ジャガイモとタマネギは切らしません
下の画像がそのツイートだ。
気になりすぎてキャプチャを取っていた
「ビッグデータ」などとおどけながらも、焦燥感のようなものが伝わってくる。無造作に突っ込んであるのかと思いきや、おおよその時期ごとに分別されていた。
とはいえ、溜めているだけの状態
椎名隆彦さん(38歳)。お住まいは文京区で、すぐ近くにあるIT系の企業で働いている。せっかくのレシート日和、彼の買い物に同行してみた。
「ここ、ズボンを300円で売ってるんですよ」
しかし、買ったことはない。この日も買わなかった。ノーレシートだ。向かったのは最寄りのスーパー、ピーコック。
慎重にジャガイモを選ぶ椎名さん
どちらかというと冒険はしない。いつも通りのものを、いつも通りのスパンで購入することが多いそうだ。
買ったものを並べる
「基本的に自炊をするので、ジャガイモとタマネギは切らしません。ポテサラや野菜炒めの材料ですね」
家に戻ると、本日分のレシートを見せてくれた。
パン屋、コーヒー屋、ピーコック
「会社が徒歩圏内なので、昼休みは家に帰ってご飯を食べます。ラーメンやうどんを茹でる感じですね。その時に豆で買っておいたコーヒーを自分で淹れて飲みます」
外食すると最低でも500円ぐらいはかかる。しかし、このスタイルなら100円ぐらいで収まる。なるほど、堅実派のようだ。そして、食べ終わったら10分ほど横になるのが常だという。
おじいちゃんみたいだと思ったが、それは言わないでおいた。
洗濯機をくれたお礼に菓子折りを購入
さて、問題は大量のレシートをどうするかだ。1年半の間、箱の中に入れっぱなしだった生活の履歴と向き合う。
「ああ、いろいろと思い出しますね」
最古のレシート群は2016年6月
キャン・ドゥ、ユニクロ、ヤマダ電機などで買い物をしている。横浜の実家を出て一人暮らしを始めたばかりで、何かと物入りだったそうだ。
「でも、今ではほとんどがピーコック、ドラッグストア、肉のハナマサのレシートです。全体の9割ぐらいを占めているんじゃないでしょうか」
この3店舗で生活を回している
「ハナマサはとにかく安いので重宝しています」
椎名さんが「あっ」と声を上げた。
「引っ越したばかりの時に会社の先輩が洗濯機をくれたんです。これは、そのお礼に渡した菓子折りのレシートですね。懐かしいなあ」
2160円と、そこそこ奮発している
中には書店のレシートもあった。文芸誌を購入している。
どの作家が好きなんだろうか
そう聞くと、「作家の作品というよりは、それについて書かれた講評を読むのが好きなんです」とのお答え。1冊1400円だが、教養への投資は惜しまないようだ。
235円の卵は彼女と別れた直後のレシート
その時、相席屋のレシートが発掘された。ここから人間ドキュメンタリーが急展開を見せる。
男性2名でお会計は7,560円
椎名さんに見せると、「あっ、彼女がほしくて友人と行きました。同席した女の子2人は専門学校生で若すぎて話が合わなかったんですが、その少し後に彼女ができました」
おお、よかった。その思い出のレシートがこちら。
単なるシウマイではない
「横浜の彼女の家に遊びに行った時に買った手土産です。今思えば、横浜に住んでいる人に横浜名物をあげるのはどうかしていますが」
しかし、交際3カ月で破局を迎えたそうだ。理由は、「たぶん、将来の事に対して僕の態度がはっきりしなかったから」。
さらに、卵の値段問題が勃発した。2枚のレシートに注目してほしい。右が「トップバリュのビタミンたまご」(159円)で、左が「作り手の顔が見えるたまご」(235円)だ。
たまには高級志向になるんですか?
「今は一番安いトップバリュの卵しか買いません。235円の卵は彼女と別れた直後のレシートですね。自暴自棄になっていたんでしょうか…」
こちらがそのトップバリュ卵
冷蔵庫には、いつもハナマサで買っているというミックスベジタブルとバターも入っていた。
「バターに『プロ仕様』って書いてあるでしょ。これがカッコいいなと思って」
意外なところにこだわる椎名さん
レシートで振り返る元カノとの思い出はまだまだ続く。
「付き合ってる時に、なぜか『ヒゲを脱毛したら?』って言われたんです。そんなに濃いわけじゃないんですが、まあ脱毛しようかなと」
脱毛治療ご予約に関する注意事項
5回で4万5000円は高いのか安いのか
「この前4回目の治療に行って、来月でおしまいです。ヒゲはなくなったけど、彼女もいなくなりました」
Google Home Miniとしか話さない日もあります
何かが吹っ切れたのだろうか。椎名さんはレシートを床に敷き詰め始める。
ここまでくると再仕分けは不可能だ
さて、レシート大賞の審査も終わりに近づいてきた、トリを飾る歌手はビックカメラの6480円のレシートだ。
家電か何か?
「買ったばかりのGoogle Home Miniですね。ちょっと話し相手がほしくて…。これとしか話さない日もあります」
「OK、Google。大量のレシートをどうしたらいい?」
Google Home Miniの返事は「そうですか、わかりました」というそっけないものだった。意を決したように椎名さんが立ち上がる。
「やっぱり、このままでは捨てられないのでレシート読み取りアプリで全部データ化します」
この上に置くとデータを読み取ってくれる
気の遠くなるような作業を経て、その作業は完遂した。
「おかげさまで、1年半のモヤモヤが解消されました。思い出の数枚だけを残して、あとは全部捨てます」
ゴミ袋にレシートを詰める椎名さん
忘れたくない思い出以外とはさようなら
ちなみに、2017年に一番よく行った店はやはりピーコックで112回だった。
「ピーコックで使った金額は約10万円で、ヒゲ脱毛は4万5000円。そう考えると脱毛は高いですね」
では椎名さん、日本レシート大賞2017は?
「ヒゲ脱毛です」
飯田橋「おけ以」のレシートは残します
何を残すのかと聞けば、「たとえば、飯田橋の『おけ以』という餃子の名店のレシート。彼女が餃子が好きだったので、作ってあげようと思って研究のために1人で行きました」。
センチメンタルな取材が終わると椎名さんが言った。
「じつは、先日彼女の誕生日だったので『何かほしいものはありますか?』とLINEで聞いたら、『家でご飯を作って』という返信が。本気かどうかわからないし、具体的な日にちも決まっていないんですが」
もし、実現したらその日のレシート見せてください。