運命の出会い
今回の記事の舞台となるのは、東京都日野市にある「平山城祉公園」という駅。
新宿から京王線で約1時間ほど、八王子にもほど近い、多摩地区の街です。
駅前のロータリーから見渡す範囲にコンビニはなく、2~3分も歩けば
こんな風景
が広がる、のんびりしたところ。
ここに数年前から、仕事の都合でたま~に行く機会があったのですが、先日、急に見つけてしまったんですよね。
僕の心をかき乱す「どうしても中が見てみたい! ここで飲みたい!」というお店を。
その店、この写真の中にあります
この中です
これでどうだ!
「あ、わかった~。右側のアパートっぽい建物の1階にあるんでしょ? もしくはその向かいの茶色い屋根?」
いやいや、そっちじゃないんです。
その手前の……
こっちなんです!
どうです? このコンパクトなかわいらしさ。
建物自体は、まぁ言ってみれば「プレハブ」ですよね。
しかしながら、ひさしの下に赤と黄のちょうちんがふたつ、植木がふたつ、心地よく配置され、どこか凛とした美しさがある。
窓から覗いても中はあまりよく見えない。
しかしどう見ても、もう潰れてしまったお店とかではなさそう。
息をしています。
あぁ、中がどうなっているのか知りたい! そして飲んでみたい!
はい、行き過ぎた探究心を抱えてしまった酒飲みの、悲しき性です。
で、まずこの日は時間が早かったこと、そして次の予定があったこともあり、心の中の「いつか行きたいお店フォルダ」にいったんしまってその場を立ち去りました。
その「いつか行きたい」がものすご~く強力だったんですよね。
何日か後「よし、今日なら行けるぞ!」というタイミングがあり、いてもたってもいられずに、再び現地へ。
2回目のアタック
とある夏の日の17時、僕は再び、平山城祉公園へとやって来ました。
あ、ちなみに、インターネットでおもてに書いてある店名を調べても、一切の情報は見つかりませんでした。
つまり、まだなんら手がかりのない状態。
とりあえず、酒場が開くとしたら17時くらいからの可能性が高いだろうと来てみたんですが、残念ながらひっそりとしており、営業開始の気配すらありません。
う~む、しかたない……。
張り込むか
お店の裏手を流れる川の対岸に小さなスーパーを見つけたので、そこで小腹を満たす軽食とドリンクを買い込み、しばらく待ってみることにします。
この位置なら、何か動きがあればわかるだろう
あ、ちなみに、気になってしまった方がいるかもしれません。
酒場張り込みのドリンクということで、士気を上げるためにお酒を選んでみましたが、別に「楽しみたい」という気持ちからではないので悪しからず。
トイレが近くなっては困るので、こういう時はストロング系が重宝しますね。
小腹を満たす軽食には、
「特製つくね」(298円のなんと3割引き!)
を選んでみました。
ではちょっと失礼して……プシュ! ゴクゴクゴク……ふぅ~。
つくねもモグモグ……うま! 軟骨のコリコリした食感がアクセントになって、肉がみっちりと食べ応えあって、チューハイとの相性抜群!
気分だったのであえてチンしてもらわなかったんだけど、こういうシチュエーションで食べる、冷めた惣菜ならではの「つまみ力」最高!
……決して楽しんでいるわけではありません。
それが証拠に、「このつくねのお肉みっちり感を読者のみなさまに伝えなければ」というジャーナリズム精神から、箸で割って断面を記録しておこうとしたところ、
全然歯が立たず、バキッと折れました
僕がこんなにも苦労をしているということをぜひ知っておいてください。
それにしても、水がきれいだな~
あのしげみ、ちょっとトトロっぽい!
いつの間にか富士山が見えてる! こんなに近く見えるんだ~
え! 飛行機が3機も!?
いや~、一生いれる、この河原
てな感じで張り込みをしていたら、時刻は18時15分。
対岸から見る限り、お店に変化は見られません。
が、実はこの日、あとにも予定が入ってしまっていて、この街にいられるタイムリミットは19時くらいまでなんですよね。
とりあえず、何かヒントが増えているかもしれないし、もう一度お店の前まで行ってみるか……
あ、やってるわ
ポンコツ酒探偵ここに極まれりといった感じですが、18時くらいに開いたんでしょうか。
そして無事、飲めました
結論、僕はこのお店が大好きになりました。
ただしこの日は、本当に限られた時間しかいられなかったので、さらに後日、あらためて訪問することに。
よし、やってる!
あんまりもったいぶっててもなんなので、そろそろこのへんで、どーん! と、お店の中の様子をご紹介しましょうか。
どーん!
と、このようになってました。
すごくないすか? この、外観からは想像できない充実っぷり。
中央に立派な木製カウンター、システマチックに構築された調理場、写真に写っていない手前側には焼鳥専用の焼き台まであります。
全体を覆うウッディーな壁材には、どこか「ロッジ」や「別荘」といった趣があり、必要最低限でありながら十分すぎる、いつまでも浸っていたい快適空間。
アップデートの痕跡が楽しい短冊メニュー
お酒のラインナップも充実
「わりいね、うちカップ酒しかないんだわ」とかいう感じでは、ぜんぜんありません。
ここかな~、特に好きなゾーンは
いよいよお店を堪能させてもらいます
よろしくお願いします!
この日は、多摩地区在住の若き青年編集者である友人M氏(手前)を誘ってやって来ました。
この人のどんな酒場にでも馴染み、店主や店員さんから気に入られてしまう「酒場攻略力」がすごいんすよね。
いや~楽しみだ。
ちなみに奥にいる男性、我々がハイボールを頼むと「マスター、こっちもハイボール! いや~、若い人が頼んでるの見たら飲みたくなっちゃったよ。わっはっは!」「失礼ですが、こちら、よく来られるんですか?」「いや、初めて」という謎の強者。
自分が言うのもなんだけど、よく初見でこの感じのお店に飛び込むな!
今日のお通しは「あぶらあげのネギはさみ焼き」
まずはビールで喉を潤していると、お通しがやって来ました。
前ページにも写真を載せましたが、ここ、お通しからしてすっごくちゃんとしてるんですよね。
手際よくあぶらあげを切ってネギを詰め、オーブンでさっと焼いて、ぱぱっとこういうものを出してくれる。
こりゃ~通いますよ、近所にあったら。
チューブにんにくがかわいい「馬刺し」
「ハイボール」、しっかり濃くて効きます
川からの風が建物の両サイドの窓を通って吹き抜け、BGMは秋の虫、極上に気持ちいぃ……
案の定マスターと打ち解けまくるM氏、頼もしいぜ!
名物の焼鳥もお任せで注文
この焼鳥が、妙~~~にうまいの!
「ねぎま」が4本に「ぼんじり」が2本、どちらも塩で。
ジューシーでプリプリなお肉自体が良いのはもちろんなんですが、焼き加減と塩加減が絶妙すぎるにもほどがあります。
なぜこんなに美味しい焼鳥が焼けるの?
っていうか、このお店なんなの!?
ここらでちょっとマスターから聞いたお話をまとめておきましょう。
・マスターは代々この街に住んでおり、自分で5代目。現在はおよそ80歳
・若い頃はいろいろ経験したが、この店を始める前は、線路の反対側の街道沿いで25年間、スナックを経営していた
・当初は居酒屋をやりたかったが、キャパ40人の大箱で、奥さんからの「スナックの方が楽なのでは?」という提案もあり、現在と同じ店名で開業
・その店は、東京薬科大学や中央大学多摩キャンパスの学生たちで連日大いに盛り上がった。当時の学生は「そろそろ帰れ!」というまで飲みまくるので、時間制にしないとさばききれないほどだった
・6年前、時代やご自身の年齢の関係もあり、この小さな居酒屋を開店
・内装は知り合いの大工さんとあれこれ相談して特注したもの
・当初は別の場所にあったが、2年前、川沿いのこの場所に建物ごと移転
・お客さんはほとんどが近所の常連さん。自分も遊び感覚で、楽しく営業している
・ちなみに今飲んでいるのは「サワー」
そして「なぜこんなに焼鳥がうまいか?」の疑問については、
・八王子でよく飲んでいた若い頃、好きな焼き鳥屋があり、毎日のように通いつめていたところ、そのお店の大将に「そんなに好きなら中に入ってみるか? 焼き方教えてやるよ」と、奥義を教わった
とのこと。
あんまり聞いたことない話ですよね。
他にも、「西八王子から八王子にかけて、バーが38軒しかなかった時代」のこと、立川にあった「フィンカム」というベース(アメリカ空軍立川基地)のこと、八王子の芸者文化のことなど、いろいろな話を聞かせてくださり、そのどれもがマスターの奥深い人生経験にもとづく、非常に楽しいものでした。
あげくに「熱海に入り浸ってたころはさ~」なんてワードも飛び出したので、通っても通っても話が尽きることがないことは、容易に想像できます。
あ、肝心の営業についてですが、お店は気分次第で開けており、休みも適当だし、常連さんで貸切のこともあるから、いつ来ても入れるというわけではないそうで、「わざわざ来てもらって開いてなったら悪いしね……」と、こういった情報サイトへの掲載については、最初は断られてしまいました。
が、自分がいかにこのお店に感激したかをお伝えし、「お店の情報は公開せず、ここですごした時間について書かせてもらいたい」とご相談したところ「ならいいよ」とのことで、今回のこのような記事になりました。
重複になりますが、そのような経緯で、詳細情報などは省略させていただきますので、ご了承ください。
さて! このあとも、
「美味しいレモンサワー」
「ウーロンハイ」に「スナック菓子」
なんか癖になる「ハイボール」ふたたび
などなど、ふたりして相当に飲み、とても良い時間をすごさせていただきました。
あ、そうだ、今さらですがこちらのお店、メニューに値段が一切書いてないですよね。
が、心配はご無用、この日はこれだけ美味しいお酒とおつまみを飲み食いして、ひとり3,000円。
はっきり言って安い!
なのにマスター、お会計時に「すいません……ふたりで6,000円になっちゃったんだけど……」と申し訳なさそうに。
いや、ぜんぜん高くないですし、そもそもふたりで6,000円にしたのは完全にこっち側の責任ですから!
人が良すぎますってば。
ごちそうさまでした!
というわけで、外観のインパクトに惹かれて入ってみれば、想像以上に身も心も満たされる名店との出会いでした。
自分の目の届く規模のお店で、常連さんたち相手に、好きな商売をするマスター、本当に憧れます。
どうしても気になるという方は、とりあえず平山城址公園駅周辺をうろうろしてみれば見つかると思いますが、その日に営業している保証はありませんので、何卒ご容赦ください。
写真を見返すたびに思う「夢だったのかな?」感
この記事を書いていて思い出しました。
そういえば、これまでにもいくつか、街を歩いていて、外観に惹かれてふらりと入った「プレハブ系」の酒場があったこと。
どこも、びっくりするほどに温かく、そして美味しいものに出会えるお店だったなぁ。
ひとつひとつにゆっくりと再訪しつつ、他にもまたそんなお店に出会えたらいいな、と思う今日このごろ。