ルマンドたちの謎を解け
ひとくちにブルボンのお菓子と言ってもいろいろある中、今回向き合うのはブルボンのサイトで「袋ビスケット」とカテゴライズされているものとしたい。 このカテゴリーが最もクラシックな雰囲気を漂わせているからだ。
このジャンルには人気の「アルフォート」などもあるが、今回はさらに狙いを絞り、「ルマンド」系の細長菓子を対象とする。
このジャンルには人気の「アルフォート」などもあるが、今回はさらに狙いを絞り、「ルマンド」系の細長菓子を対象とする。
今回の観察対象
写真をご覧になってどんな風に感じられるだろうか。個人的には、おばあちゃんちや実家のお菓子箱が記憶によみがえる。
大人になった今では時々食べたくなって買うけれども、子供の頃の自分は決して選ばなかったブルボンのこのシリーズ。この写真だけで 、もう気持ちにモヤモヤが漂い始める。
大人になった今では時々食べたくなって買うけれども、子供の頃の自分は決して選ばなかったブルボンのこのシリーズ。この写真だけで 、もう気持ちにモヤモヤが漂い始める。
久しぶりにおばあちゃんに会った気分
まず観察するのはルマンド。このジャンルの中でも代表的なお菓子だと思う。改めてじっくりパッケージと向き合って、もう亡くなってしまったおばあちゃんを思い出した。
あの頃あんまりうれしそうに食べなくてごめんね。今ではもうおまけの有無に囚われることなく、しっかりおいしく食べられるようになりました。祖母にそう伝えたい。
それでもやはり心に浮かんでくるのはモヤモヤ感。その理由の一つは、でっかく「ルマンド」と書いてある独特の書体にあるのではないか。
あの頃あんまりうれしそうに食べなくてごめんね。今ではもうおまけの有無に囚われることなく、しっかりおいしく食べられるようになりました。祖母にそう伝えたい。
それでもやはり心に浮かんでくるのはモヤモヤ感。その理由の一つは、でっかく「ルマンド」と書いてある独特の書体にあるのではないか。
古いスナックのような書体
微妙に似てるかも
大人っぽい、異国風、ちょっぴり怖い、時代を感じさせる。その書体の雰囲気を表現するといろんな言葉が浮かんでくるが、どの言葉もひとつでその特徴を表せている気がしない。
編集会議で挙がったのは、「あれは『エマニエル夫人』の書体と似てるんじゃないか」という指摘。確認してみると、そっくりでこそないが、 なんとなく似た趣がある。エマニエル夫人に似ているならモヤモヤするのも当たり前だ。
スナックの看板でもこんな書体を見た気がする。ちなみにネーミングの由来は「それっぽい造語」ということらしい。(こちらを参照)
編集会議で挙がったのは、「あれは『エマニエル夫人』の書体と似てるんじゃないか」という指摘。確認してみると、そっくりでこそないが、 なんとなく似た趣がある。エマニエル夫人に似ているならモヤモヤするのも当たり前だ。
スナックの看板でもこんな書体を見た気がする。ちなみにネーミングの由来は「それっぽい造語」ということらしい。(こちらを参照)
個包装の「ルマンド」はまだマイルド
レースの向こうに見えるルマンド色
袋だけですでに結構なモヤモヤ度だが、個包装でもそれはまた深まっていく。「ルマンド」の書体そのものは比較的ポップなのだが、カラーリングはやはり妙な大人っぽさ。
基本色の紫に差す金色。そして半透明の紫。さらには白いレースの向こうに微妙な色をしたルマンドが透けて見える。
このルマンド色もやはりモヤモヤの大きな理由になっていると思う。なんとも言い表し難いその色。なんというか、おばあちゃん系の肌着ってこんな色をしてなかっただろうか。
基本色の紫に差す金色。そして半透明の紫。さらには白いレースの向こうに微妙な色をしたルマンドが透けて見える。
このルマンド色もやはりモヤモヤの大きな理由になっていると思う。なんとも言い表し難いその色。なんというか、おばあちゃん系の肌着ってこんな色をしてなかっただろうか。
そこはかとなく漂うルマン度
かなりのルマンディー
実際に確かめてみたいが、女性肌着コーナーをうろうろするのには少々抵抗がある。どうしたものかと思っていたが、そこまで行かなくても婦人服のコーナーには結構なルマン度を放つ 服が並んでいるではないか。
女性衣料の定番的な色の一つなのだろうか。右のコーディネートは、もはやルマンドを意識しているとしか思えない。
女性衣料の定番的な色の一つなのだろうか。右のコーディネートは、もはやルマンドを意識しているとしか思えない。
この中にルマンドがいるはず
記憶を頼りにチョイス
妻と入った雑貨屋では、靴下やレギンスのコーナーにルマンドムードが漂っていた。全体的にルマンディー。やはりルマンドが放つモヤモヤは、女性用のこの手の衣料品に似ていることも関係しているだろう 。
実物ルマンドは持参していなかったので、どの商品のルマン度が最も高いか、頭の中でイメージして一つ買ってみた。
実物ルマンドは持参していなかったので、どの商品のルマン度が最も高いか、頭の中でイメージして一つ買ってみた。
あれ、でかいルマンドかな?
残念、やや外した
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チーム全体でモヤってくるブルボン製品
前ページで考察したように、ルマンドのモヤモヤ源は書体と色にありそうだ。続いては他のお菓子についても書体を見てみよう。
ルマンドよりも古株なレーズンサンド
なんか怖いよ…
まずは昭和の香りが漂う書体の「レーズンサンド」。それもそのはず、昭和45年発売というから、ルマンドよりも4年先輩。ルマンドの書体にはまだ軽やかさが漂うのに対し、こちらはなんだか切実。
そんな迫力でせまってこないで、と言いたくなる訴求力。古いラブホテルの看板でこういう書体を見たような気がする。
そんな迫力でせまってこないで、と言いたくなる訴求力。古いラブホテルの看板でこういう書体を見たような気がする。
仲間発見
古くからありそうなパチンコ屋の看板に、似たような感じの書体を発見。この切り裂いたような雰囲気、妙にシリアスなムードを漂わせるが、その実態はレーズンが挟まったお菓子とパチンコ屋だ。
ルマンドよりも大人感あり
ちょっとは似てるか
ルマンドと同じように、レーズンサンドもエマニエル夫人と並べてみた。ディティールは違うが、醸し出される味わいには共通のものが感じられなくもない 。
レーズンという好みが分かれる材料を使ったこのお菓子。書体にその在り方の厳しさがにじんでいるようにも見える。
それは、このお菓子のレアリティにも関係しているかもしれない。今回購入したブルボン製品の中で、最も入手に苦労したのがこれだからだ。
レーズンという好みが分かれる材料を使ったこのお菓子。書体にその在り方の厳しさがにじんでいるようにも見える。
それは、このお菓子のレアリティにも関係しているかもしれない。今回購入したブルボン製品の中で、最も入手に苦労したのがこれだからだ。
思わず記念撮影
他のものはスーパーを3つほど回ったところで見つかったのだが、レーズンサンドだけはなかなか見つからない。8つ目の店でやっと見つけたときはうれしくって写真を撮ったほどだ。
書体の怖さに加えて希少性もあるレーズンサンド。モヤモヤ度を高める演出が揃っている。
書体の怖さに加えて希少性もあるレーズンサンド。モヤモヤ度を高める演出が揃っている。
最古参、ホワイトロリータ
かしこまってる明朝体
ルマンド、レーズンサンドに続く真顔系の書体は「ホワイトロリータ」。昭和40年発売とのことで、今回のお菓子の中で最も歴史が長い。
書体のデザイン性はほとんどなく、縦にやや圧縮されたベーシックな明朝体 。真剣度は高いが、言ってることはホワイトロリータだからわけがわからない。
書体のデザイン性はほとんどなく、縦にやや圧縮されたベーシックな明朝体 。真剣度は高いが、言ってることはホワイトロリータだからわけがわからない。
ゴスロリ系の包装紙
個包装のかっこよさもホワイトロリータの特徴。黒と白をベースに、ラインとして施された金色。ムダや隙がなく、 このシリーズの中での高級感は最も高いと思う。
昭和47年登場、ルーベラ
昭和52年、チョコリエール
かなり似た書体が使われているのが「ルーベラ」と「チョコリエール」。切実さと真剣さは影を潜め、全体としてしゃれたムードが前に出てきている。
そこはかとなく漂う、軽やかなエロさ。いや、こんなところにエロを感じる感性はおかしくないかと、もう一人の自分が問う。まだエマニエル夫人の幻影が脳裏にこびりついているのかもしれない。
そこはかとなく漂う、軽やかなエロさ。いや、こんなところにエロを感じる感性はおかしくないかと、もう一人の自分が問う。まだエマニエル夫人の幻影が脳裏にこびりついているのかもしれない。
個人的な評価でルマンドと双璧、バームロール
お菓子そのものもおいしさとして、自分の中でルマンドと並ぶのが「バームロール」。ルマンドのクリスピーと対になるしっとりさがうれしい。交互に食べることで、互いの個性を光らせる。 書体はほどよいデザイン性。クラシックな中にもしっとりとしたおいしさを演出している。個性はそれほど強くないタイプだ。 しかしこのバームロール、書体のデザインとは別に気になるところがある。商品名の下部に注目したい。
クッキー
ビスケット
洋菓子?
他のものが「クッキー」や「ビスケット」と書いてあるのに対し、バームロールは「洋菓子」。なんだかこれだけ随分ざっくりしてないか。どうにもぼんやり感が漂う、洋菓子。
裏面の製品表示欄の「名称」のところにも「洋菓子」とあるので、きちんとした分類に基づく呼び方なのだろうとは思う。しかし、そういう事情を推察したとしても、 一度「洋菓子」に気づいてしまうと、やはりどうしてもモヤモヤしてしまう。
逆に、全くモヤモヤしないブルボンもある。
裏面の製品表示欄の「名称」のところにも「洋菓子」とあるので、きちんとした分類に基づく呼び方なのだろうとは思う。しかし、そういう事情を推察したとしても、 一度「洋菓子」に気づいてしまうと、やはりどうしてもモヤモヤしてしまう。
逆に、全くモヤモヤしないブルボンもある。
名前からして優等生的
どうにもシンプル
「エリーゼ」だ。お菓子そのものは好きなのだが、シンプルなゴシック体に斜をかけてあるだけの書体には、味わいというものが感じられない。
シンプルで現代風、と言えばよいのだろうか。このサラッとした感じは他のブルボンと比べると逆に異端。さらには「北海道ミルク」と、出自をアピールしているところも優等生的。
シンプルで現代風、と言えばよいのだろうか。このサラッとした感じは他のブルボンと比べると逆に異端。さらには「北海道ミルク」と、出自をアピールしているところも優等生的。
レーズンサンドの饒舌
対してエリーゼのあっさり感
裏面の商品説明文にもそのテイストは表れている。レーズンサンドが結構な量の言葉を費やしているのに対して、エリーゼの字数はかなり少ない。
異端性に気づいてしまうと、「どうしてエリーゼだけ?」とモヤモヤしてくる逆説。こういう在り方もあり得るのだ。
さて、全てのお菓子を一通り見てきたことで、モヤモヤ感の輪郭はつかめてきた。しかし、じっくり観察すると、まだその奥行きは深い。
異端性に気づいてしまうと、「どうしてエリーゼだけ?」とモヤモヤしてくる逆説。こういう在り方もあり得るのだ。
さて、全てのお菓子を一通り見てきたことで、モヤモヤ感の輪郭はつかめてきた。しかし、じっくり観察すると、まだその奥行きは深い。
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モヤモヤ源を見逃すな
どのお菓子にも漂うそれぞれのモヤモヤ性。しかし、さらにじっくり見てみると、見逃していたことがあるのに気がついた。再びルマンドに戻って見てみよう。
パッケージの左下に注目
そこまでは思ってなかった
短いひとことで商品を言い表す枠がある。ルマンドの場合、「エクセレントクレープ」。
確かはそのおいしさは間違いないルマンドだが、エクセレントクレープとまでは思ってなかったというのが正直なところだ。言いたいことはわからなくはない。ただ、 ここまでの言葉を冠するのに空回りはないか。
このテンションは全ての商品で保たれているわけではない。大抵は冷静なのだ。
確かはそのおいしさは間違いないルマンドだが、エクセレントクレープとまでは思ってなかったというのが正直なところだ。言いたいことはわからなくはない。ただ、 ここまでの言葉を冠するのに空回りはないか。
このテンションは全ての商品で保たれているわけではない。大抵は冷静なのだ。
材料をアピール
数字で攻めてくるパターンも
写真はチョコリエールとルーベラ。それぞれ体によさそうな材料や、リッチな数値を載せてきている。この手のアピールは他社のお菓子も含めてよく 見るものだと思う。
抵抗なくスッと入ってくる材料系。ただ、同系統の中でもモヤりを放つものもある。
抵抗なくスッと入ってくる材料系。ただ、同系統の中でもモヤりを放つものもある。
クリームで攻めてきたか
まあ言いたいことはわかる
バームロールは「ホワイトクリーム」。確かにそうだ、ホワイトクリームを使ったお菓子だから、言いたいことはわかる。実際に全体が クリームコーティングされているので嘘はない。
ただ、そうわかった上でも「クリーム押しか…」というぼんやり感があるのは否めない。個人的にクリーム好きなので、気持ちに迫ってくるものもあるのだが、それでもなお「クリーム…」とい う思いはどうしても並行してくる。
さらなるぼんやりムードのものもあった。
ただ、そうわかった上でも「クリーム押しか…」というぼんやり感があるのは否めない。個人的にクリーム好きなので、気持ちに迫ってくるものもあるのだが、それでもなお「クリーム…」とい う思いはどうしても並行してくる。
さらなるぼんやりムードのものもあった。
漠然性が逆に魅力のホワイトロリータ
最古参のホワイトロリータは「マイルドテイスティー」。何も言ってない。
マイルドかつテイスティー。それはわかる。それを理解したはずなのに、何も伝わってきてない気がするのはなぜなんだろう。水の中で目を開けたようなぼんやり感。
先に述べたように、全体としては深窓の令嬢のような気高さを漂わせるホワイトロリータ。だからこそ、このように謎めいたフレーズが似合うのかもしれない。
マイルドかつテイスティー。それはわかる。それを理解したはずなのに、何も伝わってきてない気がするのはなぜなんだろう。水の中で目を開けたようなぼんやり感。
先に述べたように、全体としては深窓の令嬢のような気高さを漂わせるホワイトロリータ。だからこそ、このように謎めいたフレーズが似合うのかもしれない。
正体が見えない違和感
気づくまでかなり時間がかかった
さて、もう一度ルマンドに戻る。パッケージ前面のモヤモヤは解明したつもりなのだが、裏面にもまだすっきりしないものを漠然と感じていた。この感覚、一体なんだろう。
しばらく見ていて気がついた。その正体は、写真にあった。
しばらく見ていて気がついた。その正体は、写真にあった。
ルマンドでかすぎ
ルマンドが大きすぎるのだ。
ティータイムのひとこまといった雰囲気に添えられたルマンドの姿。冷静に見ると、どう考えても大きさがおかしい。他の物の大きさから推察すると、両手で抱えるくらいの大きさになってないか。
モヤモヤの実体はこれだったのか。そしてこれはルマンドだけの問題ではない。
ティータイムのひとこまといった雰囲気に添えられたルマンドの姿。冷静に見ると、どう考えても大きさがおかしい。他の物の大きさから推察すると、両手で抱えるくらいの大きさになってないか。
モヤモヤの実体はこれだったのか。そしてこれはルマンドだけの問題ではない。
でかい
ことごとくでかい
小粋な午後のひとときムードはいいのだが、でかく見えるスイッチが入るとどれもこれもでかい。ちっとも小粋ではなく、相当腹にたまる大きさだ。
両手でつかんで、はじから丸かじりするという食べ方になるだろうか。おかしいだろ、それ。
両手でつかんで、はじから丸かじりするという食べ方になるだろうか。おかしいだろ、それ。
でかすぎる
書体やフレーズにはそれぞれ違いがあった今回のお菓子たちだが、裏面写真のでかさは全てに共通。徹頭徹尾、このでかさ。またひとつモヤモヤを解明できた気がする。
新しい気持ちで君たちを食べていきたい
ブルボン製品と改めて向き合ったことで、これまで漠然と感じていたモヤモヤの根源が見えてきた。ブルボンというすりガラスにセロハンテープを貼ったようでもある。
それでも驚いたのは、正体がはっきりしたところで、やっぱりモヤモヤは漂い続けること。霧の仕組みを理解したところで、視界がすっきりするわけではないのだ。
しかしそれはネガティブなものではなく、ブルボンならではの魅力であるとも思う。これからもそのしぶといモヤモヤを味わいながら、ブルボンのお菓子を食べていきたい。