特集 2018年2月21日

ベトナムの店名の雑っぷりを愛したい

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本当に雑、言ってみればシンプルなのだ!ベトナムの店名は。だいたい、売るものと、番地か通り名か店主の組み合わせがほとんど。日本語でたとえるなら、「フォー10番地」「フォー目白通り」「ニャンさんのフォー」という感じ。素朴かつ単純すぎる。

以前から、「これってめちゃくちゃ被らない?」と思ってた。この疑問を解消したい。
1984年大阪生まれ。2011年に旅先で誘われベトナム移住。ダチョウに乗って走ったり、ドリアンの皮を装備したりと、人は羨まないが平和な人生送ってます。世界のカルチャーを紹介するサイト「海外ZINE」編集長。(動画インタビュー

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まずは具体例を看板とともに

ひとまず、いかに店名が雑なのかということを知ってほしい。といってもベトナム語だとその程度がよく分からないので、ベトナム人の友人に解説として付いて来てもらった。
ユエンさん、いつもお世話になります~。
ユエンさん、いつもお世話になります~。
探そう!店名。
探そう!店名。
あったよ
お!早速か
「A.36 NHOM KINH CAO CAP」…
「A.36 NHOM KINH CAO CAP」…
これはそれほど単純じゃなくない?
NHOM~はガラス・ステンレス製品のことだよ
なるほど、じゃあ店名は『A.36 ガラス・ステンレス製品』ってこと?
そうそう
雑だな~!
「212 SUON BI CHA OP LA」。
「212 SUON BI CHA OP LA」。
「SUON BI CHA OP LA」は南部の庶民的料理。タレに漬け込み炙った豚肉と、細く刻んだ豚皮を炒めたもの、そこに目玉焼きをのせる。写真にBI CHAは写ってないけど。
「SUON BI CHA OP LA」は南部の庶民的料理。タレに漬け込み炙った豚肉と、細く刻んだ豚皮を炒めたもの、そこに目玉焼きをのせる。写真にBI CHAは写ってないけど。
れは日本風に言えば『212 牛丼』か
そうだね
これは2つの料理名に138とあるので、「牛丼・ラーメン・138」という感じ。
これは2つの料理名に138とあるので、「牛丼・ラーメン・138」という感じ。
ほかにも…
「フンさんのフォー」。
「フンさんのフォー」。
「ヴァンさんの美容院」。
「ヴァンさんの美容院」。
「イカ入りおかゆ10番店」。
「イカ入りおかゆ10番店」。
うむ!やはり雑、単純かつ素朴…。とくにフンさんのフォーとかヴァンさんの美容院とか、どことなく「メリーさんの羊」のような語感で牧歌的でほんわかする。ちょっと余談だが、母方の実家は離島で、番地がなくても宛名があればちゃんと届くらしい。そんな田舎っぽい空気を重ねてしまうな。

ただ、どこもかしこも単純な名前ではなく、最近は店名で個性を出すお店ももちろんある。それでもまだまだ紹介したような店名の方が多いのだ。

番地なようで番地じゃない、ややこしいパターン

ここで番地のように見せておいて、微妙に違うパターンも紹介したい。
■創業年から付ける
これはおもしろいよ
なに?
「フォー99」…
「フォー99」…
数字、だが番地ではないようだ…
数字、だが番地ではないようだ…
1990年創業だからこの名前にしたんだね
なるほどね、でもなぜあえて真ん中を取る?
■本店の番地がそのまま支店に使われる
あの両脇の茶色いお店はフォーとおこわのお店。店名に「65」と含むけど…。
あの両脇の茶色いお店はフォーとおこわのお店。店名に「65」と含むけど…。
番地は違うし、そもそもここはホーチミンなのにハノイの住所が書いてある…?
番地は違うし、そもそもここはホーチミンなのにハノイの住所が書いてある…?
ユエンさん、あれはどういうこと?
ハノイの住所の番地が65だから、そっちが本店で、そのホーチミン支店ってことみたいね
ってことは、『新宿ラーメン難波支店』みたいな感じ?うわーそれはややこしいな!
■移転後も番地から付けた店名はそのまま
よく見ると「A25 HOTEL」と書いてあるが…
よく見ると「A25 HOTEL」と書いてあるが…
番地は22!
番地は22!
一般的に、ベトナムの番地は道を挟んで奇数と偶数に分かれており、「25」が番地なら本来は「22」の向かいにあるので辻褄が合わなくなる。しかし、興味深いことにこの向かいには…。
大きなホテルがあるんだな!
大きなホテルがあるんだな!
プルマンという有名な、ご立派な五つ星ホテル。おそらくだけど、こちらのホテルを建設するべく買われた土地に25番地が含まれていたんじゃないか。それで、もともとあった「A25 HOTEL」は名前はそのままに向かいの22番地に移転した。と考えれば理屈に合う。

発展をつづけるベトナム、持っていた土地をいきなり大資本が大金で買って大金持ちに!というサクセスストーリーはよく聞く。それでもホテルをつづけるっていうのは、なんかいいよな。まー全部こっちの憶測だけどね。

六姉妹だけど「三姉妹」

そんな雑な店名が続く中、気になるお店を発見。
「おこわとチェー・三姉妹」とある。
「おこわとチェー・三姉妹」とある。
イートインもテイクアウトもお客さんひっきりなし、これは人気店だ。
イートインもテイクアウトもお客さんひっきりなし、これは人気店だ。

チェーは「ベトナム式ぜんざい」とも呼ばれる甘味。潰した緑豆などに果物などを加えたもので、暑い南部はクラッシュアイスを入れてかき混ぜて食べることが多い。これが本当においしい、バインミーと並んで「あなたをリピーターにさせる三大ベトナム料理」のひとつ。今考えたので3つめはベトナム関係者が勝手に決めてくれ。
これはチェーじゃないんだけど、盛りっぷりの見た目は似てます。
これはチェーじゃないんだけど、盛りっぷりの見た目は似てます。
これまでに比べると、「三姉妹」は工夫がある。少し話を聞いてみたい。
お忙しい中で対応してくれました。
お忙しい中で対応してくれました。
ここっていつからやってるんですか?
20年前からだよ!
おぉ、長いですね!
でもこの場所では3年くらい前からかな
三姉妹って店名ですが、実際そうなんですか?
私たちは六姉妹だよ
三ちゃうんかい。いやでもなんで!?
もともとは上のお姉さんたちがはじめてね。周りの店名は番地ばかりだったし、近所の人から『三姉妹って付けたら?』って言われてそれからずっとこの名前にしたんだ
へー!
なんかいい由来だ。
話の途中で、旦那さんがバイクでチェーを運んできた。
話の途中で、旦那さんがバイクでチェーを運んできた。
今店頭に立つ女性たちは、六姉妹の中の最後の三人。しかし、六姉妹全員やその旦那さんと子どもたちなどは家でチェーを仕込んだりと、実態は完全に大家族経営だということ。
ありがとうございました!素朴だけど、いい由来だった。
ありがとうございました!素朴だけど、いい由来だった。

懐かしんでもらえるようにあえて古い店名を

日が暮れて、帰宅ラッシュがはじまった。
日が暮れて、帰宅ラッシュがはじまった。
最後にもう一店舗くらい、話を聞いて終えたいな。そう思いながら暗くなる中で回っていると…
「82 Cafe」!
「82 Cafe」!
見つけた!おそらくこれは番地だな、純然たる単純な名前だもの。しかし、カフェそのものはとても新しいという点が謎。すでに書いた通り、最近は店名に独自性を求める傾向があるだけに、新しいお店がわざわざ古めかしいとも言える店名を付けることに違和感があるのだ。その疑問も由来もひっくるめて聞いてみよう。
たまたまオーナーがいたのでお話を聞かせてもらえることに。フィンさんです。
たまたまオーナーがいたのでお話を聞かせてもらえることに。フィンさんです。
『82 Cafe』って、かなりシンプルな店名ですよね。番地ですか?
そうだよ。数字だけの名前は懐かしい印象があるからね、あえて名付けたんだ
やっぱりそうか。なお、82 Cafeの住所は82 Le Thi Hong Gam。
やっぱりそうか。なお、82 Cafeの住所は82 Le Thi Hong Gam。
ただ、実はこの通りって、82番より下はないんだよ
え?
カフェの向かいは、日本による技術協力の下で地下鉄工事中。
カフェの向かいは、日本による技術協力の下で地下鉄工事中。
外で工事しているだろ?
あぁ、フェンスで囲った、地下鉄工事のー
そこにはもともと民家が建っていたけど、工事が始まる前にみんな立ち退いてしまったんだよ
あー
ホーチミン市の有名観光スポット、ベンタイン市場の南側は現在、日本の技術協力の下で地下鉄工事が進行中。それ以外にも市内各地でひっきりなしに工事が行われており、どこに行っても重機の音が聴こえる。
フィンさんはビルのオーナーだったので、特別に屋上から見させてもらった。
フィンさんはビルのオーナーだったので、特別に屋上から見させてもらった。
あの穴の向こうに未来のホーチミンが眠る。
あの穴の向こうに未来のホーチミンが眠る。
フィン「そんな彼らがなにかのきっかけでまたここに立ち寄ったとき、景色が違っても少しでも懐かしいと思えるきっかけがあればいいなと思って。だからこのお店は番地を象徴にしたくて、『82 Cafe』って名付けたんだ」
水嶋「めちゃくちゃいい話じゃないですか…」

地下鉄の完成は2019年2月と聞いているが(たぶん遅れると思うけど)、ここに駅ビルが建つってすごいことだ。駅ができれば街ができる、街ができればそこで暮らす人の個性にも影響する。ベトナムの歴史における大きなターニングポイントになることは間違いないだろう。

ただ、多くの人にとって喜ばしい発展も、昔ながらの風景を犠牲にしがち。とくにホーチミンのまちづくりはシンガポールをモデルにしている節があり、個人的には、国や街のアイデンティティに根を張った未来像がある方が良いように思う。しかし、フィンさんのような人もいるなら、それはいち外国人のお節介なのかもしれない。

で、ベトナムの店名はなぜ雑なのか?

結局、ベトナムの店名が雑、もっと言えば素朴かつ単純な理由って何だろうか。取材中もユエンさんとああでもないこうでもないと話した結果、このような3つの理由にまとまった。
■何のお店かすぐに分かるから
フォーだのカフェだのメニューをそのまま店名にする理由は、単純に何のお店なのかすぐに分かるから。これは日本の◯◯食堂や◯◯電器と理屈は同じ。ただ、ベトナムは日本よりも国産の飲食チェーン店が少ない印象がある。資本力があり広告も打てるチェーン店なら認知されれば問題ないが、ベトナムでは個人経営ばかりだからこそ、「うちはこれ売ってますよ!」と分かりやすく店名として掲げる必要があるのかもしれない。

■社会主義的な思想に由来する同調意識
生活の中では強く感じないけど(むしろ和を重視する日本の方が社会主義っぽいとはよく言われる話)、やはりそこは一応社会主義だから、ほかより目立ってやろうという考え方が薄いのかも。だから名前にこだわりを持たず、番地や通り名、工夫しても名前でいいやと思っちゃう。

■住所を間違えてほしくないから
これが大本命、というかたぶん正解だと思うんだけど、住所を間違えてほしくないから番地を付ける。日本の住所は町や丁に番地の組み合わせだけど、ベトナムもふくめて多くの国では住所を「通り」と「番地」で示す。区画と道の違い。そこで間違えて他店に行かれても困るので、分かりやすく番地を店名にしたのでは。

「そんな、隣に同じ店でもない限り間違えないでしょ」と思うかもしれないが、まさしくそれがある、つまりベトナムでは同業店が同じ場所に固まってしまうのだ。でも、ネット社会だと固まるメリットも薄いように思うから、たぶん今後、雑な店名はガシガシ減っていくんだろう。だからこそ、フィンさんの話は個人的にうれしかった。


真似しすぎて同名店が集まってできた「村」まである

最後に、ユエンさんから「肉まん69番村」という場所があると聞かせてもらった。村ではないのだが、ホーチミンから69km離れた地点に「肉まん69番」と呼ばれるそれはそれはおいしい肉まん屋があり、あとから同名のお店が増えすぎて今ではもはや元祖が分からなくなってしまったらしい。

「肉まん屋がウケたなら、近くでお茶を売ればいいのに。分かんないわ」とユエンさん。そうそう、そういう訳分かんない部分がベトナムのおもしろいところだ。そんな話を踏まえると、「パクリ防止機能」も兼ねて被りようのない番地を付けるという理由もあるのかもしれないな。それでも同じ店名を名乗っちゃうこともあるけど。

「肉まん69番村」の写真が載ってるページは、こちら(ベトナム語です)。おもしろいことになってます。
これは有名な作詞家の名前らしい、日本ならさしづめ「カフェ・阿久悠」か。
これは有名な作詞家の名前らしい、日本ならさしづめ「カフェ・阿久悠」か。
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