特集 2018年1月5日

お正月飾りを自動車に付けて走りたい

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僕は憂えている。日本のお正月文化が失われつつあるからだ。

僕が子供の頃(20数年前)には、お正月になると、ほとんどの自動車の前面にはお正月飾り(しめ飾り)が付いていた。

もちろん付いてない自動車もあったが、付いている車の方が多かった。

しかし近年はめっきり少なくなり、このお正月に至っては、まだ一度も見ていない。タクシーやバス、トラックなどの企業の車には、割と最近まで付いていた気がするが、それらにも全く付いていなかった。

失われつつある日本の古き良き伝統を守るため、お正月飾りを自動車に付けて走ってみようと思う。
1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

前の記事:素人が鼻の穴の形の皿を自力で商品化した一部始終

> 個人サイト オカモトラボ

自動車用のお正月飾りを買う

遡ること12月中旬の話である。自動車用のお正月飾りが欲しかったので、ネットで「お正月飾り 自動車用」で調べてみた。すると、「自動車用」と銘打って販売しているお正月飾りはまだあり、これ幸いとばかりに早速注文した。

届いたダンボール箱を意気揚々と開けたが、現れた光景に僕の手は止まった。
吸盤が付いている。
吸盤が付いている。
注文する前に気付けばよかったが、これは「車内用」だ。吸盤の様な貧弱な固定方法では自動車の前面に付けたら吹き飛んでしまうだろう。

「お正月飾りを付けるのは自動車の前面」という思い込みを利用した叙述トリックに、まんまと引っ掛かってしまった。他にも「自動車用」と銘打っているお正月飾りを調べたが、ことごとく吸盤付きであった。

自動車の前面にお正月飾りを付けるという文化は、失われつつあるのではなく、もう完全に失われていたのだ(俺調べ)。

自動車用のお正月飾りには、何か特別な工夫があるかも知れないと思ったのだが、仕方がない。それならば自分で作ろう。

お正月飾りを作る

実は、僕にとってお正月飾りを作ることはごく当たり前の事だ。

僕が通っていた、岡山県の山あいの小さな小学校では、お正月飾りの作り方を地域のお年寄りから教わる授業があった。それに何より、我が家では現在でもお正月飾りは毎年手作りしている。

お正月飾りの作り方には、かなり地域差があると思うので、僕が住んでいる地域の作り方で作っていく。
まず稲藁を叩いて柔らかくする。
まず稲藁を叩いて柔らかくする。
使っているのは杵である。稲藁を叩く専用の道具が有ったみたいだが行方不明になったので、もう使わなくなった餅つき用の杵を使っている。これだけでもお正月感が半端じゃない。
そして叩いて柔らかくした稲藁をねじり合わせて縄にする。
そして叩いて柔らかくした稲藁をねじり合わせて縄にする。
こんな感じ。
こんな感じ。
ちなみに、この様にねじり合わせる事を「縒(よ)る」と言うが、人間関係を元に戻すという意味の「縒りを戻す」はここから来ている。

人間関係で縒りを戻すのは難しいが、稲藁の場合は、手を離すとすぐに縒りが戻ってしまうので、縒りを戻さないほうが難しい。
なかなか良い感じに出来た。
なかなか良い感じに出来た。
ちなみに、この縄を縒る作業は、近所では年長者ほど上手い。

小学校に教えに来ていたお年寄りは、恐らくご近所でも精鋭中の精鋭だったはずだが、もっと強い縒りが掛かっていて、作るのも異常に早かった。小学生が引いてしまうほどに。
続いて、作った縄で稲藁の束を結ぶ。
続いて、作った縄で稲藁の束を結ぶ。
結び方は「男結び」にする。「男結び」だと緩みにくい。
稲藁の束を髪の毛の三つ編みと同じ要領で編んでいく。
稲藁の束を髪の毛の三つ編みと同じ要領で編んでいく。
そして先は稲藁で留める。
そして先は稲藁で留める。
ウラジロ(シダ植物の一種)、橙(今回はみかん)、昆布、ホンダワラ(海藻の一種)を付ければ完成だ。
ウラジロ(シダ植物の一種)、橙(今回はみかん)、昆布、ホンダワラ(海藻の一種)を付ければ完成だ。
ちょっとショボい感じは否めないが、僕の作ったものなのでこれで許して欲しい。うちのお正月飾りは、祖父が作っていた時からこの形だったし、小学校に教えに来ていたお年寄りも同じ形を作っていた。おそらく僕の住む周辺地域はこの形だと思う。

お正月飾りを自動車に付ける

お正月飾りの取り付けは、12月31日に行うのは「一夜飾り」と言って忌まれるし、29日も二重苦に通じるため、あまり縁起が良くないとされている。僕は28日に行った。
自動車のフロントグリル(空気を取り込む所)に取り付けた。
自動車のフロントグリル(空気を取り込む所)に取り付けた。
僕の自動車には取り付けられる場所がほとんどなかったので、思いのほか苦戦した。取り付けには針金を使用し、落ちないようにグルグルに巻きつけている。
ヒキだとこんな感じ。
ヒキだとこんな感じ。
自分で言うのもなんだが、思ったより良い感じである。

しかし、昔のクレスタとかマークツーみたいな、角張った昭和なデザインの自動車のほうが、お正月飾りは似合っていた気がする。それにフロントグリルが大きく開いていたので、取り付けやすかったのかもしれない。その辺もお正月飾りを付ける自動車が減った一因ではないかと想像した。

お正月飾りを付けてドライブをする

渾身のお正月飾りを取り付けた所で、ドライブに出かける。
やはり他にお正月飾りを付けた自動車はいない。
やはり他にお正月飾りを付けた自動車はいない。
1人だけお正月飾りが付いていると、なんだか僕だけが「お正月に浮かれている人」みたいで少し恥ずかしい。
車内からもお正月飾りが少し見える。
車内からもお正月飾りが少し見える。
大人はあまり関心を示さないが、子供達は指をさすなどして興味津々だった。初めて見る子供たちも多いと思う。

小学校低学年くらいの子供だと思うが、僕の車を指さしながら「門松がついてる!!」と叫んでいた。


次世代を担う子供たちの記憶に「自動車にお正月飾りをつける文化」を刻んだので、とりあえず目的は果たした。将来、自動車を買ったら、お正月飾りを付けて欲しい。

僕も今後も付けていくつもりだ。

お正月の行事は、本当に地域差がかなりあって、驚くことばかりだった。

まず「お正月飾り」の呼び方から違っていた。

岡山県在住者の僕は「お飾り」としか言わないし、近畿地方出身者の同僚も「お飾り」と言っていたが、四国地方出身者に聞くと「しめ縄」としか言わないらしい。

現段階ではサンプル数が少な過ぎてなんとも言えないが、このへんも掘ってみたら面白そう。またやってみよう。
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