はじめまして! 僕、まったく見たこと無いんですが、ウルシってどうやって採るんですか。
ウルシの『旬』は7~8月
大子町は「だいごまち」と読む。
茨城県の北端にある、風光明媚な山あいの町だ。
日本三大滝の「袋田の滝」があり、紅葉の美しい温泉地であり、そしてウルシの一大産地でもある。
茨城県の北端にある、風光明媚な山あいの町だ。
日本三大滝の「袋田の滝」があり、紅葉の美しい温泉地であり、そしてウルシの一大産地でもある。


ディーゼル列車で水戸からさらに1時間半。風情ありすぎる鉄旅。

まずお邪魔したのは益子さんのウルシ畑だ。
ウルシの樹液を取る職人を「ウルシ掻き(かき)」というが、益子さんは趣味で始めた漆器づくりが高じて、今ではウルシ掻きをやっているんだそう。
駅から送迎の車に乗り、道ばたに停めて丘を登ること5分、かぶれ対策に長ソデを着て来た僕らは汗だくだくになりながら、目的のウルシ畑に到着した。
ウルシの樹液を取る職人を「ウルシ掻き(かき)」というが、益子さんは趣味で始めた漆器づくりが高じて、今ではウルシ掻きをやっているんだそう。
駅から送迎の車に乗り、道ばたに停めて丘を登ること5分、かぶれ対策に長ソデを着て来た僕らは汗だくだくになりながら、目的のウルシ畑に到着した。


「ウルシ掻き」の益子さん。華麗なカンナさばきで樹液を採る!

黒く等間隔に太い傷跡がつけられた木が立ち並ぶさまは異様で、写真だけ見ると、何か凶々しい儀式が行われたようにさえ見える。


いちばん上が今日の傷跡。

しかし、もちろんこれは益子さんが採取のために掻きとった傷跡だ。よく見ると整然とていねいに傷つけられている。






ウルシはね、まずこのカンナで皮を削り取るんだ。すると浸み出してくっから、ヘラですくって桶にためてくんだよ。


ウルシ採取の3つ道具。カンナが特にかっこいい。

実際の作業のようすの動画だ。(23秒)
浸み出したばかりの真っ白いウルシを、一滴もこぼさずすくい取る、なめらかで流麗な動きがすばらしい。
採取のピークとなる真夏の時期は、毎日、早朝から休みなく集め続けるのだという。
浸み出したばかりの真っ白いウルシを、一滴もこぼさずすくい取る、なめらかで流麗な動きがすばらしい。
採取のピークとなる真夏の時期は、毎日、早朝から休みなく集め続けるのだという。




すごい! 桶を木にくくりつけて溜まるのを待つ、とかじゃないんですね!



日本のウルシはこのやり方だな。この方が質のいいウルシが取れんだァ。



でも正直、このやり方だと採れる効率はそれほど良くないんじゃないですか



そうだなァ、今日は曇天無風、最高のウルシ日和だけど、朝から採ってこれぐらいだな。


朝から取ってコップ一杯分ぐらい!

ウルシ採取の最盛期だと聞いていたので、もっとこう、どばどば出るのを想像していたのだが、本当に少ない。うっかり転んでこぼしたら仕事を辞めたくなるレベルだ。気が遠くなる。
木は、4日に1回のペースで新しい切り傷をつけられ、秋まで樹液を採取されたあと、冬には切り倒されてしまうんだそう。
木は、4日に1回のペースで新しい切り傷をつけられ、秋まで樹液を採取されたあと、冬には切り倒されてしまうんだそう。


切り倒されたウルシの木。10年かけて育てられ、半年で役目を終える。



ところで、僕思ったんですけど、このカンナの形、複雑さがすごいですよね。


電話で説明しろと言われても絶対不可能な形。製法の想像すらつかない。



ああこれな。もう作れる職人さんもほとんどいないんだ。



そうな貴重品なんですか!確かに作るの難しそうですが……。それともう一つ思ったんですが、3つ道具のうちの、このカマは何に使うんですか?


カマ。独特のカーブが遊牧民の武器みたいでかっこいい。



益子 ああ、これはいろいろ……、傷つける前に木の皮を整えたりすんのに使うんだよ。あと、マムシが出てきたときにはこれで退治するんだ。



マムシ! すごい世界ですね……



んでも、最近はイノシシが増えたからマムシは減ったんだ。イノシシがマムシを食ってくれっから。



(もうすご過ぎて、わけが分からない……)


浸み出したばかりの樹液は真っ白。空気に触れると、みるみる茶色く変色していく。

カンナ職人の件で察せられるかもしれないが、ウルシ農家は全国的に人手不足なんだそうだ。
昔は茨城でも1万人以上もウルシ採取の職人がいたのだが、非常に少なくなっており、大子町でも5人しかいないらしい。
昔は茨城でも1万人以上もウルシ採取の職人がいたのだが、非常に少なくなっており、大子町でも5人しかいないらしい。



ところでこれ、僕も含めみんな思っていると思うんですが、ウルシ農家の人ってウルシにかぶれないんですか?



ハハハ、そりゃ、たまにはかぶれるよ。でもひどくかぶれる人はそもそもウルシ農家にならねェな。ウルシより命のほうが大事だろ。アハハハハ!



確かに。

その他にも季節による樹液の質の違いや、まっすぐの木にに育てる苦労、ウルシの花や実の使い道など、興味深すぎる話をたくさん聞けて書ききれないほどであった。
名ごり惜しいが益子さんには深くお礼を申し上げて、畑から移動し、次は漆器づくり体験に挑戦した。
名ごり惜しいが益子さんには深くお礼を申し上げて、畑から移動し、次は漆器づくり体験に挑戦した。


なんとこの僕でも、漆器が作れてしまう!

いったん広告です
手術室で漆器づくり!?
今回、この「ウルシを知る旅」をアレンジして下さったのはNPO法人「麗潤館(れいじゅんかん)」さん。ウルシ文化の発展を目的に活動をされている団体だ。
(今週末、11月11日にイベント「うるしフェスタ」もあるようです)
大子町に本部があって、古い医院をリフォームした建物が事務所になっており、めちゃくちゃ趣深い。
(今週末、11月11日にイベント「うるしフェスタ」もあるようです)
大子町に本部があって、古い医院をリフォームした建物が事務所になっており、めちゃくちゃ趣深い。


朝ドラの撮影現場か!と思わせるほどのリアルな雰囲気。

手術室だった部屋が、今では工房に改装されており、今日は手術台の上で漆塗りを体験させてもらえるという、稀有な体験をすることになった。


工作室の入口に「手術室」と書いてある不思議

今回体験させてもらったのは、「摺り漆(すりうるし)」と呼ばれる、シンプルな工法。
基本的には木材の表面をととのえ、ウルシを塗るだけだ。
基本的には木材の表面をととのえ、ウルシを塗るだけだ。


チューブに詰まったウルシの樹液をにゅるっと皿に出し、


薄め液(テレピン油)で薄めて……


木材に塗る。僕にも漆器が作れた!

漆器ってめちゃくちゃ面倒くさい工程が大量にあって、日本海側で冬にひきこもって作るもの、というイメージがあったので、このシンプルさに驚いた。
(日本海側のみなさん、すいません)
「これ、つまりニスですか」と言ったら、いや、ウルシはニスよりももっと丈夫なんだと教えてくれた。
耐久性がきわめて高く、縄文時代の遺跡から、木は腐っても漆塗りの部分だけが見つかることもあるのだという。
(日本海側のみなさん、すいません)
「これ、つまりニスですか」と言ったら、いや、ウルシはニスよりももっと丈夫なんだと教えてくれた。
耐久性がきわめて高く、縄文時代の遺跡から、木は腐っても漆塗りの部分だけが見つかることもあるのだという。


ていうか縄文時代からウルシ塗ってるのか、俺たち。

このようにシンプルに塗れるということは、つまり、縄文時代は単純にニスのようにとして塗っていたものが、だんだんと面白くなって凝り始め、金箔とか螺鈿とか乗せるようになって漆芸になった、ということだろうか。
そう思うとこれまではるか遠くに思えていた「漆器」の世界が急に身近に思えてくる。
そう思うとこれまではるか遠くに思えていた「漆器」の世界が急に身近に思えてくる。

「漆器=赤い器、黒い器」ではない
じゃあ、あの何万円もする赤い器や黒い器は何なんですか、と聞いてみたら、「あれは顔料を混ぜ込んで塗っているんですよ」と、混ぜている実物を見せてくれた。


これは「ベンガラ」と呼ばれる顔料。簡単に言えば、赤い石の粉。

僕はこれまで、ウルシってものが自然に赤くなったり黒くなったりするんだと、なんとなく思い込んでいたが全く違ったようだった。
いや、これまで聞いたことがあったのかもしれないが、こうして、一度ウルシ塗りを体験をしてから聞くと、全てが納得してするすると腹の中に知識がおさまっていく。
いや、これまで聞いたことがあったのかもしれないが、こうして、一度ウルシ塗りを体験をしてから聞くと、全てが納得してするすると腹の中に知識がおさまっていく。


超限定で生産されているという漆芸用のハケ。なんと人の髪の毛でつくられているとのこと!

摺り漆は一日で完成しないので、のちほど麗潤館さんのほうで重ね塗りして送って下さるとのこと。
この体験のほかにも、実際の漆芸で使う専門道具の見学や、大子漆を使って作られた工芸品など、驚くほど豊かなウルシの話を丁寧に教えてくれた。
この体験のほかにも、実際の漆芸で使う専門道具の見学や、大子漆を使って作られた工芸品など、驚くほど豊かなウルシの話を丁寧に教えてくれた。


切り倒されたウルシの木で作った擦り漆のツボ。ウルシonウルシでかっこいい!




2017年、最高にうるわしい夏の思い出です

畑での樹液の採取見学から、漆器づくりまで、かつてない密度でウルシのことを体験して、すっかり詳しくなった。行く前はふわっとした知識しかなかった僕だが、いまでは地に足を着けて「ウルシが好きだ!」と言うことができる。
「ウルシは嫌われモンだからァ(笑)」と益子さんは言っていたが、みんなも「かぶれるんでしょ?」とか言わないで。まず体験したら、きっとウルシのことを好きになれると思う。
「ウルシは嫌われモンだからァ(笑)」と益子さんは言っていたが、みんなも「かぶれるんでしょ?」とか言わないで。まず体験したら、きっとウルシのことを好きになれると思う。


「ウルシとデートなう」でツイートしたら、驚くほど反響が無かった写真







「うるしフェスタ」のお知らせ

本文中でも触れましたが、この記事公開の週末に、麗潤館さんも参加する「うるしフェスタ2017」が大子町で開かれるようです。
本当に楽しいので、予定の無いみなさんは紅葉と温泉とウルシ工芸を体感しに、ぜひ大子町まで行ってみてください。
http://reijunkan.com/info/1043.html
取材協力 NPO「麗潤館」
http://reijunkan.com/
本当に楽しいので、予定の無いみなさんは紅葉と温泉とウルシ工芸を体感しに、ぜひ大子町まで行ってみてください。
http://reijunkan.com/info/1043.html
取材協力 NPO「麗潤館」
http://reijunkan.com/




