特集 2017年11月25日

パンダ宮司代理誕生までの軌跡を聞いた

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「神奈川県海老名市の有鹿神社の宮司さんが、いつもパンダのかぶり物をしているらしいので、取材お願いします。」という投稿が、bausackさんからはまれぽ.com編集部へとどいた。

禰宜という役職の神主さんが宮司の代理としてかぶり物をしていた。しかも有鹿神社はものすごく由緒のある神社だった。

はまれぽ.com :宮崎美穂
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パンダのかぶり物とは非常にキニナル。投稿にある「有鹿神社(あるかじんじゃ)」へは、JR・小田急線の厚木駅、またはJR・小田急線・相鉄線の海老名駅から徒歩で行くことができる。厚木駅からだと15分くらい、海老名駅だともう少しかかるようだ。
18分との表示があるが、そこまでかからなかった
というわけで今回は厚木駅を利用
というわけで今回は厚木駅を利用
けっこうまっすぐ行くだけ。あとで分かったことだが、かつてここは神社への参道だった
けっこうまっすぐ行くだけ。あとで分かったことだが、かつてここは神社への参道だった
有鹿幼稚園に
有鹿幼稚園に
有鹿小学校。昔は「有鹿」という地名だったのだろうか?
有鹿小学校。昔は「有鹿」という地名だったのだろうか?
到着~
到着~

さて神社に来たので

約束の時間前に到着。取材までのわずかな時間も無駄にはしない。お参りをして心の洗濯をする。
手水舎
手水舎
いろいろなんとかなりますように
いろいろなんとかなりますように
取材の無事を祈り、緊張してあのキニナルを待っていると・・・
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!!
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パンダが掃除をしている!
パンダが掃除をしている!
しかもかわいい
しかもかわいい

パンダ宮司代理誕生までの軌跡

有鹿神社の禰宜(ねぎ)、そしてパンダの「中の人」である小島実和子(こじま・みわこ)さんにお話を伺った。ちなみに禰宜とは神職の位のひとつで、宮司の補佐役である。
パンダ宮司代理、禰宜の小島さん
パンダ宮司代理、禰宜の小島さん
有鹿神社の広報担当でもある小島さんは、公式Twitterで神社の情報を発信していたが、「文字だけではつまらない」と自分のキャラクターとしてタコのイラストを投稿するようになった。

しかし、それがきっかけで父親である宮司から「タコ(またはイカ)」と呼ばれるようになってしまう。親にタコ呼ばわりされる悔しさから、「私がタコならあなたはパンダよ!」と父親を「パンダ宮司」と呼ぶことで応戦。
もともと宮司本人が「自分は有鹿神社の客寄せパンダだ」と話していたことや、顔がパンダに似ていることが理由らしい。

しかし、大学教授や弁理士の顔も持つ宮司は忙しいうえにメディアへの顔出しNG。そこで小島さんは、禰宜として神社の業務をこなす傍ら、「パンダ宮司の代理」を宣伝に使うことを思いつく。初めはパンダのパペットを写真に撮り、Twitterなどに投稿していた。
こんな感じで~、と実演してくださった
こんな感じで~、と実演してくださった
ある日tvk(テレビ神奈川)から取材依頼があり、小さなパペットに落胆するスタッフを見た小島さん。「かわいそうになってしまって」と、かぶり物の制作を決意した。そして中華街で土産物として売られているパンダのお面を購入すると、紙粘土や絵の具などでカスタマイズ。一週間ほどで作り上げ、2017年6月、ついに「かぶり物デビュー」をすることになる。
器用ですね
器用ですね
作ったのは頭だけではない。実は尻尾もあって、磁石で装着できるようになっている。
ちょっとつけてみた
ちょっとつけてみた
有"鹿"なのだから鹿にすべきでは? という意見もSNSなどでよく目にする。しかし、小島さんによると「アルカ」というのは古代の言葉で水を意味すると伝わっており、動物の鹿とはあまり関係がないらしい。
受付に鹿がいるのは「かわいいから」
受付に鹿がいるのは「かわいいから」

2017年もけっこう暑い日が続きましたが

いくらかぶり慣れているとはいえ、暑い時は暑い。そこで、パンダの中にパソコン用の冷却ファンが取り付けられるようになっている。
強弱も変えられる
強弱も変えられる
ただ冷却ファンを動かしていると、外の音が聞こえづらくなってしまうそうで、会話には向かない。もちろん一日中被っているわけではないが、悩ましいところである。
被っている方が涼しいそうです
被っている方が涼しいそうです

パンダにはいつでも会えるのか?

「パンダに会いたい!」と有鹿神社まで出かけても、いなかったら悲しい。小島さんに伺うと、神社から少し離れた事務所で作業をしていることも多く、またいつでもパンダになっているわけではない(神事にはやはり使えない)ので、事前に連絡をするか、公式Twitterなどをチェックしてほしい、とのこと。
基本的に見送りや記念撮影などでパンダになってくれる
基本的に見送りや記念撮影などでパンダになってくれる
また、もしパンダ宮司代理に会えなかったとしても、敷地内にはパンダスポットがいくつかあるので、探してみるのも面白そうだ。
こういうわかりやすいものから
こういうわかりやすいものから
こんな小さな場所にまで(ここはどこでしょう?)
こんな小さな場所にまで(ここはどこでしょう?)
灯篭にヒントがあるようです
灯篭にヒントがあるようです

必見! パンダの舞、そして・・・

パンダ宮司代理の仕事は、参拝客を見送ったり、その姿を見て怯える子どもに「こわくないよ~☆」と言って追いかけることだけではない。
美しい装束を身に纏い
美しい装束を身に纏い
舞っていただきました
舞っていただきました
有鹿神社「パンダ宮司代理の舞」
前述のとおり、神事ではパンダにならないということだが、例えば結婚式などのオプションとして舞ってもらうことはできるようだ(七五三だとスケジュールがタイトなので難しいらしい)。詳しくは、直接問い合わせてほしいとのこと。

さらに、有鹿神社にはパンダだけでなく猫のかぶり物もあった。
これはいったい何に使うのだろうか
これはいったい何に使うのだろうか
実は「栃尾(とちお)揚げ」という油揚げが大好きな小島さん。好きすぎて、世界中で食べることができたらどんなに良いだろうと個人的に応援をしており、この度Twitterの仲間と一緒にテーマソングが収録されたCDと、PV(プロモーションビデオ)まで作っていた。
「タコ禰宜」名義で参加している。猫の名前は「栃尾にゃん」
「タコ禰宜」名義で参加している。猫の名前は「栃尾にゃん」
ただ、この栃尾揚げは新潟のもので、神奈川と全く関係ないために取り上げるメディアが少ないらしい。小島さんからのたってのお願いでもあり・・・というわけでこちらもご覧ください。
栃尾揚げの歌
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有鹿神社の歴史もキニナル

すっかりパンダに夢中になってしまった。かわいかった。

しかしパンダ宮司代理が見てほしいのはパンダだけではないはずだ。そこで有鹿神社の成り立ちについて伺うと・・・なんとあの有名な寒川神社よりも古いらしい!
海老名総鎮守とある
海老名総鎮守とある
有鹿神社は本宮、奥宮、中宮からなる、相模国最古の神社である。今回訪れた本宮(海老名市上郷)から北にから6kmほど離れた場所にある有鹿谷(あるかだに)には湧き水があり、縄文時代から多くの人が水の恵みを受けて暮らしていた。
さらに時代が下り、生活基盤が狩猟採集から農耕へと変化すると、人々は畑に適した場所を求め、現在の相模原市から座間市、海老名市、そして有鹿神社周辺へと移り住み、有鹿谷は農耕の盛んな土地となった。そして農業の繁栄と安全を水の神様に祈る「水引祭」を行い、のちにこの場所が有鹿神社の奥宮となる。

奥宮からほど近い「勝坂(かっさか)遺跡」からは、縄文時代の遺跡や古墳時代の祭祀跡が見つかっており、人々が実際にこの場所に住み、祈りを捧げていたのは間違いないようだ。
水引祭は現在でも神社の重要なお祭りとして受け継がれている
水引祭は現在でも神社の重要なお祭りとして受け継がれている
祭神は有鹿比古命(アルカヒコノミコト)と有鹿比女命(アルカヒメノミコト)で、それぞれ本宮と中宮、奥宮と中宮に祀られている。

『有鹿神社 略記』には、「有鹿比古命は、男神の太陽神であり、また、有鹿比女命は、女神の水神である。これらを合わせると火水(カミ)であり、人々は『有鹿大明神』と称え、親しみを込めて、『お有鹿様』と申し上げる。」とある。
水と太陽の神様が祀られている、子育て厄除大社
水と太陽の神様が祀られている、子育て厄除大社
初めて神社として国家的な例祭を行ったのが664(白雉15)年、その後927(延長5)年に「延喜式内社(えんぎしきないしゃ・官社に指定された神社)」となる。相模国の延喜式内社は全部で13社しかなく、有鹿神社はそのうちの一社である。

同じく式内社であり、かつて最も社格が高いとされた一宮の「寒川神社」よりも古いらしいと述べたが、小島さんによると、寒川神社の由緒書にそのように記載されているということである。また寒川神社では紛失した資料などもあるため、調査の依頼が有鹿神社に来ることもあるそうだ。
寒川神社は一宮だが由緒があるのは有鹿神社
寒川神社は一宮だが由緒があるのは有鹿神社
そして当時は広大な敷地を持っていた
そして当時は広大な敷地を持っていた

重要文化財の本殿

鎌倉時代には、幕府の重鎮である海老名氏により守られ、正一位(神社における最高位)にまでなった有鹿神社だが、室町の兵乱による幕府、海老名氏の滅亡により神社は衰退、広大な土地も略奪されてしまった。

しかしその後、水引祭を再開。「海老名総鎮守」として再興する。現在本宮にある本殿は、江戸時代に徳川家康の家臣から奉納されたもので、海老名市の重要文化財に指定されている。
新たに奉納されるまでは本殿のない時代があった
新たに奉納されるまでは本殿のない時代があった
有鹿大明神
有鹿大明神
本殿の中も、かぶり物でご紹介いただいた
本殿の中も、かぶり物でご紹介いただいた
天井には立派な龍を見ることができる。これは1860(万延元)年に、絵師の藤原隆秀(ふじわら・たかひで<近藤如水>)によって描かれたもので、こちらも重要文化財である。
寝そべって見るのがおすすめとのこと
寝そべって見るのがおすすめとのこと
本殿の外側の壁には、“釣り”をテーマにしたCDのポスターが!(フリーダムです)
本殿の外側の壁には、“釣り”をテーマにしたCDのポスターが!(フリーダムです)

大変由緒のある有鹿神社で参加できるのは神事だけではない

小島さんはほかにも、神社へ親しみを持ってもらうために「オルゴールの会」や「有鹿学会」、「かるた大会」など、さまざまなイベントを開催している。

「オルゴールの会」は、オルゴールを聴きながら、神様とともに何か楽しいことをするというもの(8月は流しそうめんと風船割り)で、「有鹿学会」では全国の神社の歴史についての発表会をしている。1月に行われた「かるた大会」に至っては、かるたを10種類も混ぜてしまったために収拾がつかなくなってしまったそう。こちらも詳細は問い合わせていただきたい。
小島さんありがとうございました!
小島さんありがとうございました!

取材を終えて

パンダのことばかり考えて向かった有鹿神社だが、禰宜の小島さんがパンダのみならず神社の歴史についても大変丁寧に説明してくださり、非常に興味深い取材となった。
パンダは本当にかわいかったが、それだけではなく、小島さん自身がものすごく面白く多才で、魅力的な人なのだと知ることができた。

―終わり―


取材協力
有鹿神社
住所/ 神奈川県海老名市上郷1-4-41
電話/046-234-4763
公式Twitter/@arukajinjya
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