京都の変な石、おもかる石
京都の伏見稲荷にある「おもかる石」は、美しく並んだ鳥居を抜けた先に唐突にあらわれる。昨年京都に行ったときにぼくはその存在を知った。
伏見稲荷にあります
灯籠の上に乗っているのがその「おもかる石」。見た目はほとんどただの石だ。
灯籠の上のまるいのがおもかる石
見た目はただの石のようだが、横の説明書きにある通り、願い事を頭に思い浮かべながら石を持ち上げて思ったより軽かったらその願いは叶う、という占いができるようになっている。
「思ったより軽かったら」ってなんだその基準は。個人の感想ではないか。料理番組で「ここで味が薄いと思ったら塩を足して下さい」と言われて、とつぜんこっちにボール投げないでよと思うのと同じだ。
しかしそんなあいまいな石の前には10人ほどの行列ができていた。かくいうぼくもなんだこれ!と喜んで飛びついてやってしまった。興奮しすぎたのか写真を撮っていなくて、上のおもかる石の画像は写真素材のサイトから拝借したものだ。
インディーズおもかる石を作る
神社やお寺にはセルフで吉凶や運勢を占うことができる仕組みがあまたあるが、おもかる石のセルフ度合いが郡を抜いている。これは東京にいるみんなにも味わってもらいたい。
盗んでくるわけにもいかないので作るしかないだろう。作ります。
おもかる石の物理的な要素をいえば「見た目よりもじゃっかん重い石」だと思われる。石の見た目通りの重さであれば、占いにならないからだ。
そこで発泡スチロールの中におもりを入れて、「ふつうよりもじゃっかん重い石」を作ろうと思う。
丸く切って一部を切り取る
ありがたみが薄れてしまうかもしれないので、中に入れたものにはボカシを入れておこう。
ふたをして、石みたいになるスプレーを吹きかける
このようになった
完成した。ちょっと重たい石を作るだけで数千円してしまった。何か間違っている気もするが、京都に行くよりは安い。
持ってみよう、おもかる石
外に持ち出してみると、見た目はかなり石っぽくなった。
自慢のおもかる石である。そのままだとよくわからなかったので、「おもかる石」と書かれた板と、クッションを用意した。いちばんのチャームポイントである質量は視覚的には伝わらないのが惜しい。
ではさっそくインディーズのおもかる石を体験してみよう。
まずは頭に願い事を思い浮かべる。ここはじっくり念じたい。
両手でしっかり掴み……。
そしてじっくりと持ち上げる。
「思ったより……」
「重い!」
思ったよりかなり重かった。石だったらこのくらいかなという重さにしたのに。
もしかしたら見た目は石にしたものの、出来上がったのは石ではなく「見た目が石っぽい発泡スチロール」だったのかもしれない。それでこの重さだとすると、たしかにハードルは高い。
人に楽しんでもらおう
ほかの人に楽しんでもらおうと、先日開催されたデイリーポータルZの15周年記念イベント「ただの打ち上げ」に持ってきた。頭でピアノを弾く出し物などが行われる横にそっと設置する。
実際にやってもらって、人々の願いが注入されれば本物のパワーストーンになるかもしれない。
おでこでピアノを引く人のかたわらで
ここでお客さんに楽しんでもらおう
わかりやすいように説明も付けた
本場・京都のおもかる石のように行列ができるかと思ったが、一度もそんな事態にはならなかった。むしろ横においてあったデビルスティックのほうが人気があった。
デビルスティックはいいんですよ
人気になるかも、というあまい思惑は打ち砕かれたので「京都のおもかる石なんですけど、やってみませんか」と勧めてみることに。地道な勧誘だ。すると何人かがやってくれた。
思ったより重い
思ったより重いですね
重い!
べたべたする!(作業が終わったのがじつはイベント当日の未明だったので、塗装スプレーが生乾きだった。)
表面のべたべたのことはさておき、重さのことに限っていえば「思ったより重い」という感想が9割だった。
どうやら見た目が発泡スチロールだったので、こちらが意図した以上に軽そうに見えたようなのであった。
それか、入れたのがでかい金具だったせいか
しかし「思ったより重い」というその重さは意識であると同時に現実の一部なのである。その重さは、願いを叶えてなりたいものになるということの重みなのだ。精進して欲しい。という教訓を無理やりつけて締めたい。
思ったより重いものを持つと人は笑う
さて、喜ばせようと思って作ったのに、とんだドリームクラッシャーになってしまったおもかる石。結果的に多数の願いを打ち砕いてしまった。
しかしみなさん「思ったより重い」と、笑いながら言っていたのは何故だろう。人間には思ったより重いものを持っただけで笑ってしまう、そういうスイッチがあるのかもしれない。(ただ酔ってただけかもしれないけど)
思ったより重いドア、思ったより重いエクセルのデータ、思ったより重い人間関係、思ったより重いことを、笑っていこうと思う。