特集 2018年8月19日

黄身が白身で白身が黄身なゆで玉子(デジタルリマスター版)

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玉子を鍋に入れてゆでるだけ、というとってもシンプルな料理「ゆで玉子」ですが、なんと江戸時代の頃から秘伝とされている幻の調理法があるらしいです。

なんでも、その調理法を実践すると、完成したゆで玉子の黄身と白身が入れ替わってしまうんだとか……。そんな珍妙なゆで玉子、一度でいいから見てみたい!

2010年8月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
1975年群馬生まれ。ライター&イラストレーター。
犯罪者からアイドルちゃんまで興味の幅は広範囲。仕事のジャンルも幅が広過ぎて、他人に何の仕事をしている人なのか説明するのが非常に苦痛です。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。(動画インタビュー)

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幻の秘伝料理・黄身返しとは!?

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値段的には非常に安上がりだし、調理に手間がかかっているわけでもない、でも目の前にあったらちょっとテンションが上がってしまう。そんな身近なごちそう“ゆで玉子”。

おでんの具やラーメンのトッピングの中でも別格というポジションに置かれていますよね。
板東英二さんですよ、一応ね……
板東英二さんですよ、一応ね……
さて、近年において“ゆで玉子好き”といえばこの人。東京・大阪間の新幹線車内でゆで玉子6個完食してしまうというから、こりゃホンマもんです。

さすがにそこまで、ゆで玉子ばっかり食ってはいられませんが、ボクも結構好きですよ、ゆで玉子。

作るのも楽ちんなので、買いだめしておいた玉子の賞味期限がちょっとヤバイかな……という時には、バーンと一気にゆで玉子にしてモッシャモッシャ食べることにしています。
結構、腹持ちもいいので重宝してます
結構、腹持ちもいいので重宝してます
そんなゆで玉子ですが、シンプルな料理だけあって調理方法にあんまりバリエーションがありませんよね。

せいぜい半熟にするか固ゆでにするかを調節するくらい。あとは味つけ玉子にしたりとか……。まあ、そのまま食べるので十分美味しいから、特別な調理法を生み出す必要がなかったんでしょうけどね。

ところが、江戸時代から伝わる“幻のゆで玉子調理法”というものがあるらしいんですよ。それが「黄身返し」!
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普通のゆで玉子を切ると、外側が白身、内側が黄身という、このような断面になりますが……。
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「黄身返し卵」というのは、このように黄身と白身の場所が入れ替わっているらしいんですよ。

ウッソー、スゴイー!

にわかには信じがたいこの「黄身返し」ですが、突然変異のニワトリだったり、特殊な玉子を使用するわけではありません。調理する段階で一手間加えるだけで、このようなフシギなゆで玉子が作れるらしいのです。

まあ、『熱血!寿司職人物語・音やん』っていう漫画で読んだ知識なんですけどね。
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この「黄身返し」、料理漫画によくある「こんなの実現不可能だろメニュー」かと思いきや、1785年に刊行された江戸時代の料理書『万宝料理秘密箱』の中でも紹介されている、実在の秘伝料理なんだそうです。

それじゃあどうやってこんな珍妙なゆで玉子を作るのかというと、ゆでる前にカラに穴を空け、先の曲がった針を突っ込んで、グルグルかき混ぜるだけ。
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玉子の中をかき混ぜることによって、サラサラしている黄身は遠心力で外側に追いやられ、粘度の高い白身はクリップに巻き付いて内側に。その結果、黄身返しの玉子が出来上がるという理屈らしいです。

……それらしい話ではありますが、ホントにそんなに上手くいくんですかね?
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……ということで、実際に「黄身返し」に挑戦してみたいと思います。まずは生状態の玉子に穴をあけまして。
こんな感じで伸ばしたクリップを
こんな感じで伸ばしたクリップを
穴に突っ込んで中身をグルグルかき混ぜます
穴に突っ込んで中身をグルグルかき混ぜます
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手応えがほとんどないので、中身がちゃんと混ざっているのかどうかよく分からないのですが、とりあえずグルグルと10分くらいかき混ぜてみました。これくらいやれば十分じゃないですか!?

さっそくゆでてみると……。
おおっ!?
おおっ!?
あ……
あ……
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クリップで中をかき混ぜた結果、妙に黄身が大きなゆで玉子が出来上がりました。まあコレは黄身と白身が混ざっちゃったからでしょうね。

しかし肝心の「黄身と白身が入れ替わる」現象が全然起こっていません。あれだけやっても、かき混ぜ方が足りなかったの!? やっぱり「黄身返し」なんて幻なのか!?

余談ですが、この事前に中身をかき混ぜたゆで玉子、食べてみたら意外と美味しかったです。白身が混ざり込んだせいで、黄身の部分が普通よりもプルプルしてるんですよね。

固ゆでにした時のボソボソした黄身が苦手な人にはオススメですよ。……手間をかけてまで作るものかどうかは微妙ですが。
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意地でも作ってやるぞ、黄身返し

まんまと上手くいかなかった「黄身返し」作りですが、これくらいで引き下がるわけにはいきません。

江戸時代から伝わっている調理法はあまり気にせずに、独自の方法で「黄身返し」を作ることは出来ないものか……。

そんなことを考えていたら、みんな大好き東急ハンズでこんな商品を見つけました。
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“ちょっと不思議なゆで玉子”というキャッチフレーズが書かれたゆで玉子器「ドリームランド」。コレ、どんなアイテムなのかといいますと。
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星形やハート型など、普通では考えられないような不思議な形をした黄身のゆで玉子を作れるという便利グッズなのです!

ええーっ、どうやってこんなの作るの!?

この辺に「黄身返し」を実現するためのヒントが隠されているような気がしませんか?
キャラ弁の流行で、食材をカワイクできるグッズが増えているみたいです
キャラ弁の流行で、食材をカワイクできるグッズが増えているみたいです
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とりあえずこのドリームランドを使って“ちょっと不思議なゆで玉子”を作ってみたいと思います。

まずは黄身と白身を分離。
つづいて、白身のみを容器にズロローッと流し込む
つづいて、白身のみを容器にズロローッと流し込む
そして、このように星などの型がついたフタを
そして、このように星などの型がついたフタを
ガパッとはめ込みます
ガパッとはめ込みます
……なんとなく作り方が見えてきましたね。
それでは、容器ごと鍋に突っ込んでグツグツゆでていきますよ
それでは、容器ごと鍋に突っ込んでグツグツゆでていきますよ
なんというか、非常に実験感の強い調理方法ですね。とてもゆで玉子を作っている光景とは思えません。
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さてさて、10分程度ゆでて、フタを取り外すと……。
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キレイに星形の穴が空いた白身が!
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あとは、ここに黄身をズゾゾゾゾーっと注ぎ込んで再びゆでるだけ!
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ドーン!

なんか汚くなっちゃいましたが、とにかく黄身が星形をしたゆで玉子が完成しましたよ!

うーんと、この作り方ならば、黄身と白身を入れる順番を逆にすれば……。
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出来たっ! 黄身返し玉子! しかも白身がハート型!

……うん、一応、黄身が外側、白身が内側になっているとはいえ、ボクもさすがにコレで「黄身返し完成!」といえるほど強靱な精神力は持ち合わせていません。

コレを使うと、ゆで玉子っていっても円柱形になっちゃうしなぁ……。

でも、この「ガタガタいうヤツは型にはめ込んじまえばええんや!」的感覚は大いに参考にしていきたいと思います。
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そこで登場したのが、こちらの「うずらの卵」! 大きな玉子がムリならば小さいヤツで……という発想ではないですよ。
まずはこのように、カラに穴を空けまして
まずはこのように、カラに穴を空けまして
中身は取り出してしまいます
中身は取り出してしまいます
代わりに、ニワトリ玉子の白身を中に入れました
代わりに、ニワトリ玉子の白身を中に入れました
それをこのように、中身がこぼれないよう注意しながらゆであげると……
それをこのように、中身がこぼれないよう注意しながらゆであげると……
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形は少々いびつですが、白身の塊が完成!
玉子を立てるのに丁度よかったので、ひきつづき活躍中の「ドリームランド」
玉子を立てるのに丁度よかったので、ひきつづき活躍中の「ドリームランド」
さて一方、ニワトリ玉子の方もカラに穴を空けて、中身を取り出し、黄身だけをカラの半分くらいまでジュルジュル注ぎ込みます。
黄身がほどよく固まるまでゆでて
黄身がほどよく固まるまでゆでて
先ほど作った白身の塊をカラの中にグイグイ押し込みます
先ほど作った白身の塊をカラの中にグイグイ押し込みます
さらにカラいっぱいまで黄身を注いで……
さらにカラいっぱいまで黄身を注いで……
再びゆでる!
再びゆでる!
ウギャーッ!  なんだかとんでもないことになっていますが……。
ウギャーッ! なんだかとんでもないことになっていますが……。
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カラをむくと、確かに黄身が外側に!
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形は異常にボッコボコなこの玉子ですが、切ってみると……。
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ウオーッ! 中にはちゃーんと白身が!

外側が黄身で内側が白身! これぞ黄身返し! やったー!
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もうちょっとがんばってみます。
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意地でも作ってやるぞ、黄身返し

さすがは“秘伝”とまでいわれている料理、そう簡単には成功させてくれそうもありません。

しかし、ココで白状しちゃいますが、黄身返しのことをネットで調べている時に、最新型の黄身返しの作り方……というのを見つけちゃったんですよね。
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企画的には一応、自分なりの方法でやりたかったので、見ないふりをしていたんですが、ここまできたらそうもいってられません。

恥も外聞もかなぐり捨て、最新式「黄身返し」の作り方を参考にして、なんとか黄身返し完成を目指したいと思います。
ストッキングを買うのは少々勇気がいりました
ストッキングを買うのは少々勇気がいりました
さて、その最新式黄身返しをするのに必要なのが、ストッキングです。この方法は、京都女子大学の八田教授が考案したらしいのですが。
ボクの中のなにかが、ざわめき出してしまいそうなルックス
ボクの中のなにかが、ざわめき出してしまいそうなルックス
まずストッキングの足部分に玉子を入れて。
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ストッキングをギュウギュウとねじり上げて……。
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……と引っ張って、玉子を高速回転させることによって、遠心力で黄身の薄皮をぶち破り、黄身は外側へ、白身は内側へ……と移動させてしまう、ゴーカイかつ科学的な方法なのです。
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これだったら……これだったら遂に夢の黄身返しを実現出来るんじゃないでしょうか……。
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※調理中
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さてさて、高速回転で遠心力をグワングワンに与えた玉子。こいつをゆでたらどうなるのでしょうか。
あれ!?
あれ!?
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あらま?、キレイなゆで玉子が出来ましたこと……。回転が少なかったんですかね?

……ということで、今度は思いっきり何回も何回もグイングイン回転させてみたところ。
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ゆでてる間に、いきなりカラが割れ、中身が大爆発してしまいました……。

ウヒャー!

爆発した中身は薄い黄色で、白身も黄身もなくなっちゃってますし、今度は回転させ過ぎたんでしょうか……。回転しすぎて空気も混入しちゃって、加熱したら爆発したってところですかね。

いやあ、その辺の調節が難しい! 回転が弱すぎると、黄身の薄皮が破けずに普通のゆで玉子になっちゃうし、回転が強すぎると白身も黄身も混ざっちゃって、ヘタすりゃ爆発……。
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死屍累々……。もちろんちゃんと食べましたよ、思いっきり爆発してるの意外は……
死屍累々……。もちろんちゃんと食べましたよ、思いっきり爆発してるの意外は……
正直「いざとなったらストッキング使えばすぐに完成させられるだろう」くらいに思っていたんですけど……。なにコレ! ものすっごく難しいですよ!

いいかげん、玉子の食べ過ぎで気持ち悪くなってきたので、なんとかここらで成功させたいところ。

そこで、このストッキング法にボクなりにちょっとアレンジを加えてみることにしました。
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まず、最初の方法のように、クリップを中に突っ込んで軽くかき混ぜて黄身の薄皮をあらかじめ破っておく。

その上で、ストッキングを利用してほどほどに回転を加える……。

どうですこの、伝統の知恵と最新テクノロジーの出会い的調理法!

回転させる際に、黄身の薄皮を破るほどのイキオイは必要なく、遠心力で黄身が外側による程度の回転を加えればいいという。なんだかイケそうな感じがしませんか!?
おっおっ!
おっおっ!
これは……ッ!
これは……ッ!
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きたっ! 黄身が外側にある真っ黄色玉子! とりあえず遠心力は働いているということは間違いありません。そして、中身はどうなっているかというと……。
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うーん、うーん。ちょっと汚いけど……。セーフ!

ちゃんと内側に白身があるし! コレこそが黄身返し玉子だといってしまっていいでしょう! ……もう、この辺で勘弁して下さい。玉子を見るのもイヤになりそうです。

ハイ、終了!

幻はやはりなかなか手の届かないもので……

正直、もうちょっと簡単に作れると高をくくっていたんですが、予想を遙かにこえて思いっきり大苦戦してしまいました……。

何が難しいって、カラの中でどうなっているのか分からないものを微妙に調整していくのがホントに難しくてねぇ。

ちなみに、これだけ苦労して作った黄身返し玉子ですが、味はあんまりでしたね。やっぱり一回中身がグチャグチャになっちゃってるので、全体的に味がぼんやりとしているというか……。

ゆで玉子はやっぱり、外側がプリプリの白身、内側がホロホロトロリの半熟黄身というのが一番です。幻は幻のままでよかったのかな……。
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