衣の種類も色々ある
例えばこれ。
この二つのから揚げの違いがわかるだろうか?
衣の表面は茶色く、もこもこしている。
衣の表面が白く、ばりばりしている。
同じから揚げでも衣の質感がかなり違う。 左は食べるとふわっとするタイプのから揚げ、右はカリッとするタイプのから揚げだ 材料は、左は片栗粉+小麦粉+卵。右は片栗粉のみ。どっちもネットレシピに「から揚げ」として載っている。
揚げる前の左。もったりした衣。
揚げる前の右。ぱふぱふした衣。
僕はつねづね、このから揚げのタイプの違いが気になっていたのだが、深くは追わずにスルーしてきた。しかし先日、適当に揚げた唐揚げで大失敗した僕はとうとう奮い立ったのだ。
男に生まれたからには、全ての流派のから揚げを制覇してやろう、と。
野望達成の手始めに、僕は揚げ鍋とてんぷら温度計を購入した。
野望達成のためには、温度の調節が大切。
戦いを制するためには、敵の情報収集が重要だという。
まずはレシピの勢力分析から手をつけてみた。
クックパッド192品を調査
巨大レシピサイト「クックパッド」に登録されていた「鳥のから揚げ」の、おすすめレシピ全192品をデータベースにして分析した。
全国制覇の第一歩、から揚げデータベース作成 (6時間かかった)
そしたら、その結果が想定外にバラバラだった。
片栗粉だけのもの、小麦粉を使うもの、卵と混ぜるもの……。とにかくレシピの多様性がありすぎる。
僕の中で揺れる、から揚げのアイデンティティー。
「いったい、から揚げって何なの?」という、思春期の自問のような感情が渦を巻く。
そこで衣の材料として使う小麦粉・卵・片栗粉の分布を、わかりやすく勢力図表してみた。
これを少しずつ制覇していこう。
普通のから揚げ104品において、衣に使う材料の分布図。重なる部分は混ぜ合わせて作る。
1・最大勢力「竜田流」
まずはこの最大勢力。
普通のから揚げ104品のうち、48品は片栗粉だけを使った衣だった。左の赤で塗った部分だ。
そして世間ではこれを「竜田揚げ」と言うらしい。
長年ぼんやりと竜田揚げの定義って何だろうなーと、思ってきたが、その疑問が氷解した。
「竜田揚げ」=「衣が片栗粉のから揚げ」だ。
まずはこれが基本、と気を引き締めて、竜田流から揚げ作成に挑戦した。
三国志でいえば、片栗粉が魏。
下味はにんにく・しょうがの両方。これも王道。
片栗粉だけの衣はこんな感じ。
で、揚げます! シュボォボォボォーー!
完成・竜田流。
あ!これは、見たことのあるから揚げだ。
衣にうっすらと白く残るあと、荒々しく逆立った表面。給食で食べた「くじらの竜田揚げ」で見た覚えがある。
(ぎりぎりで給食くじら世代です)
食感は「カリカリッ」としていて、あせって食べると口の中が傷付きそうになる、あの感じ。
居酒屋などで出てくるから揚げでもよく出てくるタイプだ。
オッケー、竜田流は制覇した。以下に特徴をまとめよう。
あせって食べると、口の中が痛いタイプのから揚げ。
1.竜田流 評価★★★
・表面がばりばりで、うっすら白いときもある。
・食感はカリカリ。急いで食べると口内を傷付ける。
セブンイレブンのから揚げ棒は、間違いなくこのタイプ。
2・第二勢力「弁当流」
次に勢力が大きかったのは、小麦粉と片栗粉を半々に使ったから揚げだ。
なぜか「お弁当におすすめ」のレシピには、この衣が多かったので、弁当流と呼ぶことにした。
弁当向けに、下味もにんにくの使用を控え、しょうがのみ。
さあ、どんなから揚げになるだろう。
小麦粉+片栗粉、「弁当流」の勢力範囲。
小麦粉と片栗粉は半々。全てのお弁当レシピで共通。
竜田流より「もちゃっ」とした衣になる。
そして弁当流、完成。
これも見たことがある! 近所のスーパーのお総菜コーナーで売っているのにそっくりだ。
食べると衣の食感は「さくっ」。竜田流より軽い感じ。
さく、さくさく、と食感が嬉しくて、ついつい食べ進んでしまう感じだ。これはご飯に合う。
翌日、さっそくお弁当に竜田流と両方入れてみたが、弁当流の方が衣の質感をよく保っており、たしかにおいしかった。
これはこれで竜田揚げとは違う、一つの大切な存在だ。
同じ粉でも、衣の食感が違う。さくさく。
2.弁当流 評価★★★★
・衣の質感に荒々しさがない。もこもこ。
・それでいて食感はさくさく。スナックっぽい。
・下味はしょうがだけでも充分。
僕が一番好きな、つくば「ランラン」の唐揚げは多分これ
3.全部混ぜるんだ、「中華流」
弁当流と同勢力を保っているのが、小麦粉・片栗粉・卵の全てを使う「中華流」だ。中華風から揚げ、という名前のレシピに多かった。
中華風でピン!ときたが、これは本格中華料理屋でよく見る、塩コショウをつけて食べる、衣がふわふわタイプのことではないか。
あれは僕の一番好きなタイプのから揚げだ。
期待に胸を躍らせつつ、この日の夜は中華流に挑戦してみた。
三種類が交錯する黄色部分。三国志でいえば荊州です。
下味はごま油と五香粉。これは必ずおいしい。
卵が入って、衣はクリーミィな感じに。
完成。中華流。香りやばい。
約束されたようなうまさだ。
これまでの路線とはガラッと変わり、衣はふわふわ食感。ちょっとパンケーキっぽくもある。やっぱり僕はこっちの方が、圧倒的に好きだ。
そして香り。
肉との相性が抜群にいい「五香粉」は、もちろんから揚げでも最高のパフォーマンスを発揮した。高級中華店で食べている気分にさせてくれる。
僕はバイトしてた中華料理屋で、五香粉のことを教えてもらったんだけど、未経験の方はぜひ使ってみて欲しい。
肉の臭みとかそういうのが、すべて旨味に代わる魔術のような粉だ。
3.中華流 評価★★★★★
・衣はふんわりほわほわ。
・下味が無いレシピもあるが、五香粉がおすすめ。
・ふわふわの衣が香りを閉じ込めるので、香りは抜群。
ふわふわタイプ。セブンイレブンのお総菜から揚げに代表される。
4.「南蛮流」、ていうかチキン南蛮
さて、これまで何度も見てきた勢力図の右下に、領土が非常に狭い地域がある。
「小麦粉+卵」の衣による国家だ。
一見、非常な小国でごくマイナーな流派に思えるが、実はこの背後には、一大国家が控えているのだ。
チキン南蛮国である。
ここ。全体の中で3品のレシピしかない。
南蛮貿易で、大きく利益を上げる小国。
チキン南蛮は、鶏肉に小麦粉をまぶし、卵を付けて揚げるという、変種の揚げ物である。から揚げとも、天ぷらとも違う独特の衣の流派だ。
僕の記憶では、このメニューは90年代後半から、弁当屋のおかずとして全国区へ台頭してきた感があるが、どうだろう。
これを「鳥のから揚げ」と認めるかは微妙だが、僕自身がチキン南蛮を作ったことが無かったので、作ってみた。
下味は塩コショウのみ。シンプル。
卵がそのまま衣になるって、かなりオンリーワン。
泡の出が心配になるほど少ない。しゅぼ、ぼぼ、って感じ。
南蛮流。甘酢をかけていただきます。
甘酢をかける前は、正直あまり美味しくない。
衣がパサパサしている。
まあ、卵をそのまま揚げるんだから、小麦のようにふんわりとはいかないだろう。当たり前だ。
だが、そのあとに南蛮ソースという名前の甘酢に漬けてみると、衣もしっとりとして、急に美味しくなった。ここへ来て、全体が「さっぱり」という方向性に統一感を帯びる感じだ。悪くない。
モモ肉ではなく、味わいさっぱりの胸肉を使うのにも納得のメニューだ。
すいません、市販のタルタルソースが嫌いなんで、タルタル無しです。
4.南蛮流 評価 ★★★
・そのままだと、ただのパサパサしたから揚げ。
・甘酢の出来が勝負の分かれ目。
・さっぱりしたいので、タルタルソースはかけません。
隠れ勢力・油淋鶏(ユーリンチー)
ここでちょっと気にして欲しい流派がある。油淋鶏だ。
よく見る中華料理で、から揚げにネギ甘酢をかけたやつなんだけど、あれがから揚げか? と言われるとなんか違う気がする。
たしかに美味しいし、登録レシピ数も非常に多いのだが、あいつのメインは衣ではなく、たれの味だ。
それよりも最近、油淋鶏に匹敵するまでにレシピ数を伸ばしている注目のから揚げがある。
塩から揚げだ。今日はこっちを見ていきたい。
油淋鶏は、今回はから揚げと考えないことにします。
5・「伯方流」(塩から揚げのこと)
焼肉塩ダレや塩焼きそばとともに、から揚げ界でも「塩の台頭」が起こりつつある。
最近では、ほっともっとのお弁当も塩から揚げを始めた。
そんな伯方流(塩から揚げのこと)を作ってみないで、この挑戦を終えるわけにはいかない。
味付けは簡単。塩ダレの定番、「ごま油&にんにく」でOKらしい。さっそく挑戦してみた。
既存のから揚げ世界を大きく脅かす、塩から揚げ。
下味はにんにく&ごま油。韓国っぽいぜ。
伯方流(塩から揚げのこと)、完成! 醤油使ってないから、揚げ色があっさり。
一口食べた瞬間に、あっと腰が抜けそうになった。
以前、職場の食堂で出されていたマズイから揚げと全く同じ味がしたからである。
今回はシンプルにと思い、片栗粉だけの衣で揚げてみたのだけど、塩の下味と相性が悪く、仕上がりが何だか粉っぽくて油っこくて、カラリとせず、肉の臭みも抜け切っていないのだ。
僕の技術が未熟だった部分もあると思うけど、少なくとも今回の塩から揚げは失敗だ。
意外と上級者向けメニューかもしれない、塩から揚げ。
驚くほど社員食堂的な味がする、塩から揚げ。
5.塩から揚げ 評価 ★
・下味に醤油使った方が絶対うまい。
・片栗粉の衣が粉っぽい。(汁気が少ないから?)
・社員食堂のマズイから揚げの秘密がわかったという点で、収穫あり。
ほっともっとの塩から揚げ。でもこれは塩以外も使ってる味。
コツ:とにかく低温で揚げる。
ほとんど「日清のから揚げ粉」しか使ったことのなかった僕がここまで作ってきて、ひとつコツを学んだ。
それは「とにかく低温で揚げる」ことである。
から揚げは、衣に醤油が混ざりこむので、やたらと焦げやすい。
これまで失敗する原因は、だいたいこれだったようだ。
140度くらいでじょぼじょぼと揚げる。絶対焦げ付かない。
天ぷらだと、「180℃でカラッと」が合言葉になっているが、唐揚げは違う。とにかく低温だ。レシピの中には、常温の油に浸けて、そこから火にかけるなんてのもあった。
けれど、低い温度の油はもったりとしているので、衣にからみつき、べちゃっとしてしまう。
そこでカラッとさせるには、最後だけ高い温度にするといいという話になる。二度揚げでもいい。
全部レシピに書いてあることなんだけど、作ってはじめて、その意味がわかった。ガッテンガッテン。
しょわわわ!と、別物のように沸き立つ、二度揚げの鍋。
と、コツをつかんだところで、焦げそうなから揚げナンバーワン「味噌から揚げ」いってみます。
6.味噌から揚げ、驚きの類似性。
塩とともにレシピの中に顔を出していた人気メニューに、味噌から揚げがある。
まるでラーメンだが、これは意外と盲点だったのではないか。
僕自身にも、から揚げの下味は醤油、という既成概念があり、味噌は考えたこともなかった。
では、「サッポロ流」(味噌から揚げのこと)ってどんな味に仕上がるのか。
薬味はしょうがで揚げてみた。
塩と同じく台頭する味噌。言われてみればこれもあり。
冷え知らずさんの、しょうが味噌から揚げ。
完成!サッポロ流!(味噌からあげのこと)
かなりうまそうなルックス。でも驚くことに、食べた瞬間の感想は、「味噌を感じない……!」であった。
本当だ。恐ろしく味噌っぽさを感じさせないのだ。
以前、当サイトで
味噌をすべて醤油で代用するという記事があったが、まさにそれを思い出した。
味噌が完璧に醤油の代わりを果たしている。すでに味噌の姿はどこにもない。まるで役柄を完璧に演じ切る名俳優のようだ。
ただ、味噌から揚げとしてはそれでいいのか、という疑問が残るがまあいい。味は総じてうまかったので、★3つにしよう。
味噌の、味噌の味がしない!?
5.味噌から揚げ 評価 ★★★
・教師ビンビン物語を演じる、柳沢慎吾のごとし。
・醤油が無いときの緊急手段として有効。
・このことを、先の記事を書いたM斎藤君に伝えたい。
斎藤君は刺身に味噌をつけて食べていた。
さあ、最後のからあげは世界に目を向ける。
とうとうフライドチキンの登場だ。
さあ、ワールドワイドに視野を広げよう。
世界を見渡せばそこに、「フライドチキン」という超巨大流派がある。
フライドチキンだってから揚げだ。
にんにくもしょうがも下味に使うし、衣は小麦粉と片栗粉だ。ほとんどから揚げと言っていい。
ではフライドチキンと唐揚げを分けるものは何なのか。
答えは「スパイス」だ。
レシピごとにいろいろなスパイスの配合があったが、丁寧に見ていったところ、どうやら「オールスパイス」というスパイスが、フライドチキンをフライドチキンたらしめるに重要な役割を担っているらしい。
買ったことの無いスパイスだが、これだけでカーネルおじさんの味が味わえると思えば安い。
さっそくスーパーに行って、「オールスパイス」とやらを買ってきた。
ミックススパイスではなく、そういう名前のものらしい。
7.「ケンタッキー流」オールスパイスの実力
とりあえずオールスパイスで下味をつけてみたが、
カーネルおじさんのチキンは11種類のスパイスを使っているということなので、僕も家にあった適当なスパイスを全部入れた。
にんにく、しょうが、ナツメグ、黒コショウ、ローリエ、シナモン……。11種類には足らなかったので、しょうがなくクレイジーソルトを振りかけた。この中にあと4種類ぐらい入っているだろう。
そして塩で下味をつけて、ミルクに浸す。粉をつけて揚げる。
くれいじーそると、オフクロノ味デース。
みるくデ肉ヲ浸スト、ヨク味ガ染ミマース。
衣ノ粉ニモ、すぱいすヲ混ゼ込ミマース
出来上がりデース! オリジナルチキン・1ピース240円デース!
これうまい!
めちゃくちゃうまい!
ルックス的にも、かなりカーネルおじさん的な感じになっているが、味もめちゃくちゃしっかりフライドチキンである。
すげー!すげーぞ!オールスパイス!
なんだ、フライドチキンって、自宅でもここまで本物に近づけるんだ!と、心の底から感動した。
ここ最近で作った料理の中で、間違いなく一番の出来だ。
モモ肉でも、ムネ肉でも、手羽元でも、どこの肉でもおいしいチキンに変えてしまう魔法の粉オールスパイスはスーパーでたったの238円だった。
今すぐみんな、買いに行ってみよう!
うまいデース! うまいデース!! いい香りデース!!
偶然、近所の植物園で展示していた。ジャマイカ原産。
7.ケンタッキー流 評価 ★★★★★
・オールスパイス、イズ、オール。
・食べるとカーネル人形の人影が頭をよぎる。
・総合的にうますぎる。
完全制覇である。いま僕はからあげで世界を制した。
最後に改めて特筆すべきは、普通のから揚げのうまさだ。
塩も味噌も出てきているが、醤油の下味が何よりも一番うまい。さすがの王道である。
フライドチキンは、スパイスの配合に、技の改善の余地があるので、白ひげが生えて胸像になるまで、配合を研究しようと思う。
から揚げで太りすぎたから、ライター尾張君とバーチャル駅伝大会に参加した。 詳しくは
このリンクのトゥギャッター参照。