特集 2018年5月31日

ほぼ魔法のアイテム ウランガラスの妖しくも絢爛とした世界

百聞は一見にしかず。まずはこの写真を見ていただきたい。
百聞は一見にしかず。まずはこの写真を見ていただきたい。
僕は光るものにめっぽう弱い。光るものを見つけるとついつい欲しくなってしまう。そうなる理由を説明するのは難しいが、たぶんDNAに刻まれた本能なのではないかと思う。

さて、そんな僕が最近気になってしかたがないものがある。ウランガラス(あるいはワセリンガラス)というものだ。

上の写真は同じウランガラスの盃を撮影したものだが、左が普通の光を当てている状態、右がブラックライトをあてた状態である。ご覧の通りブラックライトを当てた状態だとまるで魔法のアイテムのように光を放つ。

凄く気になったのでこのウランガラスの世界を覗いて来た。
1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。

前の記事:銀座和光・石原裕次郎・新宿伊勢丹の共通点とは?岡山で万成石の採石を見学

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世界初のウランガラス専門の美術館へ向かう

そんなウランガラスの事を知るにはうってつけの、ウランガラスを専門に扱う美術館がある。
岡山県と鳥取県との県境に近い鏡野町という場所にある。
岡山県と鳥取県との県境に近い鏡野町という場所にある。
その美術館は妖精の森ガラス美術館という。僕は岡山県内に住んでいるので、実はずいぶん前に友達に連れられて行った事があるのだが、その時にはなんかピンとこなかった。しかし最近何度か目にする機会があり、急に気になりだしたのだ。

というわけで、去る5月某日その妖精の森ガラス美術館へ行ってみる事にした。


調べてみるとこの妖精の森ガラス美術館は「世界“初”のウランガラス専門の美術館」らしい。たしか前回行った時は「世界で“唯一”のウランガラス専門の美術館」だった気がする。以前訪れてからの間に他にもウランガラスの美術館ができたのだろう。


妖精の森ガラス美術館は公共交通機関での移動は少々難しい場所にあるので自動車で向かった。一般的に県境の交通の便は悪いのである。僕が住んでいるのは岡山県の南側なのでちょうど縦断するかたちになる。
道の駅にあった妖精の森ガラス美術館までの地図。
道の駅にあった妖精の森ガラス美術館までの地図。
現在位置から妖精の森ガラス美術館までは縦長の地図2枚分。ウランガラスまでの道のりは長い。
しかしこの日はピーカンで山の緑もなんだかキラッキラして気持ちよかった。
しかしこの日はピーカンで山の緑もなんだかキラッキラして気持ちよかった。
気温は暑くも寒くもないし、それに他の車とほとんどすれ違わない。こんな感じの自然豊かな風景を延々と2時間走った。


今回の美術館の名前が「ウランガラス美術館」ではなく「妖精の森ガラス美術館」というのもなんだかうなずける気がした。なんというか自然が綺麗すぎる。こういう自然が豊かな中で作られる光るガラスは妖精を想起させる。

ウランガラスとは

まずは訪問に先立ってウランガラスについて図書館やネットで調べてきたことをご紹介しておきたい。なにも前提知識がない徒手空拳で訪れるより、ちゃんと調べてからのほうがより深く理解できると思ったからだ。

「ガラス」は聞き慣れた身近な言葉だが、「ウラン」という言葉は少々日常生活からは離れている。「ガラス」に「ウラン」が組み合わされた「ウランガラス」はなんとも不思議な響きだ。

「ウランガラス」はその名のとおり、あの放射能をもつウランをごく微量溶かしこんだガラスなのだそう。ウランが含まれていることにより、冒頭で紹介したとおり紫外線を当てると幻想的な光を放つのだ。もちろん普通の蛍光灯や太陽光にも紫外線が含まれるので光っているのだが、周りが明るければウランガラスの弱々しい光はかき消されてしまう。ブラックライトを当てたほうが光はよく見える。

そんなウランガラスは、今から約200年前の1830年ごろに現在のチェコのボヘミア地方で作られたらしい。日本でいうと江戸時代の後期である。
ボヘミア地方は地図で言うとこのへん。
ボヘミア地方は地図で言うとこのへん。
勝手なイメージだがブラックライトを当てると光るガラスってなんだか最近の、せいぜいここ数十年くらいの技術っぽい気がしていたので、意外と歴史がある事に驚いた。

ちなみに当然、その時代にはブラックライトなんてものはまだ無かった。夜明け前や夕暮れ時の、周囲は暗いが紫外線は降り注いでいる時間帯にぼんやりと光っているのを見て楽しんだそうだ。

ウランガラスの輝きは現代の僕でも驚くのだから当時の人はもっと驚いただろうし、魅了されたに違いない。ウランガラスはヨーロッパでブームになり、明治時代には日本にも伝わり大量に作られることになった。

しかし当時はウランが放射性物質とは考えられておらず、単なるガラスの着色材として使われたのだそう。

事情が変わったのは第二次世界大戦頃から。ウランは重要な戦略物資として認識され流通が制限されたためウランガラスの製造はやがてストップしてしまう。

岡山県鏡野町にウランガラスの美術館ができたワケ

戦後になり原子力の平和利用が求められるようになると、日本国内でウランが採掘できないかといういうことになった。

ウランは特に花崗岩の中に含まれることが多く、花崗岩が多い中国地方で探索が続けられていたが、岡山県と鳥取県の県境の人形峠のほど近く(妖精の森ガラス美術館からもすぐ)でウランの鉱脈が発見された。
発見された場所(岡山県と鳥取県の県境の人形峠付近)には記念碑がたっている。
発見された場所(岡山県と鳥取県の県境の人形峠付近)には記念碑がたっている。
ちなみにこの記念碑はナビに明確な場所が出てこなくて、地元の人に場所を聞きながら到着した。

地元の人に場所を聞くと

「この道をまっすぐ進んでトンネルを抜けて右に曲がって、しばらく進むと左手に碑がある場所が昭和30年11月12日にウランが発見された場所ですよ。」

といった感じで場所のついでに発見日まで教えてもらった。ウランが発見された日付は地元の人の記憶に刻まれているのだ。

資源に乏しい日本でウランの発見は全国的なニュースになり、この人形峠ではウランの採掘が行われることとなったが、現在ではウラン鉱山はすでに閉山している。


かくしてその人形峠で採掘されたウランを使ってウランガラスの製造が始まった。

ついに妖精の森ガラス美術館へ到着

妖精の森ガラス美術館。西洋風のお洒落な建物だ。
妖精の森ガラス美術館。西洋風のお洒落な建物だ。
さて、そんなこんなで美術館に到着。周囲には人っ子一人おらず、道路にも車の姿はない。そのぶん空気は澄んでいる。そして5月なのに寒い。外にいたら風邪をひいてしまいそうなくらいに。
一般500円。とっても良心的な値段設定。
一般500円。とっても良心的な値段設定。
館内はこんな感じ。ちょっと暗めになっていてウランガラスの光が見やすい。
館内はこんな感じ。ちょっと暗めになっていてウランガラスの光が見やすい。
入館料を支払い、館内に入っても客は僕しかいなかった(途中から一組来た)。
館長さんが直々に、しかも付きっきりでウランガラスについて親切丁寧に説明していただく。
館長さんが直々に、しかも付きっきりでウランガラスについて親切丁寧に説明していただく。
本当にありがたい。

惜しむらくは、事前に図書館で調べてきた事と容がほぼ被ってしまった事だろうか。予め調べて来たのが完全に裏目に出てしまった。(もちろん知らなかったこともたくさんあったけど)

事前知識が全くない「ウランガラスって何?」状態はいかがなものかと思ったのだが、その場で新鮮な驚きを感じたほうが良いかったかも知れない。

ウランガラスの安全性について

しかしながら直接聞きたい事もあった。ずばりウランガラスの安全性はどうなのかという事だ。本にもウランガラスは安全だと書かれていたが、直接聞いてみたかった。
ウランガラスの安全性についてのパネルもある。
ウランガラスの安全性についてのパネルもある。
3年ほどかけて検証した結果、自然界に存在する放射線と比べても健康に影響があるほどではないそう。

安心しました。

よくよく考えるとここのスタッフさんはほぼ四六時中ウランガラスと接しているわけだから、安全だと分かっていないと勤まらないはずだ。

妖精の森ガラス美術館の収蔵品の数々

この妖精の森ガラス美術館は美術館なのに写真撮影はOKとの事。どこを撮ってもインスタ映えしかしない。
ゴブレット(酒盃)。ウランガラス発祥の地であるボヘミア地方のもの。
ゴブレット(酒盃)。ウランガラス発祥の地であるボヘミア地方のもの。
卓上飾り。白っぽいけどこれもウランガラスなのだそう。
卓上飾り。白っぽいけどこれもウランガラスなのだそう。
様々な色がある。
様々な色がある。
そして一部の展示ケースにはスイッチがあって、スイッチを押すとブラックライトが光るギミックが備わっている。
通常光の下
通常光の下
ポチっとスイッチを押すとブラックライトが光る
ポチっとスイッチを押すとブラックライトが光る
これは本当にテンションが上がる。ファンタジーの世界から飛び出してきたようだ。

なんだったら適当な呪文を唱えながらスイッチを押せば魔法を使っている感さえでてくる。他のお客さんはいないので恥かしがることもない。(館長さんもお忙しそうでどこかへいってしまった)
燭台。
燭台。
ガラスが厚い部分がよく光るのだそう。
ガラスが厚い部分がよく光るのだそう。
しかしよくよく考えると僕は魔法の呪文は知らなかったのでただスイッチをポチポチ押す。魔法の力より電気の力だ。
こちらは黄色くないが
こちらは黄色くないが
ブラックライトを当てると光る
ブラックライトを当てると光る
ブラックライトを当てると光る
ブラックライトを当てると光る
そこはかとなく漂う脱出ゲームっぽさが好き。
そこはかとなく漂う脱出ゲームっぽさが好き。
ロシア皇帝のガラス工房で作られたゴブレット(酒盃)。さすがに装飾も凝っている
ロシア皇帝のガラス工房で作られたゴブレット(酒盃)。さすがに装飾も凝っている
光ると全く趣がかわる
光ると全く趣がかわる
展示スペースは主なものは2部屋でそのうちの1部屋は企画展示用だった。小規模な美術館だが、見ごたえは十分でウランガラスの輝きに魅了されてしまった。

ウランガラスって中二心をくすぐる要素が全部含まれている気がするのだ。魔法のように光るところや意外と長い歴史、一度は生産がストップしたものの復活したところなど。僕も中身は中2のまま止まっているので凄く楽しかった。

また、妖精の森ガラス美術館はウランガラスの製造・販売も行われている。

実物をみたら間違いなく欲しくなる。せっかく来たのでウランガラスのコップでも2、3個買って帰ろうかなと思ったが、
値段はだいたい4、5千円から。ちょっと良いなと思うものは1万円オーバーだった…。
値段はだいたい4、5千円から。ちょっと良いなと思うものは1万円オーバーだった…。
ううむ…。想像していたよりちょっと高い。

残念ながらウランガラスは僕にとっては買えんガラスだった。

近くの人形峠環境技術センターでは予め申し込んでおけばウランの坑道見学もできるらしい。しかし、ちょうど絶賛補修中で見学は受け付けていなかった。また機会があれば行ってみようと思う。そして今度こそウランガラスを買いたい。
あと適当に入った定食屋さんの日替定食は異常にクオリティが高かった。
あと適当に入った定食屋さんの日替定食は異常にクオリティが高かった。
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