあん漬けということで、愛知県民はやはり濃い味が好きなのだろうか。
噛めば噛むほど塩辛さが押し寄せてくる。大辛の塩鮭を食べたときのような感覚だ。このたくあんは米ぬかと塩、なすの葉と柿の皮だけで漬け込んでいるそうで、ぬかよりも塩の要素が勝っている。まぁ保存食としてはこれが正解なのだろう。
しょっぱいのでこれだけでごはんが何杯も食べられそうだが、お酒のつまみとしてもかなりいけると思う。そういう意味ではとりあえずこのたくあんがあれば食卓も晩酌も乗り切れてしまうので万能の一品と言えるかもしれない。
しかもこんなにしょっぱくても発酵食品なので健康にも良いというのが嬉しいところである。ついついしょっぱいものを食べすぎてしまうという人はこのタイプのたくあんを常備しておけば塩分摂取量を抑えつつしょっぱさはしっかり味わえる。そういう意味でも万能だ。
徳島県の隠れた名物「いなかたくあん」こと阿波たくあんだ。徳島県にたくあんのイメージはないが、実は徳島県は大正~昭和初期にかけてたくあんの生産量日本一を誇っていた。品種改良によってたくあん専用の大根を作りこれがヒットしたのだ。
しかし昭和25年、このたくあん専用品種にウイルスが蔓延し壊滅的な被害を受けたことで徳島県のたくあん生産は激減。その後、たくあんの生産量は回復することなく、今では数えるほどのメーカーが細々とたくあん作りを続けている状況で、今の時代にはまさに「隠れた名物」となっている。
味はNo.3のたくあんと同様にかなりすっぱい。ただNo.3に比べると柑橘系のさわやかなすっぱさである。これは漬け込む米ぬかにスダチ果汁や柿の皮、トウガラシなどが混ぜられているからだろう。この柑橘系の酸味のおかげなのかくせに強さはあまり感じられない。
また歯ごたえはそこまでパリパリ感が強くなく、どちらかというとしんなり系のたくあんだ。ただしっかり噛み込んでいくとパリッとした芯は確かに存在する。
柑橘系の風味による軽やかさ奥に潜む芯の強さが阿波踊りを彷彿とさせる徳島県らしいたくあんだ。
今回食べ比べできた20種類のうち最も異彩を放っていたのがこのたくわんの煮付けだ。
せっかく作ったたくあんを煮付けにしてしまうという人間の好奇心には恐ろしさすら感じるが、実はちゃんと理由があって、漬け込みすぎて酸味が強くなってしまったたくあんを無駄なく食べるために生まれた逸品だという。日本人お得意のモッタイナイ精神だ。
でも今ではハナからたくあんを煮付けとして食べるための商品が売られているわけで、そういうことでいいの?と思ってしまう。説明文には「まず煮込みながら塩抜きして、」とあって、それたくあんのアイデンティティを大部分奪ってないか?
そんな疑いの眼差しを差し向けつつ、実際に食べてみる。口に入れてすぐは普通の大根の煮物で、「やっぱり!素直にブリと一緒に煮込んでおけばいいのに!」と思ったが、しっかり味わっていくとなるほどこれは「たくあんの煮物」としか言いようがない。
醤油やみりんで作られる煮物の味の奥からたくあん独特のぬかの風味がふんわり漂ってくるのだ。これは確かにたくあんを煮ないと得られない味だろう。
パリパリ感は全くなく、こんなのたくあんじゃない!という人もいるかもしれないが、「郷土料理としてのたくあん」という意味では100点満点の料理だと思う。「郷土」って「たくあんを煮ちゃう」とかそういうことだ。
これ本当に福井の家庭ではポピュラーな料理なのだとしたらきっとその家によって味付けが変わるのだろう。いろんな家庭の味を食べて回ってみたい。
こちらは見た目にもなじみのある黄色いたくあんだ。群馬県で作られており、関東だとこのタイプを食べる機会が多いのかもしれない。
甘味を強調した子どもも大好きな味付けだ。ごはんやお酒にはしょっぱいタイプの方が合う気がするが、この甘いタイプのたくあんはこれだけでずっと食べていたい。
小さいころに近所のお新香屋さんの試食でもらったたくあんをずっと口にいれて飴のように風味がなくなるまでしゃぶりつくしていた筆者にとっては懐かしい味だ。
この十文字たくあんは榛名山麓南面の十文字地区で収穫された大根を使用している。収穫後、乾かないうちに泥を洗い落として、1~2週間ほど榛名山麓を渡る寒風にさらして干すことで旨味がより強くなっているという。
大根自体の甘さを最大限に活かすために甘味が際立つような味で漬け込みを行っているのだろう。素材と加工の相乗効果が生み出す芸術がここにはある。
そろそろたくあんを見飽きてきたかもしれないが、まだ折り返し地点も迎えていないので粛々と進めていきたい。たくあんマスターの道のりは長い。
次は山形県のかみのやま温泉のたくあんだ。現在の山形県である出羽の国の地元民に沢庵和尚が伝えたとされる「たくあえ漬け」という保存食があり、これがたくあんのルーツという説もある。
かみのやま温泉協会では当時のレシピを元にして沢庵和尚が伝えた味を再現、かみのやま温泉の宿で提供されている。それがこの沢庵漬けだ。
で、これがすこぶるしょっぱい。塩辛いを通り越して単純に辛いレベルである。350年前以上前のレシピに忠実に作られており、食品添加物は一切不使用、ぬかと塩のみで作られた完全自然食品のため、仕方がないのだが、これはちょっとそのまま食えたもんではない。
温泉宿では出汁茶漬けのお供として提供されており、こうすると最高のお供になるという。確かにこの沢庵漬けひと欠片でお茶漬け1杯余裕で食べられそうだ。
ここまで食べ比べてきて、「昔ながら」とか「なつかしい」という説明の入っているたくあんはやりすぎなくらいしょっぱかったりすっぱかったりすることが何となくわかってきた。
よく貧しい家でごはんと味噌汁、あとはたくあんだけという描写があるが、昔のたくあんはかなりしょっぱかったので、過剰表現でもなんでもなく本当にたくあん1粒で茶碗一杯のごはんを食べることもできたのだろう。
たくあんをたくさん食べて思わぬ気付きを得た。
出ました練馬大根!筆者は練馬出身なので小学校の社会の授業はじめ「練馬大根」の名前をやたら耳にしたが、実際に食べたことがない、そもそも全然市場に出回っていない代物である。まさかこんなところで出会うとは。
せっかく出会いではあるが、残念ながら筆者はグルメ漫画の主人公のような繊細な舌は持ち合わせていないため「このほのかな甘みと鼻に抜けるわずかな辛み…!これこそが練馬大根!」といった感動は味わうことができなかった。練馬大根とはまた別な形で出会うことを期待しよう。
たくあんとして味については、口に入れた瞬間はあまりくせのない印象だったが、繰り返し噛んでいくとどんどんぬかの風味が溢れてくる。秘めたるパワーがあるたくあんだ。
かなりパンチのあるたくあんがたくさん並ぶなかでみると正直個性に乏しい印象は受けるが、良い意味でそつのないたくあんと見ることも出来る。東京産らしくアーバンで品のあるたくあんと言ってよいだろう。
ファミリーマートのお母さん定食の影響で「お母さん」の概念が揺らぎつつある今日この頃だが、こちらの母さんには古き良きお母さんの面影をしっかり感じることができる。
こぬか、塩、砂糖だけで漬け込まれたシンプルな製法で、味わいとしては素朴な味わいだ。ほんのり甘さはあるもののしっかりしょっぱさもある、そしてぬかのくせもけっこう感じられ漬け込みに使用されている3つの材料がしっかり主張をしている。
青森県のりんご専業農家で構成された芽女倶楽部のメンバーによって作られているという説明書きを読んだから心なしかフルーティーな後味も感じた。でも漬け込みに使っているのはこぬかと塩、砂糖だけだと書いてあるので気のせいかもしれない。
でももし普段りんご作りをしているお母さんたちの手に染み込んだりんごの香りがたくあんにも移ってるとしたら素敵やん?(急な島田紳助)
やっと半分だが同じようなたくあんの画像が続きおそろしく地味な記事になっているのでここで一旦食べ比べから離れてたくあんの生け花をご覧いただこう。
たくあんを使った生け花作品、その名も「薔薇と沢庵」だ。たくあんがいまだかつてこんなに映えたことがあっただろうか。(いや、ない)
このイベントは東京品川区大崎の「大崎たくあん会」、兵庫県豊岡市出石町の「宗鏡寺 沢庵夢見の会」、山形県上山市の「上山市観光物産協会」というたくあんにゆかりのある3団体が共同で実施している。つまりかなりたくあん業界として力を入れているといえるだろう。
生け花の後ろにある「夢」という字は沢庵和尚が辞世の偈として残したものだ。冒頭に書いたようにここ大崎は沢庵和尚が東海寺というお寺を開いた場所ということで「たくあん発祥の地」を標榜しており、沢庵和尚のお墓もここ大崎にある。(兵庫にもあるけど)
せっかく生け花で地味さがちょっと薄まったのにその次がお墓の写真でたくあんより地味さが増している。あがくのはやめてたくあん食べ比べに戻ろう。
これまでにない色味のたくあんだが、これは「日光ろばたづけ」と呼ばれるたくあんの種類だ。たまり醤油に漬け込んだいわゆる「たまり漬け」である。
正直これをたくあんとしてしまって良いのかと思う部分はあるが、まぁ大根を何かしらの液に漬け込んでいればたくあんの仲間ではあるだろう。「自分と似て地味なタイプだったのに夏休み明けに急に髪を染めてピアスまで開けて登校してきた友達」くらいの距離感だ。
味はここまでのものとはガラッと変わって、どちらかというと福神漬けに近い。やはり醤油がベースになるとそちらの味に引っ張られるようだ。
醤油漬けなので醤油のしょっぱさはあるのだが、ここまで大人しそうな顔してめちゃめちゃ塩辛いたくあんの洗礼を受けてきたので、この見た目でこのしょっぱさなら妥当、むしろたまり醤油の甘みがしっかり出ている印象を受けた。
また他のたくあんよりも薄くカットされているのも特徴的だ。噛んで味が奥からあふれてくるというよりは最初に口に入れた瞬間に味の濃さが一気にくる。これで厚みがあったらちょっとしょっぱすぎるのかもしれない。
先ほどのNo.11と似たような見た目のやつがきた。
実際味わいは先ほどのそれと大きく変わらない。ただ先ほどよりも漬け込みの度合いがあがっており、上位互換版といった感じだ。
もし日頃からNo.11のスライスだいこんを買っていたとしたら、ちょっと良いことがあった日に「今日はこっちにしちゃおう」とこちらを買いたくなるかもしれない。誕生日とか昇進とかそこまでのことではなく、例えばよく行くコンビニの店員にはじめて「いつもありがとうございます」と言われた記念とか、そういう時に。
ここで最初に買ったごはんが切れてしまったので追加のお供としてお茶を投入。
これまでの傾向からいって「元祖」などとつくたくあんは昔ながらの製法でかなりしょっぱいことが多い。経験を活かしてしっかり心の準備をしてから食べてみたのだが、意外にもこのたくあんは攻撃的な面が全くなかった。たくあん、一筋縄ではいかぬな…。
全20種類の中で最もスタンダードな味わいだ。No.7のたくあんと同様にどちらかというと甘みの強い漬け込みをしているがNo.7ほど甘くはない。ごはんのお供としてのたくあんの矜持を守りつつも誰もが食べやすいバランスを実現している。
なんというか食べていて安心する味だ。老若男女誰もに楽しんでもらいたいという作り手側のやさしさを感じられるような気がした。旨味のポイントとしては昆布エキスを添加することでコクを出しているという。
食べやすさという点においてはこのたくあんが1位だった。これが食卓にならんでいたら、延々と食べ続けてしまう。個人的にはかなり好きなたくあんだ。
No.8のかみのやま温泉のたくあんに続き2度目の登場となる山形県産のたくあん。無添加でやさしい味わいのたくあんに山形県産の紅花でほんのり色付けされている。
こちらはざらめ、酢、塩をベースに漬け込まれており、しょっぱさよりも甘さとすっぱさが際立つたくあんだった。甘みが強いので子どもが好きな味かもしれない。
しょっぱいものは数多くあるが、甘さとすっぱさが両立する料理ってあまりないような気がする。お新香に特有の味わいだ。もし今後、しょっぱいもの業界に再編の波が訪れたとしてもお新香はこの甘さとすっぱさの両立という軸で頑張ることで淘汰されずに生き残れると思う。
お新香の未来は暗くない!(たくあんを食べすぎてかなりたくあんやお新香に感情移入するようになってきた)
No.14と同様の会社は販売しているいぶしたくあん(いぶりがっこ)である。最初に食べたNo.1ぶりのいぶし系だ。
No.1を食べるときは「いぶりがっこ!スモーキーなやつ!」みたいな素人丸出しの向き合い方だったのに、14種類を食べ比べたあとだと「ほうほう、いぶしたくあんね…どれどれ…」みたいなスタンスになっている自分に気づき怖くなった。慣れって怖い。
そんな評論家スタンスで臨んだいぶしたくあん、これが食べて驚いた。いぶしたくあんなのに全然くせが強くないのだ。もちろんいぶした独特の風味はあるのだが、それが全面に押し出されるわけでもなく、あくまでも引き立て役に徹している。
同じいぶしたたくあんでもここまで違いが出るってすごい。No.14のやさしい味わいといい、もがみ物産協会の「みんなに楽しんでもらいたい」という想いがビシビシと伝わってくる。
いぶしなんだからもうちょっとくせがほしいという意見もあるとは思うが、こういう入門編的な商品がたくあんのすそ野を広げてくれていることは間違いないだろう。機会があったらぜひ食べてみてほしいたくあんだ。
残りあと5つ。もう少しだけお付き合い願いたい。
こちらは宮崎県で食べられているたくあん「日向(ひなた)漬け」。No.13も宮崎県産だったが、実は宮崎県は干し大根の生産量が日本一でたくあんの生産が盛んな地域だ。この日向漬けを販売する道本食品は日本で唯一の干したくあん専業メーカーでもある。
クラシックというだけあってどこか懐かしさを感じる醤油味で甘みが強い。しかしそれに負けないぬかの強さもしっかりある。栃木の日光ろばたづけは醤油の主張が強く福神漬け寄りになってしまっていたが、こちらはぬかの味が残っているのできちんとたくあんだ。「醤油風味のたくあん」という表現がしっくりくるだろうか。
もう一つ特徴的なのはパリパリ感の強さだ。パリパリ感が強いとたくあんらしさがアップすると同時に素材である大根の存在感も高まる。干し大根生産量日本一の宮崎県の誇りをこのパリパリ具合に感じることができた。
こちらもNo.16と同じ道本食品の商品。干したくあん専業なのでいろいろな種類のたくあんを販売している。
味はしょっぱさとぬかの風味のバランスがちょうどよいスタンダードなものだが、このたくあんはとにかく歯ごたえがすごい。同じ会社の日向漬けクラシックもかなりのパリパリ感だったがそれを上回る歯ごたえだ。パリパリというよりはバリバリという感じで煎餅でも食べているのかと思った。
このたくあんに使われている大根は干し専用の品種でその名も「干し理想」だ。なんだその無骨すぎるネーミングは。もはや哲学用語みたいになってしまっている。
もうちょっと夢のある名前をつけてあげてもよかったとは思うが、まぁそれだけ干されることに関しては自信のある品種なのだろう。干されてなんぼの大根だ。
また宮崎県では大根を干すときに大根干し専用のやぐら(大根やぐら)を使うことが多く、宮崎県の冬の風物詩にもなっている。道本食品のホームページにも写真が載っているのだが、これがそそり立つ壁のような迫力があってかっこいい。宮崎が西と東に分断されることがあったらその間の壁は大根なんだろうな。
ちょっと話がそれたが、専用の品種ややぐらまで用意して丁寧に育てた大根を使ったたくあんが美味しくないわけがないし、実際に美味しかった。そしてバリバリという音に、生まれながらに干されることを宿命として背負った「干し理想」の生き様を感じざるを得ない。
長野の上田地域で育てられている小ぶりな青大根「うえだみどり大根」を使った変わり種のたくあんである。
「うえだみどり大根」は大根部分も地表に出て育つという特性があり、光合成をおこなうために葉緑体を多く含んだ緑色をしているそうだ。地表に出てしまっていたらもはや根ではなく、それは一体大根なのか?とも思うがあまり理科には詳しくないので深堀りはやめておこう。
肝心のお味だが、みどり大根は青っぽさがあって、普通の大根よりも野菜を食べてる感が強い。ちょっとウリっぽさがあるのかな。
醤油ベースの味付けはあまりしょっぱくなくあっさりと食べられる。くせについてもぬかのそれはほとんどなく、むしろみどり大根のくせの強さ(青臭さ)が気になる。身体には良さそうだ。
みどり大根はパリパリ感も高く漬物には合うので、たくあんにこだわらず浅漬けのみどり大根の漬物も食べてみたくなった。
三浦半島のご当地タレントみたいな名前のたくあん。三浦大根といえば三浦半島を代表する野菜ではあるが練馬大根同様に近年はかなり出荷量が少ないようだ。
「三浦大」で検索すると、あと一文字なのに先に「三浦大知」「三浦大輔」がサジェストされてしまう。競合ひしめく「三浦大」界隈だが、ぜひ二人を抜く勢いで頑張ってほしい。
このたくあんは浅漬けで、くせは強くない。甘みが強くNo.7の十文字たくあんに近い風味があるが、こちらの方が大根の辛みが効いている。しょっぱさもあるのでごはんにも合いそうだ。
こちらの商品は通販を行っておらず、三浦海岸以外で食べられる機会がほとんどないらしい。
食べ放題コーナーの横で20種類のたくあんを購入することもできたのだが、この三浦まいるどだけは早々に売り切れていた。レア度でいえば20種の中でNo.1だったのかもしれない。
三浦半島に行く機会があったらぜひゲットしたい。
いよいよラスト。最後にしてなかなかに異彩を放つたくあんの登場だ。
こちらは文字通り自家製の味噌に漬け込んで作ったたくあんである。醤油に漬け込んだものは何種類かあったが味噌につけたものはこれしかないし、これまでの人生で見たこともないので味噌漬けは珍しいのだろうか。
でも確かに味噌に漬け込んで間違いなわけがない。日本人の身体と脳は味噌汁を旨いと感じるようにカスタマイズされているのだ。
色の濃さの通り、しょっぱさはかなり強い。しかしただ塩辛いだけではなく、味噌の旨味がしっかり染み渡ったしょっぱさである。内部までじっくり染み込んでいるので噛む度にしょっぱさと旨味があふれてくる。
これはごはんに合う。もしやごはんに合う度でいえば一番かもしれない。
パリパリ感は少なく、しんなり系のたくあんなのでお茶漬けにするのも良いかもしれない。いや、かもしれないとかじゃなくて絶対旨いな。
無事20種類のたくあんを食べ比べられたので比較をしてきた3項目について一覧表にまとめてみた。
正直食べる前はそんない違いがないだろうとたかをくくっていたが、こうやって比較してみるとそれぞれに個性があり、思った以上に味にも違いがある。
この中でどれが美味しいかは本当に人それぞれだろう。朝ごはんなのか夜ごはんなのか、お酒は飲んでいるのか、それともおやつで食べるのか、タイミングによってもナンバーワンは変わってくるはずだ。
個人的にはたくあんそのものではNo.7の十文字たくあんが一番お気に入りだったが、ごはんと一緒に食べるとなると宮崎県産ぬかたくあんがトップへと躍り出る。全体的にはしょっぱすぎないものが好みなようだ。
今回食べたのはたった20種類なので、全国にはまだまだ色々なたくあんがありそうだ。もっと自分にあうマイベストたくあんを見つけるべく、お皿の隅で頑張るたくあんにこれからもっと注目していきたい。
恥ずかしながら今までたくあんは「たくあん」として全て同じものだと捉えていたので、今回の食べ比べでたくあんの解像度が一気にあがった。ブラウン管から一挙にたくあん8K時代が訪れたのだ。
たくあん以外にも身近にあるのに解像度が低いままのものはけっこうあるだろう。今後もこうやってひとつづつ身の回りの解像度をあげていきたい。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |