うしろから覗くために人の家へ
まず誰をのぞこうか。本当は、むかしのリベンジもかねて、しごとの先輩がいいだろう。とは思うも、いきなり年上にのぞかれ、のぞくのは怖かったので、後輩の家をたずねる。
イラストレーター・ライターのみやけさんのお家にきました。
「誰かに作業のぞかれたことある?」ときくと「ありますあります、むかしテレアポをしてた時に、上司が横で会話を聞いてて」
「契約が取れそうだと、釣りのモーションをするんです」
上司が作業を横でみながら、しかも「いけいけ、釣れ釣れ」という動きをしてくるらしい。地獄!
「めちゃめちゃいやでした…」と後輩が言い終わったあと、「じゃあこれから作業をのぞくね」と伝える。
顔はやさしいのに使用人を奴隷扱いする金持ちのような気持ちになる。
「じゃあ普段のしごとしてみて~?」 後輩の顔がくもる。
「絵を描く人は液晶タブレットがあるのか」「マウスないんだな…」など作業目線で見るとちょっと異世界でおもしろい……。
と思ったところで早めに限界がきたらしい。「ふだんどう作業してるかわからなくなった」という。わかる。わかるぞ。
さらにうしろからの写真のブラック企業感。これが昼ドラに出てくるお局の気持ち…!
てっきりのぞかれる人だけがつらいのかと思っていたが、これ、のぞく方もいやだ。人のプライバシーに踏みこんでいる気がして罪の意識がすごい。
交代して自分も見てもらう。あーこの感覚だ!緊張する!
思ったよりざわざわするのと、まずうしろに人がいるので「会話しなきゃ」という気持ちになってしまう。
とはいえ、慣れてくるとお互いの作業をみながら「このアプリなに?便利そう」「これめっちゃいいですよ!」や、「わーこうやってメモとるんだ」「このやり方もいいよ」と話がはずんだ。あれ?思ってたよりおもしろいぞ?
本当の偉い人にのぞいてもらう
後輩でしっかり耐性をつけたところで、きちんと偉い人にものぞいてもらう。
左からこのサイトの編集部の安藤さん、石川さん、そして編集長の林さんだ。私は編集部と契約をしているので、この記事を書くことができる。
みなさんにこやかでいつも優しいのだが、ライターというお仕事でいえばゴリゴリの先輩である。
この状況でもう心拍数があがり、グレーのTシャツだったら終わるレベルの汗をかいていた。
「とりあえずうしろから見てもらって、気になるところがあったらコメントをください」と伝える。
すごい勢いでみられる。そしてワードをひらくもすぐつまる。
「タイピングはやいですね」「あれ、ここの文章すこしおかしいかも」「もう少し短いほうがいいですね」「こういう場面ではこうするといいですよ」
言われるたびにヒィィとなって手が止まってしまう。うしろから言うほうも「普段こんな細かく言わない」「これ自分だったらやだ」と言う。
その後も直されつつ、コメントをもらいつつ作業をすすめる。手汗がすごい。ただ慣れてきた時に気がついた。これ、確実に文章がよくなっている…。
よくなっている……!(なんだこれは)
つらい状況なのに、ものの出来上がりがよくなっている。緊張さえとければ、当たり前だが勉強になり、自分がレベルアップした音がきこえてくる。だんだん進研ゼミの漫画のような記事になってきた!
つぎは林さんにも書いてもらう。「そんなに緊張しない」とはじめて、サクサク書いていく。
「さぞおもしろい文を…」とまわりが煽ってもすーっと書く。伝統工芸などで、師匠は教えずただ背中を見せるだけと聞いたことがあるが、あの方法をやる意味がいまわかった。マニュアルを読むとかより、きっと見た方がいろいろ早いのだ。
もう「作業はのぞき、のぞかれよ」とかいう新しい本がでてもおかしくないところまできた。
ただ、まったく緊張が解けなかったので、この前にかいた自分の文章と、林さんに書いてもらった文章が入ったワードを保存するのを忘れた。すぐ全部消えた。その場では言えなかった。やっぱり書籍化はきびしい……。
画像加工やネットサーフィン観戦もいい
文でなく、別の作業はどうか? みなさんにも体験してもらう。
Photoshopで挑戦した石川さん。色加工で「ここはショートカットキーを使おう」と言われて笑ってしまう。
作業者は指摘されると「うわああ」となるが、ただそのおかげで聞いてた全員がショートカットキーの存在をおぼえた。ちょっとした学校みたいになってきた。
普通にネットを使っている様子を見られている安藤さん。
「Yahoo!ニュース見るんですよね」「このサイトこんなコーナーあるんですね」「ナショジオもみますよ」ずっと「へぇ~」「あ~そういうのもあるの」とうめきがつづく。結局何を見ても知識がふえる!おもしろい!なんでもうしろから見たい!
そのあとも、PCの中に「とりあえず」というフォルダを見つけ「僕もあります!」「さらにその中に『すぐ捨てる』フォルダをおくといいですよ!」など、さまざまなおすすめ作業法が集まっていった。
職業をこえてやりたい作業観戦
最初「どうせイヤな気持ちになるんだろうな」ではじめた作業観戦だが、話ははずむわ、新しい知識もふえるわで大充実の時間になった。PCしばりにして、いろんな職業の人をのぞくことなんてあれば、違いがおもしろくてすごい盛り上がるだろうなと思う。
全員がだまったときは、大きなバグが発生して途方にくれるシステム会社みたいな写真が撮れていました。