どうすればビニ傘は盗まれないのか
そもそも傘泥棒をするやつが悪いのであって、本来であれば被害者側が対策を講じる必要はないと思っている。
思うのだけど、しかし現実問題として盗まれる以上、我々にも何らかの自衛手段も必要となるだろう。
僕が盗まれた傘には、目印兼「この傘はちゃんと意識して使っている傘ですよ」アピールとして柄の部分にマスキングテープを貼っていたのだが、それだとまだ足りなかったようだ。
マステの目印を貼ったビニ傘(盗まれたので、これは再現)。わりと盗難防止に効くなーと思っていたけど、ダメだった。
以前にTwitterで「ビニール傘の柄に『お前のじゃない』と印字したラベルライターテープを貼る」という盗難防止メソッドが出回っていたのを見て感心したことがある。
なるほど、傘泥棒への威嚇である。これは効果があるかもしれない。
しかし傘を盗まれたばかりの今の僕の心境的には、それだけではまだ不安な気もする。
そこで今回はもう少し強いレベルで対策を取ることにした。
「物理的に盗みにくい」「心理的に盗みにくい」「呪術的に盗みにくい」のそれぞれ3パターンの工作を傘に施してみよう。
危険で痛い、物理的に盗みにくい傘
まずは、物理的に盗みにくい傘だ。
要するに、気軽にこの傘に手を伸ばすと怪我をするぜ、と危険性をアピールをすれば良いのではないか、という案である。
では物理的に危険というイメージってなんだろう?それはもちろん、スタッズ(鋲)に決まっている。
尖ったトゲトゲこそがバイオレンスの象徴だろう。触れると実際に痛いのもいい。
気軽に触れない傘にしてやるぞ、という意気込みで専門店からスタッズ購入。
ところでスタッズってどこで買えるんだろう。手芸用品店あたりで買えるのか、と手芸好きの妻に訊ねてみたところ、その場でぽちぽちと検索をかけだした妻が「通販でスタッズ専門店ってあるみたいよ」と教えてくれた。
うおー、マジか。見てみると様々なサイズや形のスタッズを取りそろえており、価格も手ごろ。
世の中にはいろんな専門店があるものだと頭で分かってはいたが、実際にその例を目の当たりにすると驚きを禁じ得ない。
とりあえず傘の柄にびっしりと貼り付けていく。わかりやすいガード策。
10㎜というサイズのスタッズをひとまず30個注文すると、サービスで様々なサイズのスタッズの入ったサンプルパックまでつけてくれた。
さすが専門店、バイオレンスなものを商っているわりにサービスも上々である。
このスタッズを、強粘着タイプのホットボンドでビニール傘の柄に接着していく。
びっしり30個を貼り付けたのが、こちらだ。
物理的に盗りにくいビニ傘,完成。もはや武器かというルックスだ。
どうだろうか、この危険な感じ。
こいつはうかつに手を出せば怪我すること間違いなしだ。
とはいえこっちが傘を差す時まで痛くては役に立たないので、先端のカーブした部分にだけスタッズを密集させておいた。実用性も充分に担保している。
普通のビニ傘と物理的に盗まれにくいビニ傘の比較。
傘立てから抜き出そうと手をかけると、本当に痛い。
改造前の普通のビニ傘と比べてみると、その威嚇力は一目瞭然。
柄のカーブの内側にもびっしりとスタッズを植えているのは、うっかり手を出したヤツに間違いなくダメージを与えてやろうという、本気の現れである。
コンビニの傘立てなんかに並んで立ててあったとしたら、まずこちらに手を伸ばす泥棒はいないのではないだろうか。だって見るからに痛いし。
見るからに毒な、心理的に盗みにくいビニ傘
続いては、心理的要素により盗みにくいビニール傘だ。
ビニール傘のなにが悪いかって、つまりあのツルンとしたテクスチャーの薄い柄の部分。
毒にも薬にもならないあのシンプルな感じが、気軽な窃盗を招いてしまうのではないかと思うのだ。
シンプルすぎて気軽に触れてしまう、普通のビニ傘。
あれが、例えば「触っただけで猛毒!」みたいな感じだったらどうだろう。
少なくとも盗む前に「これ、ほんとうに触っても大丈夫なのか?」みたいな躊躇をしてしまうのではないだろうか。
つまり心理的な抑圧としての、毒っぽさがビニ傘の柄にあればいいんじゃないか。
触ると猛毒というイメージの象徴、ヤドクガエル。これはペットとしてわりと飼われているキオビヤドクガエル。かわいい。(Google画像検索より)
世の中に毒を持っていて危険な生き物は数あれど、触るだけで危ない毒性物といえば、やはりヤドクガエルだろう。
周囲に自分の危険さをアピールする警戒色もハッキリしていてわかりやすい。
このカラーリングを応用することで、傘をヤドクガエルに擬態してみよう。
擬態の第一ステップ、ベース色の塗装。ツヤありの黄色をべったり。
まずは傘の柄にべったりと地色として黄色の塗料を何度か重ね塗り。
このとき、素材のままプラスチックの平滑な感じだとカエルっぽさが出なかったので、筆を使って両生類の表皮に見えるようデコボコをつけていく。
スプレー塗料で一気に塗れればラクなのだが、これも傘を盗まれないためだ。面倒でも、筆で塗って乾かしてはまた色を重ね、を繰り返す。
検索した画像を見ながら、黒い模様を書き込む。
地色が塗れたら、次は特徴的な黒い模様を描き込む。
こちらも最初は筆塗りでやってみたのだが、用意していた黒の塗料があまりきれいに乗らなかったので、ペイントマーカーに切り替えた。
ポスカの黒は隠蔽力も強く色乗りもいい。筆と違って模様の重ね塗りもしやすいので、これは大正解だった。
【まめ知識】傘の柄にヤドクガエル模様を塗る時はポスカが便利。
心理的に手を出しにくい、キオビヤドクガエル傘の完成。
最後は、カエルっぽいツヤを出すためにニスを何度か塗って完成である。
いい感じに非常に毒々しくなったのではないか。自褒めながらヤドクガエル感は充分だろう。
これなら傘泥棒だってひるむに違いない。
ところで、完成したものを知人に見せたところ、「草間弥生っぽいね」と言われてしまった。
実は僕も塗装中に何度かそう思っていたのだ。まぁあれも見るからに毒々しいし、いいんじゃないか。
呪術的に泥棒を跳ね返すビニール傘
最後は、呪術的に盗まれないビニ傘だ。
呪術というとなんとも禍々しいが、ようするに古来よりの厄除けの知恵をビニール傘に転用できないか、という試みである。
まずは傘の柄をカーブの辺りでほどよい長さにぶった切る。
続いて、切った傘の柄を塗装する。
もとはギリシャ神話の怪物メドゥーサの首を厄除けとして飾ったものがシルクロードを経て中国に渡り、それが奈良時代ごろに日本に伝わったものが「鬼瓦」だ。
家の屋根に怖い形相の鬼を飾ることで災厄を祓い、邸宅に悪いものが入り込まないように願った、とのこと。
では、雨の日において災厄とは何か? そんなの、傘を盗まれることに決まっている。
であれば傘に鬼瓦を設置することで泥棒よけにもなると思うのだ。
ミニサイズの鬼瓦、みつけた。4㎝サイズの鬼瓦マグネット。
肝心の鬼瓦はどうするかというと、これが困った。最初は石粘土で鬼瓦っぽいものが作れないかと思ったのだが、やってみると非常に難しい。3日ぐらい粘土をこねてみたが、まったくそれっぽくならないのである。
途方に暮れてまたネットを検索したところ、辿り着いたのが、まさかのミニチュア鬼瓦グッズ専門店の通販サイトである。
そんな専門店があって、しかも通販対応しているのか。ネットは広大だ、とは聞くけれど、さすがに広すぎやしないか。無限か。
鬼瓦が鎮座する、呪術的に盗みにくい傘。柄をぶった切ったのは、鬼瓦の顔が正面に見えるようにするためだった。
見つけた以上はサクッと購入して、瓦色に塗装した傘の柄に載せて接着すれば完成である。
石粘土をこねたあの苦労の日々は何だったのかというぐらいのあっさり解決だ。
元のミニチュア鬼瓦がいかにもしっかりと鬼瓦顔をしてくれているので、充分に威厳が感じられる。
どうだ傘泥棒よ、この鬼瓦の加護を抜けてまだ傘が盗めるか。
実験したいけど雨が降らない
さて、いざ盗まれない3本の傘が完成したのはいいが、間の悪いことにそれ以降雨が降らない。
これらをコンビニの傘立てにでも立てて様子をうかがおうと思っていたのに、盗難防止効果が実験できなかったのだ。なんとも残念である。
仕方なく、個人的にいつもお世話になってる文具屋さん前でイメージ撮影させてもらった。こんな感じで傘立てに並ぶはず。
明らかに「盗むなよ」というオーラを発する傘。よし、これは盗まれないんじゃないかな。大丈夫じゃないかな。
とはいえ、これから都内も梅雨に入るだろう。
今年の雨シーズンはこれらのビニ傘で過ごす予定なので、くれぐれも盗まないでやってほしい。
っつか、そもそも他人の傘盗むな。
完成したタイミングで晴天が続き、傘が役に立ってる感のある写真がまったく撮れなかったのは致命的だった。
とりあえず晴天の下で傘を差してる写真も撮影してはみたのだが、どうにも「晴れてるのにビニール傘を差す気恥ずかしさ(日傘にもならない)」と「そもそも傘の柄がおもしろいことになってる」の2点で、自分が妙なはにかみ顔になってしまうのだ。
傘はやはり雨降ってこそ。梅雨が楽しみである。