そもそも、なぜこんな車になったのか
まずは2014年の記事のおさらいから始めたい。
車の持ち主である知念さんはこう言っていた。
2014年当時の知念さんとジャングルカー
・2008年に壊れていたエアコンの代わりに、涼しくなればと車の屋根を芝生で緑化した。
・いつのまにか草が根付き勝手にガジュマルやアコーまで育った。
・取り外し可能なのでルーフキャリアと同じ扱いで交通違反ではない。
・この車で走っていたら人に笑われまくるので、「こんな車乗れない!」と急に我に返って恥ずかしくて車に乗れない日もある。
・実際に芝生で緑化したあと1年間は元に戻していた期間がある。
正直どこから突っ込んでいいのかわからないが、知念さんの思いつきがとんでもないことになってしまった愛すべき車である。
そして緑化を始めてから10年になる今年、車の本体であるトヨタスターレットが7月末で車検切れになり、年季の入った車なので修理部品もほとんどなく、これ以上は維持ができないので車検の更新をしないと決めたそうだ。
知念さんとしてはこのままの状態で引取先を探しているがまだ見つからないし、もしかすると廃車にするかもしれない、とのこと。
車検切れ1週間前に行われた「さよならジャングルカー。ラストラン一週間前・みんなで乗ろう!笑われよう!」イベントの模様とともに、ジャングルカーのいく末をお届けしたい。
みんなで乗ろう!笑われよう!
車検切れになる1週間前の日曜日、知念さんの呼びかけでジャングルカーに乗ってみる会が開かれた。
その名も「さよならジャングルカー。ラストラン一週間前・みんなで乗ろう!笑われよう!」
知念さんに鍵を借りてジャングルカーを運転しているという企画である。
最後に車に乗って笑われる感覚をぜひ味わって!という話である。
ちなみにfacebookページで募集をかけたのだが、実質応募があったのは3組。反応はあったが応募してくる人は少なかったらしい。
わたしは以前の取材時に助手席に乗せてもらったことがあるので、今回は夫と息子を送り込んだ。
後部座席は相乗りのSさんご夫婦
TVの取材もきていた
「いってらっしゃい!」愛車を見送る知念さん
夫たちがどんな顔をして帰って来るかは後にして、戻ってくるまでにこれまでのジャングルカーの軌跡を知念さんに改めて伺った。
ジャングルカーの軌跡
ジャングルカーがはじまったのは2008年。最初は知人から譲り受けた車のクーラーが壊れていたので、少しでも涼しくなればと屋根を芝生で緑化する計画だった(そのアイデアもすごいけど)。
2008年。すべてはここからはじまった。でもあまりに人から笑われるので恥ずかしくなってこの後1年ほどやめていたそう
2013年。芝生の上に、どこからか種子が飛んできて花畑になった
2014年。この形態になってから
2回目の車検。本当に取り外せるのだ!
2015年。日本縦断の旅
2016年。ガジュマルの根っこを土に降ろす作戦開始
2017年。屋根に穴が開く
そして2018年現在
取材以降のこと
――まずは2014年に車検を受けるのでジャングル部分を取り外しましたよね。
運転に不自由はないけど、唯一高速には乗らないでおこうと決めていて。大丈夫だとは思うけど何かあったら大変だから。だから車検で取り外したときは高速に乗る素晴らしさを味わったよ。この車に乗ってるのに目的地にすごく早く着くんだと驚いた!正直あのままやめたい気持ちもあったけど、まわりからのプレッシャーがすごくてやめられなかった。
――2015年は日本縦断の旅に行ったんですね。反応はどうでしたか?
やっぱりね。沖縄の人はもう見慣れているじゃない。笑われるのも、指を指されることも少なくなってきていたんだけど、日本縦断は久しぶりの感覚だった。みんなこの車を見ると目が点になってね。約1ヶ月かけて鹿児島から秋田まで周って地域行事や学校に訪問して。この車のおかげで、たくさんの子供の笑顔や良い出会いがあったのでとても良かったですよ。
山形県村山市役所のみなさんに歓迎を受けるジャングルカー
――2016年の車検は受けないかもっておっしゃってましたが、車検は受けて代わりにガジュマルの根をおろす作戦を開始したんですか?
日本一周の前に、いろいろ修繕したのでもう一回車検は通すことにしたんだよ。でも、2年後はもう無理だろうと。
廃車にするよりは、せっかく育ったジャングルをどうにか残したくて。この車のままでどこかに寄贈できないかと考えた。 僕は水を3時間か4時間に1回はかけているんだけど、それを譲渡先の人にお願いはできないな、と。大変でしょう。
だから水やりをしなくてもガジュマルが生きていけるように、根っこを下に伸ばそうと思って。濡れたタオルで誘導したらちゃんと下に伸びたんだよ。
現在のガジュマルの根っこ
本当に地に着きそうになっていてすごい
――2017年はとうとう屋根に穴が空いちゃったんですね
雨の日に仕事に行くために車に乗ろうとしたら、運転席の足元が浸水してたんだよ。慌ててちりとりで水をすくって出して。今の車じゃ電気系統がダメになるだろうけど、昔の車だからね。ちゃんと動いた。でも違う日に会社から帰ろうと思ったらその日も浸水してて。ちりとりを探しても見つからなくて。しょうがないから、その日は浸水しながら爪先立ちで運転して帰ったよ。
――危ないですよ!(笑)
今はちゃんと穴を塞いだから大丈夫!
これからの譲渡先は?
――そしてもうすぐ車検切れになりますね。譲渡先は見つかったんでしょうか?
7月初旬に琉球新報と沖縄タイムスの両紙に記事を出してもらった。
「ジャングルカーもらいませんか? 知念さん、引き取り手募集(琉球新報)」。
そうしたら3箇所からぜひ欲しいという問い合わせが来て。これから直接行って場所を見て、譲渡希望の方と話してこようと思っている。
――おおお。じゃあ廃車にはならず、これからもどこかでジャングルカーは生き続けられそうなんですね!
そうだね!
――でももう車検切れまではラスト1週間ですね。いまの心境は?
やっぱり寂しさがある。ジャングルカーはいろんな花が咲いて四季の移り変わりがわかったから。
これからはただの
鉄の塊に乗るんだなーと思うとね。情緒がないよね。
春には花が咲き
涼しくなったらススキが揺れる
――たしかに味気ないなぁと思いましたが、普通の車はそうですからね。
物足りなさを感じるかもしれないね。
――じゃあ、また二代目ジャングルカーなんてことも?
いや、それはない。人に笑われるのはもう終わり!
試乗組が帰って来ました
そんな話をしていたらなんだかんだと時間が経ち、夫たちが乗ったジャングルカーが帰って来ました。
夫とS夫妻によると、マクドナルドでドライブスルーをして、国際通りを走りたかったけれど歩行者天国「トランジットモール」で行けず残念だったと。
でも車で走っているだけで注目を浴びたり、手を振られたり、声をかけられたり、コミュニケーションが生まれる車は大変楽しく、癖になりそう!とのことだった。
ドライブスルー
「人に見られたい欲求が出てくる。でも、今日はお祭りなテンションだったからで、日常で乗る勇気はない」という言葉には、知念さんも静かに頷いていた。運転した人にしかわからない感覚なのだろう。
ジャングルカーは古宇利島で生きていく
試乗イベントが終わってから知念さんは譲渡先希望の3箇所を周り、無事に譲渡先が決定した!
ジャングルカーは今帰仁村にある「古宇利島」にあるハートロック近くの駐車場に譲渡することが決まったそう。
以下は知念さんのコメントである。
駐車料金が一日停めて100円というとんでもないところです。
その駐車場には柵や、ゲートなどは一切ありません。料金を徴収する人もいません。アイスクリームや軽食などの売店があるのですがそこの壁に料金箱が設置されていてそこに入れる形式で、そこで何かを購入された方は無料で、さらに自販機でドリンクを購入された方も駐車料金は無料なんです。
浦崎さんという方がオーナーさんです。地元の地主さんなんですがとても大らかな人物でした。
貸しビーチサンダルが置かれていて、幾らかな?とみると無料でした。
蛇足ですがシャワーは200円でした。でも、そのすぐそばに水道があって長いホースが付いていたのでそこで洗う人もいるでしょうね(笑)
その駐車場を見渡せる一段高い場所に浦崎さんは植物を植えるスペースを作っておられて、そこに木を植えたいと考えていて「二本の木が一体になった木を探していたんです。ハートロックを見に来られた皆さんが幸せな気持ちになってくれたら良いなと。でも、なかなかそういう木は見つからなくて」
この後に彼は僕たちの心を鷲掴みにする一言を発したのです。
「ジャングルカーを愛の象徴にしたいんです」と。
風貌からはとてもそんな言葉を言いそうな方ではありません(失礼!)
息子さんが近くでペンションをやっていて、駐車場の売店等も親族で切り盛りされていました。
彼がジャングルカーを置きたいと考えている場所の少し上からは、遠く海に浮かぶ伊平屋・伊是名島が見えます。ここでジャングルカーが、ガジュとマルゥが大きく育っていく様子が僕たちには見えました。
パブリックスペースではありませんが、ここが落ち着く運命だったような気がしていますし、これからジャングルカーがここをパブリックスペースにしていくのかも知れません。
ということで、屋根がジャングルになってしまった不思議な車は沖縄の北部にある古宇利島という島(橋でつながっているし、美ら海水族館からもわりと近いぞ!)で生きていくことになった。
「取り外せるんだから新しい車に移植したらいいのにー!」と最後まで言っていたわたしに、知念さんは「数年前に比べてだんだん草木の元気がなくなってきているからね。そろそろちゃんと土から栄養をもらわないとかわいそうだから」と教えてくれた。
その言葉やジャングルカーを見つめる目がもう親のそれで、それ以上何も言えなかった。
クーラーの代わりに屋根を緑化したら、どこからか草木の種が飛んで着て芽吹き木々が育ったジャングルカー。もう風を受けて走ることはないが、今度は大地に根をおろして生きていくのだ。全体的にどこかおかしいが、愛に包まれていてなにがなんだかわからない。