弟が待ち合わせしているところこっそり見て…
こんな感じの本気デートを実況しながら…
後ろからずっとついていきます
恥ずかしかったり、不安になったり、心配したり、イライラしたり…自我が崩壊するんじゃないかってくらい感情の起伏が激しすぎる一日だった。
「弟の本気のデートが見てみたい」という企画が思いついたときは、単純に大学生になったばかりの弟がどんなデートをするのか気になったというのもあるし、「弟が恥ずかしがる姿」が見られれば記事としてもおもしろいんじゃないかと思った。しかし実行してみると結果はまったく違った。予想に反してこちら側に精神的ダメージがある企画だった。肉親の僕だけでなく、一緒に見守っていた編集部の安藤さんもデートの初々しさに心がやられていた。
一緒にいった安藤さんは学生時代を思い出して悶えていた。
間違いなく2017年で僕が一番恥ずかしい日であったと言えるだろう。2018年を入れても一番かもしれない。いやもう宣言しよう、2018年に入ってもこの日を超える恥ずかしい日は訪れない。
そしてただただ恥ずかしいだけでなく弟のデートを見守っているのを通して、自分の学生時代の記憶なども掘り起こされるノスタルジックな体験にもなった。終わってみるとまさかこんなハートフルな企画になるとは思わなかった。ちょっとしたタイムマシーンに乗ったみたいな気持ちになれた。
ほとんどは弟に任せてあり、こちらは本当についていくだけである
肉親が異性とチャットするのを見るってこんなに恥ずかしいものなのか
企画としてはとにかく僕は弟のデートについていくだけだ。「事前にチャットさせておく」というルールを用意したのは、デートの対策を立てやすくするためと、弟の本気をより引き出すために行った。初対面で本当に何も知らない女の子が来てしまうよりも、チャットで連絡を取り合っておくと計画するときに気持ちが引き締まると思ったからだ。
それからもう一つの理由として、現代ではスマホのアプリでチャットしてからデートに繋がるのはほぼ一般的なシチュエーションだからだ。だから今回はも「チャットから出会って、デートする」というシチュエーション演出することによって、擬似的なデートがよりリアルなものになると思ったからだ。
オレンジが弟、紫が吉岡さん。このチャットでは僕は発言はせず参加だけして会話を見守っていた。時間はきっかり30分というルールだ。
弟は僕と性格が真反対である。僕は道で女性の笑い声が聞こえると「あ、俺が笑われている」と悲観する性格なのだが、弟は自分のことをイケメンだと思っていて、さらに頭もキレる人間だと思っている。(本人は出来る人間だと思っているらしいが、僕からするとスマホのゲームの体力が回復するまでyoutubeに入り浸っているだけの真性のクズである。そこが弟のかわいい点でもあるのだが)
チャットを見ている間はずっと背中がぞわぞわとして他のことに手がつかなかった。「あの自信満々の弟がいつもはこんな感じで連絡しているのか」と心が落ち着かなかった。
吉岡さんが「インスタやっているんですよ」という発言に対して、弟が「俺インスタグラマーなんですよ」→「嘘です(笑)」という冗談がチャット上を流れたときは、おじいちゃんが隠していたエロ本を発見したくらい、見てはいけないものを見てしまった恥ずかしさがあった。こんなつまらない弟でごめんなさいと吉岡さんに謝罪したくなる。肉親が異性とチャットするのを見るってこんなに恥ずかしいものなのか…
思わず頭を抱えたくなる恥ずかしさ
しかも恥ずかしいだけでなく、思わず指摘もしたくなってくるのだ。吉岡さんが「嫌いな食べもものありますか?」と聞いてきたときに弟が「きのことたけのことピーマンです」と回答していた。ここで弟が「吉岡さんは嫌いなものありますか?」と質問すればデートの参考に出来るものの、弟が次に送ったメッセージは「子どもっぽいですよね(笑)」という謎のわんぱくアピールだった。
違うんだよ…!そこは吉岡さんのナイスパスをきちんと切り返さないと…!!
このときは弟のチャットに対してあーだこーだといろいろと言いたいことが山ほどあった。しかし、今になって考えてみると僕は彼女が6年近くもおらず、ここ最近女性とメッセージのやり取りなど皆無だったので、何か指摘する権利なんてあったものじゃないのだ。「自分の事を棚に上げる」という言葉がこれほどピッタリな状況もない。
そんな感じで恥ずかしがったりやきもきしたチャットを終えて、いよいよ当日である。デート決行日は自分の感情がこんなに揺れ動くのかってくらい動揺しっぱなしだった。僕がタイタニック号だったなら氷山にぶつかる前に沈んでたくらい心が揺れまくっていた。タイタニックがまさかのショートムービーになるところだった。
そして当日。クリスマスムード満点のみなとみらい
ということで、ここからは解説のmegayaでお送ります。実況にはデイリーポータルZ編集部の安藤さんをお招きしました
今回は弟のデートを一緒に編集部の安藤さんと話しながらじっくりと見守りたいと思う。一応インカムをつけているが一切使わない。大事なのは雰囲気だ。クリスマスツリーの飾りに意味を求めない人が大勢いるのと一緒だ。
ちなみに安藤さんに「初デートだったらどこいきますか?」という質問をしたら「ゆっくり話したいからお店に入って、恐竜と宇宙の話を3時間くらいします」と斜め上すぎる回答をされた。この人と一緒にデートの解説を出来るのかと早くも後悔と不安にかられた。そんなもんデートじゃなくても初対面でされても困惑する。むしろ今されても狼狽する。
この企画は12月22日の金曜日に行われたので、街はまさにクリスマスムード満点だった。集合場所の駅に着いたときに声高らかに徳永英明の歌声が流れていて、思わず「良いムードだなぁ」と独り言を漏らした。
弟がデート場所に選んだのはみなとみらい周辺だ。初デートの場所としては高得点ではないだろうか。嵐の櫻井翔くんも初デートはみなとみらいと言っていたくらいだ。ワールドポーターズのような大型のショッピングモールもあるし、コスモワールドという小さい遊園地もある。ランドマークタワーに登って夜景を見ても良いかもしれない。デート場所としては最適だ。なかなかわかってるな、弟よ。
集合場所は「馬車道」というみなとみらいの隣の駅。改札を上から見下ろせる中二階のような場所で集合することにした。
本当は19時にみなとみらい集合の予定だったのだが、弟が当日の17時になって隣駅に集合場所を変更したいと急遽連絡がきた。弟には一週間前からこの企画のことは伝えてあったのに、まったくもって準備不足である。こういうのが女の子にはマイナス点になるだろ…こういうところが弟のだめなところなんだよなぁ…
急な変更もあり僕と安藤さんが早めに着いてしまった。まだ主役の二人は登場していない。そこで、せっかくなので二人の出会いのシーンを上から盗み見てみることにした。なんだかテレビのドッキリ企画みたいでドキドキしてきた。
弟と吉岡さんと連絡を取って駅に着いたか隠れながら確認する。
出会いから恥ずかしさが全力疾走する
少しすると弟が駅に到着した連絡がきた。「着いた。どこ?」という無愛想な文字列が僕に届き、そのあとに弟が階段からあがってくる姿が見えた。
LINEで送って来た文字は無機質であったが弟の足取りは明らかに軽やかだった。それを見て僕もニヤニも止まらなくなる。弟にバレないようにする緊張感と、弟がこれからデートするという見てはいけないものを見てしまっている背徳感とが交差する。
弟と面識がないから隠れる必要はないのに、なぜかバレないようにコソコソとする安藤さん。服装的にもロシアのスパイに見えてきた
安藤さんが撮影した弟の写真
僕だと目が合ったら発見されてしまう可能性があるので、安藤さんにお願いして弟の様子を探ってもらった。隠密行動をしているような楽しさがある。ミッションインポッシブルだ!!
ただ冷静になって考えてみると、今のところはただおじさん二人がスパイごっこをして、弟の盗撮をしてはしゃいでいるだけである。文章にすると犯罪の匂いすら感じる。
そんなトム・クルーズにはなりきれない我々二人が弟をこそこそと見守っていると、いよいよデート相手の吉岡さんが到着した。
あああああああああああああ!!出会った!!!!!
そして二人でこっちに向かってくるーーーーーー!!!!
なんだこれ…!思っていた数倍恥ずかしい…!
吉岡さんは僕の知り合いであり、弟の彼女ではない。だがなぜだろう。「弟が女の子と一緒に歩いてきた」というだけなのにこの破壊力。なぜか僕の耳が一番真っ赤になっていた。恥ずかしくて笑いが止まらない。
冒頭でも言ったが僕は弟と歳が9つ離れており、「弟」というよりも「甥っ子」のような感覚に近い。弟が中学生の体育祭でリレーのアンカーを走るのを見に行ったときは冗談でなく涙がでた。「あの小さかった弟が走っている…!ちゃんと走っている…!!」とクララが立った名シーン並の感動があった。
その弟が女性と一緒にいる。なぜだろう。むず痒さが止まらない。いつもは自信満々な弟も緊張しているのか、僕の目を見ても「お…おう」と言った感じで軽く会釈するだけだった。照れているのだ。かわいいな、こいつ!!
まだ二人の距離が遠い。照れが伺える。
今さらですが弟です
弟には1週間前からこの企画をやるということを伝えてあったので、2時間という短い時間をどう使うのか自由である。恥ずかしさもあるがどんなデートするのか少し楽しみな気持ちもある。とにもかくにも、弟のデートを見守る企画がいよいよスタートする。
出会いでこれだけ恥ずかし思いをするのか…と考えると不安になる。カツ丼を食べたあとに、これから寿司とチャーハンと焼肉を食べにいくような、胃にずっしりとくる重みがある。寒天みたいな味もカロリーもないものが食べたい。
駅を急遽変えた弊害がでる…!
ここからは弟と吉岡さんの後ろをひたすらついていく
ここからは完全に弟に2時間まかせてあるので、どこに行くのかまったくわからない。後ろからひたすらついていくだけである。余談だけど、僕も初デートの場所を決めるのであればみなとみらいを選んでいる。考えが同じになるのはやはり兄弟の血を感じる。
ここからはときどき実況形式でお送ります
後ろからついて歩いているとたまに弟の声が聞こえてくるのだが、完全によそいきのワントーン高い声なのだ。さらに敬語をちゃんと使っている。なによりもいつもは「俺」と言っているのに一人称を「僕」に変えている。もうその声も喋り方もすべてが初めて聞くものだったので、背中がぞわぞわとして落ち着かない。どのホラー映画をみるよりもよっぽどぞくぞくする。
10分ほど歩いてもなかなか目的地に着かない。だんだんと暗がりの方へ向かっていく。大丈夫か…?
しばらく歩いていたのだが、一向に目的地に着かない。それどころか直前に変更した集合場所であるみなとみらい駅に近づいている気さえする。
出発して10分くらい経つと、恥ずかしさが少し消えてきて、デートに対する不安と指摘したいイライラが募ってきた。ちゃんとエスコートできているのか?会話は盛り上がっているのか?と心配になる。会話も吉岡さんにリードしてもらっているようであった。年齢的には弟が大学1年生で、吉岡さんが大学4年生なので、仕方がないと言えば仕方がないことなのだが、そこは男らしく会話をリードしないと!!
やはりこういうのって外から見ていると、自分は出来なくても言いたくなるもんだな…!
二人が急に立ち止まった
なぜかUターンしてこちらに向かってきた
どうやら道を間違えたようだ。これは素直に爆笑した。
ここに来て直前に集合場所を変えた弊害がでた。馬車道という普段あまり使わない駅からスタートしたので、どうやら弟は次に行く目的地へのルートがわからないようであった。
道を間違えた瞬間は大爆笑したが、少し歩いていくと気持ちが落ち着いてきて「なんで事前にリサーチしないんだよ…!」「ちゃんと一週間デートプランを計画する時間があっただろう…」「それじゃ男としてダメだろう!!!」と、弟に対する叱責の気持ちが湧いて出てくるようになった。かわいさ余って憎さ百倍というやつだ。
その後なんとか弟は軌道修正を重ねて、20分くらいかけてようやく最初の目的地に到着した。リサーチ不足が目に見えていて今のところ不安しかない。大丈夫か、弟よ。ちゃんとこのあとエスコートできるのか…?
今の若者のデートの主流は「インスタ映え」
みなとみらいは景色が良いので歩いているだけでもムードがでる。弟がドキドキのデート気分を味わっている間に、僕は安藤さんの「あそこの映画館でTシャツがベタベタになるくらい泣いたことあるんですよ」というクリスマスとは無縁の話を聞いていた。
しばらく歩いて「赤レンガ倉庫」に到着した。
道を間違えながらもなんとか着いたのは「赤レンガ倉庫」だ。買い物も出来るし、食事もできるし、この時期はスケート場も併設されるのだ。良いチョイスだ。買い物から遊びまですべて出来るので、2時間という短い時間であれば赤レンガ倉庫だけでデートを終わらせることもできる。弟は何が目的でここに来たのだろうか?
弟がどこで何をするのか我々は知らないので、予測しながらついていく(楽しい)
赤レンガ倉庫はイルミネーションがクリスマス仕様になっていた
ちなみに後ろからついていく僕らは常にカメラを構えて決定的瞬間を逃さないようにしている。インカムしてカメラを構えているので、周りからみたらマジで何者かわからない異質な存在だっただろう
飲食の出店が左右に並びきらびやかな道を暫く二人で歩いている。もうカップルにしか見えなくなってきた。デートらしさはかなりでてきた。しかし外はかなり寒いのだ。寒さで手と耳が痛くなってきた。後ろからついていっている我々二人は「お店入らないの?」「寒くないのかな?」「女の子は生足だけど大丈夫なの?」とハラハラしきりだった。
と、ここで我々が油断していると、カップルっぽいイベントが発生していた。
カップルぽい…!!
さっきまで心配の気持ちで見ていたのだが、急にデートっぽいことをやりだした。また僕の中で恥ずかしさがこみ上げてくる。
しかし今の子は2ショットなんてそんな自然に出来るのだろうか。弟がレベル高いのか、それとも今のスマホ世代の10代からしたら普通のことなのだろうか。
僕は恥ずかしくて初デートで「2ショット撮ろう」なんて気軽に言えない。だんだんと弟の方が恋愛経験値が高いんじゃないんだろうかと、恐怖にも近い感情が誕生しつつあった。
出店で何か買うようだ。つまめるものを買ったようであるが、こちらとしては「どこで食べるの?」「座る場所はあるの?」「店内には入らないの?」と不安は募るばかりである
弟は「俺が買うよ」という男らしさを見せていた。僕の感情としては恥ずかしよりも「おお、いいぞ!」と褒めたい気持ちになった。赤ちゃんが初めてハイハイをしたときのような賞賛に近い感情だと思う
今度はそれぞれで買った食べ物の写真を撮りだした
かと思えばふいに再び2ショットを始める。後頭部がむず痒い。直視できない。
露天で何かを買ったものの赤レンガ倉庫の中には入らずに、歩きながら食べているようだった。一体ここからどこに行くのであろうか。この先に何かお店とかあるんだっけ?と心配になりながらもついていく。
不安や心配にかられたり急に恥ずかしさが押し寄せてきて、感情の起伏がラクダの背中くらいデコボコしている。これあれだ、「はじめてのおつかい」に着いていく親の感覚に近いのかもしれない。
白い靴下見えているけど大丈夫?それダサいやつじゃないの?と服装まで不安になってくる。おかんの考えに近くなってきた。(後で聞いたら白靴下見えているのが今のオシャレらしい)
今この歩いてる瞬間も心配は尽きない。赤レンガ倉庫から次の目的に向かう道中で弟が「友達と一緒に船に乗って釣りに行ってもらいゲロをした」という話しを吉岡さんに披露していた。おいおい、クリスマスデートにその会話で大丈夫なのか…?
しばらく歩いていくとインスタ映えしそうな壁があった。どうやらこれが目的だったらしい。
お互いを写真で撮っていた。今のデートの主流はやはりインスタ映えなのかもしれない。お互いに写真を撮って見せあってキャッキャウフフとはしゃいでいた。楽しそうだ。
このあたりは「マリン&ウォーク」と呼ばれるモール街で、インスタ映えするポイントがたくさんあるのだ。この階段も有名なポイントらしい。
気がついたら安藤さんは微笑ましいものを見る目になっていた
安藤さんは「変に指示だして邪魔するとかそういうことじゃなくて、優しく応援して見守りたくなる気持ちになりますね。大人のデートってその先とかを考えてしまうから純粋で良いですね」と完全に親モードになっていた。でも確かにそうかもしれない。最初は恥ずかしくてむず痒いものが大部分を占めていたが、見ていると応援したくなってくる気持ちの方が大きくなってくるのだ。
赤レンガ倉庫→マリン&ウォークとデートとしてはなかなか雰囲気のあるルートを通っている気がする。なかなかやるな、弟よ。
「車道側を歩かなくて大丈夫か?」「会話リード出来ているのか?」「食事はそれで良いのか?」「会話は盛り上がっているのか?」と心配になったり何かアドバイスしたくなったりすることが多くなる。初めはただただ恥ずかしかった弟のデートが、だんだんと愛おしいもの見る目に変わってきているように感じる。単純にデートが成功して欲しい。この二人を守りたい…!!
そしてやはり安藤さんも見ていると恥ずかしさのようなものがあるようだ。肉親でなくても、初々しいデートいうのは見ているだけで恥ずかしいものなのだ。それが初々しいというものなのだ。
我々がノスタルジックな気持ちになる
ようやくお店に入るようだ
「寒いけど大丈夫なのか?女の子は冷え性じゃないか?」という我々の心配が二人に伝わったのか、いよいよお店に入るようで看板を見てどこに行くか相談していた。ただこれもなかなか決まらず3分くらい看板の前であーだこーだと会話しているようであった。
この気持ち僕には少しわかる。男ならガツンと決めた方がカッコイイのだろうが「女性の好みを優先させた方が良いのではないか…」という気持ちがあって、なかなか決められいのだ。弟も同じような心情なのだろう。こういうのがモテない原因なんだろうなと弟を見て自己分析した。ただ安藤さんはガツンと決めるタイプのようで「長いですね…」と10秒ごとにつぶやいており、そういうbotみたいになっていた。
いよいよお店が決まって店内へ。やはりデートの定番のイタリアン系を選んだようだ。もちろん我々も店内に入る。
運良く隣の席をたまたま確保することができたので、引続き観察を続ける
メニューを決めたあとは二人で仲良さそうにスマホを見せあっていた。だいぶ仲良くなってきているようだ
デートの残り時間はちょうど1時間弱くらいだったので、弟は時間の配分も上手くできているようであった。僕が「弟に残り時間教えた方が企画的におもしろくなりますかね?」と安藤さんに聞いたら「いや…やめておこう。二人をそっとしておこう…」と言われた。完全に雛を守る親鳥のような感情になっているようだ。
僕も弟がデートコースを自分で決めて動いていることに感動していた。また同時に9歳離れたかわいがっていた弟が急に遠くに離れていってしまったような、弟が男になってしまったような気持ちにもなった。
しかし、そのときたっだ。
吉岡さんが席をたった瞬間に急に弟に呼ばれた
ルール違反
ここでルール違反が発生した。僕と安藤さんの存在は空気であり「気にしてはいけない」「話しかけない」というルールでやっていたのだが、弟が吉岡さんがいないタイミングで僕を呼んだのである。せっかく二人の愛の巣を邪魔にしないように見守っていたのに、まさか内側からそれを壊してくるとは…!恋愛映画を見ていて主演が急に「演技で無理やり好きなフリしているだけでーーーーす!!」と言い出すようなものである。世界観がぶちこわし。
何かと思って話を聞いてみたら弟は恥ずかしそうに「お金がない…」と僕に訴えてきたのである。デートに夢中のあまりレストランの金額を考えていなかったようだ。疑似デートでよかったなぁ…これが本当のデートなら間違いなく女の子は失望したであろう。やはりまだまだこのあたりは大学生だ。かわいいやつめ。
吉岡さんが戻ってくる前に俊足で1万円を渡した
デートの雰囲気を壊さないように、吉岡さんが戻ってくる前に残像がでるくらいの速さでお金を渡した。舞台などでよく見る黒子役になったような気分である。急いでお金を渡したあとにすぐに吉岡さんは戻ってきた。どうやらバレていないようでホッと一安心した。さて引続き二人の世界を大切に見守ろうではないか。
その後も楽しさそうに会話していた。内容はわからないがシャッタースピードが追いつけないくらい爆笑していた。
周りから見たらカップルに見えているのだろう。見ていて微笑ましい。
ただ油断しているとふいに恥ずかしさに襲われる瞬間がある
「さっきも食べたのにピザ2枚頼んで大丈夫か?お腹いっぱいにならないか?」と親心のような心配はあるものの、おおむねデートは会話もそこそこ盛り上がり順調にいっているようである。兄としては嬉しい限りだ。
ただ歩いているときと違って店内にいるのでさっきより会話が鮮明に聞こえるので、ふいに恥ずかしさが襲ってくる瞬間がある。ときどき聞こえてくる弟のいつもよりワントーン高い声や、スカしたツッコミのセリフを聞くと耳が熱くなる。背中を筆で撫でられるようなぞわっとしたものを感じるのだ。心配したり恥ずかしがったり、感情が行ったり来たりして落ち着かない。
二人を見ていて、ふいに安藤さんが「あっ」と言って頭を抱えだした。
安藤さんは「イタリアンのお店」、そして「初々しいデート」というのを目の当たりにして、自分の学生時代を急に思い出したらしい。
「おれ、高校生のときに初めてのデートでパスタ食べて、そのままの会話の流れで付き合ったことあるんだよね」というなんとも甘酸っぱいエピソードが口から飛び出た。「初デートで恐竜の話を3時間する」と公言した人とは思えないセリフだ。さっきまでは学生時代の友人の名前も思い出せなかったようであるが、急にそのときの学生時代のエピソードが掘り起こされたようであった。
ちなみに安堵さんが飲んでいるのはジンジャエールなので、酔って出た発言ではない。通常運転のときにまさかこんな話しを安藤さんとするとは思わなかった。
そこからは初々しい二人を見ながら、僕と安藤さんは思い出話しに花が咲いた
そこから僕と安藤さんは「中学生の定番のデートはどこだった」、「初デートはどこに行ったのか」、「昔付き合ったらどういうデートをしていたのか」という懐かしいエピソードを二人で自然と話しあっていた。過去の忘れていた記憶も二人を見ていると芋づる式に記憶が呼び覚まされていった。ノスタルジー投影会だ。初々しいデートを見て自己投影しているのかもしれない。
最終的には「初々しいカップルのデートを一切邪魔しないで、ただただついていくサービスがあったら絶対に流行るよ」と二人で盛り上がるほどだった。忘れていた記憶が掘り起こされ、普段話さないようなことを恥ずかしさげもなく話せるのだ。
そんなどうでも良いことを話しているうちに、なんと弟はこの日最大の山場を迎えていた。
!!!!!!!!!!!!!!!!
うおおおおおおおおおお…!!!
これはさすがに直視できない!!!!!
安藤さんと昔話しをしていると場は急展開を迎えていた。一体どういう会話で手を合わせる会話になったのか知りたい。どこで急激に仲良くなったのだろうか。弟よ、兄より断然レベルが高いじゃないか。こっちは女の子に触れるなんて3回以上デートしないと出来ないぞ…!!
もう顔から火がでるどころじゃない全身山火事くらい恥ずかしい。消えてなくなりたいというか、粉々になってそのまま粉塵爆発したいくらい恥ずかしい。さっきまで微笑ましくてずっと見ていたかったが、早くこの時間終わってくれと願う気持ちに早変わりした。
そしてデートは終了へ…
ひとしきり食事をして仲良くなったあとはいよいよ駅に向かって歩き出した。帰り道のイルミネーションも、最後までデートらしさを保っていた。勉強になるなぁ…
帰り際にもちゃっかり2ショット写真を撮っていた
赤レンガ倉庫でイルミネーションを楽しみ、露天で少し歩きながら食べて、インスタ映えスポットで写真を撮りあい、食事をする。2時間という短い時間をうまく使えているデートになっていた。むしろ勉強になった。
歳の差もあってまだまだ敬語が抜けないようであったが、会話は盛り上がっているようであったし、距離はだいぶ縮まったように見えた。僕が仮にデートしていたら絶対に2ショットなんて出来ないし、手を合わせるなんて高等すぎる黒魔術はやり方がわからない。僕と弟は一体どこで人生に差がついたのであろうか。
そして駅に到着。今日の疑似デートは終了である。
弟のデートに着いていってみたが、恥ずかしさは確かにあったものの、どちらかというと初々しいものを見て心が浄化されるような気持ちの方が大きかった。特に弟は年齢も未成年ということもありお酒も飲まないし、デートの内容がとにかく健全で、手のひらにのせてゆっくり運びたくなる気持ちになった。
ただ忘れたころに急に恥ずかしさが山賊のように襲ってくるので、感情の揺れ幅が大きくて精神的に疲れる。何よりこの原稿書いているときに写真見返すのが辛かった。2017年精神的に疲れたオブザイヤー受賞。おめでとう。
弟には見せずに吉岡さんに今日の点数を出してもらった。
弟のデートの点数を聞いてみたら、85点というなんともリアルな点数だった。マイナスの部分はリサーチ不足だそうだ。道を間違えた部分もそうだし、本当は食事の後に観覧車に乗る予定だと言われていたらしい。ただ時間が足りなかった上に観覧車がすでに終了の時間だったのだ。そこは弟の下調べが甘すぎる。
ただ、この話を聞いているときはなんだか自分が怒られているような感覚になった。身内のデートをダメ出しされるのは辛い。みんなの前で学校の先生に怒られているみたいな、見せしめに怒られているような感覚だ。ああ、早く帰って熱い湯に浸かって眠りたい。
おそらく僕が高校生で弟が小学生くらいのときの写真
あんなに小さくて可愛かった弟が本当に大きくなったな…と今日は改めて感じた。あんなに小さくて何もできなかった弟が、自分で考え決めて女の子と歩いているのだ。10代の成長はおそろしく早い。
恥ずかしさもあったが「立派になったなぁ…」という感慨深さもある。なによりも年齢が上がって大きくなっても、こんな企画を今でも一緒にやれるくらい弟と仲良いことは誇らしい。
ではまた!!
恥ずかしさ、イライラ、不安、心配、親心の芽生え、そしてノスタルジックな思い出…と様々な感情が駆け巡った一日だった。結果としてものすごく楽しかったからみんなに体験してほしい。あいのりやテラスハウスといった流行りのリアリティーショーを間近で見ているのと同じなのかもしれない。生で見ているので感情移入はテレビの非じゃない。
みんなにこのうれし恥ずかし懐かしのタイムマシーンのような体験をしてほしい。なので「初々しいデートをみんなで見守るサービス」をそのうち安藤さんと立ち上げるので、誰か5000万円くらいください。
帰りに弟に話しを聞いたら「実は恥ずかしくて最初まったく顔が見れなかった。ご飯食べるときに初めて顔ちゃんと予想以上に可愛くてビックリした」と言っていた。最後までかわいいな、こいつ!!!!