特集 2017年9月3日

鎧でビジネスシーン(デジタルリマスター版)

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ハードなビジネスシーンを駆け抜ける企業戦士たち。チャンスをものにするためにはスーツにだってこだわらなくてはならない。

そんな紳士服店の宣伝文句に感化されたわけではないが、個人的に鎧を買った。

改めて文字にするとよくわかる。感化なんて全くされてない。単に勘違いし過ぎだ。

ただ、今さら気づいたところでもう買っちゃったんだから仕方がない。自分の目が覚めてしまわないうちに、ビジネスシーンに飛び込んでみました。

※2005年7月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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夢うつつのまま鎧到着

鎧をほしいと思う気持ちに、ちゃんと説明できる理由はない。男のロマンとか戦国時代への憧れとかといった言葉を並び立てるつもりもない。なんとなくかっこいい、実際そんなもんだと思う。
わかりやすい箱
わかりやすい箱
そんなライト感覚で買ってしまった鎧。注文して一週間ほどだっただろうか、普通に宅配便で届けられた。鎧初心者ということで店で扱っている鎧の中でも最も安い部類のものを選んだのだが、それでも13万円。

深く考えるのはやめておく。高く跳ぶためにはまず低くしゃがまなくてはならないのだ。

予想外だったのは箱に大きく書かれている「鎧」の文字。わかりやすいと解釈するか、隠し立てできないと受け取るかは微妙なところか。
やっぱりわかりやすい箱
やっぱりわかりやすい箱
ダンボール箱を開けると、鎧の箱本体が現れる。ここには大きく「前」の文字。こっちが前だよ、ということなのか。戦国時代の厳しさとかけ離れたフレンドリーな感じがかえって不気味でもある。
並べるとかもし出てくる本格ぶり
並べるとかもし出てくる本格ぶり
口あんぐりの仮面
口あんぐりの仮面
箱を開けて並べてみると、やっぱり鎧なんだなという感じがぐっと出てくる。もうあとには戻れないとも言っていい。

こうした方面に造詣が深いわけでもないので、それぞれの正確な名前はよくわからない。右の写真、自分なりに「仮面」と呼んでいるのだが、そう呼びつつもそれは違うだろうと内なる声が叫んだりもする。

しかし武士たるもの、そんな細かいことにこだわっているべきではない。さっそく変身だ。
ありのままの自分
ありのままの自分
鎧を着ちゃった自分
鎧を着ちゃった自分
変身という言葉もちょっと違うだろうか。途中、部品の順番をつけ間違えたりしながらも、試行錯誤の末にとにかく装着完了。

うん、やっぱりかなり唐突。意味がわからない。

自宅の裏でこそこそと撮影したのだが、急に近所の人の車がそばまで寄ってきて驚いた。鎧を着てる理由なんて説明しづらい。いくら言葉を費やしたところで追いつかない。

そもそも説明するべき理由がない。

そんな緊張感も伴う鎧装着状態、ちょっと休憩しておやつを食べよう。
スルメ食べてる鎧
スルメ食べてる鎧
別に普通にスルメ食べてるだけなのに、鎧を着ていると無駄にフォトジェニックになってしまう。イカなんか食べてないで、早く戦に行ってしまえと言いたくなる。
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文武両道を目指す鎧

「文武両道」という四字熟語があるが、鎧を着たことでそんな言葉もより現実的になってくる。鎧を着ていることで「武」は達成しているからだ。
鎧で読書
鎧で読書
鎧でピアノ演奏
鎧でピアノ演奏
文武両道を目指して試みてみたのに、かもし出てくるのはうそっぽさばかりなのはなぜなんだろう。本を読んだりピアノを弾いたりする前に、気づくべきことがあるような気がしてくる。

そもそもピアノなんか弾けない。それに、ピアノが超うまい鎧というのも変だと思う。絶対間違っている。

さまざまな思いさざめく胸の内も知らないのか、妻は私が鎧であることとは関係なく家事の手伝いを頼んでくる。
タオル取り込む鎧
タオル取り込む鎧
たぶん私はこのとき、世界でいちばんせつない鎧だったのではないかと思う。見た目ばかりは勇ましいが、やってることはタオルの取り込みだ。ちゃんと乾いているかどうかを確かめて取り込むあたりも、せつなさを増幅させる。

他にも物を運ばされたりゴミをまとめさせられたりする鎧。これでいいのだろうか。
疲れたよ
疲れたよ
鎧を着てると疲れやすいんだ。そのあたりわかってくれているのだろうか。

歩くたびにガチャガチャと音を立てる鎧。通気性だって悪い。鎧は家事には向いてないと思う。無意味なところで気合いを入れても、ちっとも意味はないのだ。

鎧、いざ出陣

家事を手伝っていたらすっかり忘れていたが、今回の記事は「鎧でビジネスシーン」。そう、これからちょっとした商談があるのだ。いよいよ出陣の準備にかかる。
いざ、出陣!
いざ、出陣!
馬は持ってないので自転車にまたがってみたが、ここでもにじみ出てくるのはファニーな感じばかり。戦国時代やビジネスシーンのハードさはかけらも見当たらない。

そもそも先方と会う約束をしている場所は自転車で行けるような場所ではないのだ。ここはやはり現代の鉄の馬・自動車を駆ろう。
いざ、出……いててて!
いざ、出……いててて!
いつもの調子で乗り込もうとしたら、兜がひっかかってうまく車に乗り込めない。変に勢いよく乗ろうとした分、枠にぶつかったダメージは大きい。首がコキッと鳴った。

鎧で車に乗るときには、兜に気をつけろ。経験から出た言葉はやはり重みが違う。
車に乗るのも一苦労
車に乗るのも一苦労
首を巧みに傾けてなんとか運転席に乗り込む。首の角度によっては頭頂部が天井にぶつかるが、まあ運転にはそれほど問題ないだろう。今度こそいざ出陣だ。

とは言ったものの、先方の待つ都内には車で2時間半ほどかかる。何も今から鎧を着ていることはないんじゃないか。

武士に求められるのは冷静な判断でもある。一回元の自分に戻って、普通に都内を目指したい。
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果敢というより無謀な鎧

実はこの鎧、最近発売された拙著で、鎧を着てさまざまなミッションを試みるという原稿を書いたことと関係している。今回の商談は、@niftyBOOKSの担当者さんにその本のネット販売でのご協力をお願いすることが目的なのだ。

いや、だからといって別にそのお願いを鎧でする必要はないんじゃないか。冷静に考えればそうだ。ただ、ビジネスシーンでは時として理屈を超えた心意気を見せなければならないこともある。
絶対おかしいよ
絶対おかしいよ
ニフティの入っているビルは、東京・大森にある「ベルポート大森」という超近代的なビル。地下の駐車場で鎧に着替えてきたはいいが、いざビルの1階まで来たら思っていた以上にキラキラしてる。

先方には鎧で来ることをあらかじめ伝えてはいるが、本当に大丈夫なのだろうか。冗談だとは思っていないだろうか。

なぜだか気弱になる鎧。鎧は心までは守ってくれないのだ。
禁じられたことはやってないはず
禁じられたことはやってないはず
なぜだか丸まる背中
なぜだか丸まる背中
約束の時間まで少し余裕があったので、キラキラゾーンでしばし休憩。目に入ってきた注意掲示に書かれていることは何もしていないはずなのだが、不安が湧き上がってくるのはなぜなんだろう。

!! まずい、警備員が巡回してくる。どこかに隠れなきゃと思ったが、キラキラゾーンにはそんな場所はない。

落ち着け、冷静になれ。鎧でいるというだけで、何もとがめられるようなことはしていないはずだ。一見戦闘体制に見えるとはいえ武器は持ってない。あくまで守りを固めてるだけだ。

……ちらっと見て普通に通り過ぎていく警備員。めんどくさい奴だとは思われたかもしれないが、悪い奴だは思われなかったのだろう。

さて、そろそろ約束の時間だ。エレベーターで階上に上がろう。
はい、どうぞどうぞー
はい、どうぞどうぞー
写真は同行の担当編集者に撮ってもらっていたのだが、こんな一枚もあった。他に乗り込む人たちのために、エレベーターのドアを押さえる鎧。鎧を着ているとはいえ、マナーは普通に守りたい。

当然のマナーではあるが、たぶん私はこのとき世界で一番親切な鎧だったと思う。

ついに本丸に突入

エレベーターを降りて少し歩くと、目に飛び込んできたのはニフティの受付。いよいよオフィスゾーンに突入だ。
ついに来ちゃった受付
ついに来ちゃった受付
はい、深呼吸
はい、深呼吸
さすがに受付担当の女性に切り込んでいく勇気はない。ふざけているのか過剰な正装なのかよくわからない鎧。こういう場面は同行の担当者に任せ、鎧はどっしりと構えているべきだろう。鎧がしゃしゃり出て行くと面倒なことになるような気がするのだ。

横にあったイスに座り、先方の担当が来るまで深呼吸して待つ。

しばしの後、「ではこちらへ」と案内された先がまた修羅場だった。
心の内の修羅場
心の内の修羅場
いや、別にそこは修羅場なんかじゃない。あくまで近代的なオフィスだ。そんな場所に一人鎧でいる自分の心が修羅場なのだ。

どうして先方の担当者さんのデスクまで、こんなに遠く感じるんだろう。
腰の低い鎧
腰の低い鎧
ここでもフォトジェニックに
ここでもフォトジェニックに
やっとたどり着いたデスクで、@niftyBOOKSの担当者さんと名刺交換。戦国時代に名刺を交換する習慣はなかっただろうが、ここはあくまで現代。いきなり勝どきをあげたりすることなく、慣例的なビジネスマナーに従いたい。

しかし、こんな当たり前のビジネスシーンにシャッターを切る方々が。ビジネスシーンは当たり前なのだろうが、やはり鎧には当たり前じゃない要素があるのだろう。

ここで自分が人気者だと勘違いしてはいけなんだと思う。珍獣来たる、みたいな感じなのだと思う。
コアへと向かって
コアへと向かって
さらに詳細な打ち合わせするためにミーティングスペースへと移動。こうして写真を引きで撮られると、一層のせつなさが募る。
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鎧でビジネストーク

てくてくとオフィス内を歩く鎧。行く先々で聞こえるざわめきは、心の中で耳をふさげば聞こえない。どうでもいい内なるドラマが繰り広げられる中、広いテーブルのあるミーティングスペースへと到着。
一人変なのがいる
一人変なのがいる
いよいよ本格的なビジネスの話。とは言っても、余計な口を出してもこんがらがりそうなので、ここはプロである同行の営業担当者に任せておく。「そうですね」「ええ、いいですね」と相槌ばかり打つ鎧。

ちなみに左端で笑いをこらえきれないでいるのはデイリーポータルZの古賀さんだ。
営業担当が熱弁を振るうほど
営業担当が熱弁を振るうほど
笑いをこらえきれない人たち
笑いをこらえきれない人たち
営業担当ががんばればがんばるほど浮き彫りになってくる状況のおかしさ。右の写真の中ほど、やはり笑いをこらえきれないでいるのはデイリーポータルZのウェブマスター・林さんとライターの住さんだ。

けじめつけようよ、あくまでビジネスなんだから。そんな風に鎧が言っても全く説得力がない。

ミーティングスペースということで、話を効率的に進めるためのホワイトボードも設置してある。ここで今後の協力についてのまとめをしておくべきだろうか。
なんか書き始めたと思ったら
なんか書き始めたと思ったら
書いてることはめちゃくちゃ
書いてることはめちゃくちゃ
ぜんぜんまとまってないし、そんなことは話してない。長篠の戦いなんて、とっくの昔に終わってる。
防御力は高いよ
防御力は高いよ
一通りの話が終わると、林さんがなぜだか持っていたバットで私をつつき始めた。

へっ、ちっとも痛くない。精神的にはネガティブな影響を与える鎧だが、物理的な防御力は確かに高まっている。すっかり見失っていたが、ここに来て鎧本来の目的を再確認だ。

ここまで丸腰だった鎧の私だが、やはり武器ともなり得るバットを持つと雰囲気も変わるだろうか。
あぶない感じには見えないけれど
あぶない感じには見えないけれど
担当者は不安そう
担当者は不安そう
予想に反してあくまで安全そうに見える鎧だが、なんだかおかしいのは否めない。何をしてもいつもとは違う風に見える鎧。ビジネスシーンを戦場と例える言い方があるが、本気で戦場にふさわしい格好をしてしまったあたりでねじれているんだと思う。

調子に乗るなよ鎧

ニフティでの打ち合わせも円満に終わり、無事発売の運びとなった拙著。それはいいのだが、営業担当ががんばり過ぎてしまったのだろうか、サイン会まですることになったのだ。
ショートケーキはイチゴから食べる鎧
ショートケーキはイチゴから食べる鎧
控え室で差し入れのケーキを食べて緊張感をほぐす。一度鎧を着てしまうとトイレに行くのが大変なので、水分補給は控えておいた。そのあたりはちゃんと計算できる鎧でいたい。
もう疑問も感じなくなってくる
もう疑問も感じなくなってくる
やるって言ったんだから仕方ない。なんで鎧着てるんだろなんて考えるだけ野暮だ。

来て下さった方々に本を渡す。そのあとおじぎをするのだが、あまり深く頭を下げすぎると、兜についている飾りのとがった部分が当たってしまいそうで危ない。その辺の危機管理はちゃんとできる鎧でいたい。

最近流行りのクールビズに対する自分なりのアンサー・鎧ビズ。勢いだけで言ってしまっている感は否めないが、勢いで押し通すしかないのだとも思う。

ずいぶん遠くまで来たよな
ずいぶん遠くまで来たよな

鎧が織り成す光と闇

人はなぜ鎧を着るのか。それは鎧がそこにあるからだ。

いや、そうじゃないだろう、もともとはなかっただろう。わざわざ買っただろう。

世の中には深く考えても答えの出ないこともある。私が今言いたいのは、周りのいろいろな人たちを軽い悪夢につき合わせてしまってごめんということだ。

取材中、何度か別々の人にかけられたのは「鎧、似合いますよ」という言葉。どう解釈していいのかわかることもなく、今も奥の部屋の隅に鎧のでかい箱は置いてあるままだ。

ライター・小野法師丸の個人サイト「テーマパーク4096」での日替わり読み物コーナー「コラム息切れ」をまとめたは販売中。書き下ろし記事「月刊鎧ライフ」では、マイ鎧を着用して12のミッションを敢行した悲喜こもごもを掲載しています。
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