特集 2018年9月4日

書類を「ドサッ」と置かれた苦労を味わう

お待たせしました、会社コントです
お待たせしました、会社コントです
ドラマなんかでよく、「これお願いね」と上司がドサッと書類を置いていくシーンがある。

あの書類はなんだろう。あれだけの紙をどうにかするのは、とても大変なんじゃないか。置いていかれたあとの苦労を味わってみよう。
1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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「量」ではなく「質」を追求した

たぶんこの出だしだと、書類の山に囲まれて仕事する絵が浮かぶのではないだろうか。こういうやつ。
「ワーカホリック・仕事中毒のイラスト」です
「ワーカホリック・仕事中毒のイラスト」です
テレビでよく見るのはこの状態だ。でもこの状態から全ての書類がなくなるまで、この人はどんな仕事をし、どれくらいの負荷をかけられているのか。その先を知りたい。

ドサッと置かれる瞬間ではなく、置かれたその後が大事だ。つまり今回の試みは、「書類の量」ではなく「理不尽なプロセスの質」を追体験するものである。

一生懸命言いくるめようとしているが、正直あれほどの紙を用意するのは大変なのだ。だってコピー用紙100枚の束って数センチしかないじゃないですか。なんだあの書類タワーは。地球に厳しいのではないか。
地球に優しいデイリーポータルZは、「ドサッ」という音をそのままに、書類の枚数を約100枚に抑えることに成功しました。
地球に優しいデイリーポータルZは、「ドサッ」という音をそのままに、書類の枚数を約100枚に抑えることに成功しました。
その代わり、書類の「質」にはこだわった。こだわったというか、僕もこの日初めて内容を知った。こちらである。
林さんが「チラシ PDF」で検索して集めた全国のスーパーのチラシ138枚、の白黒出力(節約して印刷したので小さくて見づらい)。
林さんが「チラシ PDF」で検索して集めた全国のスーパーのチラシ138枚、の白黒出力(節約して印刷したので小さくて見づらい)。
札幌とか静岡とか、全国のスーパーの8月末の特売がわかる。これはこれで一級品の資料だ。
札幌とか静岡とか、全国のスーパーの8月末の特売がわかる。これはこれで一級品の資料だ。
白黒で印刷されているので、てっきり1部をコピーしたのかと思ったら、全部違うスーパーで度肝を抜かれた。

上司は思いつきでものを言う

書類に対するエクスキューズが済んだところで、さっそく「書類ドサッ」のプロセスを追体験していこう。

いちおう全体の段取りは決めてあるが、ここは「思いつきでものを言う上司」を体験してもらうため、あえてゴールを明示しないで進行したい。ビジネスパーソンのみなさんには「うちの上司みたいだ!」とイライラしてほしい。
「書類が届きました~」
「書類が届きました~」
「すいませ~ん、さっき落としちゃって~」「しょうがないなぁ~べつやくちゃんは~」
「すいませ~ん、さっき落としちゃって~」「しょうがないなぁ~べつやくちゃんは~」
女性社員を気軽に「ちゃん付け」で呼ぶタイプの組織である。書類を持ってくる途中、廊下にバッサ~と落としたべつやくちゃん。ただかき集めてそのまま林課長に持ってきた。
「これよろしく」「えっ」
「これよろしく」「えっ」
林課長「天地を揃えてファイルにまとめといて」
林課長「天地を揃えてファイルにまとめといて」
そのまんま丸投げである。べつやくちゃんにやらせたらいいのに。林課長はべつやくちゃんに甘いのだ。べつやくちゃんもそれを知っていて、ちょっと舐めた態度を取っている。行列ができる店でランチを食べるため、昼休みに入る15分前に会社を出たりしている。
ブツブツ言ってもしょうがないので始めよう。数枚抜き出しては天地を揃えて横に置く。
ブツブツ言ってもしょうがないので始めよう。数枚抜き出しては天地を揃えて横に置く。
単純作業は繰り返すとうっかり集中してしまう。そんなつもりはないのに段々手際が良くなってくるのだ。一種のトランスである。
単純作業は繰り返すとうっかり集中してしまう。そんなつもりはないのに段々手際が良くなってくるのだ。一種のトランスである。
はい、揃えましたよ。これから穴を開けて……と思ったら、小さな穴開けパンチしかない。
はい、揃えましたよ。これから穴を開けて……と思ったら、小さな穴開けパンチしかない。
7,8枚しか入んないじゃんこれ。こういうところでケチるから全体の効率が下がる。
7,8枚しか入んないじゃんこれ。こういうところでケチるから全体の効率が下がる。
ちゃんと紙を揃えないと穴がズレるんだよな……え、卵1パック100円って安い。
ちゃんと紙を揃えないと穴がズレるんだよな……え、卵1パック100円って安い。
よーし、ファイルにまとめたぞ。
よーし、ファイルにまとめたぞ。
ここまで15分ほど。チラシを揃え、穴を開けてまとめただけなのに、すごくやり遂げた感がある。「いいものができたぞ」とすら思う。なんかこういうバイアスがあった気がする。
「しっかりまとめておきました」「ふ~ん」
「しっかりまとめておきました」「ふ~ん」
頼んでおきながら気のない返事だ。頼んだことを忘れている可能性すらある。
「牛乳の値段ってさ……スーパーによって違うよね」「そうですね」
「牛乳の値段ってさ……スーパーによって違うよね」「そうですね」
「じゃぁ牛乳の値段全部、まとめといてくんない?これ一回バラしてさ、べつやくちゃんと手分けしていいから」「えーーー!」
「じゃぁ牛乳の値段全部、まとめといてくんない?これ一回バラしてさ、べつやくちゃんと手分けしていいから」「えーーー!」
ちゃぶ台返しである。ファイルにまとめたのはなんだったのか。

会社って、しばしばこうした「最後の問題は5億点です」みたいな、ひな壇の芸人が全員立ち上がるレベルの「今まではなんだったの」が起こる。大人が集まってるのに。

チラシの字が細かくてダメージを受ける

せっかくまとめた書類をまたバラすことに。べつやくちゃんの分をこっそり増やして渡そう。
せっかくまとめた書類をまたバラすことに。べつやくちゃんの分をこっそり増やして渡そう。
チラシの中から牛乳を見つけて……
チラシの中から牛乳を見つけて……
表に「スーパーの名前」「牛乳のメーカー・商品名」「値段(税込)」を書き込む。書き込んだらチラシに「済」の判子を押す。
表に「スーパーの名前」「牛乳のメーカー・商品名」「値段(税込)」を書き込む。書き込んだらチラシに「済」の判子を押す。
書き込む対象はエクセルで作って印刷した表である。たぶんこのあとまた「最後の問題は5億点です」が起きて、表の中身をパソコンに打ち込んだりするに違いない。
黙々と作業が続く。思いつきで始まった作業なので、「低脂肪乳はどうしますか」とか「チラシ1枚の中に牛乳が2つあります」とかイレギュラーなケースも出てくる。
黙々と作業が続く。思いつきで始まった作業なので、「低脂肪乳はどうしますか」とか「チラシ1枚の中に牛乳が2つあります」とかイレギュラーなケースも出てくる。
たまにむちゃくちゃ字が小さいチラシがある。A3サイズをA4で印刷したパターンだ。番付表の序二段くらいのフォントの小ささ。
たまにむちゃくちゃ字が小さいチラシがある。A3サイズをA4で印刷したパターンだ。番付表の序二段くらいのフォントの小ささ。
ちょっとアゴもしゃくれるくらいツラい
ちょっとアゴもしゃくれるくらいツラい
IT化が進み、電子化!ペーパーレス!など声高に叫ばれている。だが、税理士さんや総務の方などは、今でも大量の領収書から数字を抜き出したりするだろう。まだまだアナログな現場もあるだろう。

面白半分でツラい目にあっているが、現在進行形でこうした仕事をしている人もいる。頭の下がる思いである。
一方、林課長は暇を持て余してTwitterを見ていたので、手伝ってもらうことにした。
一方、林課長は暇を持て余してTwitterを見ていたので、手伝ってもらうことにした。
「俺だって最初は工場配属だったんだから、これくらいはチャッチャとできちゃうんだよ」
「俺だって最初は工場配属だったんだから、これくらいはチャッチャとできちゃうんだよ」
そろそろちゃんと断っておくが、林課長もべつやくちゃんもフィクションである。どうか安心してほしい。
作業開始から1時間経過。終わりが見えてきた。本当に目がつらい。素で「ひ~」と嘆いた。
作業開始から1時間経過。終わりが見えてきた。本当に目がつらい。素で「ひ~」と嘆いた。
林課長「じゃ、最後に全部の合計出しといて」
林課長「じゃ、最後に全部の合計出しといて」
平均を取ると思うだろう。合計して終わりである。仕事をした気になるのに、全く意味のない数字なのが恐ろしい。ちなみに2万円くらいになった。
最終的に再びチラシと一緒にファイルに閉じる。
最終的に再びチラシと一緒にファイルに閉じる。
タイトルは「牛乳」にした。
タイトルは「牛乳」にした。
ファイルを一緒に持つと契約を締結したように見える、という気づきを得た。業務提携レベルの大きいやつ。
ファイルを一緒に持つと契約を締結したように見える、という気づきを得た。業務提携レベルの大きいやつ。
終えた。やりきった。達成感でいっぱいである。心地良い疲れがある。「じゃ、これから飲みに行こうか!」とアフター5に繰り出す気分もわかる。あの書類の山を片付けると、こんなに満たされた気分になるのだ。

それなのに、今日は何一つ利益を生んでいない。達成感と成果が比例しない。無だ。いったいどういうことなんだ。

アナログの良さとツラさ

表に埋められた数値の合計を出すなんて、エクセルなら一瞬である。でもアナログな作業なので、一人が読み上げて一人が電卓を打ったりした。声をかけあったりして、ちょっと楽しかった。「やはりITは人と人との繋がりを希薄するのだ」と、口が滑りそうになる。

でもやっぱり目がショボショボしたり肩が張ったりした。体がもたない。早くAIが仕事を奪ってくれないかな。
「いいものできたな~」とちょっと本気で思った。この後コピー用紙は裏紙としておいしく再利用させていただきました。
「いいものできたな~」とちょっと本気で思った。この後コピー用紙は裏紙としておいしく再利用させていただきました。
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