フラれてばかりの連続でつかみ取ったミックスな味わい
飲み歩きをしてみようかと思ったのは岡山の倉敷へ旅したあとだ。
喫茶店、レストラン、空港内……気付けば思いのほかミックスジュースを飲んでいた私の脳内物質にひびいたのか、東京に戻ってからもその味を欲していた。
ジューススタンドならまだしも、喫茶店の場合は脇役の定めかウェブ上で知ることはほとんどできない。Twitterでなんどか呼びかけてみたが、ライター玉置氏から、関西発祥の居酒屋、鳥貴族にあるという情報が寄せられただけだ。
めぼしい店に突入してはじめてアルかナイか知ることができるミックスジュース。電車に乗って行こうものならほとんどバクチである。フラれてばかりの連続だったが、逆に希少価値が高まりひとくち飲んだ時の味わいはより深いものになった。
スムージーに近い。果汁濃厚、EL GRECO
店主に確認したわけではないが、オレンジ、バナナ、パイナップルが入っていたように思う。定番ともいえる牛乳は入っていない。甘さは果物の糖分だけではないだろうか。当時私の中でブームとなっていたスムージーに近い。果汁濃厚で何杯でもイケそうだった。
フルーツジュース 650円
川沿いにひときわ目立つ洋館がこちら。内装は清潔感きわめた和洋折衷で、見上げると首が痛くなるほど天井が高い。
新緑の季節ともなると、外壁を蔦が覆うらしい
ここではスマホよりも文庫本が似合う
さまざまな国の観光客が往来する倉敷の美観地区。お土産やさんも大繁盛だが、この店内だけは静かでゆったりとしたちがう空気が流れていた。近所にあったらまちがいなく日参しているだろう。
限りなくバナナジュースに近い、かも井
とにかく白い。甘さは控えめで、牛乳っぽさが際立った。もしかしてミルク&バナナコンボの可能性もある。バナナジュースも好みだし、バナナと牛乳なのだから、ミックスという主張であっても異論はない。
ミックスジュース 480円
美術館で思わぬ時間をとってしまって午後3時。どこのお店も休憩時間となり、ランチジプシーになってしまってやっとたどり着いた和食屋さんだ。
店舗周りを撮り忘れたためお刺身定食。安くて新鮮だった
和食屋にミックスジュースがあるとは、関西に近いからだろうか。メニューに見つけたときは「ああああーーっ!」と声がでてしまった。どこへ行ってもハタ迷惑である。
大阪をアピールする商品名、サンマルクカフェ
ミックスジュースは店舗それぞれで材料が異なり、色も味もかなりの差がある。この店から直接訊くことにした。
バナナ1本にオレンジジュースと牛乳。1本と言うだけあって、バナナ味が強い。しかし、逆に1本も入っているのか? と思うほどサラリと牛乳に近いさらさらな飲み物だった。
大阪ミックスジュース 440円
岡山の空港内にあったサンマルク。ここでもミックスジュースが目にとまり、「そうだ、東京に帰ったら飲み歩きをしてみよう」と決意した。
岡山空港内のサンマルク
「やはり関西圏に近いサンマルクにはミックスジュースがメニューにあるんだなあ」と思ったが、東京のサンマルクにもこのメニューは存在した。しかも「大阪」とアピールしている。
独断と偏見しかない星印
店名ヨコの星印は、店の評価ではない。あくまで私が「おいしい」と思った数値を5段階であらわした。紅茶にスティックシュガー4本を入れる女だ。味覚がどうかしてると定評があるので参考にはならない。
子供といっしょに魚貝の図鑑を見ていたら、魚や貝の解説とともに〆の言葉に「うまい」「まずい」「とてもうまい」などと書いてあった。
このような博物学書籍に主観をいれていいのか! いや、ハマグリがまずいという人だっているでしょーが! と笑ったが、問答無用の断言口調が大変気に入ってしまい、「とてもうまい探し」という読み方まで身につけてしまった。
……というわけで、このたびの評価も「ああ好きなんだな」ていどにとどめてほしい。
ここが基本の関西ミックスかな? と思わせる英國屋
ピーチ、マンダリン、パイナップル、そして牛乳。黄色が強いのはマンダリンの仕業だろうか。濃厚さはゼロで、全体的にうすい印象。
ミックスジュース 650円
時間つぶしのために入ったお店にいきなりミックスジュースがあると高揚してしまう。メニューに書いてあっても、つい「ミックスジュース、あるんですか!」と訊いてしまい怪訝な顔をされることもある。
なるほど、大阪、神戸。
こちらのお店は対応のしっかりした、気持ちのよい接客だった。本社が関西にあるとのこと。もしかしたらここが基本の関西ミックスかもしれない。
アイスが乗ってお得感アリか、ナシか。仏蘭西屋
黄桃、バナナ、パイナップル、牛乳。トータルするとうすかったが、ひとくち含んだときのミックスジュース感はとても強かった。
フルーツミックスジュース 648円
先述の英國屋の姉妹店で、関西に広く展開している。
特筆すべきはアイスが乗ってくるところだろう。これについては、すぐに冷凍庫の味(わかりますよね? この感じ)がしたので、乗っていないほうがベターではあるものの、アイス=お得ということかもしれない。
店員さんの対応が気持ちいい
デパート内ということもあり、中高年の女性客が多く、上品な空気が漂っていた。本格的に老女になったアカツキには、彼女らのようにお紅茶にサンドウィッチ、おちょぼ口で時間をかけて食す、ということをしたい。
レッドオレンジがきいてるMiyama
オレンジ、バナナ、はちみつ、牛乳。味はとにかくオレンジの1人勝ち。牛乳はほんの少しで酸味が強い。甘さは適度。さっぱり系だった。
ミックスジュース 630円
一般的にミックスジュースの色は、うすい黄色を基準にして、あとは濃淡の差というのが多いがこちらは赤みが強い。はて? と思っていたが、サイトを見たらレッドオレンジとのこと。レッドかーそりゃ赤いな。
ゆっくりと長居できる中野のmiyama。渋谷店もよく行きます
ネットで調べたらルノアール系列だ。どうりで長居しやすい雰囲気をかもしだしている。なんだろうな、あれは。
カタカナフルーツ満載のロマン
バナナ、マンダリン、ピーチ、パイナップルに牛乳というラインナップ。オールカタカナフルーツ。とはいえ洋風ぽさはなく、少しうすめの王道ミックスジュースという味わい。甘さも控えめ。そもそも洋風ミックスジュースってなんだ? あるのかそんなの。
生ミックスジュース 600円
高田馬場で食事後、「土屋さんの好きなミックスジュースがある店に行こう」と教えてもらった店。その後もなんどか足を運んでいる。
カーブした窓がコスモチックモダン
レトロ喫茶はロゴも魅力的なのが多い
今回あらためて知ったのだが、映画やドラマの撮影にもよく使われるとのこと。60年代に開業したことを思えば当初はかなりモダンだっただろう。なるほど、材料をカタカナで説明してもらったのもうなずける。
コンデンスミルク的な甘さがよいブロンディ
いちご、パイン、バナナ、そしてオレンジとみかんとのことだったので、みかんは国産と言うことになる。牛乳はゼロ。甘くて私好みだ。同行者の伊藤さんは「これはコンデンスミルクの味がします」と言っていたので、今思えば確認すべきだった。
ミックスジュース 600円
ごらんのとおりで赤みが強い。味もしっかりしている。いちご色素、なかなかの強者だ。
店に入るとすぐ左手に簡易タバコ屋さんがある怪奇。店in店。斬新である。かつては北野武やコント55号など、芸人さんが常連だったらしい。
ドアにはスナックの文字。23時まで営業
店の奥では、おそらくご近所の常連さんとやや高齢のマスターが団欒している。あまり聞きとれなかったが、話題の中心は「アプリ」だったようだ。誰かがしきりにアプリを勧めていた。
町内会ミーティングが行われていた店の奥に、ゲームテーブルが何台か並んでいる。私が写真を撮りたいと言うと、マスターが電源を入れてくれた。お客さんからの要望で購入したそうだ。アプリの人だろうか。
レトロマニアが泣いてよろこぶインベーダーゲームテーブル
店の中にタバコ屋、ゲーセン、そして町内会の会議室と、まさに複合商業施設だった。浅草の下町を味わいたいなら、お酒も飲めるブロンディでまちがいない。
ジンガロカフェは野菜ジュースのそれ
こちらでは入店前にジュースの材料を訊くという失礼なマネにでた。
オレンジ、ニンジン、バナナで氷なしのジュース。ミックスジュース度は低く、健康第一! ヘルシー万歳!な味だった。いわゆるスムージー。
オレンジミックス 740円
ミックスジュースがメニューにあるお店といえば、昭和喫茶・レトロ喫茶の印象が強いが、ここはごらんの通りオシャレなカフェ、唯一といってもいいかもしれない。
トルコのセクシー塩まきシェフ、ヌスレット・ギョクチェさんのお姿が
ここで何度も「これはミックスジュースですか?」と確認した
芸術家 村上隆率いるカイカイキキプロデュースのお店。とはいえ中野という土地柄のせいか、入りにくい印象はない。スタッフの皆さんもフレンドリーだ。
芸術ともいえる魂のミックスジュース、なにわや
みかん、黄桃、バナナ、パイナップル、りんご。ひとくちで「! 」と言葉をなくすほどの味。そして「?」なんだこれは。他店のミックスジュースと一線を画すために、「なにわや 果物ジュース」というネーミングまで考えた。とにかく、それほど旨い。
ふだんはソムリエパフォーマンスのため、ムダに真剣な表情で香りを嗅いでからひとくち口に含む。そしてストローをくわえたまま、目をギョロギョロさせて店から紹介のあった素材の確認をする。けれどもおいしさのあまりそのあとは一気飲みしてしまうのが常だ。
ミックスジュース 650円
今回はちがった。これほど時間をかけた作品を、一気飲みなんてしたら死んだばあちゃんが化けてでる。くだもの独自のまろやかさと甘さ。素材のひとつが突出することなく、それぞれじっくり認識できる味。飲み干したくない! 至福の時間よ、ちょっと止まって!
日頃から"ていねいなくらし"や"スローライフ"を小バカにしてギャハハと笑っている私だが、土下座をしてあやまる。ていねいさん、ごめんなさい、そしてありがとう、と。
後頭部に砲丸投げの鉄球がブチ当ったようなショーゲキである。真剣に、ていねいに作られたものはどんなにドン感な舌でも一瞬でわかるということを思い知った。
この細やかな泡。思わず接写で撮ってしまうほどのまろやかさ。これで洗顔したい
「コーヒーがおいしい」と連れていってもらった店で、それほど多くはないメニューの中にミックスジュースがあったので飛びついた。思えば店名が「なにわや」。関西人にとって、ミックスジュースは切っても切れないソウルドリンクなのかもしれない。
一球入魂ならぬ一杯入魂だ
マスターがネルドリップでコーヒーを淹れている。限界に挑戦しているほどゆっくりと、ちょっとこれ、息をするのもまずいんじゃないの? という鬼気迫る姿だ。こんな真剣なまなざし、高齢の母が針に糸を通すところくらいしか見たことない。
喫茶店だと気付く人も少ない外観で、店内も小料理屋のようだった
やはり、一杯のコーヒーに向き合う姿に見とれたという人たちがネットでも多くいた。カップを温め、ネルを湿らせ、温度を測り……という一連の動作にムダがないのだ。容姿も声もどことなく狂言師の野村萬斎と似ているマスター、そして至福のコーヒー(私の場合はミックスジュースだが)。これは熱狂的なファンがいるはずだぞ……と確信している。今でもあの姿が、脳裏にはっきりと浮かんでくるのだ。
4月からはじまったミックスジュース遍路。
3~4軒に1軒は「ない」とフラれつつも、ここまで10軒のお店を紹介した。かつてはあったのに、メニューから消えたところもある。いまさら知恵がつき、ここ数日は事前に電話確認して行くことにした。(遅い)
ミックスジュースが店により異なることは、今回改めて実感した。そんな中で、あくまで独断だが、その概念をひっくりかえしたなにわやが私の五つ星ミックスジュースになった。
色だけでもこんなにちがう。紹介していった順に左からミックスジュースカラーチャート
ミックスジュースの旅は続きます
実は、まだ紹介しきれていない店が10軒ある。その中には、なにわやとはちがう意味での五つ星もあるのだ。2才の幼女をヤンキーに豹変させるほどの破壊力を持ったミックスジュース。そしてマイ天国に定めた老舗喫茶店など、乞うご期待ください!
おもてなしおてふきを撮ろうとしたら背後でおもてなしをしていた友人伊藤さん
嫌煙家はご注意ください
ミックスジュースのアルナシに一喜一憂しつつも、クリームソーダやナポリタンなどを食べ比べ、チェーン店にはないオリジナルなふんいきを味わいながらいつでも楽しい時間を過ごしました。
ほとんどが数少ないレトロな喫茶店、私の大好物です。
ただ、喫煙可の店が多く、たとえ分煙されていても煙が流れてくることは必至。ここで挙げた中では倉敷のEL GRECO、ジンガロカフェのみが完全禁煙でした。
嫌煙家の方、また同伴のお友達にもご注意ください。
トイレもかわいい店が多い。こちらはミックスジュースを廃止した高円寺のお店