「ガーデナ」はスペイン語で庭という意味だろう
日が暮れる頃、下北沢に着いた。余談だが、地下のホームから地上に出るという感覚にいまだに慣れない。
いつも賑やか、下北沢
中央線からの乗り換えが面倒なので滅多に来ないが、この街には好きな飲み屋がいくつかある。
折しも「カレーフェスティバル」が開催中
いつのまにかテラス席がある店も増えている
駅から徒歩数分。「Flower Bar Gardena」を見つけた。「ガーデナ」はスペイン語で庭という意味だろう。
店の外にも花があふれていた
日曜日担当の後田和也さん(26歳)が対応してくれた。こちらは「ごうだ」と読む。「シャツは伊勢丹カラーですか?」と聞くと「そういうわけじゃないです」とのこと。
妻夫木聡に似ていると思ったが、こちらも「一度も言われたことがない」そうだ
現在は役者になるという夢をあきらめて花屋一本
さっそく、店の外に並べられている花を見て回る。
犬の尻尾のような手触りのパッパスグラス(380円)
後田さんは富山県出身。定時制の高校を卒業後、葬儀系の花を扱う会社に勤めたときから花屋人生が始まった。
「うちの高校は自分でハローワークに行って仕事を見つけるというシステムで、担当の人に花屋か和菓子職人がいいんじゃないかって言われたんです。それなら、花屋にしようかなと」
安定の人気を誇るというガーベラ(10本で500円)
やがて、21歳で上京。コンビニのアルバイトや派遣で食いつなぎながら役者を目指していた。
「でも、24歳で結婚したとき、奥さんに『バイトとか派遣なんかよりは花屋のほうが感性が磨かれるんじゃない?』と言われて都内の花屋で働き始めました」
華やかなユリ(ダイレン)は2本で600円
現在は役者になるという夢をあきらめて花屋一本。将来の夢は、やはり自分の店を持つことだそうだ。
「店名? さすがに、まだ決めてません(笑)」という後田さんに、「好きな食べ物は?」と聞くと「アボカドですかね」。「じゃあ、『アボカドガーデン』なんていいじゃないですか」と提案したが、微妙な顔をしていた。
他にも様々な花が
ところで後田さん、安すぎないですか?
「社長がもともと神奈川県内で花屋を長くやっている人で、仕入れがうまいんですよ。でも、安く仕入れて安く売るので、そんなには儲かりませんが(笑)」
ここで、自転車に乗って現れた下北マダムが花を買っていった。
「お仏壇に足すお花」とのこと
次に来たカップルはガーベラを購入。「おうちに飾る用」とのこと。予想以上に客はひっきりなしに訪れる。皆さん、花に囲まれた生活をしているのだ。
トイレットペーパーもきっちり花柄だった
3000円でこんなに立派なブーケが買えるんですね
さらに、若い女性が入ってきて「3000円ぐらいでブーケを作れますか?」と言う。聞けば、このあと六本木で友人女性の結婚を祝うための食事会があり、サプライズで渡したいそうだ。
「ちょっと大人っぽい感じでお願いできれば」とのリクエストに後田さんの目が光る。
手際よく花を集めて
葉を処理する
匠の技に見とれる女性客
完成が近い
結婚という船出を祝うテープたち
「こちらでよろしいでしょうか」。「わあ、3000円でこんなに立派なブーケが買えるんですね。電車の中で注目を浴びそう(笑)」。
大満足の女性客
百合のふくよかな香りを肴に生ビールをいただく
さて、本題は「花に囲まれながらお酒を飲む」である。店内にはカウンターと立ち飲みスペース。
悪くない
ドリンク類は生ビール、ワイン、ウイスキー、ウオッカ、テキーラ…
ハートランドの生ビール(680円)を注文した。傍らには、カサブランカを品種改良したクリスタルブランカという百合を置いてもらう。
おつまみは100円~200円
百合のふくよかな香りを肴に生ビールをいただく
これだ。これがやりたかったのだ。
そして、左サイドがちょっと寂しい。後田さんに好きな花を聞くと、「店にあるものの中では、このピンクッションでしょうか。変わったお花が好きなんです」
RCサクセションみたいなピンクッション(300円)
こちらもカウンターの上に飾ってもらうと、生ビールが紅白歌合戦の司会者のようになった。
文字通り「両手に花」
とくに百合は強く香るため、いま店内を満たしている香りはほぼ百合が放つものだそうだ。ビジュアル担当がピンクッションである。
我々はいくつかのオレンジを持っていると思います
ここで、カナダ人たちが入店。どうやら、モニターでYou Tubeを観たいらしい。
PCの操作には慣れている様子
お目当ては、Dr.Hookの『Carry me Carie』という曲だった。「It's cool」とご機嫌だ。
寡聞にして知らない
彼らはスパークリングワインのスプマンテをボトルで注文。しかし、その先がややこしかった。
翻訳アプリを駆使して見せてくるが…
いまいち意味がわからない
よくよく聞いてみると、どうやらスパークリングワインをオレンジジュースで割りたいようだ。後田さんに伝えると、「あ、700円です」。それを聞いた彼らの反応は「So expensive」。正直、僕もそう思った。
「後田さん、そこのファミマでオレンジジュースを買ってきていいかと聞いています」「あ、それならいいですよ」。一件落着した。
これがしたかったんだね
涅槃とは、こんな場所だろうか
グラスの横に花を置いて飲むというスタイル
テラス席で飲んでいると、カナダ人が出てきて「オレンジジュースを安く買えて僕らはso happyだ」とお礼を言われた。スパークリングワインのオレンジジュース割り。こんど真似してみようと思う。
花と狂言に続いて、花とお酒も相性が抜群だとわかった。「Flower Bar Gardena」。珍しい花がたくさんあるうえに、とにかく安くて管理も行き届いている。お気に入りの花をグラスの横に置いて飲むことをオススメします。