特集 2018年8月7日

幽玄的な畑の夜景 防蛾灯は夢の中のような美しさ

山の斜面に沿って遥か彼方まで光が散りばめられている。
山の斜面に沿って遥か彼方まで光が散りばめられている。
夏には匂いがある。夏になると独特の香りが辺りにたちこめる。たぶん草の匂いとか土の匂いが入り混じったものだと思う。そして、この匂いがする時期になると、とある場所でロマンティックが止まらない幻想的な光の芸術が広がっている。

それはどこかと言うと…なんと、畑だ。

畑でロマンティックが止まらないなんて、にわかには信じられないかもしれない。しかし畑がロマンティックとは程遠い…というのも単なる思い込みに過ぎないのだ。
1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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> 個人サイト オカモトラボ

ロマンティックな畑へ行こう

一口に畑と言っても色々ある様にロマンティックが止まらない畑は、どこにでもあるものではない。

細かい解説は後にして岡山県赤磐(あかいわ)市へ向かおう。
赤磐市は岡山市中心部から車で40分くらいの所にある。
赤磐市は岡山市中心部から車で40分くらいの所にある。
赤磐市は岡山市の北東に位置していて岡山市のベットタウンという様相の街だ。桃鉄でモモトラマンが出てくるのが大体このへんだ。実際にモモトラマンは出てこないが白桃の栽培が盛んだ。
赤磐市の市街地から程近い鴨前(かもさき)地区という所。写真の中央は桃の畑。遠くには赤磐市の街が見える。
赤磐市の市街地から程近い鴨前(かもさき)地区という所。写真の中央は桃の畑。遠くには赤磐市の街が見える。
わざわざこんな所まで来てはみたものの、実はこの場所がロマンティックな畑としてそこまで有名ではないと思う。誤解を恐れずに言えば何の変哲もない畑だからだ。観光地やスーパーもないので近隣の人であろうとも大半はこの場所の地面を踏むことなく一生を終えるだろう。

しかし、そんな何の変哲もない桃畑に来た理由、それは、
この木々の間に屹立する街灯みたいなものにある。
この木々の間に屹立する街灯みたいなものにある。
これらを「防蛾灯」という。

防蛾灯とは、読んで字のごとく、蛾を防ぐ灯(ともしび)だ。

なぜ蛾を防がなければならないのか。実は果物栽培において蛾は大敵なのだ。
このように蛾が果物の汁を吸うとこの様に変色し、価値が大きく下がってしまう。
このように蛾が果物の汁を吸うとこの様に変色し、価値が大きく下がってしまう。
そこで考えられたのが防蛾灯である。
一晩中太陽に近い光を放って蛾を追い払う。
一晩中太陽に近い光を放って蛾を追い払う。
蛾は天敵となる鳥などに見つからないよう夜行性で、太陽の光には近づかない。この習性を利用している。

この赤磐市鴨前地域は白桃の栽培が盛んであると同時に、かなり早い時期に防蛾灯が導入された。

防蛾灯も年々進化してきているので最近では少ない本数でも十分に蛾を防ぐことが出来る様になっている。そのため、ここ鴨前地区の様にたくさんの防蛾灯が見られる場所は貴重なのだ。

夜になるのを待つ間、大きな桃を見に行こう

防蛾灯が点灯する夜まで待たなくてはならない。繰り返しになるが、周囲は畑なので時間を潰せる所はない。

手持ち無沙汰にスマホをポチポチいじっていたが飽きてきた。

この日は凄まじい暑さなので出来れば動きたくなかったが、以前から気になっていたあれも見ておこうと思う。防蛾灯だけではネタとして弱いかもと気付いたからというのは内緒だ。
先程から反対側の山の上にスキンヘッドの様な物体が見えている。
先程から反対側の山の上にスキンヘッドの様な物体が見えている。
道が見つからずウロウロしたが、やっと正解っぽい階段を見つけた。
道が見つからずウロウロしたが、やっと正解っぽい階段を見つけた。
草が生い茂っていてあまり人が通っている様子は無い。
たどりついた。…なんだ、桃が落ちているだけか。
たどりついた。…なんだ、桃が落ちているだけか。
よく見ると、桃の色に塗られたガスタンクだ。
よく見ると、桃の色に塗られたガスタンクだ。
写真だと迫力が伝わらないが、実物を目の前にすると見上げる様な大きさ。それに山の斜面に何の脈絡も無く現れるのでとにかく異物感が凄い。

ビルのような四角い建造物だと何も感じないが、こういう変わった形で巨大な物は近づくと底知れない怖さがないですかね?ないですか?そうですか。

という事で、思いのほか時間が掛かってしまったが元居た場所に戻るとしよう。

ついに防蛾灯が点灯する

元の場所に戻る。ずいぶんと暗くなってきて、道すがら防蛾灯がチラホラとつき始める。
元の場所に戻る。ずいぶんと暗くなってきて、道すがら防蛾灯がチラホラとつき始める。
歩いていると山のほうから少し涼しい風が吹き降ろしてきて、カナカナカナ…とヒグラシの鳴き声も聞こえてきた。花火大会の会場に向かっている様な気分だ。花火なんてもう何年も見ていないけど。

それでは、防蛾灯が点灯してどうなったか、まずは先程の明るい状態と比べてみよう。
昼間のこれが
昼間のこれが
こうなっていた。おお!
こうなっていた。おお!
あぜ道に入っていくと光に囲まれる。インスタ映えは間違いない。畑だけど。
あぜ道に入っていくと光に囲まれる。インスタ映えは間違いない。畑だけど。
実は数年前の普段通らない山道を通っていたところこんな風に煌々と輝く畑が現れたのだ。それから防蛾灯の虜になってしまった。しかし、こんなにも綺麗なのにほとんど知られていない。現に僕が防蛾灯の綺麗さを力説しても「なにそれ」というリアクションしか返って来た事がない。

こうしてウロウロしていると、軽トラックがゆっくりと近づいてきた。もしかして入ってはいけない場所にでも入って怒られるのかとドキドキしていると、ドア越しにお父さんのしゃべりかけられた。

「撮影なら明日のほうが良いかもしれん。ドローンが撮影に来るから明日は全部点くで。」
それだけ言い残すと去っていったお父さんの軽トラック。情報ありがとうございます。
それだけ言い残すと去っていったお父さんの軽トラック。情報ありがとうございます。
確かに桃の最盛期よりちょっと早かったからか、防蛾灯は所々点いていない所もあった。

それにドローンが撮影に来るという事は、僕が知らない内に防蛾灯の人気も高まっているのかもしれない。

せっかくなら綺麗な状態を見たいのでこの日は出直すことにした。

街の夜景のように、畑の夜景も楽しもう

ひやー、すごい。点いてる、点いてる!
ひやー、すごい。点いてる、点いてる!
翌日出直すと、お父さんの言葉通り昨日より光の数が2割ほど増え、迫力も増していた。

真っ暗な山あいに煌々とした光で満たされた畑があり、山の底に光が溜まっている様な不思議な光景だ。

僕が歩くスピードに合わせて、遠い光はゆっくりと、近くの光は少し早く流れていく。まるで3DCGのように畑の斜面の形状が浮かび上がる。そんな3DCGが眼前一杯に広がる様子は、まさに光の大スペクタクルだ。
光は全て同じオレンジ色。たぶん蛾が嫌がる色なのだろう。
光は全て同じオレンジ色。たぶん蛾が嫌がる色なのだろう。
防蛾灯の光はロウソクの炎や松明に似た色だが、ロウソクや松明の炎とは何かが決定的に違う。違和感があるのだ。違和感の原因を考えてみると、全くゆらいでいない事だと気が付いた。
そして半径1キロ以内に誰もいないのでは?と思うくらい人の気配はない。
そして半径1キロ以内に誰もいないのでは?と思うくらい人の気配はない。
真っ暗で誰もいない中、一定の光を放つ光源に囲まれると不思議な感覚に陥る。どんどん現実感がなくなっていくのだ。ありきたりな表現だが「夢の中にいる様な」というのはまさにこんな感じではないかと思う。

ただ、身体にジットリとまとわりつく様な不快な暑さと、遠くから聞こえるケッケッケッケッケッ・・・というカエルの鳴き声だけがかろうじてこれが現実だという事を認識させてくれる。
少し離れた場所から。山の向こうは市街地だからか空が明るい。
少し離れた場所から。山の向こうは市街地だからか空が明るい。
こんなにも綺麗な光景にも関わらず(たぶん)あまり誰からも注目されることもなく、賞賛を受けるわけでもない。ただ蛾を追い払うという目的の為にひたむきに頑張っている。

そんな飾り気のなさと、それに反しての綺麗さが防蛾灯の魅力なのだ。

機会があればぜひ一度は見ていただきたい。

結局、ドローンの撮影は来なかった。ドローンは大きな騒音がするので、飛んでいればすぐに分かると思ったが、薄暗い時間から夜中まで粘ったけど結局現れず仕舞いだった。

代わりに大きな鳥の様な物が飛んでいたのだけど、鳥にしては動きがぎこちなく違和感があった。あれは何だったのだろう。こんなタイプのドローンもあるのだろうか。
カメラを構えるとどこかへ行ったので、結局撮影もできなかった。
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