イラスト vs 人相学
イラストの顔を人相学で占ってほしい。そんな素っ頓狂なお願いを聞いて下さったのは帯谷更弥佳さん。
帯谷更弥佳さん(左)。普段は京都にお住まいとのことで、最初この企画のために上京してくださったのかと思ってアワアワした(ちょうど東京で仕事があったそうです)
帯谷さんの本業は占い師ではないのだが、「人が好き」な気持ちが高じて、人相学の流派である「開運未来流」を学び、免許皆伝となったそう。
対するイラスト担当は、イラストレーターの新里碧さんと、当サイトのライター・トルーさんだ。
お二人には事前に「架空の人物のイラスト」を描いてもらい、「職業や性格などの設定」を考えてもらった。これを帯谷さんに見てもらい、人相学の観点からコメントしてもらう。
撮影前日。できあがったイラストを送ってもらったのだけど、その出来にひっくり返った。
イラスト・新里碧
イラスト・トルー
トルーさんには男女2枚描いてもらいました
うまい……! お二人ともさすがである。特に新里さんのスケッチは「誰なんだ!」と声が出た。本当に架空の存在なのだろうか。どっかにいるだろう、この人。
人相占いの前に、どんな設定でこの人物を書いたのか聞いてみよう。なお、先入観を抱くことを避けるため、設定を聞くあいだ帯谷さんには別室で待機してもらった。初顔合わせ後、ものの10分で一人きりにしてしまいすいません。
30代商社マン。仕事とプライベートに悩みを抱える独身貴族
改めて新里さんの絵のクオリティの高さである。Googleでそれっぽい顔のパーツを調べて繋げたそうだ。ネット時代のモンタージュである。
「普段のイラスト仕事では描かないタイプの絵」とのこと。描きながら4時間向き合ったので、すっかり感情移入してしまったらしい。
・30代前半の男性。職業は商社マン。入社5~6年目
・地方出身で東京の大学に進学し上京。
・エリートかつモテて、入社後は合コンなども盛んでかなりの遊び人だった。
・しかし年齢を重ね、誘われる頻度も減ってきた。モテ期が終わり始めていることに焦りを感じている。
・長く付き合った彼女がいたが、彼の遊び癖が原因で別れた。今思うととてもいい彼女だったので、彼女以上の恋人を探さねばと思ってしまう。
あまりのディテールに、再びの「誰なんだ!」である。
結婚する同期も現れはじめ、改めて自分の身の振りを見つめ直す時期なのかもね……と思っていると、このディテールがまだまだ続く。彼には仕事の悩みもあるのだ。
覚えきれなくてメモに書いてきた新里さん
・会社では部下もでき、仕事の質が変わってきた。本人は変化に悩んでいるが、周囲の評価は高い。
・根は真面目なので、悩んでも自分の中で抱え込んでしまう。
・ジムに通っており、趣味は筋トレ。大人数で集まることは苦手だが、フットサルに誘われたら行く。
・このあと一度結婚するが、離婚してしまい、40代で独身貴族を謳歌することになると思う。
「ジムに通っている」と聞いたときは一同「通ってそう……!」と共感しまくりだった。
30代に差し掛かり、部下と上司に挟まれるころ。商社となれば忙しいだろう。誰にも相談できないのも大変だな……。
ちなみに肌は浅黒くて、ギラギラと光っているそう。おでこと頬骨を高くして、あえて左の目元にホクロも足した。これが人相学でどう出るだろうか。
新里「宮沢りえさんも鼻にホクロがあるじゃないですか。整っている顔にホクロをひとつ足すならここかなって」
さぁ帯谷さんに登場していただこう。繰り返すが、帯谷さんにはこの人物の設定を伝えていない。「人相学で設定を見破れるか」も、ひとつの見どころである。
「すごいリアルですね……!」
帯谷
パッと見て印象的なのは……唇が上下ともに薄いのと、目の下のホクロ。あと頬骨が高いですよね。目は一重で……肌の”つや”はどうですか?
新里
おでこと頬骨がテカってます。色は浅黒いです。
帯谷
なるほど……いい情報ですね。つや、すごい大事です。
肌つや大事なんだ。人相学については全員素人なので、何のパーツがどう大事なのか全然見当がつかない。
本当は生えぎわも気になるのだけど、イラストだと前髪を上げられないのが難点。
帯谷
おでこや頬、鼻などの凹凸のある部分は、仕事運が出る場所です。おでこは仕事の能力を表します。前に出ているようであれば、創造力が豊か。頬に張りがあってツヤツヤしている人は、世間からの人気運が抜群ですね。
古賀
おぉ……ちょっと「よかったな!」って肩を叩きたくなりますね。
井上
さっき散々この人のこと聞きましたからね。人気運があるってことは、やっぱり周囲の評価も高いんだな……。
帯谷
上下の薄い唇は、「使命に生きる」人。真面目な努力家で、才能がある方にでる相です。何をやっても一流で、エキスパートになります。このホクロは……目の下ですか?それとも鼻かな……。どっちにしましょう。どこにあるかで違うんですよ。
新里
どっちかと言うと鼻ですかね……
帯谷
鼻だと「元気ボクロ」。健康運が良くてバイタリティがあり、すごく生命力があります。目の場合は「モテボクロ」。プレイボーイですね。
井上
(筋トレもするし、合コンでモテるし、どっちも当たってる……!)
帯谷
恋愛運は、目と口と耳にでます。一重の目は、時間をかけて相手を見極める人。まつげが短いのは、理性的でさっぱりした性格。モテるけど、基本的には恋愛に関してクールかも。涙ぶくろもありますね。ここがふっくらしている人は恋愛が充実しています。
帯谷「新里さん、涙ぶくろありますね~」
モテるのも仕事が出来るのも、ちゃんと人相に出ていた。すごい。設定をリアルに決めたぶん、なんだか知り合いが普通に占われているような気分だ。
君、仕事で悩んでいるみたいだけど、世間の評価は高いって! 不安もあるだろうけど、まだモテるみたいだし、そのまま頑張ろ! 大丈夫! と、彼を励ましたい。励ましたいけど、こんな人はこの世界にいないのだ。いないの!? どっかの商社にお勤めなんでしょう?
もはや実在しないことにびっくりする。どうしたらいいんだ。この胸のモヤモヤ。周り似ている人がいたら替わりに伝えてもらえませんか。
よかったな! 本当はいないけど……。
これ僕なんじゃないか
続いてトルーさんである。2枚とも「パッと見は得体が分からない人で、設定を聞いたら確かにいそう」というラインを目指したそう。まずはこちらのヘビっぽい男性。
・名前:田邊聡(たなべさとし)
・25歳男性。製薬会社の営業
・性格は真面目。無口で消極的。
・年の離れた姉が二人いて、その影響か控えめで周りの様子をよく伺う性格
・小さいころ、知らない人の犬に追いかけられたことがある。姉二人は遠くで笑っていたが本人は必死で逃げた
・仕事がすごくよくできるので、いつの間に何もかもすごくうまくいって幸せになる
「上の兄姉がいる子は将来大成する」というイメージから、何でもうまくいく、という人物像になったという。もっと細かいスペックもある。
ちょっと取り調べっぽくなった
コーヒー飲めない/猫派/姉の影響で女の子向けのマンガやアニメに詳しい/ラーメン食べる前に絶対写真撮る/その写真は特に誰にも見せない/食虫植物が好き
「ラーメンの写真を撮るけど誰にも見せない」! この人は承認欲求みたいなのないんだろうなぁ……と、しっくりくる。
神は細部に宿るというが、今日は小さなリアルに心を動かされっぱなしだ。
「ワイワイしている集団からちょっと離れて、こうやってじっと見ているタイプです」 いるいる。輪に入らないけど集合写真には映っている人だ。
彼の人となりを説明するトルーさん、「いろいろ考えてきたんですけど、これ、結局僕かもしれないですね……」と言い出す。お姉さんいるんですか?と聞いてみたら「長男です」とのこと。
それでは再び帯谷さんをお呼びします。なんで取り調べっぽくなるんだろう。
帯谷
体が描いてあるので、面長なのがわかりますね。面長の人は優しくてユーモアがあり、周りを楽しませるのが上手な人。アゴがシャープなので、ピュアでロマンチストですね。
トルー
あぁ……はい。
井上
(いま自分のこと言われたみたいなリアクションだったな……)
帯谷
やっぱり特徴的なのは目ですね。つり目は、先見の明がある方に出やすいです。理性的で慎重。勝算があるとグッと行動する勝負師タイプ。あと、耳たぶがないですよね。
横向きのカットがあるので耳たぶの情報がある
帯谷
耳たぶがない人は、人気運がある人なんです。
井上
そうなんですか!? 福耳のほうがラッキーなイメージありますけど……
帯谷
耳たぶがない人は、実力で人気を得るタイプですね。そのおかげで金運もあるし、自己投資が全て返ってくるタイプ。イチロー選手も耳たぶがないんですよ。
古賀
そうなんだ。よかったな~。
帯谷
あとは……鼻が低いですね。ムードメーカーで、愛嬌がある人。円滑に人間関係を築くことが出来て、人望に厚いです。そしてこの眉なんですけど……。
麻呂っぽさを感じる眉毛
帯谷
こういう眉を見たことがなくて……(ファイルをめくって調べる)
トルー
平安時代の麻呂っぽい感じですね……
帯谷
眉毛は三日月型とか形で見るんですけど、これは……ちょっと持ち帰らせてください。
古賀
思わぬ展開に。
トルー
確かにこんな人はいないですよね……
麻呂のまゆげは混乱を導いてしまったが、“つり目“の「理性的で慎重」は当たっている気がする。
なにごともうまくいっちゃう、という設定も、“耳たぶがない“(実力で人気を得る)から来ているのかもしれない。何が幸いするかわからない。
一方、低い鼻からの「ムードメーカー」は意外な展開になった。周囲の様子を気にかけることができる人だから、雰囲気に気を配る素養はあるのかもしれない。やればできる子だということにしよう。
囲碁棋士から乗馬にはまる17歳の「ゆうこ」
トルーさんの2枚目は、ぽっちゃりした女性である。年齢は17歳。職業はなんと「プロの囲碁棋士」だ。
トルーさん曰く、「普段はぽわぁんとしているけど、囲碁を指すと強い」「普段は抜けていて忘れ物とか多い」
・名前:北条 結子(ほうじょう ゆうこ)
・性格は温和でストイック。家族と仲がいい。
「ゆうこ」だ。
全身から「ゆうこ」っぽさがあふれている。結子でも優子でも裕子でもどれでもいい。「ゆうこ」以外ない。
・仕草と服がかわいいので囲碁界で人気がある
・自分の部屋にはほとんど物を置かないのだが、壁に弟が昔描いた絵を飾っている
・40歳で囲碁棋士として大成して、突然引退して突然乗馬に没頭する
・弟が一人いる 父は消防士
40歳で大成するのもすごいけど、引退して乗馬とはぶっ飛びすぎである。棋士から騎手だ。常人には行動が読めないけど、天才の頭の中では囲碁と乗馬がつながっているんだろうか。
トルー「口が小さいんで、ものを食べるときはこんな感じです」
さて、「ゆうこ」さんを一目見た帯谷さん、指摘したのは意外や意外、とんでもない「金運」だった。
帯谷
鼻筋が通ってますよね。お金の道筋が通るという意味があって、経営の才がある人です。鼻の下の凹んでいるところ、人中(じんちゅう)って言うんですが、ここが濃い人は大出世します。あごが丸いのも、協調性があって人に好かれるため、財運に恵まれますね。
一同
財運!
そんなにお金を稼ぐ人だとは思わなかった。だから40歳で引退して乗馬とかできるんだ。悠々自適の生活だった。
「この人も眉毛が短いですよね……」「すいません」
帯谷
丸顔は「愛され顔」。一生懸命で積極的なので、人が見て安心します。頬がふっくらしてますよね……これは人気商売が向いている人。人に囲まれた場所での仕事が吉なタイプです。
古賀
お!いいじゃない、いいじゃない!
井上
勝負運とかどうですか?
帯谷
瞳が黒くて大きいので……情に流されやすいですね。天真爛漫で表裏がないし、勝負よりもキラキラした目で人を信じちゃうタイプかな……冷静に勝負って感じじゃないかも。
トルー
実はこの人、プロの囲碁棋士なんです。
帯谷
囲碁の棋士~~!?
衝撃の職業に、思わず崩れ落ちる帯谷さん
古賀
情に流されてわざと負けたりするのかな。あれじゃない? 勝負の時は目が変わったりするんじゃない?
トルー
こんな顔ですけど勝負事になるとめちゃめちゃ冷酷かもしれませんね。
井上
「天才肌」っていう設定なんですけど、どういうところに天才っぽさって出ますか?
帯谷
おでこの広さですね。前髪でちょっとわからないですけど……
井上
前髪上げたら、おでこがすごい広いんじゃないですか。
新里
おでこが広いの気にしていて、あえて隠しているのかもですね。
ホントはここからおでこがはじまっている可能性がある
子供が描いた似顔絵はどうか
お二人のイラストはこれで以上なのだが、最後にもうひとつ、帯谷さんにお付き合いいただいた。こちらの絵である。
顔のパーツが全部でかい
実はこれ、筆者の娘(小6)に描いてもらった、僕の似顔絵なのだ。
結構特徴出てると思う
帯谷さんには僕の似顔絵であることを伏せて、同じように人相を見てもらった。
「架空の人物」というくくりからからちょっとはみ出るが、娘というフィルターを通した僕のイラストから、父親をどう思っているか分かってしまうかもしれない。直接占ってもらうよりドキドキする。
「これはまた、今までと全然違うテイストですね~」と言っている隣にご本人がいます
帯谷
瞳の大きさ、唇の分厚さ、鼻が大きい、ほくろ、眉毛の太さ……いっぱい要素がある(笑) だいぶ個性的なお顔ですね……。
井上
「眉毛が太い」って今までなかったですよね?
帯谷
太い眉は、家族を大事にする人です。特に太くて弓なりの眉は家族との縁が深いですね。石原良純さんがそう。
井上
ほぉ~~~~!
帯谷
目がすごい大きいですよねー。感受性が強くて、喜びを素直に表現する。リアクションの大きな人ですね。
家族との縁が深い、で「ほぉ~~~~!」とリアクションしていた瞬間。この後「リアクションが大きい人」と指摘される……!
帯谷
下唇が上唇の2倍ある人は、相手を立てるのが上手で、上品で奥ゆかしい感じ。おでこが狭いのは、行動力で開運していくタイプ。鼻が大きいところも仕事運がいいですね。自営業が向いているんですよ。
古賀
すごい! やったな、おい!
まじか~~~!超うれしい~~~!僕、自営業(フリーライター)なんですよ!
あまりの嬉しさに「こ、これ僕なんですよ……!」と前のめりで告白してしまった。
子供に描いてもらった似顔絵で「家族との縁が深い」と言われ、鼻のデカさから「自営業向き」と言われる。嬉しすぎてむずがゆい。こんなにいいオチになるとは思わなくて動揺してしまった。
家族との縁を大事にするために、眉毛は整えずに生やしっぱなしにしよう。
恐るべし人相学
イラストから見えた人相は、設定通りに当たっているのもあれば、想定外のものもあった。でも、それはそれで「意外な一面」として受け入れられる。キャラに深みが出るような気がした。
帯谷さんによると、人相学のルーツは3000年前のインドまでさかのぼり、戦国時代には敵の大将の顔から「どんな人物か」を読み取って戦術に取り入れたそう。
人相学にとっては顔がセキュリティホールになのだ。電車で寝てたりしたらもう、いろいろ筒抜けなのかもしれない。
振り返ってみたらずっとリアクションが大きかったです